ネイロスの3戦姫
第8話その.4 それぞれの再会
「今の音は!?」 エリアスを伴って逃げていたネルソン達の耳に、爆音が聞こえてきた。 「司令、あれを。」 ホーネットの指差す方向に、赤々と火の手が上がる。 「いったい何が、本隊が突入したんでしょうか?」 ホーネットの質問に、ネルソンは首を振った。 「いや、まだ突入時刻には早すぎる。何者かが破壊行動を起こしたんだ。まったく・・・ これでは救出作戦が台無しだ、どこのバカだこんな事する奴は。」 破壊活動の張本人が、救出しようとしているエスメラルダとは露知らず、ネルソンは文 句を言った。 「仕方ない、この騒ぎに紛れていったん宮殿から出よう。」 「そうですね。」 頷いた2人は、ネルソンの背中で眠っているエリアスを起こさぬ様に気を配りながら、 宮殿の入り口に向けて急いだ。 「うわ〜、助けてくれっ。」 「消火急げっ、グズグズするんじゃねえっ!!」 爆発した弾薬庫の周囲では多くの兵達が右往左往している。もはや戦闘準備どころでは なかった。 その様子を、宮殿の高台からブルーザーが見ている。 「ふん・・・やりやがったな。」 呟くブルーザーの後ろでは、ダルゴネオスがオロオロしながら走り回っていた。 「ひいい・・・奴らが攻めて来た・・・どーしよう、どーしよう・・・」 「落ち着きください陛下、爆薬の殆どは運び終えておるのです。あの程度の攻撃ぐらい 屁でもありませんぜ。」 「ほ、本当だな、奴等をやっつけられるのか?」 「ええ、ルナと言う切り札でね。」 妙に落ち着いた態度のブルーザーは、そう言いながら傍らの手下に目配せをした。 「この、放してっ!!」 ルナの叫びが部屋に響く。手下に引っ張られたルナが、ブルーザーの眼前に連れて来ら れたのだ。 「フフフ・・・ご機嫌は如何ですかい?可愛い天使様。」 ダルゴネオスに天使の格好をさせられているルナを見ながら、ブルーザーは、わざとら しく笑った。 「あたしをどうするつもりなの!?あたしに手を出したら只じゃすまないわよっ!?答 えなさいヒゲゴリラッ!!」 気丈に声を張り上げるルナに、ブルーザーはフンと鼻息を荒げる。 「減らず口はそれぐらいにしとくんだな。非力な小娘に何が出来る?んん、文句がある なら言ってみな。」 「あう・・・な、なによ・・・あんたなんか怖くないわよ・・・」 強がるが、鋭いブルーザーの眼光にルナの足元はガタガタ震えている。 「お、おいブルーザー、ルナは余の大事なオモチャだぞ!?それ以上手荒な真似は、う! ?」 うろたえるダルゴネオスをジロリと睨むブルーザー。 「陛下、小娘なんぞいくらでも代わりはいるでしょう?ルナの1人や2人、どうでもい いではありませんか。」 ブルーザーの目は尋常でなかった。凄まじい憎悪に燃え、狂おしいまでの狂気がたぎっ ている。もはやダルゴネオスの手にも負えなくなっている。 狂える暴獣を見て、さすがの暴君も戦慄に震えた。 「わは、はは・・・わかった、わかった・・・お前の好きにしろ。ルナはどーなっても 構わん。」 ブルーザーに気圧されているダルゴネオスは、仕方なくルナの身柄をブルーザーに委ね た。 「ありがとうございます陛下。では、ルナは人質として存分に利用させてもらいますぜ。 」 そう言いながら、ブルーザーはルナを手下に引き渡した。 「連れていけ。」 「はっ。」 ブルーザーの命令に従い、手下はルナを連れ去っていく。 「覚えてなさいヒゲゴリラッ、変態皇帝っ!!あんた達の好きにはさせないわ!!」 「喚くなガキめっ。」 「いやーっ、触らないでっ、助けて姉さまーっ!!」 悲痛なルナの泣き叫ぶ声が辺りに響き渡った。 それを見届けたブルーザーは、意味ありげな笑いを浮かべている。 「と、ところで、どうやってネイロス軍と戦うつもりだ?それぐらい話してくれてもい いだろう。」 「フッ、簡単な事ですよ。ルナを救出しに来た奴等を・・・」 ブルーザーはダルゴネオスを前にして作戦の仔細を全て話した。 「ち、ちょっと待てっ、そんな事したらルナは・・・あいや、宮殿まで・・・」 「ご賛同いただけませんか?」 有無を言わさぬブルーザーの眼が光る。 