魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第36話 
Simon


――体温が心持上昇しているのかもしれない
粘りを帯びた白濁液は、白い粉を噴いたような跡を残して乾きかけていた

「――く……んん……」

愛らしい小さな足が、きゅっと縮こまる

――ハァッ――ハァッ――ハァッ――

ギリギリまで張り詰められた綿縄が、細い足首にキリキリと食い込む
震えながら、引き絞られた縄を、足裏の外側にすり合わせ、僅かな刺激を求める

「――はぅ…ぅ…」

――キリ…リ…
――ハァ――ハァ……あっ!…

疲弊しきった震える足から力が抜け、縄が緩み――

――ドク―ドク―ドクッ――

「かはっ!――あぁぁ!」

一気に流れ込む血――半ば麻痺していた感覚が、燃えるような掻痒感をリンスに
叩きつける

――ズクンッ――ズクンッ――ズクンッ
――かゆい――かゆい――かゆい!

反射的にリンスの全身が硬直し――縄の痛みに縋るように、目をギュッと閉じて
嵐が過ぎるのを待つ

――ズクンッ――ズクンッ…………ジン――ジン――
――ッハァッ――ハァッ―……―ハ…ァ…

ほぅ――と震える吐息を零す
リンスは、もう幾度目になるかも分からない波を凌いで――

――ぁっ!――だめ!

――――――カクッ

限界をとうの昔に過ぎていた身体は、リンスの意志を無視して――

――ドクッ―ドクッ―ドクッ!――

「――ああぁぁ…ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

――たすけて――ゆるして――もう…ゆるしてぇぇ!



「――へぇ 結構頑張るじゃないですか」

激しく、浅い息をつきながら悶えるリンスを覗き込みながら、そんな呑気な台詞
を零す
もっと早く正気を失うかと思っていたが、この調子ならまだ余裕がありそうだ

「どれどれ?」

足の裏に顔を寄せ――

――――ふううううぅ!

「――キッ…ヒイイイィィィィィィ!!!!」

引付を起こしたように全身を硬直させるリンス――見開かれた眼からは涙が溢れ、
食いしばった口元からは、泡混じりの涎が吹き零れる
ガクガクと、気死寸前で痙攣する小柄な少女――その凄惨な様相も、男たちには
嘲笑の的でしかないのか

「おお〜、まだまだ元気じゃない」
「でもこれだけだと、ちょっと飽きてきたなぁ」
「まぁな――せっかくこんなに用意したんだし、使わなきゃ勿体無いでしょう」

「だったら、こいつを咬ませな」

ラムズが渡したのは、硬革製のマスク――顔の下半分を覆い隠し、口の部分には
大きな丸い蓋がついている

「さすがに舌噛まれちゃ、まずいからな」
「リンスちゃん、いい子だから――く・ち・あ・け・よ・う・ね〜」

二人がかりで少女の顎に手をかけ、強引に抉じ開けていく

「あっ!?――あがっ……ああがあぁぁ!」

顎が外れそうになるほど大きく開けられた口の中に、マスクの内側についた革製
の輪がねじ込まれる――これで、蓋を開ければ口の中が丸見えだ
無骨なマスクは、明らかに少女には大きすぎる――口が塞がれた状態では、呼吸
もままならない
革から染み出す苦い味――饐えたような臭い
使い込まれたこのマスクには、いったいどれほどの女たちの絶望が染み付いてい
るのだろうか

「まずはここだな――右だけじゃ、つまらないだろ?」

たっぷり掬い取った山芋を、左足に塗りたくる――今度は踵から足の甲まで、包
み込むように

「――ぶふぅぅぅ!……んぶごぉぉぉ!」
「え? 何言ってんのか。わかんねぇよ」
「――ぶごぉぉぉぉっ!!」

涙を零しながら頭を振り乱して、何とか舌で口枷を押しのけようとするが、頭が
痺れるほどに締め付けられたベルトはびくともしない

「――で、こっちも塗りなおして、と」

再び右足に冷たい感触――滑りと共に掻痒感が薄れるが、リンスはそれが一時だ
けの偽りの休息でしかないことを知っていた

「――後は、上のほうだな」

「――ぶぶっ!?――ごぉっ!…あごぉぉ!!」
――やだっ! そこはだめぇぇ!!


――――びちゃぁぁぁ!!


「んごぉぉぉぉぉぉ!!!」
――いやあぁぁぁぁ!!!

脇の下に、たっぷりと擦りこまれた――足と違い、縄で慰めを得ることもできな
い
リンスの全身に、冷や汗が噴き出した
次第に近づいてくる掻痒感――錯覚なのだろうか――こんなに早く効くのだろう
か
怖くて堪らなかった――さっきまででさえ、痒さに気が狂いそうだったのだ

――あれが――4ばいになる……

喉が鳴る――いつまで自分は、正気でいられるのだろう

――ユウナ――ユウナ――ユウナ――ユウナ――

リンスはただそれだけを繰り返した――もうそれしかなかったから

だから――


「――――始まったな」

リンスはその言葉を、どこか遠いところで聴いた


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