魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第一話8


  闇の審判が下される時
ムーンライズ

 ミケーネル城の各所に散っていたガスタークの手下達が魔戦姫達に狩られ、ガスターク
一味で残っているのは会場で乱痴気騒ぎをしているメンバーのみとなっていた。
 魔戦姫達は、ガスターク一味を確実に仕留めるべく、周囲から徐々に包囲網を狭め、主
力陣営が集結している会場を完全包囲していたのである。
 総勢9人の魔戦姫達は、彼女等が従えている侍女達との連携によって鉄壁の包囲網を敷
いていた。
 もはや、ガスターク一味に逃げ場は無かった。
 配置につく各人の状況を、魔戦姫の1人レシフェがリーリアに報告した。
 「リーリア様、各自、配置完了しました。後はミスティーア姫が奴等を殲滅するのみで
す。」
 「よろしい。会場に残っているガスターク一味の総数は?」
 「はい、56名であります。」
 「そう、少し数が多いですわね。レシフェ、貴方と天鳳姫の2人でミスティーア姫達の
援護をなさい。」
 「はい、天鳳姫に連絡してまいります。」
 リーリアの指示を受け、レシフェは即座に動いた。
 レシフェの後ろ姿を見届けたリーリアは、僅かの沈黙を置いて口を開いた。
 「宴は間も無く終了よ、覚悟なさい悪党ども・・・」
 リーリアの目に激しい怒りが宿っていた。
 それは、彼女自身が背負っている業の全てを物語るかのように青く、そして静かに燃え
ていた。
 
 会場にいるガスターク一味は、宴のクライマックスを飾るべく、狂気の趣向で宴を盛り
上げていた。
 会場の天井から、全裸にされた若い淑女やメイド達が、ロープで吊り下げられていた。
 女達の首には的が描かれた板がぶら下げられており、手下達がそれを標的にクロスボウ
で狙い撃ちしているのである。
 「ウヒャヒャッ、もっと良く狙えヘタクソッ。」
 手下達の射撃を見ながら、下品な声で高笑いを上げているのは首領のガスタークだ。
 クロスボウを構えた手下は、再度女に向けて矢を放とうとしている。
 「よーし、今度こそは・・・」
 狙いを定めて矢を放つが、狙いは外れて天井に矢が突き刺さった。
 「貸せっ、射撃ってのはこうやるんだよ。」
 手下からクロスボウをぶん取ったガスタークは、おもむろにクロスボウを構え、矢を放
った。
 矢はメイドの首にぶら下げられた的へ正確に命中し、手下達がヤンヤの歓声を上げた。
 「フッ、ざっとこんなもンよ。」
 腕前を自慢するガスターク。そんな首領に、手下は揉み手でお世辞を言う。
 「さすがはボス、いい腕してますぜ。」
 「まぁな、でもクロスボウなんざ所詮ガキのオモチャよ。やっぱり射撃っていえばコイ
ツに限るぜ。」
 ガスタークはそう言いながら懐から拳銃を取り出し、先程クロスボウで狙い撃ちしたメ
イドに銃口を向ける。
 それを見たメイドが悲鳴を上げた。
 「いや・・・やめてーっ!!う、撃たないでーっ!!」
 首から下げられている板はクロスボウの矢では貫通できないが、鉛の弾丸では簡単に撃
ち抜ける。
 ガスタークの射撃の腕は正確だ。的に弾丸を撃ち込まれれば、メイドの命は無い。
 恐怖に怯えたメイドが、失禁しながら泣き喚いた。
 「ヒヒッ、ションベンちびってやがる。いいねぇ〜その怯えた顔。鉛玉食らったらどん
な面になるかな〜?」
 ニヤニヤ笑うガスタークの指がトリガーにかかる。
 絶体絶命のメイドが顔面蒼白になって震えた。
 「あわわ・・・いや・・・」
 「へっへ〜、覚悟しな〜。」
 拳銃から凶弾が発射されようとした、その時である。
 会場の照明が、全て一斉に消えた。
 「な、こりゃどうしたんだっ!?」
 突然の事に、ガスターク一味が全員パニックになる。
 「くそっ、誰が照明消しやがったっ!?早くランタン持って来いっ!!」
 暗闇にガスタークの罵声が響く。手下がランタンを持ってこようとするが、真っ暗なの
で何も出来ない。
 そんな右往左往しているガスターク一味の頭上から、凛とした声が響いた。
 「困っている様ですね、灯りが欲しいならつけてあげましょう。」
 その声と共に会場の四隅に青白い光が灯され、眩い光にガスターク一味は一瞬視界を奪
われる。
 「うっ・・・眩しい・・・」
 恐る恐る目を開けた一味の眼に、信じられない光景が飛び込んだ。
 「なんだあの女・・・宙に浮いてる・・・」
 驚愕するガスターク一味の眼に映ったのは、漆黒のドレスを身にまとった暗闇の女王で
あった。
 その暗闇の女王は、背中に黒い翼を翻しながら頭上高く浮いている。そして見下すよう
な目付きでガスターク一味を見ている。