「あ、ああ・・・い、いいとも・・・すす、好きにしてくれ・・・」 もはやデトレイドの暴君としての威厳は、猛り狂うブルーザーの手で粉砕されている。 今のダルゴネオスは、単なる傀儡と成り果てていた。 「それが懸命ですな陛下。では私は作戦の指揮にあたりますゆえ、これで。」 すっかり意気消沈しているダルゴネオスを尻目に、ブルーザーは部屋から出ていった。 「あうう〜、余は・・・これからどーなるんだ・・・」 ネイロス軍、そして反逆した民兵軍の反撃に怯え、さらにブルーザーによって威厳まで 失ったダルゴネオスは、頭を抱えてボヤいた。 ダルゴネオスが不安に怯えている頃、エスメラルダ達は弾薬庫の爆発によって生じた混 乱に便乗し、まんまと逃げおおせる事に成功していた。 「・・・あはは・・・ウソみたいだ・・・本当に逃げる事が出来ましたね、信じられな い。」 顔を引きつらせて笑っているダスティンは、先頭を走っているエスメラルダに声をかけ た。 「どう、ボクの作戦は。任せて正解だったでしょう。」 自慢げにウインクするエスメラルダ。 「作戦って・・・あれのどこが・・・」 行き当たりばったりな行動を(作戦)などと、のたまうエスメラルダに、ダスティン始 め救出隊は呆れて溜息をついている。 「ところで、救出隊を指揮しているのはネルソンと言う方だと言うのは本当ですか?」 走りながら尋ねるライオネット。 「ああ、民兵軍司令直々に救出隊を率いて宮殿に潜入しているんだ。確か・・・先日助 けた男との約束を果たすためだとか言っておられたな。」 ダスティンは、ネルソンが助けた男と言うのが自分の傍らを走っている人物とは知らな い。 「ネルソンさん。」 自分との約束を守ってくれたネルソンの男意気に、ライオネットは深く感動していた。 「ウオーンッ!!」 一同の前に走り出したアルバートが、こっちだと吠えた。その後をエスメラルダ達が追 って行く。 「!!、また兵達だよっ。」 走っていく先に、別の場所にいた兵の姿があった。 「退きなさーいっ!!」 ドラゴン・ツイスターを振り回し、邪魔な兵達を次々薙ぎ倒すエスメラルダ。吹っ飛ば された兵が次々と宙を舞っていく。 「我等も続けーっ!!」 ダスティン達も剣を抜き、エスメラルダを援護する。 それに呼応するかのごとく、火の手の上がる弾薬庫が再度爆発した。 「また爆発したな・・・うん?何だあの騒ぎは。」 エリアスを連れて逃げていたネルソン達は、突然巻き起こった騒乱に目を奪われた。 集まっている兵達が、迫り来る一団に次々討ち倒されているのだ。その一団の先頭にい る人物が、巨大な矛を振り回して奮戦している。 「あれは。」 ネルソンがそう呟いた時であった。 「う、ん・・・」 ネルソンの背中から、微かな声が聞こえた。爆発音と騒乱の影響によってエリアスが目 を覚まそうとしているのだ。 「うう、ん・・・いったい何の・・・!?・・・この声はっ。」 突如、エリアスの目が大きく開かれた。彼女の耳に、聞き慣れた声が飛び込んできたか らだ。 「どうしたんですか?」 ネルソンの言葉も彼女の耳には入らない。ただ、騒乱の中から聞こえてくる声にのみ反 応している。 「この声は・・・そうよっ、あの子よっ。」 叫んだエリアスは、顔に喜びの表情を浮かべ、ネルソンの背中から飛び降りた。 「あ、待って、そっちに行ったら危ないっ。」 ネルソンの声も聞かず、エリアスは一目散に騒乱の真っ只中に走って行った。 「おりゃーっ!!」 騒乱の中から、大きな掛け声が発せられる。それによって最後の兵も倒された。そして、 3度目の大爆発が起きて、閃光が辺りを明るく照らした。 そして、矛を振り回していた人物が鮮明に映し出される。 「エスメラルダーッ!!」 「!?・・・姉様っ。」 2人は振り返った。エリアスの目に、復活した妹の凛々しい勇姿が、そしてエスメラル ダの目にも優しい姉の姿が・・・ 駆け寄る2人は、ひっしと抱き合って再会を喜んだ。 「ああ、エスメラルダ・・・私が・・・わかる?」 「忘れるわけ無いよ、大好きな姉様っ!!」 「よかったっ・・・」 抱き合う2人を、ネルソンは喜びの顔で見ている。