ネイロスの３戦姫 ３姉妹、愛の休息
最終話その.１ 悲しき心の傷
黒獣兵団との戦いが終わり、エリアス、エスメラルダ、ルナの戦姫３姉妹は故郷ネイロ スへと帰ってきた。 多くの民は戦姫の凱旋を諸手を上げて祝った。そして、長かった戦争の終結を喜んだの であった。むろん、喜んでいるのはネイロスの民達だけではなく、ダルゴネオスの支配か ら解放されていたデトレイドの民も同様に、いや、それ以上に３姉妹を褒め称え、労をね ぎらった。 全てが終わり喜ぶ民達だったが、民達の心には今だ痛手が深く残っていた。侵略を受け た苦しみ、支配され続けた悲しみは、そう簡単には拭い去る事は出来なかったからだ。 それは３姉妹も同様であった。陵辱、拷問という艱難辛苦が彼女等にもたらした傷跡は 大きかった。 民達同様、彼女等には癒される時間が必要だった・・・
戦いが終結してから、はや１ヵ月が過ぎようとしていた。ネイロスに帰った３姉妹は休 む間も無く、混乱していたネイロスの復興に専念した。 民達の前では勤めて明るく振舞っていた３姉妹だったが、それが民達にはかえって辛か った。民達は皆口には出さないが、３姉妹がダルゴネオスの宮殿で何をされたかは十分過 ぎるほど判っていた。そして、それが彼女等に悲しい傷跡として今なお影を落している事 も。 ３姉妹の長女エリアスは、その日も黒獣兵団によって攻撃を受けた村の支援の為に夜遅 くまで奔走していた。 彼女が城に戻ってきたのは辺りが静寂の闇に閉ざされる時間であった。 「エリアス姫様、お勤めご苦労様です。」 城に戻ってきたエリアスを、多くの侍女達が出迎えた。 「待っててくれたのね、ありがとう。疲れたわ・・・」 ふう、と大きな溜息を付いたエリアスは、上着を脱いで侍女の１人に手渡した。 「エスメラルダとルナは？」 「はい、エスメラルダ姫様は部屋でライオネット男爵に治療をしてもらっておられます。 ルナ姫様は先ほどお戻りになられて浴室に行かれました。」 「そう、じゃあ私もお風呂に入るわ、タオルとローブを持ってきてくれないかしら。」 「はい。」 ペコリと頭を下げた侍女は、タオルとローブを持ってくる。それを受け取ったエリアス は、侍女達に向き直った。 「あなた達はもうお家に帰っていいわ。こんなに遅くまで引き止めてゴメンなさいね。」 「いえ、滅相もありません。」 エリアスの心遣いに、侍女達は深く頭を下げた。自分達のような侍女にまで気を使って くれて・・・エリアスの優しさが、侍女達の心に染みた。だが、その優しさは彼女等に悲 しみももたらした。 「あ、あのっ。姫様・・・」 先ほどタオルを持ってきた侍女が、エリアスに何か言おうとした。 「どうしたの？」 「あの・・・その・・・」 しどろもどろになっている侍女の肩を年配の侍女が掴み、無言で首を横に振った。それ は（何も言ってはダメ、姫様が余計に悲しまれるわ。）と告げていた。 「すみません、なんでもありません。」 そう言って頭を下げ、悲しげにエリアスの元から下がって行った。 「では、失礼致します、おやすみなさいませエリアス姫様。」 他の侍女達もエリアスに挨拶して帰って行った。 「あの子達・・・」 侍女達の後姿に、エリアスは何も言えず目を伏せた。声をかけてきた侍女が何を言おう としていたか明確に理解できる。 彼女等も知っている、エリアス達が黒獣兵団の暴獣どもに何をされたかを。 侍女達は皆、３姉妹の心の支えになりたかった。出来れば代わってあげたかった。でも 出来ないのだ・・・ 失われたものはもう戻らない。ただ、エリアス達が１日でも早く、あの時の惨劇を忘れ て笑顔を取り戻してくれれば・・・それだけが侍女達の、いや、民や家臣達全員の願いで あった。 