魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫10)
第39話 突然の襲撃と、決死の陽動作戦
原作者えのきさん
同じ頃、マリエルとミュートの民達は、背後から迫る追撃軍を知らずに進んでいた。
先ほどのアリエル同様、緊張と希望を胸に、寡黙に歩み行く。
だが、その沈黙が一閃の砲撃によって破られる!!
―――ズドオオーンッ!!
無数の土煙が撒き上がり、人々はパニックを起こして逃げ惑った。
ガルダーン軍の襲撃を知ったへインズ提督は、人々が砲撃の餌食とならぬよう懸命に指
示を出す。
「1箇所に固まるなっ!!散開して前に進むんだっ!!」
次々降り注ぐ砲弾の嵐を逃れ、人々は目的地までひた走った。
だが、このままでは全員の命は危うい。なんとかせねば・・・
激しい焦りに苛まれるへインズの元に、マリエルを抱いたゲンカイ夫妻が現れた。
「へインズッ。王子様を連れて早よう逃げんねっ!!」
マリエルを預けたゲンカイは、逃げる人々を誘導するため、後方へと顔を向ける。
そのゲンカイを呼び止めたへインズは叫んだ。
「無茶をするなゲンカイッ。誘導なら私がするっ。」
「何ば言うとね、ぬしにはやるべき事があるっとよ。ミュートの事はオイに任せるばい。
」
へインズを制し、走り出そうとしたゲンカイに、マリエルは声をかけた。
「ゲンカイさんっ、必ずノクターンに来てね。もっと海のお話、聞かせてね。」
心配そうにするマリエルに、ゲンカイは・・・なぜか何も答えなかった。
ただ、寂しそうに笑っただけだった・・・
走る海の男の背中は、とても悲しそうだった・・・
砲撃は更に激しくなり、ミュートの民は危機的状況に陥った。懸命なるゲンカイ夫妻の
誘導も、限度に達している。
ゲンカイ夫妻は決死の決意を固める。
「こうなったら、オイ等で兵隊どもの目を引きつけるしかなか。」
夫の言葉に頷いた妻は、共に松明を手にして離れた場所の茂みに火を放った。
業火は茂みを焼き、兵士達が炎を目掛けて殺到してくる。
兵士の目をごまかす事はできたが、もはやゲンカイ夫妻に逃れる術は無かった。
覚悟を決めたゲンカイは、少し笑って妻に声をかける。
「寂しか。王子様には2度と会えん事になったばい・・・」
そして妻もまた、愛らしいマリエルの笑顔を思い浮かべて微笑んだ。
「そうたいね・・・今度生まれ変ったら、男の子が欲しかね。」
「ああ、名前はマリエルに決りたい。」
言葉を交わす夫妻の後ろから、何者かが声をかけてきた。
「あんたらだけカッコイイ真似はさせんぜよ。俺も付き合うぜよ。」
声の主は、ミュートの漁師ムロトだった。伝達に向った後、一同を迎えに馳せ参じてい
たのだ。
「ムロト・・・ぬしは・・・」
「ガルダーンの兵隊を蹴散らすにゃ、大勢の方がええじゃろ。」
「すまん、ほんとのこつ助かるばい。」
手を取り合う3人に、怒涛の如く兵士が襲いかかる。
ゲンカイは、目を見張って兵士を睨んだ。
「さあっ、どこからでもかかって来んねっ!!漁師の根性ば見せたるばいっ!!」
激しい戦いが巻き起こり、紅蓮の炎が全てを飲み込んだ・・・
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