魔戦姫伝説(アンジェラ外伝)初代アンジェラ編・ノクターンの伝説(1)


  第1話 古の伝説・・・それは全ての始まり
原作者えのきさん

      

 私の名前はアンジェラ・・・ノクターン王国の伝説に登場する戦女神・・・
 ノクターン王国に住まう民は、親から子へ、子から孫へと古の伝説を言い伝えてきまし
た。
 しかし、誰もが知りうる伝説でありながら、誰も伝説の史実は知りません。
 これより語る物語は、伝説に登場する戦女神・・・(初代アンジェラ)の史実の物語な
のです・・・
 
 ノクターン王国の伝説とは、平和だった王国が恐怖の魔神バール・ダイモンによって征
服され、民や王が絶望の底に堕とされるも、天界より遣わされた戦女神の活躍で魔神が倒
され平和が戻るという物語です。
 昔話などで良くある勧善懲悪のストーリーであり、偉大なる女神と国の栄華を讃える伝
説なのですが、しかし・・・史実は華々しい伝説とは異なっているのです。
 物語の戦女神は、強く凛々しい女神として登場しますが、実際は非力な若輩の姫君であ
り、魔神に快勝したと言われているのも、本当は艱難辛苦の末に辛うじて倒したに過ぎま
せん。
 そして・・・戦女神アンジェラは神の力をもって魔神を倒したのではなく、(闇の偉大
な御方)から力を借りて魔神を倒したという事・・・これが実際の話なのです。
 その全てを、私・・・戦女神アンジェラが物語る事に致します。
 
 時はノクターン王国とガルダーン帝国との戦争が行われる遥か以前・・・私、戦女神ア
ンジェラは天界の住人でありました。
 天界・・・そこは人が神と崇め尊ぶ者が存在する場所。神族と言われる一族が、光溢れ
る世界で平穏に暮らす場所・・・
 しかし、その平和を維持するために、一部の者が多大なる犠牲を強いられているのが現
実でした。
 私は神族の中の、武神に属する一族の姫君でありました。
 武神の姫君といっても、幼い末妹であるため戦事に関わった事はなく、剣すら握った事
もありません。
 それでも神族の平和を守る武神の誇りゆえか、私は正義と慈悲を重んじる姫君として育
っていました。
 我が一族は戦いという使命を神王から与えられていたため、王である父はもちろん、母
や兄や姉も皆、神族の平和を守るべく戦場へと赴いていて、家族団欒で過ごした記憶があ
りません。
 それは王のみならず、家臣や、その親族も例外ではありませんでした。
 そう・・・平穏に過ごしているはずの神族の中で、私の一族は戦いに明け暮れる日々を
送っていたのです。
 天界の平和のため、そして一族の名誉のため、末妹の私にも戦うべき時がやってきたの
です・・・
 
 それは、私が17歳の誕生日を迎えたばかりの頃でした。
 人間界のノクターン王国に魔界の者が出現したとの報告を受けた神王は、我が武神一族
に魔族討伐の命令を下しました。
 魔族・・・私達神族の仇敵であり、全世界の平穏を乱す者共・・・
 幼少よりそう教えられてきた私は、魔族は全て悪だと単純に信じ込んでいました。
 そして魔族は、神族の威光に恐れをなして闇に隠れ、常に神族を倒そうと隙を伺ってい
るとも思っていました。
 しかし・・・それは誤りであると思い知らされる事になるのですが、それは後の講釈で
語りましょう。
 父も母も兄姉達も戦いに出て不在だったため、魔族討伐の任務は末妹の私が担う事にな
り、命を直々に受けるために神都へと赴きました。
 神々しい光を放つ神殿に参じた私を待っていたのは、全ての者を平伏させる神の声でし
た。
 『・・・武神の一族と、その姫君アンジェラ。苦しゅうはない、表をあげよ。』
 威光を示す、紅玉の散りばめられた玉座には、幾千年にも渡り光の世界を支配してきた、
老齢たる王が座しています。
 私は若輩の非礼が無きように、深々と一礼しました。
 「本日は神王様の御尊顔を拝する栄誉を与えて頂き、まことに恐悦至極であります。此
度の魔族討伐の命、確と承りました。神王様に仇する魔族を、必ずや誅滅して参ります。」
 頭を下げる私を、神王は威圧的な眼で見据えています。
 『うむ、愚かな魔族どもは性懲りもなく朕に牙を剥いて来おる・・・美しき神の園を汚
す、下賤極まりなき輩めが・・・此度も思い知らせてくれようぞっ。』
 その権威の籠もった声は、魔族を残らず滅する気迫に満ちており、恍惚とした表情で両
手を広げ、全ての世界を神の威厳で覆うべく私に命を下しました。
 『・・・魔族・・・それは神の仇敵!!よいかアンジェラよ、朕の名において残らず滅
せよ!!魔族を倒した暁には、そなたら武神の一族に至高の栄誉を与える。いざノクター
ンへ向えーっ!!』
 「はっ、神王様の仰せのままに・・・」
 命を受け入れた私ですが、正直な話、魔族の討伐には心苦しいものがありました。
 私のような若輩者が戦いに出向かねばならない労苦・・・本当は平穏無事な生活が望み
でしたから。
 名誉など不要だから、戦いの責務から解放してほしい・・・そう言いたかった・・・
 でも、地位の低い武神の一族は神王に逆らえません。
 父も母も兄姉も、皆、こうして戦いに出向いている。だから私も・・・
 自分に言い聞かせ、私は支配者の理不尽な命を胸に刻みました・・・









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