「みんな・・・ありがとう・・・」 エリアスはそう呟いてタオルを握り締めた。 だが彼女自身、癒されぬ思いに苦しんでいた。 戦いから戻って来て、心身ともに高揚していた当初は全てを忘れたと思っていたが、時 間が経過し心境が落ち着くと同時に、戦いで受けた心の傷が疼く様になったのだ。 「ネルソン・・・あなたに会いたい・・・でも。」 エリアスの脳裏に、愛する伴侶であるネルソンの優しい笑顔が浮かぶ。今すぐにでも彼 の所へ飛んで行きたい。 でも、いくら心でそう思っても、身体がそれを激しく拒否した。 もう１０日ほどネルソンの顔を見ていない。いや、見れなくなってしまったのだ。ネル ソンだけでなく全ての男性が近寄ろうとすれば、激しい拒否反応に苛まれた。 血に飢えた黒獣兵団の兵達に陵辱された記憶が、そして自分は汚れてしまっていると言 う思いが、ネルソンを始め、男と言う存在を遠ざけてしまったのだ。 「体を洗わなきゃ・・・」 脱衣所で服を脱ぎ、全裸の自分の身体を鏡に映して見た。その美しい姿は正に純真なる 女神であった。 誰が見ても汚れているなどと全く思わないだろう。 だが、彼女は陵辱されたのだ。それも凄惨なまでに・・・ 「ネルソンはこんな私を愛してくれるのかしら・・・汚れた私を・・・」 胸を覆い、エリアスは悲しい思いに囚われた。誠実なネルソンは、彼女を汚らわしいな どと思ったりはしなかった。それどころか、誰よりも深くエリアスを慈しみ愛していた。 それは判っているが、体が言う事を聞かないのだ。汚れない純真無垢な身体をネルソン にあげたい。だが、その思いが叶えられぬ今、ただ悲しみを堪えるしかないのだ。 「シク、シク・・・グスッ。シクシク・・・」 不意に、エリアスの耳にルナの泣き声が聞こえてきた。浴室にいるルナが泣いているの だ。 タオルを片手に浴室へと入っていくエリアス。 浴室は王族専用のもので、広い浴室の床や露天風呂は全て 大理石で覆われており、灰褐色の浴室全体には白い湯気が満たされていた。 その広い浴室の真ん中で、ルナが椅子に座って体を洗っていた。 「あたしは汚れてないわ・・・汚れてないモン・・・シクシク・・・」 ルナはエリアスが入ってきた事にも気付かず、ひたすら身体を洗っていた。特に彼女の １番大事な部分を、タオルにいっぱいの石鹸をつけて洗い続けていた。 「ルナ・・・」 泣きながら身体を洗っている妹の後姿を見て、エリアスは悲しそうな顔をした。 「辛いのねルナ。」 「姉様・・・」 エリアスがいることに気付いたルナは、慌てて顔を擦ると無理に笑顔を見せて姉を見た。 「あ、あはっ、なーんだ姉様帰ってたのー。遅いから先にお風呂に入っちゃったー。」 作り笑顔で答えるルナの肩に、エリアスはそっと手を置いた。 「我慢しなくていいのよ、我慢したって何も解決しないわ。」 優しい姉の言葉に、ルナを抑制していた心のタガが外れ、再び泣き出した。 「あうう・・・姉様・・・あたし・・・汚くないよね？綺麗な身体よね？」 泣きながらエリアスの胸にしがみ付くルナ。 彼女はダルゴネオスに捕らわれてからエリアス達に救出されるまでの間、凶悪な暴君の 手で陵辱され続けていたのだ。 まだ大人になり切っていない彼女の身体を、暴君は情け容赦無く汚した。普段は気丈な ルナだったが、幼い彼女に刻まれた心の傷は想像を絶するほど深く、悲しみが彼女の心を 苦しめていた。 「こんな身体見られたらジョージに嫌われるわ・・・綺麗にしなきゃ・・・」 ルナもエリアスと同じ気持ちだった。ジョージに命を救われたルナは、彼に好意以上の 思いを抱くようになっていた。 