お姫様舞踏会2
お姫様舞踏会2

 〜新世界から来た東洋の姫君〜(14話)
作:kinsisyou
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接待役として御見送りし損なったという、最後の最後でしくじってしまったリシャール。これはもう、ギネビア姫から叱責は確実だと落ち込んでいたところへ、予感は的中。ラムチョップが自室に入るなり険しい表情で、 「リシャール殿、ギネビア様から呼び出しでございます。少し話があるそうです」  そう言われて、既に覚悟は決めていたのか、敢えて平静を装うリシャール。  (罰を受けるのが自分だけならまだいい。だが、最悪の場合、もしも王室御用達の取消を宣告されれば、フルア家の栄誉は地に墜ちることとなる。それだけは避けねば……)  ギネビア姫の自室に向かう足取りは重い。元々大きな宮殿であるグランドパレスだが、自室まで元々遠いとはいえ、それが余計に遠く感じる。その一方、一歩一歩自室に向かって歩いている音が、死刑宣告をカウントしているように聞こえてしまう。   取り留めのない思索を重ねている内、ギネビア姫の自室の前に辿り着いた。控え目な装飾ながらも威厳が漂う重厚なドアの向こうに、ギネビア姫がいる。リシャールは喉を鳴らし、一呼吸置いてドアをノックした。 「リシャールですね、お入りなさい」  重厚な扉の向こうから聞こえる威厳ある声。間違いない、自分はいよいよ罰を受けるのだ。そう覚悟してドアを静かに開けるリシャール。その先に、窓辺で一人何かを見送られているかのように佇んでいるギネビア姫がいる。そして、リシャールに向き直ると唇を静かに開き、言葉を紡いだ。 「今節の舞踏会、大義でありました。単刀直入ですが、実は、貴方にとってビッグバッドニュースがございます」  やはり、自分は罰を受けるのだ。それは仕方ない。だが、リシャール家への処罰だけは何としても避けたい。そのためには命をも投げ出す覚悟であった。だが、次に発せられた内容は、意外なものであった。 「実は……貴方に近々日本に設けられるミッドランド大使館へ大使と赴任していただくことになりました」  そう言われて拍子抜けするリシャール。恐らくこの時自分は鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていたに違いないと思った。 「そ、それは、どういうことでございますか!?」 「はい、昨日の夜、貴方が自室に戻った頃に日本皇国からの御一行と一席会談を持ちました。新世界と交流を深めるため、我が国も日本へ大使館を開館したいと。既にオラン、グランディア、パンパリアなどが日本に大使館を開設している以上(因みにオランは保護国なので、グランディア大使館と兼ねている)、我が国も後れを取る訳にはいきません。相手もすぐさま了承してくださいまして、というより向こうもその話を持込む予定で、いつ会談に持ち込むか機を窺っていた所へ願ってもない申し出だったそうです。今は使われていない旧迎賓館で宜しければ大使館として使っていただけないかと申し出を受けまして、我が国としても大使館のための用地取得や大使館新築などの手間が省けるので願ってもないことと直ちに快諾致しました。しかし、赴任する大使がまだ決まっておりません。そこで私の独断でリシャール殿、貴方に赴任して頂くことになりました。今の所皇国の姫君とされだけ親しくなされたのは貴方だけである以上、今の我が国にとっては日本との懸け橋となる価千金の貴重な人脈です。フルア家も御国のためならということで、既に話をはついております。確かに貴方の与り知らぬ所でこんな話が進んでいたのですから、それはビッグバッドニュースと言えなくもありません。念のため言っておきますが、諾あるのみですよ」  毅然とした表情でリシャールを見つめるギネビア姫。まさかの大使赴任に、荷が重いリシャールだが、ギネビア姫たっての申し出とあっては断る訳にはいかない。 「わ、分かりました。この私で宜しければ」  リシャールにとってはビッグバッドニュースどころか、これは日本皇国とのホスト役を果たしたことに対する御褒美に他ならない。自分は文字通りミッドランドの名代として、日本と接することになるのだ。自分の一挙手一投足はミッドランドの将来をも左右しかねない、文字通りの大役である。これ以上名誉なことがあるだろうか。  リシャールの快諾に、満足そうな表情のギネビア姫。 