 「始めまして、ガスタークさんと手下の方々。私の名前はリーリア、闇の正義を司る魔
戦姫の長です。あなた方とは短いお付き合いになると思いますが、ヨロシク頼みますわ。」
 丁寧な口調で語る暗闇の女王こと、魔戦姫の長リーリア。
 その瞳には悪党を許さぬ正義の光が宿っている。
 「ませんき?なんだそりゃ。」
 突然の事に戸惑いを隠せないガスターク。
 そしてリーリアの姿を呆然と見ていた手下の1人が、会場の異変に気がついて叫んだ。
 「ああっ!?女どもがいねえっ、貴族もいねえぞっ!!」
 その声に、ガスタークを始め一同が会場を見まわす。
 なんと、天井から吊り下げられていた淑女やメイド達がいなくなっているではないか。
しかも、床に転がしていた貴族やミケーネル領主とその子息達の遺体も消えている。
 先程の暗闇に乗じて、魔戦姫のメンバーと侍女達が運び去ったのだ。
 騒ぎ立てる手下達を尻目に、ガスタークがリーリアに詰め寄った。
 「やいっ、女や貴族どもをかっさらったのはてめえだなっ!?どうやったのかはしらね
えが・・・このオレ様にナメたマネして只で済むと思ってんのかっ!?そんな所にぶら下
がってねえでさっさと降りてきやがれっ!!」
 ガスタークは、リーリアがピアノ線か何かで天井からぶら下がっているものと勘違いし
ている。
 ツバを飛ばしながら喚くガスタークを、リーリアは笑いながら手招きする。
 「私に文句がお在りならここまでいらっしゃいな。もっとも、あなたに翼があればのお
話ですけどね。」
 嘲笑するリーリアに、ガスタークはキレた。
 「ぬぁにい〜!?ふざけた事ぬかしやがってっ!!おい野郎どもっ、あの黒服女を撃ち
落せっ!!」
 ボスの声に、クロスボウを持った数人の手下が前に出てきた。クロスボウを構え、暗闇
の女王に照準を合わせる。
 頭上のリーリアは、向けられたクロスボウの矛先に臆する事無く手下達を見ている。
 「食らえっ!!」
 クロスボウから一斉に矢が放たれた。
 「・・・己の矢で貫かれなさい。」
 リーリアが呟いた。その瞬間、彼女の寸前まで迫っていた矢が瞬時に反転したかと思う
と、進行方向とは逆に矢が飛んで行った。
 逆方向に撃ち出された矢が向かう先は・・・
 「ぎゃあっ!?」
 「ぐわあっ!!」
 クロスボウを撃った手下達が自身の撃った矢を浴びて次々倒れる。
 「こ、これはっ・・・」
 悪党達は声を失った。目の前で起きた事は、余りにも信じがたい事だった。弓矢が進行
方向を反転させて撃った者を貫いたのだ。
 一体どうやって?そんな疑問すら掻き消される程の衝撃が悪党達を襲った。
 床に倒れている手下達を見て呆然とするガスターク。
 「これは一体・・・」
 一体どんな手品を使ったんだ?そう言おうとしたが、声にならない。
 そして、リーリアの恐ろしさを理解できない手下の1人が、愚かにも暗闇の女王に汚ら
しい罵声を浴びせた。
 「この腐れ○ン○がっ!!」
 その下劣な罵声に、リーリアの眉がピクリと動いた。そして指先を手下に向ける。
 「グラビトンッ!!」
 彼女の声と同時に床が凄まじい超重力を受けて大きく凹み、罵声を吐いた手下が直撃を
受けてペチャンコになった。
 凹みの中央には、手下のなれの果てである大の字の赤いシミが横たわっている。
 「ひいっ!?」
 驚愕するガスターク一味。床に出来た巨大な凹みは、まさに巨獣の足跡である。
 顔面蒼白の悪党達を見ながら、リーリアは女神のような優しい微笑を浮べてこう言った。
 「さあ、私に文句のある方は遠慮無くおっしゃってくださいね、踏み潰して差し上げま
すから。」
 ニッコリ笑っているが、その言葉には血も凍る程の(恐怖)が込められている。
 「ひいええ〜っ!!」
 恐怖に駆られた手下達が、ドタバタとガスタークの背後に逃げ込んだ。
 「この腰抜けどもがっ。」
 自分の背後で震えている手下を怒鳴りながら、ガスタークはリーリアを睨んだ。
 「まさかあいつは・・・」
 やがてガスタークの頭の中で、宙に浮いている暗闇の女王が何者かと言う思考が巡り、
その答えがはじき出された。
 「てめえは・・・悪魔・・・」
 それが答えであった。
 ガスタークの言葉に、フッと笑うリーリア。
 「ウフフ、御名答。そう、私は悪魔、あなたたち悪党を滅ぼすために存在する闇の魔戦
姫。そして我等の名を聞き、その姿を見た悪党に生き残る術はありません。今夜はあなた
達にとって最後の夜になりますわ。」
 リーリアの言葉に、ガスターク一味は絶句する。そして暗闇の女王に目を向けた。
 あの女は絶対的な力を持った悪魔だ・・・そして、その悪魔が自分達を殲滅するべく出
現した!!
