鞭と髑髏
Peitsche und Totenkopf /隷姫姦禁指令
Female Trouble
第5章・汚穢の地獄 Die Hoelle der Rueckstaende(三)
「やめてっ、もうやめてえっっ!ラナちゃんが、死んでしまいますっ!」
悲痛な声をあげて懇願するクラリス姫の声が、仄暗い地下牢に再び響いた。
その悲鳴をかき消すような、ガラガラガラ…と耳障りな金属音が公女の声に重なった。
天井の滑車が激しい勢いで軋みながら回転し、その輪に嵌った鉄鎖が流れたのだ。
そしてその直後、室内に轟いたのは、鈍い水音。
哀れなラナは、両足首を鎖で縛められ、そのまま全裸で逆さ吊りにされていた。両手を
後ろ手に縛られ、両のおさげをだらりと下に垂らし、控えめな胸のふくらみが逆に下の胸
元がわにめくれるように不自然に寄せてしまった少女は、上半身びしょ濡れで、無数の水
滴がぼたぼた滴っていた。その頭の真下には、おそらくは洗濯桶にでも使われていたらし
い大きな木桶が置かれ、中にはいっぱいに水が張られていた。
その側に、あの冷酷な女将校が漆黒の軍服姿で立っていた。そしてその右手が、床に屹
立する木製のレバーにかかっている。すでに気を失ってぐったりしていたラナを氷の微笑
で見つめながら、ヘルガ少佐はもう数回操作していたレバーをまたも押し倒した。
その途端、レバーの絡繰が回り、滑車に張られていた鉄鎖が一気に緩んだ。屠殺された
仔牛のように力なく吊り下げられたラナの身体が、自由落下同然の勢いで水桶の中に叩き
込まれ、頭頂部が桶の底に激突する直前で鎖がギッと停まった。
バシャ……ンっと大きく水しぶきが飛び散り、少女の上半身がすっぽり水没する。気を
失っているが、反射的に全身がビクンと痙攣し、そして水中からぶくぶくと泡が沸いた。
肺の空気が出きって窒息死してしまう寸前に、再びヘルガ少佐がレバーを逆に倒すと、今
度はギリギリと音を立てながら鎖が引っぱられた。
水面に吊り上げられたラナは、白目を剥き、開いた口からだらりと舌を垂らしている。
失神した上に逆さ吊りの少女は、水こそ飲んでいなかったが、肺の空気は欠乏し、鼻から
喉に入った水が口からドボドボと流れ落ちていた。あと二、三回もこの水責めを加えられ
たら、確実に溺死が待っていることは明らかだった。
「…お願いです、やめて、やめてえっ!何でもします、だから、ラナちゃんを殺さないで
っ!!」
壁に大の字で拘束されたままのクラリスが、とうとう涙ながらに懇願を始めた。この少
女の存在だけが、今の公女の生きる支えだった。その少女が眼前で拷問されて殺されそう
になっている光景に、クラリス姫は必死で命乞いをする。
「…ふん」
鼻で笑ったヘルガ少佐が、手にした鞭の柄を逆手に持って、ぐったりしていたラナのみ
ぞおちに向かって抉るように叩きつけた。肺に衝撃を受け、喉にたまった水をがぼがぼっ
と吐いたラナが、今度は激しく咳き込んで意識を取り戻した。
「…っ、ぜはっ!ぜっ…がはっ、が、が、がう、ぐはっ、はあはああっ!!」
水を吐きながら喘ぐラナの霞んだ目に、逆さになったクラリスの裸身がぼんやり映った。
「何でもすると言ったわね?」
ヘルガ少佐が近づき、鞭の柄で公女のあご先を持ち上げた。涙をあふれさせたクラリス
の青い瞳を睨みつけた親衛隊将校は、胸ポケットから小さな鍵を取りだし、クラリスを吊
すように縛めていた手首の枷を外した。爪先立ちだった公女は、どさりと床に投げ出され
た。
「それじゃ、この場で自慰してみせなさい」
「な……っ?」
ヘルガ少佐の命令に、公女は目を剥いた。
「マスターベーションも知らなかったほどの深窓の姫君が、この小娘のおかげでずいぶん
癒されたようじゃないの。それなら、学んだことをここで見せてもらいたいわ。自分の手
で自分を慰めなさい、できるでしょう?」
冷酷なサディストの瞳が、すっと細くなってクラリスを舐めるように見つめる。その視
線に、公女は背筋を凍りつかせた。
「さあ、どうするの?やらないならそれでもいいわよ。この子にもう少し水を飲んでもら
うだけ…」
「や、やりますっ、やりますから、どうかラナちゃんを…っ!」
慈愛深き公女は、ついにそう言った。自分の恥辱を忍び、少女の命を救うことを咄嗟に
決心したのだった。
加虐の悦びを仮面の表情の下に押し殺し、ヘルガ少佐は勝ち誇って命じた。
「では、床に座ったまま…足を開きなさい」
クラリスはその命令に、屈辱に耐えながら両脚をおずおずと開こうとした。だが、その
慎みが親衛隊美女を苛立たせた。
「さっさとなさいっ!」
その叱声と共に、ヘルガ少佐が鞭をビュッと鳴らした。
その空気を裂く音に、公女はビクッと全身をこわばらせた。そして意を決したように唇
を噛みながら、クラリスはゆっくりと白い滑らかな両脚を自分の意志で開き、聖なる神殿
を支配者の前に晒した。
高貴の姫君のあり得ない淫らな姿に、ヘルガは軍服の下で肉体を熱くたぎらせ、股間を