腹に銃弾を受けたジョージの元に、甲斐甲斐しく足を運んでケガの治療に努めたルナ。 優しい天使様に介抱されて、ジョージのケガは順調に回復していった。 無論、ジョージもケガを早く直し、元気な姿をルナに見せるのを楽しみにしていたのだ が、しかし・・・ダルゴネオスに汚された自分を、ジョージが受け入れてくれるのだろう か？ 喜ぶジョージの姿を見る度に、ルナは彼に嫌われるのではと言う悲しみに囚われるよう になったのだ。 「ルナ、あなたは汚れてなんかいないわ。綺麗よ、とっても。」 慰めるエリアスだったが、それが気休めにしかならない事は判り切っていた。でも、慰 めるしかないのだ。可愛そうな妹を・・・ 「うっ、うっ・・・姉様・・・」 ルナもそれ以上は何も言わなかった。言えば姉が悲しむからだ。ただ、悲しみに耐える だけだった。 半時間ほどして、エリアスとルナは浴室から出てきた。ルナとエリアスは、無言で誰も いない廊下を歩いた。 しばらく押し黙っていた２人だったが、エリアスが不意にルナに声をかけた。 「そうだわ、エスメラルダはどうしてるの？ライオネットに看病してもらってるって聞 いたけど。」 「う、うん。さっきまで熱を出してたけど、今は熱も下がって落ち着いてるってライオ ネットが言ってたわ。」 「そう、よかったわ・・・」 ルナの返答に、エリアスは安心した顔になる。 「エスメラルダ姉様、ずいぶん無理してたから・・・」 ルナはそう言った。 エスメラルダは、戦いが終わってからエリアスやルナ以上に復興に勤しんだ。しかし、 セルドックやギルベロとラーガに凄惨な拷問を受けた上に、ブルーザーとの戦いで疲れ切 っていた彼女の身体は限界に達していた。 熱を出して倒れたエスメラルダは、３日３晩寝こんでしまったのだ。彼女を慕っている ライオネット男爵は、エスメラルダを献身的に看病し続けた。その甲斐あって、エスメラ ルダの熱は下がり、ようやく落ち着きを取り戻したのであった。 「見舞いに行きましょうか。」 「うん、そうだね。」 エリアスとルナがそう言った、その時であった。 「うわああーっ！！あ、ああーっ！！」 突拍子も無い悲鳴がエリアス達の耳に届いた。その声の主は、エスメラルダだ。 「！！・・・急ぎましょうっ。」 「判ったっ。」 廊下を走るエリアス達。そしてエスメラルダが寝ている部屋に飛びこんだ。 「わああーっ！！こ、こないでーっ！！」 「姫様っ、お気を確かにっ。僕はセルドックじゃありませんって！！」 部屋の中では、酷く怯えた表情のエスメラルダが半狂乱になって取り乱していた。その エスメラルダを必死になって取り押さえようとしているライオネット。 「わっ！？」 エスメラルダに突き飛ばされたライオネットが床に転がった。 「ひいいっ、いやーっ！！」 悲鳴を上げ、エスメラルダはベッドの横にうずくまって動かなくなった。 「どうしたの！？落ち着きなさいっ。」 取り乱した妹を、エリアスがなだめた。 「あ、あうう・・・コワイよぉ・・・セルドックがぁ・・・ボクをイジメるんだぁ・・・ 」 ガタガタ震えながら、エスメラルダは子供の様に怯えている。その口からは忌まわしき サド殿下、セルドックの名前が・・・ 「ライオネット、これはどう言う事？」 「はい、実はうなされた姫様が飛び起きた途端、私をセルドックと勘違いなされてしま ったんです。」 ライオネットの言葉にハッとするエリアス。 「エスメラルダ。あなた、まだ催眠術が・・・」 「催眠術？」 エリアスの言葉に疑問を持ったルナが、エリアスの横に駆け寄った。 「エスメラルダ姉様は一体・・・」 尋ねるルナ。