魔戦姫伝説異聞〜白兎之章〜


 白い少女 第35話 
Simon


「!――こいつ、まだ動くか!」

――ユウナ――たすけてっ――――――ユウナぁぁ!

血と汗で滑る手足が、弱々しく――それでも男たちを振り払おうとする

「こ――のやろ!」
「おい、やめろ!――」

傷をつけないように――その思惑が、男たちを縛る
少女にしては大した気力だが、ここまで疲弊しきった上に傷でも負わせては――
擦り付けられた汚血が傷を隠せば、治療も遅れてしまう――さすがに後の仕置き
に差しさわりが出る

だが――見方を変えればこれほどおいしい状況もないだろう

「いいぜ――もう血はなしだ」

弱々しく身悶えるリンスには、最早体力など欠片も残っていまい
それでいて先ほどまでの錯乱状態からは脱している
睡魔香の残滓もいつの間にか消えたのか、涙を滲ませながらもその目は精一杯男
たちを睨み付けている(所詮は噛み付く術も持たない、小動物の足掻きだが)

――意識ははっきりしているのに、身体は思うように動かせない――正にやりた
い放題ってわけだ

リンスに目を向ければ――乾きかけた血と汗と埃で斑に染め上げられている
このままグチャグチャに壊してしまいたいという無視できない欲求――胸の奥が
切ないほどに疼く

――まだ…早い――もっと…もっと――もっとたっぷりと嬲りつくしてからでな
きゃ、勿体無い――


          ――だから、今は我慢しなきゃね


「――汚れちまったから、洗ってやらないとな」

そう呟いて、一人に道具を準備させる

「じゃあ――今度は水責めですか?」
「アホ、今そんなことしたら、一発で死んじまうだろうが」
「でも、風呂ってわけじゃないんでしょう?」

残った連中には、4本の支柱を使って、リンスを大の字に縛らせる
訝しみながらも、それ以上に次の責めへの期待が、男たちの目をギラつかせる

「あぁ、縄は緩めでいいぞ――寧ろその方が楽しめるからな」

言われるままに、少しゆとりを持たせてリンスの手足を縛っていく
手馴れた作業だけに、リンスには抵抗する暇も隙も与えられなかった
ラムズの指示通り――大の字とは言え、太腿を狭めるぐらいの余裕はあるし、汚
れてはいるが寝着も着たままだ
状況はけしてよくなってはいないのだが、見て分かるほど張り詰めていたリンス
の緊張は、少し解れたようだ
と言うより――疲弊しきった身体が、たとえ泡沫であっても休息を必要としたの
だろう


「――ラムズさん、持って来ました」

小ぶりのたらいを満たす、白濁した――

「お前、それ――」
「何だ?――山芋……?」
「散々走らされたからな、俺たちは少し休憩といこう」

指先をニチャニチャ言わせて山芋の粘りを楽しみながら、抜けぬけと言ってのけ
る
男たちの目にも、理解の色が浮かぶ

「じゃあ――こいつは」
「リンスちゃんにはその間、軽〜く、一汗かいてもらって――」

――血を洗い流してもらおうか

「――?……なに?」

話が見えなくて、不安げに男たちを見上げる

「論より証拠――ってな」

山芋の卸し汁を一すくい――それをリンスの右の足の裏に擦り付けた
クチュクチュと小さな指の間にまで――隅々まで擦りこむ

「やっ――つめたい!――ひゃん!」

足の指をキュウ――っと丸めて、綿縄一杯まで足をちぢこめる

「――こんなもんかな」


――………………


「――な……に?」


――…………ウズ……


「そんな――ま…さか――」



リンスの顔が見る見る青褪めていった――


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