お姫様舞踏会2
お姫様舞踏会2

 〜新世界から来た東洋の姫君〜(13-2話)
作:kinsisyou
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 13-2



 リシャールは、飛鳥姫と踊ることを選んだ。

「飛鳥姫、一曲御願いできますか?」

 突然申し出に、一瞬戸惑ったような表情を見せる飛鳥姫であったが、

「私で宜しければ。不束者ですが、宜しく御願いします」

 そう言って恭しく一礼する飛鳥姫。寧ろその振舞に、こちらが反って萎縮してしまう。

 最初のダンスプログラムであるワルツは無難にといったところか。しかし、新世界の、それも屈指の超大国の姫君と踊っているというだけで萎縮しそうになるが、踊りに夢中になり始めると、いつしかそうした緊張も消えていく。飛鳥姫の表情を見ると、これまでになく楽しそうだ。

 夢中になっている内にダンスが終わり、フリープログラムに入ると、楽団の背後に一際大きな楽器が運ばれて来た。こちらのチェンバロに似ているが、全く違う楽器であった。黄色がかった、というよりクリーム色に近い白塗の楽器の正体は、ピアノという。まだこちらにはない、新世界生まれの楽器。これもミッドランドへの贈り物なのだが、そのこけら落としとして飛鳥姫がソロコンサートを披露することになっていた。メーカーは無論、ヤマハで、最高グレードのフルコンサート仕様である。

 そして楽団の演奏が鳴り止み、刹那の静寂の後、飛鳥姫のコンサートが始まった。チェンバロとは明らかに異なる繊細な音色。旧世界の人にとっては、初めて聴く音色である。楽団員も、つい夢中で聴き入っていた。ギネビア姫も夢心地の表情で演奏に耳を傾けている。

 幼少期から夢中になっていただけあり技術面も確かなのかもしれないが、それ以上に想いを乗せて演奏しているかのようであった。実際、世界レベルのピアニストになると一曲一曲に命を削るようなものらしく、中には演奏終了直後に倒れるピアニストさえいると言われる程。ピアノの演奏はそのくらいハードであり、究極の楽器と言われる所以であった。

 終盤になると少し物悲しいメロディーへと変わり、まるでこの舞踏会がいつまでも続いて欲しいと願っているかのようにも聞こえた。少なくともリシャールの主観では。やがて、フリープログラムが終わる時間が近付くと、ピアノの演奏は幕を徐々に下ろすように終わりを告げる。飛鳥姫が一礼すると、惜しみない拍手が大ホールに鳴り響いた。

 食事休憩の後、ダンスの輪から外れ、バルコニーで一人上気した身体を冷ますかのように佇んでいる飛鳥姫。その様子を見てリシャールも同道する。

「飛鳥様、もしかして御身体に不調でも?」

「少し、ですね。正直、ピアノの演奏は疲れますので。でも、心地好い疲れですわ。ピアノを満足に演奏出来た時、それは天にも昇る気持ちになれるのです」

「その気持ち、よく分かります」

 リシャールはピアニストの境地が分かる訳ではないにせよ、その心情は分かるような気がした。現に、自身もマスターブレンダーの一人として、満足いくブレンドを見つけた時のあの恍惚感。それと似ているのではと思ったからだ。

 舞踏会の様子を遠目に見ながら、二人佇んでいる内、夜は更けて行き、新たな一日が始まろうとする頃、気が付けばリシャールはベッドの上であった。夢中で話していた辺りからの記憶がない。




 ハッとなって窓を開けると、そこには新世界へと飛び去る富嶽の姿が。

「私にとって、あの夜は幻だったのだろうか……」

 ラムチョップに話を訊くと、一行は今日の昼過ぎには帰国せねばならないという。せめてホストとして御見送りしたかった、というよりせねばならなかったのに、最後の最後でしくじってしまった。

 この後のことを考えると、気が重い。ギネビア姫に呼び出され、説教は確実だろう。

 その予感は的中した。ギネビア姫から呼び出しがあるとラムチョップから通達が来たのだ。重い足取りで向かうリシャール。

 


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