魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫)2


  第3話 友の誓いと家族の温もり
原作者えのきさん

 
 舞踏会が終わり、アリエルはマリーを誘って城の奥へと向った。
 王族の婦女子と侍女のみが入室を許されるその場所・・・大奥の浴室へと。
 「マリー、舞踏会は疲れるわね。お風呂に浸かったら少しは気が楽になるかしら。」
 マリエルは堅苦しい事が苦手だ。形式や行儀に縛られた行事などよりも、まだ剣を振り
回していた方が楽である。
 奔放な性格のマリーも同様だった。
 「そーですわね。うちなんか肩が凝ってしもうて・・・」
 「なーに言ってるの?遊んでたくせに。」
 「えぇ〜!?ちゃんと仕事してましたって〜。いや、ホンマに・・・」
 「ウフフ。」
 アリエルは脱衣所でドレスを脱ぎ、マリーに手渡す。ドレスや下着を畳んでいたマリー
は、アリエルの表情に強張りあるのに気がついた。
 疲れているのではない、緊張しているのだ・・・
 「どないしたんです姫様?」
 「え?ああ・・・ちょっとね。お風呂の中で話すわ。」
 裸になって風呂場に入ったマリーは、椅子に座っているアリエルの背中を流す。
 手につけた乳液をアリエルの艶やかな肌に塗り、長い黒髪を櫛で梳く。いつもマリーは
美しい姫君のために、そうしている。
 アリエルは黙っていたが・・・やがて重い口を開いた。
 「ガルダーンが・・・また侵略を開始したのよ。隣国のバーンハルドが標的になってる
わ・・・」
 呟きにも似たその言葉に、マリーは絶句した。
 「そ、そんな・・・この前ノクターン侵攻に失敗したばっかりやのに、またですか。」
 そして黙って頷くアリエル。性懲りも無いガルダーンの・・・いや、グリードル帝の侵
略行動に、マリーは表情を強張らせた。
 「あの強欲帝・・・どれだけアホなことしたら気が済むんや・・・まさか、姫様はまた
出陣なさるおつもりですか?」
 「ええ、明日から戦いの準備に入るわ。マリー、あなたにも手伝って欲しいの。」
 「は、はい・・・」
 休息すら許してくれない事態に、アリエルもマリーも疲弊の色を隠せない。
 マリーは、これ以上主君に苦労をさせたくないと、自身も参戦しようと思い立った。
 「姫様、今度の戦いには私も参加しますよって・・・敵の矢が飛んできたら、私が盾に
なります。どうか・・・」
 切なるマリーの言葉を、アリエルの強い口調が制した。
 「何を言うのっ!?あなたを盾になんかできないわっ、バカな事言わないでっ!!」
 「でも、それが侍女の務めですさかいに。」
 申し訳なさそうに語るマリーの肩を、アリエルはそっと掴んだ。
 「マリー・・・あなたは侍女であると同時に、私の親友なのよ・・・友達を盾にするな
んて絶対できないわ。」
 「姫様・・・」
 親友・・・なぜアリエルは侍女のマリーをそう呼ぶのか・・・
 それは数年前、2人が10代前半の頃に遡る。
 マリーは元々、放浪民族出身の芸人であった。投げナイフや軽業、そして手品や曲芸・・
・中でも変装が得意で、目にも止まらぬ早業で様々な人物に変装するのがマリーの十八番
だった。
 たまたまお忍びで街に出かけたアリエルが、マリーの所属する芸人一座の芸を観た時で
ある。
 舞台の上で、一瞬の早業で貴婦人に変装したマリーを観て、アリエルは拍手喝采を送っ
た。庶民の娯楽を知らなかった事もあるだろうが、アリエルは、再々曲芸を見に行くよう
になり、やがてマリーを自分専属の侍女として迎えたいと言い出したのだ。
 姫君と言う立場のアリエルは、自由奔放で太陽のように明るいマリーが大好きになった
のである。
 無論、最初はマリーも戸惑った。
 どこの馬の骨ともわからぬ自分を、国王の姫君が受け入れてくれたのだから・・・
 孤児で親の顔すら知らずに育ったマリーは、物心ついたときから芸を生業にして生きて
いた。明るく振舞ってはいたが、やはり親の温もりが恋しいのも事実だった。