 全員、底無しの恐怖に取り付かれた。
 一見ただの女としての姿を有しているだけのリーリアだが、その実態は恐るべき怪物な
のだ。そして彼女の前にいるガスターク一味は、巨大なマンモスの前で地面に這いつくば
る虫けらに過ぎない。
 力の差は歴然としている。抵抗や反撃などしようものなら、先程の手下同様、踏み潰さ
れて床の赤いシミとなるであろう。
 愕然とするガスターク達に、リーリアは不敵な笑いを浮べた。
 「どう足掻いてもあなたたちに助かる術はありませんよ、判ったら大人しく降参なさい。
」
 暗闇の女王の言葉に手下達は固唾を飲む。しかし、首領のガスタークに降参の意思はな
かった。
 「へっ、やってくれるじゃねーか悪魔さんよ・・・これしきの事でオレ様が降参すると
でも思ってンのかい?暗黒街の帝王と呼ばれたオレ様をなめンじゃねえっ、さあどこから
でもかかってきやがれクソ悪魔がっ!!」
 口汚く喚くガスタークだったが、それは単に頭に血が昇って冷静な判断が出来ていない
だけなのだ。そんな彼に、リーリアは呆れた顔で溜息をついた。
 「やれやれ・・・底無しの愚か者ですわね。その愚かな度胸に免じて、あなた達に助か
るチャンスをあげましょう。」
 リーリアはそう言うと、会場の正面に手を向けた。それに反応する様に、大きな扉が独
りでに開き始める。
 そこから3人の娘が入ってきた。その3人の顔を見たガスターク一味は一瞬困惑し、や
がて驚愕の声を上げた。
 「お、お前はミスティーアッ。」
 声を上げるガスタークが指差したその人物は、ガスタークと、手下のラットとグスタフ
によって蹂躙された、ミケーネルの姫君であるミスティーア姫とその侍女達だった。
 だが、現れたミスティーアはガスターク一味が知るミケーネルの姫君ではなかった。髪
を黒く変え、激しい憎悪で燃える目でガスターク達を睨む彼女に、かつての優しい姫君の
面影は全く無い。
 そして豹変したミスティーアの口から、呪詛の如き声が発せられる。
 「ガスターク・・・よくもお父様やお母様を・・・よくもお兄様達を・・・よくもアド
ニス兄さんをっ!!許さないわ・・・あなた達全員、地獄に送ってあげるっ!!」
 会場全体を揺るがす声で叫ぶミスティーア。全てを奪われた今の彼女は復讐の鬼であっ
た。
 ミスティーアの声に気圧されたガスターク一味が思わずたじろぐ。
 「ちょっと待て・・・お前はオレにヤラれて・・・それが・・・地獄に送るだあ?何の
冗談だよ、ええっ?」
 余りのミスティーアの変わり様にガスタークは我が目を疑った。何の抵抗すら出来ない
まま蹂躙された非力な姫君が、恐るべき地獄の復讐者となって自分達の前に現れたのだ。
 今空中に浮いている暗黒の女王こそ、彼女に闇の力を与えた張本人で、悪魔に魂を売っ
たミスティーアが自分達に復讐しに来た・・・悪党どもは、その信じがたい事実を目の当
たりにして、ただ声を失った。
 そんなガスターク達に、リーリアが声をかけた。
 「あなた達が唯一生き残る道は、そこのミスティーア姫達と戦って彼女等を倒す事です。
それが出来れば、私はあなた達を見逃してあげましょう。」
 落ちついた口調で語るリーリアに、ガスターク達は唖然とする。
 「お、オレ達がミスティーアと戦えってか?」
 「そうですわ。もっともミスティーア姫は戦うのが始めてですから、ハンデとして2人
の魔戦姫が助太刀致しますが、いかがかしら?」
 リーリアがそう言うと、ガスターク達の前に2人の気品在る姫君が出現した。
