魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫10)
第35話 焦るゲバルド将軍
原作者えのきさん
ガルダーン帝国の侵略により、ノクターンは窮地に追い込まれたが、まだ希望は失われた
わけではない。
王位継承者であるアリエル王子は、ミュートの人々の力を借りて逃亡に成功、ノクター
ン軍の待つリケルト領へと向った。
同じ頃、侍女マリーに助けられたアリエル姫も、ノクターン軍との合流地点へと向って
いた。
人々の希望であるアリエル姫とマリエル王子の姉弟が存命ならば、ノクターンの民は再
度決起し、ガルダーンに対抗できる。
しかし、逃亡の身である姉弟の命を狙うガルダーンの・・・暴君グリードルの魔の手は、
容赦なく苦境の2人に襲いかかる。
アリエル、マリエル姉弟は、無事逃げ延びる事ができるか?
2人の運命・・・それは神のみぞ知る・・・
逃亡したマリエル王子を捕える命令を受けていたガルダーンの将軍ゲバルドは、グリード
ル帝の鬼のような催促に急かされ、激しく焦っていた。
「んがああ〜っ!!マリエルはまだ見つからねーのか〜っ!!は、早くしろおおおっ。
早くしねえと俺は帝さまに処刑されちまうンだあああ〜っ!!」
1週間以内に見つけられなかったら、八つ裂きにしてブタの餌にしてやると脅されたゲ
バルドの狼狽は尋常でない。
自慢の槍を振り回し、鼻水を垂らして泣き喚いているのだ。
ゲバルドの握る槍に数多の血がこびりついており、探索における非道の数々が物語られ
ている。
切羽詰ったゲバルドは、浅ましい生への執着を露にしてマリエル探索を行った。ノクタ
ーン領内のマリエルが隠れそうな街や村を徹底的に捜索し、破壊した。
それは中立地帯であるミュートの町も例外ではない。
ミュートの民が、マリエル王子と共に逃げた直後、大多数の軍勢が押しかけ、根こそぎ
町を蹂躙していた。
しかし、ありったけの兵を総動員させたにも関わらず、へインズ提督の巧みな手引きで
逃げ果せたマリエルを見つけられなかった。
1週間の半分をムダにし、残された猶予はあと3日・・・それまでに見つけられなかっ
たら、間違いなくゲバルドは処刑される。
彼は処刑の恐怖に怯え、半狂乱して手下に喚き散らしていた。
「み、み、見つけられなかったら、お、お、お前らも道連れだからなああ〜っ!!は、
はやぐじろお゙お゙〜っ!!!!」
「ひええ〜っ、槍振り回さないでくださいよ将軍〜っ。あ、危ないっすうう〜。」
ゲバルドの半径数m以内は危険地帯のため、手下達はオロオロしながら遠巻きにして怯
えている。
そんな時であった。斥候部隊の兵が、荒れるゲバルドの部屋に飛び込んで来た。
「失礼します将軍っ。たった今、リケルト領からノクターン軍一個中隊の進軍を確認し
ました。西南方向へと進んでいる模様でありますっ。」
敬礼して報告する斥候部隊の兵に、ゲバルドは激怒の槍を突き付けた。
「ばっきゃろおおお〜っ!!そんなコトいちいち報告にくるなあ〜っ!!マリエルだマ
リエルだマリエルだああ〜っ!!とっととマリエルを探してこーいッ!!」
「はひっ!?す、すンません〜っ。」
もはや処置無しのゲバルドにうろたえる兵だったが、参謀の1人が進言する。
「おそれながら将軍、ノクターンの動きにはマリエルが関しているかと思われます。」
「うが〜っ!!だがらマリエルをみづげ・・・へっ?」
参謀の言葉に、我に帰るゲバルド。そして参謀は慎重な対応で説明した。
「奴らの進む方向は、すでに我等の手に落ちています。そんな所に一個中隊だけで秘密
裏に進軍するとなれば、かなり重要な事があると見ました。」
参謀の言葉にキョトンとするゲバルド。
「んあ?だ、だからなんだってぇの。」
「ああもう〜。ですから、連中の進む先にマリエルがいる可能性があるンですって。」
参謀の言葉に、ゲバルドの表情は一変する。泣き顔が歓喜の表情に変わり、小躍りして
悦んだ。
「そーかそーかっ!!そうと判れば話は早いっ。速攻で全軍を西南の方向に集結させろ
っ。これで俺の首も繋がったぜ〜っ。ばんざ〜いっ。」
「いや、その、まだマリエルが目的で進軍していると決ったわけではないですし、マリ
エルの行方も・・・って、聞いてませんね。」
悦び踊るゲバルドを、呆れた顔で見ている参謀と兵士達・・・
しかし、参謀の読みは的中していた。
ミュートからへインズ提督のメッセージを携えたムロトが、リケルト領のノクタ―ン軍
にマリエル王子存命を伝え、それを受けた軍が動いていたのだった。
だが、動きを知られてしまった事により、マリエル王子は再び危機的状態に陥ってしま
った。それはマリエルもへインズ提督もノクターン軍も・・・しらない。
またマリエル王子とノクターン軍との合流地点を目指すアリエル姫とマリー達もまた、
その危機に気がついていないのであった・・・
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