 でも侍女に迎えられてから、アリエルはもちろん、幼かったマリエルも、そして国王夫
妻までもが優しくしてくれたのだ。
 アリエルはマリーに、自由な生き方を教えてもらった・・・
 マリーはアリエルに、家族の温もりを与えてもらった・・・
 互いの心を通わせた2人が、無二の親友になったのは言うまでもなかった。
 主従と言う立場を超え、友情を深めた姫君と侍女。アリエルはマリーを大切にし、マリ
ーはアリエルに尽した。
 だから、アリエルはマリーを失いたくなかった・・・泣き顔でマリーに抱きつく。
 「マリー、私より先に死んだら承知しないから・・・1分でもいい、1秒でもいい、私
より先に死なないで。これは姫君の命令じゃないわ、友達の頼みなのよ・・・」
 友達の頼み・・・それは姫君の命令より遥かに重要な事だった。深い事であった。
 友の頼みを、マリーは笑顔で受け入れる。
 「ええ、もちろんですわ。うちは何があっても死にまへん、姫様を悲しませるような事
は絶対にしませんよってに、御安心くださいね。」
 「ありがとう、マリー・・・」
 目を伏せ、互いの裸身を抱きしめ合う2人であった。
 しばしの沈黙が続いたが、浴室の外から慌しい声が聞こえてきて、2人はハッとした。
 なにやら侍女達が騒いでいる。
 「お待ちくださいっ、転んだら危のうございますって・・・王子様〜っ。」
 侍女の慌てる声も聞かず、浴室の扉を開けてスッポンポンのマリエルが飛び込んで来た
のだ。
 「あねうえ〜。ぼくもお風呂に入る〜♪」
 お湯で濡れたタイルの上を、パタパタと走り回る弟を見て、アリエルはクスッと笑った。
 「もう・・・しょうがない子ね。マリー、ワンパク坊主を捕まえて頂戴。」
 「はーい。王子様〜、捕まえて食べちゃいますよ〜。」
 「わーいっ、捕まっちゃった〜。」
 はしゃぐマリエルを掴んで戻ると、アリエルは優しく弟を抱き上げた。
 「マリエル、オイタしたらダメでしょ?綺麗に洗ってあげるから、ここに座りなさい。」
 「うん。」
 「はい、前向いて・・・もうちょっと足を上げて。」
 「えへへ、くすぐったーい。」
 本当に暖かく、穏やかな情景、これが家族の温もり・・・それを静かに見守るマリーで
あった。
 友達の頼みと言われてはいたが、この温もりを守るなら、命を投げ出してももいいとマ
リーは思った。
 「もしもの時は、うち・・・その時は堪忍してくださいね姫様・・・」
 命を捨ててでも・・・それがうちの使命やから・・・その決意がマリーに宿るのであっ
た。
 1人佇んでいると、アリエルとマリエルが視線を向けてきた。
 「そんな所で突っ立ってたら風邪ひくわよ。」
 「え?ああ、あ、そうですね〜。ほな、うちはこれで。」
 そそくさと浴室を出ようとするが、2人に引きとめられてしまった。
 「ダメだよマリー。ちゃんと体キレイにしないとぉ。」
 「そーだ、こっちに来なさいマリー、洗ってあげるわ。」
 アリエルの言葉に、マリーは手を振って後退りする。
 「そ、それはその〜、遠慮しますよってに・・・」
 「ダーメッ、これは姫君の命令ですわよぉ。」
 マリーを捕まえた2人は、ニコニコ笑いながらマリーを洗い始めた。
 「あ、あきまへんって〜。アベコベやないですか〜。侍女がお姫様に洗ってもらうやな
んて・・・あーん。」
 迷惑そうにしているマリーであったが、アリエルとマリエルはお構いなしにマリーを洗
っている。
 「ウフフ、マリーのオッパイ綺麗ね。もっと綺麗にしてあげるわ。」
 「あ、あの〜、それって洗うやなくて、揉むの間違いやおまへんか。き、気持ち良過ぎ
るんですけど〜。」
 もはや、完全に2人のオモチャにされているマリー。
 「オシリ洗ったげるねゴシゴシ・・・ねえ、どーしてマリーや姉上のここに毛が生えて
るのお?ぼくには生えてなーい。」
 「あ゙〜っ!!ちょっと王子様〜っ。オシリは勘弁してくださーい、こんな事してたら
また侍従長に怒られる〜。」
 そうは言いながらも、内心とても嬉しい?マリーであった・・・


次のページへ
BACK
前のページへ