魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫4)
第6話 いがみ合う獣達
原作者えのきさん
フォルテが陥落したその頃、アリエル率いるノクターン軍を壊滅させたゲバルド将軍と
その軍勢が、アリエル姫という戦利品を手にしてガルダーンに戻ろうとしていた。
戦利品はアリエルだけではない。戦いに破れたノクターン軍の敗残兵達が、鎖で繋がれ
て連行されている。
意気揚揚と凱旋気分に浸るゲバルド将軍は、次期元帥の座は確実だと確信していた。
「へへっ〜、こうも簡単にノクターン軍を攻略できるとは思わなかったぜ〜。これもア
ントニウスとか言う(内通者)の情報があってのこと・・・いやいや、やっぱ猛槍超撃大
将軍たる俺様の実力ってことかな?うひゃひゃひゃ〜っ。」
猛将ガルア将軍でも成し得なかった功績をあげ、ゲバルドは下品に笑っている。
美味そうに酒を呷っているゲバルドは、木製の檻に閉じ込めたアリエルをハイエナのよ
うな薄気味悪い目で見つめた。
「よ〜おアリエルちゃん、気分はどうだい。お前はガルダーンでたっぷり嬲り者になる
んだ〜、なんなら俺様の(槍)で味見してやってもいいんだぜ?イッヒッヒッ。」
自慢の槍でアリエルを突っ付き、下品に笑うゲバルド。
アリエルは虫唾の走る悪寒を堪え、沈黙したままうずくまっている。
今の彼女の頭は、フォルテに残して来た父や母、そして弟マリエルの事で一杯だった。
ゲバルド達の話では、すでにフォルテに軍勢が差し向けられており、陥落は時間の問題
との事だ。
それが事実なら・・・最悪の事態を思い浮かべてしまい、激しい不安に襲われるアリエ
ル。
それが、現実となる事態に遭遇した。
ガルダーン軍の先頭を行く兵士が、大慌てでゲバルドの元に走ってきた。
「し、将軍〜っ。フォルテ攻略の軍勢が先を進んでますぜーっ。」
その声に、驚いて走り出すゲバルドだった。
「ぬぅあにぃ〜っ!?フォルテ攻略の軍勢って事は・・・レッカードのクソ野郎に先越
されたってことじゃねーかっ!!」
戦績を争っていたレッカード将軍が、早々にフォルテ攻略を果たして凱旋しているので
あった。
このままでは元帥の椅子が不意になってしまう。血相を変えたゲバルドが、手下達に激
を飛ばす。
「レッカードに元帥の椅子を取られてなるものか〜っ!!速攻で進めっ、ガルダーンに
急ぐんだ〜っ!!」
勝利に酔っていた兵達が、ゲバルドに急かされて進軍を早める。
しかし、それに気がついたレッカード将軍は、姑息な手を考えてゲバルドの軍を足止め
しようと企む。
フォルテから連行していたフォルテの若い女性を、何人かゲバルドの軍勢に向けて追い
立てたのだ。
大勢の若い娘が、裸同然の姿で走り逃げてくる。それを見たゲバルドの手下達が狂喜し
て娘達に群がった。
悲鳴を上げる娘達は、獣と化した兵士達に蹂躙される。これがレッカードの策略である
と知ったゲバルドが大声で喚いた。
「な、なにやってんだてめえらっ、こんな所で道草食ってンぢゃね〜っ!!女なんぞ後
にしろって・・・聞いてンのか〜っ!!」
しかし欲望も露になった兵士達は、ゲバルドの叱咤すら聞き入れない。
作戦を成功させたレッカードが、中指を立ててゲバルドを挑発している。まんまと嵌め
られたゲバルドは、地団駄を踏んで悔しがった。
しかし・・・それ以上にアリエルは苦しみ叫んでいた・・・
「やめてええっ!!私をここから出しなさいいっ!!よくもフォルテの民を・・・この
ケダモノーッ!!」
檻を揺すり叫ぶアリエル。今まで守りぬいてきた民達が、目の前で蹂躙される。これ以
上の苦痛があろうか。
そして、それ以上の屈辱と恥辱・・・そして地獄の苦痛が彼女を待っているのであった・
・・