濡らしそうになっていた。ラナも事態を飲み込んでいたが、喉が詰まって声を出すことも
できないでいた。
クラリスはわなわなと唇を震わせ、目を閉じ、恥辱に顔じゅうを真っ赤に染めながら、
恐る恐る左手を股間に近づけていった。ヘルガ少佐の舐るような視線を感じながら、公女
はやっと手で秘所を覆った。
しかしそこからはどうしようもなく、クラリスの左手は掴むように股間を押さえるばか
りだった。
「どうしたの、そんなんじゃ、自慰にならないじゃないの」
身を固くして恥辱に震える公女に、ヘルガ少佐は冷たく嘲った。
「ほら、この娘の舌づかいを思い出して、指を優しく使うのよ」
まだ逆さ吊りのままのラナの首筋を乗馬鞭でぴちぴちと軽く叩きながら、親衛隊将校は
奇妙なほどの猫撫で声で言った。
まだ咳き込みながらも、すでに正気に戻っていたラナは、憧憬の公女が栗色のヘアも露
わにM字に太股を開脚し、そしておずおずと股間に当てていた左手をずらし、薔薇のよう
な陰唇を晒していく姿を、逆さまになったその目で見せつけられてしまった。
自分を救うためにこんな辱めに耐えなくてはならないクラリスの運命の苛酷さを思い、
ラナは声も出せないまま切なさに小さな胸を押し潰されていた。
そんな少女の気持ちを弄ぶように、ヘルガ少佐はラナの顔に鞭を当て、目を逸らさずに
公女の自慰姿を見せつけるように強制していた。
「よく見ておきなさい、一国の公女ともあろう者が、たかだか侍女見習いの小娘の命乞い
のために、自らの意志で大股を開いて自慰に耽る姿をね。そうよ、お前のためにクラリス
は恥を忍んでいるのよね…ふふふふふ…」
その言葉に、ラナは悲痛に歯を食いしばっていた。クラリスの想いに思いを至らさなけ
れば、少女は申し訳なさに舌を噛み切っていたかもしれない。
ラナの無事にほんの少し安堵した公女に、さらにヘルガの叱責が飛ぶ。
「ほら、もっと気分を出してするのよっ。右手は胸に!乳首をいじって刺激しなさいっ」
その言葉に、クラリスは弾かれたように右手を自分の乳房に当てて、乳首をつまみなが
ら揉み始めた。恥辱の裏返しに、乳首はすでに固くしこり、敏感になっていた。その蕾の
ような乳首をこりこりとするにつれて、胸の奥が熱く火照ってくる自分を抑えられなって
いた。
それにつれて、股間をそっと触れていた左手の指先も、熱を帯びてくるとともにヌルヌ
ルと湿ってくる陰唇の感触を感じだしていた。死んでしまいたいくらいの恥辱に陥れられ
ながらも、身体の奥から被虐の悦びが湧き上がってくる自分が信じられなかった。
「ああ…は…はあ…はあ、はあ…う、うう…」
目を閉じ、眉根を寄せながら、クラリス姫は口元から呻き声を漏らし始めた。
その頬が少しずつ紅潮し、白い肌に汗が滲みだしてきた。
自分の乳房を揉みしだく右手は、さらに動きを早め、柔らかく豊かな双丘が弾力豊かに
捏ねられていく。その手と肉鞠のうねる動きの中に、ピンク色の乳首が見え隠れし、痛い
ほどに硬くなっていた。
ためらいがちだった両脚もじわじわと開く角度が大きくなり、ピンと伸ばされたつま先
を石畳の石と石の間の凹みに当てて、突っ張った足が小刻みに震えた。
乳房と秘所を自分の両手を使ってぎこちなく愛撫していくクラリスを、親衛隊将校であ
る美女は薄笑いを浮かべながら冷ややかに、しかし満足げに見下ろしながら、絶対の支配
者の気分を満喫していた。
その舐るような視線を針のように全身の素肌に感じ、晒し者となっている自分を情けな
く、そして耐え難い屈辱に押し潰される心の裏側で、痺れるような快感が波のように押し
寄せて脳裏を包み込んでいく。
『見られてる…私、こんな姿を…見られて…なのに、私…こんなに感じて……』
背骨に沿ってゾワッとした快感が何度も走り、その度にクラリスは首を振って身をよじ
った。
「…っ、あああっ!」
目尻に滲んだ涙が弾け飛び、口からあえぎ声といっしょに涎が珠のように流れた。そし
て刹那、自慰に耽り続けながら、クラリスは戦慄した。
自分が、ヘルガに見られて感じていることに。
『そんなはずは…そんな!』
だが、事実だった。
クラリスの閉じた瞼の下に浮かぶのは、ヘルガ少佐の氷の微笑だった。冷たくも美しい
その視線に全身を貫かれて、聖なる公女クラリス姫は至福の快感に満たされていた。
かつて、南に座す法王の都へと大公一家で表敬の旅に出た時に、その近くにある寺院を
訪れ、礼拝堂の祭壇に安置された「聖女の法悦」の彫像を見あげた時のことを、クラリス
はぼやけた記憶の中から思い出していた。
はるか上から降り注ぐ黄金色の光の中で、妖しい美しさの天使が手に持つ矢に貫かれ、
恍惚の表情を浮かべる伝説の聖なる修道女…。
その幻視の中、天使の顔が嗤った…。
天使の手にした矢は、乗馬鞭だった。
純白のローブは、髑髏の衿章のついた漆黒の軍服だった。
そして法悦に浸る聖女は…。
クラリスが自らの手で絶頂に達したのは、その時だった。
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