彼女はエスメラルダがセルドックに何をされたか詳しく知らないのだ。エ リアスはルナに惨劇の全てを語った。 セルドックと、寝返る前のヒムロの手で強力な催眠術をかけられ、セルドックに対する 絶対的な恐怖を植え付けられていた事を。 「じゃあ、まさか姉様はまだ催眠術が解けてないって事に。」 エスメラルダの身に起きた真実を知って唖然とするルナ。 「たぶんそうだわ。あれだけ強力な催眠術をかけられたんですもの、簡単には解けなか ったのね。」 エリアスはそう言いながら怯えている妹の肩を抱いた。 「大丈夫よエスメラルダ。ここにはセルドックはいないわ、誰もあなたをイジメたりし ないから。ほら、もう泣かないで。」 「あうう・・・エリアス姉様？」 エリアスの声に、エスメラルダは恐る恐る顔を上げる。そこには、優しく微笑む姉の顔 があった。その優しい顔を見た途端、エスメラルダの心から恐怖が急速に消えて行った。 「あれ？ボクは何をしてたんだ？どうしたのみんな・・・」 正気に戻ったエスメラルダが、辺りを見回す。心配そうな妹とライオネットの姿があっ た。 「ああーよかった・・・一時はどーなるかと思いましたよ。」 安堵の溜息をついてエスメラルダに近寄るライオネット。 「セルドッ・・・じゃなかった、ライオネットか、なーんだ。」 ライオネットを再びセルドックと間違えそうになった妹を見て、エリアスはピンときた。 「もしかして・・・ルナ、悪いけどエスメラルダに付いててあげて。」 そう言いながら、ライオネットを部屋の外に連れ出した。 「あの、どーしたんですか急に。」 「ちょっと聞くけど、エスメラルダはうなされた後、あなた以外の男の顔を見て発作を 起こさなかった？」 「はあ、確か医者の顔を見て怯えそうになった事があります。侍女とかは大丈夫でした が、それがどうしましたか。」 ライオネットの声に、エリアスは無言で考え事をしている。 「やっぱり・・・そうなのね。」 「どー言う事ですか、やっぱりって？」 「よく聞いて、エスメラルダはセルドックに対する恐怖心の影響で、あなたや医者をセ ルドックと勘違いしていたの。もちろんセルドックだけじゃなく女狂戦士の２人にも恐怖 心を抱いてるわけだけど。」 「はあ・・・？」 鈍感なライオネットは、事態が飲み込め無いまま曖昧な返事をする。 エスメラルダは催眠術の影響で、悪夢を見た後に男の姿を見ると、その姿が全てセルド ックに見えてしまうようになっていた。それが原因で酷い男性恐怖症に陥っていたのだっ た。 平素においてライオネットなどの身近な男性と接する時は現れないが、セルドックの悪 夢にうなされた後などの条件が重なると、それが明確に現れるのだ。 普段強気な戦姫のエスメラルダだけあって、その反動は激しかった。エリアスやルナも 著しい男性拒否症や極度の潔癖症になっているが、エスメラルダの場合はそれ以上に深刻 な状況であった。 「では、どうすればいいんでしょうか・・・私に出来ることなら何でも致しますっ。」 ライオネットは声を上げてエリアスに言い寄った。そして、彼の手がエリアスに触れそ うになった。その途端、エリアスは目を引きつらせてライオネットの手を払った。 「ダメッ、触らないでっ！！」 「エリアス姫様・・・」 エリアスに拒絶され、唖然とするライオネット。 「あ・・・ごめんなさい・・・」 エリアス自身、自分のした事に驚いていた。ライオネットにこれほどの拒否反応をした のだ。このままではネルソンと愛し合う事はおろか、手を握る事すら出来ない。それは２ 人の妹達も一緒だった。 暗い表情で顔を背けるエリアス。 