魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫13)
第62話 錯乱したミュージカルの開演
原作者えのきさん
その日の昼過ぎ、首都の演劇場ではミュージカルが公演される予定になっていた。
だがそれを(ミュージカル)と呼んでいいのか判断に苦しむ。なぜなら、題名が(汚さ
れし天使の淫舞)なのだからだ。
そんな劇場の舞台裏では、ミュージカルの振り付けと演出を担当しているアントニウス
が、開演の準備を急いでいた。
「照明はこっち、ああ、そこじゃないって。ほんとにもう、何度言ったらわかるのさー。
」
やけに偉そうな口調で指示を出しているアントニウスに、係の者が声をかけてくる。
「出演者の準備が出来ました。」
「ん、わかった。」
胸を反らして歩くアントニウスの行く先は、出演者の控室であった。
しかしそこは、控室と言うより、監禁部屋と言った方が良いかもしれない。表に見張り
が立ち、厳重なカギでドアが閉められている。
アントニウスが鍵を開けて中に入ると、そこには2人の美しい(天使)が控えていた。
1人は長い髪をなびかせるイメージの美女で、もう1人は温厚な面持ちの、メガネをかけ
た娘であった。
白いドレスと翼を身につけた天使達は、ノクターンの高貴なる身分の子女であるらしく、
華やかで品がある。
だが、2人のアントニウスの顔を見る表情は極めて嫌悪である。
アントニウスは2人の(天使)と知り合いらしく、わざとらしい挨拶で2人に声をかけ
た。
「やあやあ〜、久しぶりじゃないか、レイラ、キャスリーン。元気してた?」
ヘラヘラ笑うアントニウスを、長い髪の美女レイラは鋭い視線で睨み付ける。
「何が元気してた、ですの・・・よくも私達を裏切りましたわね売国奴っ!!」
その剣幕に驚くアントニウスだったが、すぐに開き直ってとぼける。
「ふ〜ん、なんの事かな?」
「ごまかさないでっ!!。聞きましたわよ、あなたがノクターン軍の機密を漏らして軍
を敗北させたって。あなたのせいでノクターンは負けたのよ・・・大勢の人が殺されたの
よっ!!わかってるのっ!?」
部屋の外まで響くほどの大声を出すレイラに、アントニウスは怪訝な顔をした。
「やれやれ、ノクターンの誇る舞い天使と呼ばれた君が、なんて下品な大声をだすんだ
い。まったくみっともない。」
「なんですって!?裏切り者に言われる筋合いはありませんわっ、恥を知りなさいハレ
ンチ振付師めっ!!」
その言葉によって、アントニウスの矮小なプライドは傷つけられた。
「だ、誰がハレンチ振付師だってぇ?ぼ、ぼくはさあ・・・君のそーゆー高飛車な態度
が気に入らなかったんだよね・・・ずっと思い知らせてやりたいと思ってたんだよね・・・
覚悟するんだね!?」
陰湿に呟くアントニウスの手に、朝方、ブレイズのアトリエで使った香炉が握られてい
る。
香炉から立ち上る怪しげな煙を見て、レイラは驚愕した。
「な、なにをするつもりなの・・・ひっ!?」
煙を吸い込んだ途端、レイラの顔が恐怖に引きつる。喉を通る煙で声を奪われ、全身に
痺れが走る。
身体の自由を奪われたレイラが、硬直したまま床に倒れ付した。
「がは・・・ああが・・・う、うごげないい・・・キャス・・・た、たすげで・・・」
ビクビク痙攣するレイラは、もう1人の天使・・・メガネの美少女キャスリーンに助け
を求めている。
キャスリーンはレイラの親友で、レイラとは正反対の、大人しくて臆病な性格の子だ。
そんな彼女が倒れた親友に縋って叫んだ。
「れ、レイラ大丈夫!?」
いくら揺り動かしてもレイラは動かない。キャスリーンは、レイラを抱いたままアント
ニウスに向き直った。
「あ、アントニウスさん・・・レイラに何をしたんですか・・・」
そんなキャスリーンに、アントニウスは邪悪な笑いを浴びせる。
「ふふん、生意気なレイラちゃんにお仕置きしたに決まってるじゃん。君にもお仕置き
をしなきゃね〜。」
お仕置きと聞いたキャスリーンは、身に覚えのない恐怖に追い詰められ全身を震わせた。
「わ、私がなぜ・・・私知りません・・・なぜお仕置きなんか・・・」
「へえ、覚えてないの?このぼくをコケにした事をさ・・・ぼくは君を食事に誘った事
があったよね?それを君は断ったよね?知らないとは言わせないよっ。」
激しい憤慨で迫るアントニウスに、思わず泣きだしてしまうキャスリーン。
「そ、そんな・・・だってその日は、家族でパーティーする約束だったんです・・・私
の誕生日だったんです・・・それはちゃんとお話ししたじゃないですか・・・」
「ああ〜、話してくれたね。ぼくが振付師仲間に、君と食事をするんだって自慢した後