ゲバルドより先に凱旋したレッカードは、多くの民、そしてアルタクス王とマリシア王
妃を戦利品としてグリードル帝に献上した。
全ての戦いで勝利したレッカードは自信満々といった様子だ。玉座に座るグリードル帝
に、恭しく一礼する。
「帝様、今回の攻略でフォルテを陥落させ、帝様が御所望なされているマリシア王妃を
確保致しました。」
念願だったマリシアを我が物にできると言う喜びで、グリードルは歓喜の声を上げた。
「ふははっ、でかしたぞレッカードッ!!間違いなく無傷であろうな?まさかとは思う
が・・・手を出したりしていないだろうなあ〜。」
疑心を向けられたレッカードは、手を振って否定する。
「め、め、滅相もございませ〜んっ。帝様に差上げる戦利品に手を出そうなどとは恐れ
多き事にございます、はい〜。」
ペコペコ頭を下げる小心なレッカードに、グリードルは安心する。
実は、レッカードにフォルテ攻略を命じたのも、レッカードが小心者であった事に関係
している。この肝の小さい男なら、帝の権威を恐れてマリシアに手に出さないであろうと
の考えからであった。
「そうかそうか、なら安心だ。で、俺の命じた通り、アルタクスは半殺しにして連れて
きただろうな?それと・・・マリエルのガキも一緒か?」
マリエルのガキ・・・その言葉に、レッカードの顔から血の気が失せた。
忘れていたのだ、次期国王であるマリエルの事を・・・
マリエルはノクターン王国の希望でもある。その希望を摘み取る事を怠った罪は大きい。
「あ・・・しまった・・・忘れてた・・・」
オロオロするレッカードに、再度グリードルは問う。
「マリエルはどうしたと言ってるのだ、聞こえンのかっ?」
「あ、あわわっ、ぢ、ヂツはその〜。見つからなかった、じゃなくて・・・逃げられた、
でもなくて・・・」
必死で弁解しようとするレッカードに、横槍を入れてくる者がいた。彼に出し抜かれた
ゲバルドだった。
「帝様、こいつはマリエル王子の身柄を確保するのを忘れてたンですぜ。とんでもない
大ボケっすよ。」
ゲバルドに素っ破抜かれたレッカードに、グリードルの叱責が飛んだ。
「バカヤロウッ!!マリエルのガキも連れて来いって命令しただろーがっ!!そいつを
忘れるとは・・・とんだ失態だっ。」
「も、も、も、申し訳ありません〜。」
平謝りをする情けないレッカードを、ゲバルドと、そしてアルタクス王の身柄を確保し
た特殊部隊の隊長がニヤニヤ笑って見ている。失態の事実をゲバルドに密告していたのだ。
ワナワナと体を震わせ、隊長を睨むレッカード。
「お、お、お前よくもっ、将軍にしてやると言ったのに〜っ!!」
「スミマセンね、ゲバルド将軍があんたより良い条件を出してくれたものでね。」
弱肉強食が掟であるガルダーンにおいて、足の引っ張り合いは日常茶飯事だ。今度はレ
ッカードが出し抜かれた事になる。
これによって、レッカードの元帥昇格は取り下げられた。
「マリシア確保の報酬はくれてやる、ただし元帥昇進の件は見送りだっ!!」
「は、はい〜。」
グリードルに怒鳴られ、情けなく平伏するレッカード。
そして、ライバルの妨害をしたゲバルドが、すぐさま自身の手柄を報告した。
「帝様、わが軍は見事アリエル率いるノクターン軍を殲滅し、アリエルも生け捕りにし
ましたぜ。これで俺を元帥にして頂けますよね帝様。」
レッカードを蹴落とした事で自分が元帥になれると思ったゲバルドだったが・・・そう
は甘くなかった。
グリードル帝は冷やかにゲバルドを見据えた。
「ほう?レッカードより遅れてたクセに、えらく自信満々だな。俺は先に着いた奴を元
帥にすると言ったはずだが・・・」
「へ?しかしその・・・レッカードは失態をいたしましたし・・・ですからして・・・」