「ライオネット・・・悪いけど、もう帰ってちょうだい・・・」 エリアスの悲しむ姿に、鈍いライオネットも事態を理解した。 「判りました・・・今日はこれで失礼致します。」 寂しそうにそう呟くと、ライオネットはトボトボと廊下を歩いて帰って行った。 そんな彼の後姿を見て、エリアスは深い悲しみに陥った。 「男のあなたではエスメラルダを助けられないのよ。ネルソンやジョージも同じ・・・」 ３姉妹を苦しめている状況を打破するには、男性ではどうにもならないのだ。それが愛 しているもの同士でも同じだった。いや、愛しあっているからこそ状況が泥沼化してしま う。 愛する者と同じ性別の存在に、酷い陵辱を受けたためなのだ。このままでは３人とも、 一生男性を受け入れる事が出来ないだろう。 「どうしたらいいの・・・」 エスメラルダの部屋に戻りながらエリアスはそう呟いた。 「あ、エスメラルダ姉様がやっと寝ついたわ。」 エリアスを見たルナがそう言って振り返った。 ベッドの上では、エスメラルダが妹に手を握られ安心した様に寝っている。 だが、しばらくすると何かに執り付かれたかのように、寝言を言い始めた。 「くるな・・・やめろっ・・・あう・・・ボクに近づくな・・・イジメないで・・・」 苦しそうな声で悪夢にうなされる妹を見て、エリアスは胸を引き裂かれる気持ちになっ た。無論、ルナも同じだ。姉の苦しむ姿に手を握り返すしか術はない。 ただ、ルナが手を握れば、僅かではあるがエスメラルダの呼吸が平常に戻る。 ライオネットも同じ様に手を握ってエスメラルダの悪夢を鎮めようと努力したであろう が、男のライオネットだと先程の二の舞だ。 そう・・・同姓のルナやエリアスでなければ、エスメラルダの悪夢を鎮める事は出来な いのだ。それはエリアスとルナも同様であった。彼女等の心の傷を癒せるのは女でなけれ ばならないのだ。 「この子達を、いや、私も含めて心の傷を癒せるのは私達、女同士だけなのね。」 妹達にも聞こえない程の声で呟くエリアス。彼女の心に、ある１つの思いがあった。 それは・・・女同士で心の傷を癒しあう事だった。 「はあ・・・２週間ほど３人で寛ぎたいと仰るので？」 エリアスに事の次第を告げられたネイロス軍総司令官のカーネル司令は、少し戸惑った 表情でエリアスを見ている。 「そうです、私達には癒しの時間が必要なんです。黒獣兵団に攻撃を受けた村の救済を、 一時あなた達に委ねたいと思います。了承してもらえますか？」 「まあ、救済活動は一段落ついてますから、私達は別に構いません。姫様方は２週間と 言わず、心ゆくまで御寛ぎなされた方が良いですよ、是非ともそうなさってください。」 ネイロス軍の長老的存在であるカーネル司令は、笑いながらエリアスの申し出を受け入 れた。 彼も、３姉妹が救済活動でどれだけ労力を注いでいたか知っている。そして疲れた心と 身体で無理をしている事も。 「ありがとうカーネル司令。しばらく休養を取らせてもらいます。それと・・・」 エリアスが付け足す様に口を挟んだ。 「なんでしょうか。」 「ついでで申し訳ないけれど、別荘の警護に腕の立つ女性の衛兵を何人か連れてきても らえないかしら、訳は聞かないで。」 「ええ、お安い御用です。」 別に訳を聞きたいとも思わないカーネルは、とくに疑問も抱かず、女の衛兵を連れてく る事を了承した。 「では、エスメラルダの看病がありますからこれで。」 手短にそう言うと、エリアスは逃げる様にカーネルの前から姿を消した。 「はて？エリアス姫様は妙によそよそしいが、どうなされたのだろうか・・・」 武骨で老練なカーネルだが、女心にかけてはトンと疎い彼だった。