淫らの森の美女(第3話)


『高坂さん・・・』
春菜は絶句した。美春を羽交い締めにした男達がずかずかとレッスン場になだれ込んでき
たからだ。
 『なんなんですあなた達は!ここは部外者立入禁止です!高坂さんに何をしてるんです!
早く出てお行きなさい』
乱入者達に春菜は精一杯のりりしさで男達の気勢をそごうとする。
 しかし男達はそんな春菜の声にはびくともしない。にたにたと笑いながら春菜達を見つ
めている。
 まるで値踏みするかのように、じろじろと無遠慮な目で体中なめ回す。
春菜は男達の異様な格好に、そのそぶりに恐怖を感じていた。そろいもそろって、濃紺の
作業服。靴も履かずにスリッパ姿。なによりひとめでただ者ではないと感じるその形相。
まるで飢えた獣のようなぎらついた目が、春菜達に向けられていたからだ。
『あなたたちは!何物なんです!ここはあなた達のようなかたの出入りするところではあ
りません!』
それでも精一杯の威勢をはってみるのだが、その声はかすれそうだ。
 他の生徒達は、恐怖のため、春菜の後ろに隠れて身を寄せている。そうだ、少女たちは
いずれも体の線が丸見えになるレオタード一枚の姿だ。男達のおぞましい視線に絶えかね
ているのだろう。
それは、春菜とて同じだった。
『・・・先生よう!状況が把握できないようだな!俺たちは3日前に刑務所を脱走してき
たんだぜ!』
生徒達はその言葉に震え上がった。春菜の直感があたった。そういえば今朝のTVでいっ
ていたような気がする。しかしそれはここからはるか向こうの町でのこと。まさか、ここ
にまでそんな被害が及ぶとは考えもしなかったからだ。
そのとき、兄貴と呼ばれるリーダー格の男が前に出てきた。
『お聞きの通りだ先生。おまえさんも、生徒達の保護者だろう。手荒な真似をされたら困
るんじゃねえか』
『・・・なにが望みなんですか・・・』
兄貴のドスの利いた声に、春菜は心を決めた。ここはさからって生徒達に手荒な真似をさ
れたら、最悪だ。とりあえず言うことを聞いて早く出ていってもらおう・・・と。
『俺達は丸3日間何も食べちゃいねえ。まずは食料だ』
「・・・わかりました。みんなで用意します」生徒達を男達からはなしたかった。生徒達
を部屋に戻させて外からかぎをかう。そうすれば生徒達の身は安全だ。なんとかそう持っ
ていきたかったのだ。
『いや!おまえさんひとりで用意するんだ。
生徒達はここにいてもらう』
『そんな・・・』
『ここにロープがある。これで生徒達をバーに縛り付けておくんだ』
春菜のもくろみは最初からはずれた。彼女たちはまだレオタード姿なのだ。男達の目が少
女たちの身体を眺め卑猥な光を放っているのを感じたのだ。
『そんな着替えさせてやって下さい!部屋に閉じこめておけば安心でしょ』
『・・・なにをいいやがる!抜け出して警察に駆け込まんともかぎらねえ。そのためにも
その格好でいてもらおう』
『そうだそうだ。そんな裸同然の格好じゃ逃げる心配もねえな』
鰻平がけけけ・・とイヤらしい笑い声を発しながら付け加えた。
『・・・・・』
『さっさとやらねえと、こいつらにやらせるぞ!』
『や、やります!やります!男達には手を出させないで!』
兄貴の言葉に生徒達は一斉に悲鳴を上げた。 春菜は慌ててそれだけ言うと、生徒達に従
うようにいった。
生徒達を縛るそれ事態、春菜には絶えきれないことだった。しかし、従わなければ、男達
が。そう、縛ると称して、生徒達の身体に悪戯しようとするだろう。それですめばまだま
しだ・・・。それ以上のことだって充分に考えられるのだ。ここはおとなしく従ってチャ
ンスを見よう・・。
春菜はそう心に決めた。
『・・・・先生・・・』
一番小振りの美杉琴慧が舌っ足らずな声で、春菜に心配そうに語りかける。
『大丈夫よ・・・安心して』
春菜はそれが気休めでしかないことを知っていた。しかし、今はそういってやるしかなか
った。
春川れなも香山桜子も同じような瞳で春菜を見つめる。春菜は最後には自分が身を挺して
でも生徒達の身を守らねば。そう覚悟していた。
『これでいいでしょ・・・。さあ、高坂さんもこっちへ・・・』
『おっとこいつはいざというときの人質だ。俺達が食事している間こいつらが逃げたとき
のためにな』
『そんな!逃げられるはずナイじゃないですか』
春菜は精一杯抗議する。しかし、男達の考えが変わろうハズもなかった。
『・・・先生・・・』
『高坂さん・・・』
二人は見つめ合った。美春の目には諦めの表情すら浮かんでいる。
『さあ、食堂へ行ってもらおうか』
4人の男に春菜と美春はおとなしく連れて行かれた。
『・・・あの、着替えさせてください。この格好じゃ料理もできません・・・』
『・・・同じ事を言わせるんじゃねえ。お前だって生徒を置いて逃げださんともかぎらね
えからな』
『・・・そんな・・・』
男達は、食堂につくと、かってに冷蔵庫を開けて中身を引き出し始めた。バレリーナの食
事はそれ自体もレッスンの一つである。厳重な食事制限がなされる。すでに一週間を想定
して、専用のコックが作った料理がひとり分ずつ冷凍室に入っていた。耕太が次々と
レンジに入れて暖めるとかってに食べ始めていた。
春菜も美春もそれを見つめるだけだった。
3日間飲まず食わずの男達の食欲はスゴイものだった。やがて4人の2日分の食事があっ
という間に消えていった。
その時美春がお腹を抱えてうずくまった。
『・・・どうしたの高坂さん・・・・え?』
男たちも一斉に美春を見つめる。
『・・・・』
『・・・え?・・・・・あ、そう・・』
春菜は美春のか細い声をきいて顔を赤くした。
『なんだというんだ?』
『あの・・・おトイレに・・・私が連れて行きます・・・』
『それはダメだ!おい耕太!』
『え?なんですって』
兄貴が耕太を呼びつけた。その言葉に春菜は悲鳴に近い声をあげた。
『お前はここにいろ。二人でいったら逃げるかも知れねえからな!おい耕太!おしっこだ
ってよ!』
『・・・へへへそうかい!さあ来るんだ!』
耕太が美春の腕を引っ張り、腰を上げさせる。食堂を出ていく途中兄貴に目配せをする。
兄貴もそれに応じるように軽くうなずいた。
『え?いや!ひとりで行く!いやあ』
必死に手をふりほどこうとする美春。しかし、男の力にはお呼びもしない。
『高坂さん!』
『先生!』
美春の声はだんだん遠ざかっていった。

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