にね。あのせいで、ぼくは振付師仲間にバカにされたんだぞっ。やっぱりフラれたかって
さあ・・・ぼくはとんだ大恥かいたんだっ。君のせいでバカにされたんだぞっ!!わかっ
てるのかあ〜っ。あの時の落とし前、君につけてもらわなきゃ気が済まないねっ!!」
とんでもない逆恨みをネチネチと連ね、アントニウスは香炉の煙を無理やりキャスリー
ンに嗅がせた。
「や、やめてっ。げほげほっ・・・うあ・・・あああ・・・」
レイラ同様に動けなくなったキャスリーンが床に転げる。もはや彼女達に術はない、助
けてくれる者もない・・・万事休す。
アントニウスの持っている香炉の煙には、吸った者の自由を奪い、香炉の持ち主の意の
ままに操れる効果がある。アントニウスは命令を下した。
「さあ、2人とも立つんだ。そしてぼくの言う事に従え。今日から君達は、ぼくの奴隷
さ。」
レイラ達は、身体を自分の意思で一切動かせなくなり、操り人形のように立たされた。
[あ、ああ・・・やめ・・・いや・・・ゆる・・・て・・・」
許しを乞う2人を見て、アントニウスは勝ち誇ったように告げた。
「ねえ君達〜、アリエル姫がガルダーンでどんな目にあわされたか知ってるかい?それ
はそれは惨い目にあったのさ〜。ぼくをコケにした罰だ、君達をアリエルちゃんと同じ目
にあわせてやるよ。今さら後悔したってムダだよお〜、ウッヒッヒ♪」
その凶悪な笑いが控室に響く。
天使姿の哀れなるレイラとキャスリーンは何をされるのか?それは余りにも悲惨な事で
あった。だが、自由を奪われた2人に逃れる術は一切ないのであった・・・
ミュージカルの開演直前、観客席は異様な雰囲気に包まれていた。
普通、華やかなミュージカルの公演に際しては、観客は静粛たる面持ちで開演を待つの
だが、(汚されし天使の淫舞)を心待ちにする観客の様子はどうか?
まるで見せ物小屋で珍獣の登場を待つかの如く、好奇たる表情で開演を待っている。
飽食と贅沢の限りを尽くしたガルダーンの貴族達は、底無しの欲望を弱者を弄ぶ事で満
たしていた。このミュージカルもまた、弱者を辱めて愉しむためのイベントだったのだ。
やがて開演のベルが鳴り、舞台の幕が上がった。
騒々しい歓声が沸き起こる中、舞台に2人の天使が登場する。ぎこちない動きで歩む天
使達は、凍ったような笑顔で頭を下げた。
舞台の脇から響く音楽にあわせ、天使達は踊り始める。それは、ノクターンの伝統舞芸
である(天使の舞い)であった。
本来は、天使を祝福する神聖な舞いであったが、今ここで、淫乱に腰を振って踊る様は、
まさに神を冒涜する舞と言わざるを得ない。
強制的に踊らされている天使達の耳に、邪悪な闇の声が響く。
---もっと(イヤらしく)踊れ、もっと(淫乱に)舞え・・・
彼女達を支配する主が、彼女達に淫乱な舞を強要しているのだ。
その主であるアントニウスは、ノクターンを裏切っただけでなく、神聖な舞芸をも侮辱
したのである。
無論、淫欲に狂った観客も神聖な舞など望んではいない。生贄の天使達の着ているドレ
スは破れやすい生地を使っており、天使達が踊るたび、少しずつ肌が露出していく。その
有り様に、観客は辱めと悦びの喝采をあげる。
天使達は侮辱の舞から逃れようとするが、その身体はアントニウスの闇の声に操られて
いるためどうにもならない。
そしてアントニウスは、最悪の辱めを天使達に強要した。
「さあ天使ちゃん、お客様にお尻を見てもらえ。」
闇の声が傀儡となり、天使達は観客にお尻を向けさせられた。ノクターンの舞芸におい
て、観客に尻を向けるのは最も恥とされている。だが、辱めはそれだけに終わらなかった。
舞台に風が送り込まれ、天使のスカートが大きく捲りあげられたのだ。
下着のズロースが露出し、観客の視線が一点に集中した。ズロースの割れ目から、天使
達の大切な部分が丸見えになっているのだ。
足を広げた天使達は、金縛りにあったように動けなくなり、凶悪なほど熱い視線が大切
な部分を射抜いているのを感じていた。
悲惨な辱めに、メガネをかけた天使・・・キャスリーンは悲しく涙を流した。
「あうう・・・もうイヤです・・・だれか助けて・・・」
そんなキャスリーンを、もう一人の天使、レイラは励ます。
「負けちゃダメよキャスッ。後でアントニウスのバカをぶっ飛ばしてやりましょうっ。」
気丈にも反抗の意志を示すレイラであったが、ミュージカルのクライマックスによって、
強気の心も叩き潰される羽目になるのだった・・・
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