お姫様舞踏会2(第六-2話)
お姫様舞踏会2

 〜新世界から来た東洋の姫君〜
作:kinsisyou
   

 そこはミッドランドで多く見かける温泉湖の一つであった。そう、飛鳥姫はこれを目当てに来たのだ。
 ミッドランドを訪問することが正式に決まったのがおよそ2ヶ月前。その頃から飛鳥姫はミッドランドの情報収集にあたり、道路事情から地図、観光スポットなどを調べていたのである。だからここまで迷うことなく来れたのであった。そして、交友関係のファミーユ姫と度々連絡をとってはどうするか打ち合わせておいた(最近旧世界でも王族に限り電話が開通しているようです)。

 温泉湖であることを示すかのように湖面からは湯気が白く立ち上り、湯気の向こうの景色がぼんやりと蜃気楼のように見える。そして近づくと周囲は暖かいどころか少し蒸し暑く感じる。
 温泉が湧き出ている割に硫黄臭くないのは火山から遠く離れているためかもしれない。
 試しに飛鳥姫が手を浸けてみると、
「まあ、暖かい……」
 この温泉湖を見て飛鳥姫は故国である日本を思い出す。日本といえば世界有数の温泉大国だが、しかしこのような温泉湖はさすがにない。
「これだと水遊びにはちょうどいいですわね。ファミーユ姫、準備しましょうか」
 そう言って飛鳥姫が侍女たちのほうを振り向くと、何やら天幕を準備しているではないか。
「ではリシャール様、覗かないでくださいね。ファミーユ姫、こちらへ」
 飛鳥姫は顔を少し赤らめながら天幕の中に消えていく。ファミーユ姫も何故か顔を赤らめる。
 しばらくすると衣擦れの音が聞こえる。一体何をしているのか?リシャールは色々想像を巡らせるが、天幕の布一枚の向こうでは何か想像を超える光景が広がっているのではないかということだけは確信できた。やがて飛鳥姫が出てきた。その姿に唖然とするリシャール。
「あ、あ、飛鳥姫、ななな、何という格好を!?ファミーユ姫まで!?」
 何と、二人は限りなく裸に近い格好だったのだ。高貴な女性が肌を露にすること自体憚られる旧世界で、それも殿方の前であまりにも大胆極まる行為だった。
「えへへ……実はこれ、新世界の水着なの」
 水着といえば旧世界にも勿論ある。しかし、それはドロワーズとシュミーズの延長線上のようなデザインで、それでも露出度は高いとされていたくらいである。しかし、新世界の水着は最早限りなく裸に近いではないか。しかし、その割に飛鳥姫は平然としている。一方、普段下着姿を見られてもさして気にしないほど大らかなファミーユ姫は少しもじもじしている。
 飛鳥姫の水着は所謂チューブトップビキニであった。そのため肩がかなり無防備に見える。正面を紺/赤、黄/青で折り返したように組み合わせ、側面から後ろは黒という派手なもの。しかもアンダーはハイレグになっておりかなり大胆にカットされている。
 ファミーユ姫は彼女の大らかで明るい性格を反映したかのようなオレンジのワンピースで、飛鳥姫に比べると控えめだがハイレグになっており、それ故ファミーユ姫は隠すようにもじもじしているのである。さすがの彼女もこれは少し恥ずかしいようで。全体的に可愛らしい中にショッキングピンクとのツートーンで切り返しになっていて、背中をかなり大きく空けて大胆さを演出している。こんな姿、堅物のトパーズが見たら卒倒しかねないだろう。
「やだあ……新世界の水着、ちょっと恥ずかしいですわあ」

 そして、リシャールはそれ以上に目のやり場に困っていた。こんなにも露出度の高い女性の姿など当然見たこともない。更に、飛鳥姫が一瞬後ろを振り向くと……
「あ、あ、飛鳥姫、な、な、ななな、何という大胆すぎる……」
 何と飛鳥姫のビキニはおしりの布地が大胆なまでにカットされていたのだ。Tバックではないがおしりが半分ほど露出している。それにしても、何故新世界のお姫様はここまで大胆になれるのだろう。
「飛鳥姫、恥ずかしくはないですか……?」
 すると、飛鳥姫は頬を淡い桜色に染めながら応える。
「ちょっと恥ずかしいですけど……でも、水着なら平気なの」
 こういう場所で水着になるのは別段問題ないらしい。そう、水着はその意味で魔法の衣装なのだ。
 目のやり場に困り鼻血噴出寸前のリシャールを尻目に、湖に入る飛鳥姫とファミーユ姫。
「わあ、暖かい。気持ちいいですわあああ」
 温度はぬるめ、というより人間の体温とほぼ同じ不感温度であった。よく見ると湖底からポコポコと湧き出ているのがわかる。湖は透明度も高く砂粒も細かい。
 バシャッ!!
「えいっ!飛鳥姫」
 ファミーユ姫もいつの間にか恥ずかしさも忘れバシャバシャと飛鳥姫に水をかける。
「きゃあん、やりましたわね、ファミーユ姫」
 すっかり童心に帰っている二人。

 その様子をしっかりとファインダーに収めている花代。プロの写真家だけあってシャッターチャンスは逃さない。大型のカメラと違い、ライカのようなコンパクトカメラが最も威力を発揮する撮影である。
「まあ、飛鳥さまったら、何て大胆なのでしょう。それにファミーユ姫の水着姿まで収められるなんて思いもしませんでしたわ」
予想以上に出来のいい写真が撮れたらしく、花代も珍しく上機嫌の様子。因みに花代は出来のいい写真が撮れたときは現像しなくともそれがわかるという。
 花代は当時まだ珍しかったモータードライブをライカに装着し、二人の遊んでいる様子を連続写真に収めていく。シャッターの連続音が響き渡る。
 
 そして、ここで思わぬアクシデントが。

「きゃっ!!」
 何と、夢中になって水遊びをしていてファミーユ姫の手が引っかかってしまい、飛鳥姫のビキニのブラが外れてポロリ。思わぬアクシデントに遭遇してしまったリシャール。当然のことながら鼻血大噴出。婦女子のポロリでも当時かなり刺激的な光景だろうが、あまつさえ姫君のポロリである。これが刺激的でないはずはないだろう。
「リシャールさま、い、今の、見なかったですよね?」
 胸を手で隠し、思わぬアクシデントで顔真っ赤な飛鳥姫。
「だ、大丈夫です、み、見てませんよ」
 とはいえ鼻血ダラダラでは説得力はない。
「そうですか……!?」
 リシャールに疑惑の目を向ける飛鳥姫。
「しかし、そう仰られるのでしたら信じてあげましょう」
 実際にはしっかり見てしまったリシャールであった。

 そろそろ時間だし、引き上げようということになった。そして同じ道を帰ろうと森に入ったときである。
「おや?あんなところに馬車が!?」
 道の脇に馬車がまるで突っ込んだかのように停まっている。飛鳥姫は何だかイヤな予感がした。と、そのときである……。

「ウヘヘヘヘ、停まってもらおうかああ〜にしても随分珍しい馬車だなあ〜オイ」
 何と、山賊どもが飛鳥姫たちの前に立ちはだかったのである。
「ヲイ、見ろよ、中に女が二人乗ってるぞ。後ろの馬車にも女どもが乗ってやがるぜ。今日はツイてるな」
 まるで勝利でも確信したかのように下卑た笑いを浮かべる山賊ども。少なくとも獲物を見極める目だけは確かなようである。
 
 危うし、飛鳥姫たち。

 6-3へ続く

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