そして、エスメラルダを救出した部 下のダスティンに目を向ける。 「よくやったダスティン。エスメラルダ姫を助けてくれたか、無事で何よりだ。」 部下の功績をねぎらうネルソン。仲間の無事も確認する。 「いえ、助けたと言うか、何と言いますか・・・はは・・・」 笑いながら答えるダスティン達。 「あの爆発騒ぎはお前達が?」 「あれはその〜、エスメラルダ姫が・・・です。」 「なんだって!?」 エスメラルダとの経緯を聞かされ、ネルソンは開いた口が塞がらなくなったのであった。 「やれやれ、助けたと言うより助けられたんだな。」 「面目ありません。」 話し込んでいるネルソン達の傍に、ライオネットが姿を見せた。 「ネルソンさん、助けに来てくれたんですね?」 「おお、君か。無事だったかね?」 「はい、ありがとうございます。」 ネルソンに感謝の意を述べるライオネット。その姿を見たエリアスが歩み寄ってくる。 「ライオネット、よくがんばったわ、命がけでエスメラルダを守ってくれたのね。」 「そ−だよ、ライオネットのカッコイイ姿、姉様にも見せたかったよ。」 「い、いえ・・・私の力なんて無いに等しいです。ドジばかり踏んでましたし・・・」 謙虚に答えるライオネット。 「それとね、この子達もボクを助けてくれたんだよ。」 エスメラルダはそう言いながら、マリオンとパメラに向き直る。 「あの、始めましてエリアス姫。」 ペコリと頭を下げる2人。 「あなた達は?」 「あのね姉様、この子達はボクと一緒にセルドックに捕まってたんだ。ボクの身代わり になって酷い目に会わされたんだけど、それでもボクとライオネットに手を貸してくれた の。誉めてあげてよ姉様。」 エスメラルダの言葉に、エリアスは潤んだ目でマリオンとパメラを見た。 「あなた達・・・辛い目にあったのね・・・ごめんなさい。ありがとう・・・」 そう言いながら、2人の体をそっと抱きしめる。 「エリアス姫・・・」 2人の目に涙が光った。 「?・・・ねえ、その顔の手形は何?」 ライオネットの顔に、拷問で受けた傷とは関係ない手形があるのに気が付き、エリアス が尋ねた。 「あ、これはその・・・エスメラルダ姫様に、んぎっ!?」 突然ライオネットが顔を引きつらせた。 「喋るなバカッ。」 エスメラルダがライオネットの尻をつねったのだ。 「やーね、姉様。何でもないよ、なんでも。ねー、ライオネット。」 眉間に血管を浮き立たせ、エスメラルダが笑いながらライオネットを睨んでいる。 「は、はひ。なんれもありまへん、なんれも。」 「そ、そう・・・」 エリアスとマリオン達は、目を点にして2人を見た。 「ネルソン司令、スミス班長達が戻ってきました。」 不意にホ−ネットが叫んだ。彼の見ている方向に、救出隊の残りが走ってくるのが見え る。 「みんな無事だったかっ!?」 声をかけるネルソンの前に、帰ってきた仲間達が集合する。 「ジョージから聞きました、エリアス姫とエスメラルダ姫を助けられたそうで・・・申 し訳ありません。ルナ姫を見つける事が出来ませんでした。」 頭を下げる救出隊達。 「ルナ・・・」 エリアスとエスメラルダがハッとして顔を見合わせる。 「姉様・・・早く助けに行かなきゃ・・・」 「そうよルナッ、今助けに行くわっ。」 宮殿に振りかえる2人の目に、多数の黒獣兵団の兵達が迫ってくるのが見えた。 「くそ、長居しすぎたな。撤退するぞ。」 救出隊達にそう言ったネルソンだったが、エリアスとエスメラルダは逃げようとはしな かった。 「エスメラルダ、まだ戦えるかしら。」 「ボクは大丈夫だよ、姉様は?」 「十分過ぎるほどにね。」 迫る兵達を見ながら、2人は身構えた。その時であった。 エリアス達の頭上でボンッと音が響き、無数の石つぶてが黒獣兵団の上に降り注いだ。 ドドドッと言う轟音と共に、突進してきた兵達が次々石つぶての餌食になって倒れた。 「これはっ!?」 突然の事に、声を失うエリアス達。そして宮殿の外から、怒涛のごときかけ声が響き渡 った。 それは・・・ネルソン達の後を追って宮殿に乗り込んできたネイロス軍と、デトレイド 民兵軍であった。