「それとこれとは話が別だっ!!遅参した分際で元帥にして頂けますかだと?マヌケが
っ、寝ボケたことをほざくなっ!!」
グリードルの罵声にゲバルドは仰天する。
「あ、いや。マヌケはレッカードのアホで、その〜。」
「もういいっ、貴様にはマリエルを探す任務を与える、マリエルの首を持ってこれたら
お前に元帥の椅子をくれてやろう。わかったらさっさと行けーっ!!」
「は、はいいっ。ただ今すぐに〜。」
問答無用で追い返されたゲバルドは、すぐさまマリエルの身柄奪取に向かった。
そしてグリードル帝は、後に残ったレッカードにも新たな任務を与えた。
「レッカード、貴様にはアリエルを凌辱する人材の抜擢を命ずる。アリエルを嬲り者に
して、娘が泣き叫ぶ姿をアルタクスの野郎に見せつけてやるのだ。中途半端な奴を連れて
きたら承知せんぞっ。」
その言葉に戸惑うレッカード。
「アリエルを辱める人材・・・ですか?」
ガルダーン帝国には拷問や凌辱の専門家が大勢いる。むろん、敵国の捕虜や捕らえた姫
君を責めるために、グリードルが集めた存在だ。
だが今回は、グリードルが執念を長年抱いてきたノクターン王国の姫君への責めである。
通常の拷問係を連れてきたくらいでは暴君は満足するまい。
逆らう事はできないので、とりあえず生返事でごまかすレッカードだった。
「わかりました、必ずや帝様の御意向に添う者を連れてきます。」
「それでいい。俺を満足させる事ができたら、ゲバルドの代わりに元帥にしてやろう。
大至急見つけてこいっ。」
一方的な命令だけ言うと、グリードルは速やかに去っていく。その耳に小心な部下のボ
ヤキなど聞こえるはずもない。
「よわったな・・・そんな奴を連れてこいだなんて・・・」
(元帥にしてやる)というグリードルの言葉に心動かされるが、やはりそこは小心なレ
ッカードの事、暴君を満足させられなかった時の処罰を恐れていた。しくじれば降格どこ
ろではない。
思い悩むレッカードに、邪悪な側近のズィルクが声をかけてくる。
「随分と無理な命令を押し付けられたなレッカード将軍。」
突然現れた醜悪なズィルクの顔を見て、レッカードは怪訝な顔をする。
「な、な、なンだよあんたはっ。なんか文句でもあるのか!?」
「そんなに嫌そうな顔をするな、お主に良い人材を教えてやろうと言っておるのだ。わ
しの話を聞くのか聞かないのか?」
「う・・・本当に良い人材なんだろうな?」
不信げに訪ねるレッカードを見て、ズィルクはニヤリと笑う。
「もちろんだとも、アリエル姫を最悪の手段で辱めるには、アリエルを最高に憎んでい
る奴を連れてくれば良い、そうだろう?」
アリエルを最高に憎んでいる奴・・・その言葉に、レッカードは顔色を変えた。
「ず、ズィルクさん・・・あんたまさか・・・(あの男)を・・・」
「そのまさかだよ。正確には(あの男とあの女)だがね、フッフッフッ・・・」
邪笑いを浮かべるズィルクを見て、レッカードは更に顔色を変える。
「そりゃ、(あの人達)なら一番だけどさ。お、俺が説得に行かなきゃならねーのか?
あ、あの恐ろしい所へ・・・」
「当たり前だ、お主でなければ2人の首を縦に振らせる事はできまい。特に、あの男の
気難しさはお主が一番知っておろうが。」
「・・・くそっ、あんた本当に嫌な奴だなっ。」
将軍職にありながら、レッカードは(あの人達)と言い、妙に怯えている。レッカード
が怯える(あの人達)とは一体?
「何が嫌なんだ。お主の(元上司)じゃないか、何を悩む必要がある。」
「だ、だ、だから嫌なんだよっ!!」
頭を抱えて悩むレッカードの知る人物とは?
それは、アリエルを烈火の如く憎む(隻腕の悪鬼)と(戦鞭の魔女)であった・・・
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