「早速ですが、明日の夕刻には出発して頂きます。間もなく日本から船便が到着致しますので、それに乗って頂きましょう。既に乗船手続も済んでおりますので、これを見せれば即座に乗船できるでしょう。新世界の基準でミッドランドと日本は1000キロ以上離れているそうですけど、こちらの船だと順調な航海で二週間前後ですが、向こうの船だと僅か二日だそうですわ」  そう言って乗船チケットをリシャールに渡すギネビア姫。二週間が僅か二日と聞いて唖然とするリシャール。まあ、この間の上映会で見た日本の光景を考えると、別段不思議ではないような気がした。案の定、聞いたことのない音がこのグランドパレスまで聞こえてきた。 「恐らく到着しましたわね」  その頃、ミッドランドの港湾では大騒ぎとなっていた。無理もない。日本から船が入港したのである。そして、その威容に圧倒される。  その船の名は、秩父丸。豪華客船新浅間丸級三姉妹の一隻で、三姉妹で最も美しく、そして最も大きな船である。全長378m、全幅45.5m、13万4800総トンは客船としては当時世界最大で新世界の基準で見ても巨大だが、旧世界の基準からすれば海に浮かぶ鋼鉄の宮殿に他ならない。  それだけでも圧倒されるが、何より周囲を驚かせたのは、巨大な鉄船が帆も張らずに煙突から煙を吐きながら動いていることだった。旧世界の常識を完全に越えている。旧世界が新世界と繋がって既に10年以上が経過し、貨物船を中心に新世界の動力船を見た者による証言もある程度出回ってはいたが、やはり誇張された話にしか思わない者が多数派だったとしても仕方あるまい。何しろ新世界と比べ情報インフラに圧倒的な差があるのだ。  だが、今回ミッドランドに新世界の船が現れたことで、それは与太話から真実として出回って行くだろう。大国ミッドランドの住民が話すとなると意味が異なるのだ。  秩父丸は座礁防止のため港湾から少し離れた場所に停泊していた。オランやグランディアと異なり、まだ近代的な港湾施設が整備されていない上、こんな巨大船が停泊することを前提としていないので港湾の深さも浅いためミッドランドの帆船が行き来して遣り取りを行う。港湾整備も程なく日本の出資で行われることになっていた。舞踏会の後、ギネビア姫が一席会談を持った中で合意したことである。このため、近代的な設備を扱うための訓練を受けるために候補者が日本に派遣されると同時に日本から現場指導が来ることになっている。そしておよそ5年を目途にミッドランドに管理を委譲する計画であった。  帆船は乗客や貨物の遣り取りで忙しい。その貨物の中には、舞踏会前に立ち寄ったリシャールの店で注文した品も勿論含まれている。  翌日夕刻、ミッドランドの港にリシャールの姿があった。ギネビア姫から大使赴任の命令を受け取るとすぐさま実家に戻り荷物を仕度した。その際、舞踏会に比べればささやかであったが、家族は大使赴任を祝ってくれた。ただ、それに伴って自分の仕事までこなさねばならない兄に負担を掛ける点が気懸りだったが、兄は心配するなと言って送り出してくれた。  そして、港に着くと案の定というか、圧倒される。この巨大な鉄の宮殿が、本来なら二週間掛かる距離を僅か二日とは、映画を見ていても俄かには信じ難かった。 「こ、これで日本に向かうのか!?」  更に、周囲には舞踏会で見知った顔触れも。舞踏会の後、その足で日本に向かう姫君もいるのだ。圧倒されているどころか、乗船を楽しみにしている姫君もいるようだ。  そして、桟橋から渡し船に乗り込み港を離れるリシャール。 「これで当面祖国の地を踏むことはないのか」  チケットを見せて秩父丸に乗り込み上甲板に出ると、あまりの高さに頭がクラクラした。 「な、何て高さなんだ。マストの最上段に手が届きそうじゃないか」  程なく、出港を告げる汽笛が鳴る。昨日の昼頃、ギネビア姫と話していた中で聞こえた音だ。更に桟橋は見送りや見物人で溢れ返っていた。リシャールはその中に、一際目立つ姿を見つけた。青味がかった緑色のドレス姿。間違いない、ギネビア姫だ。少しずつ動き始めたこの船に手を振っているのも見える。その姿に、リシャールは胸に込み上げるものを感じた。 「ギネビア様。このリシャール、祖国のために命を捧げる覚悟で参ります。そして暫くの間、さらば祖国よ!!」    期待と不安を胸に、リシャールは日本に向かうのであった……
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