 「我が名はレシフェ、見知り置きの程を。」
 「ワタシは天鳳姫アルよ、ヨロシクのコトね。」
 出現した2人の魔戦姫が自己紹介する。1人は森色のミディドレスを身にまとったアマ
ゾネス・プリンセスで、もう1人は東洋の天女様の衣装を着たミステリアスな姫君だ。
 そのミステリアスな姫君の天鳳姫こそ、先程猛毒を仕込んだニードルランチャーで手下
を殲滅した猛毒の天女である。
 「あなた方の総数は、先程私が倒した手下の数を差し引いて50名。私は一切手出し致
しません。50対5なら、あなた達にも勝機はあるでしょう?」
 淡々と語るリーリアに、ガスターク達は正面のミスティーアと魔戦姫を見た。
 確かに勝機はある。いや、(超)楽勝だ。上で浮いている暗闇の女王はともかく、相手
は非力なお姫様と助太刀の女2人。ミスティーア達はもちろん、助太刀の2人組も武器ら
しき物は(手に)持っていない、全くの丸腰である。ましてや50対5だ。どう考えても
武装した自分達が負けるはずはない・・・
 ガスターク一味が出した(単純な)結論だ。
 そしてガスタークはリーリアに言い寄る。
 「おい、あいつ等をブチのめせばいいんだな?」
 「ええ、あなた達に出来れば、の話ですけどね。簡単ですよねぇ?ミケーネルの警備兵
を全滅させたあなた達なら楽勝ですわよねぇ?」
 嫌味のこもった声でガスターク達を挑発するリーリア。ガスタークはそんなリーリアを
睨む。
 「ケッ、ほざいていられるのも今のうちだぞクソ悪魔が。あいつ等をブチのめしたら次
はてめえだっ。そこから引き摺り下ろしてオレのコックを舐めさせてやるぜっ!!」
 喚いたガスタークは、手下達に檄を飛ばした。
 「野郎ども武器をとれっ、奴等にオレ達の恐ろしさを教えてやるんだっ!!」
 おおっと言う掛け声を上げ、手下達は武器を手に決起した。そして正面に立つミスティ
ーア達ににじり寄る。
 そんなガスターク達を微動だにせず見ているミスティーア達。
 「姫様、手下達は私達にお任せくださいですわ。」
 「姫様はガスタークをやっつけてくださいの。」
 そう言ったエルとアルは、ガスターク達の前に出ると、おもむろに黄色のドレスを脱い
だ。
 彼女等はドレスの下に何も着ていなかった。今身につけているのは足に履いているロン
グブーツのみである。
 「おおうっ、スッポンポンじゃねーかっ。戦うってこいつ等とヤルって事かよぉ?」
 一糸纏わぬ姿の2人に、手下達が嬉々とした声をあげる。 騒ぐ手下達の中から、間抜
け面の大男が出てきた。アルを陵辱した巨漢のグスタフだ。
 「ぐへへ・・・おめえ、またおれにイジメてほじいのがあ?いいども、またイジメでや
る〜。」
 濁声でヨダレを垂らしているグスタフを前にして、彼に辱められたアルがニヤリと笑う。
 「イジメられるのはあんたですの。」
 「あんだって?」
 「ホームランですのーっ!!」
 アルが叫ぶと同時に、グスタフは物凄い勢いで跳ね飛ばされた。
 「んがあぁ〜っ!?」
 グスタフの巨体が空中高く打ち上げられ、ステンドグラスを突き破って上空へと飛んで
行く。そして夜空にキラリと光るお星様になった。
 「ぐ、グスタフぅ?」
 余りにも突然の事で、手下達はグスタフの飛んで行った夜空を呆けた顔で見ている。
 「あんた達もお星様になるですの。」
 「おわっ!?」
 不意の声に手下達は振り返る。彼等のすぐ横には、ジャバラがついた超特大の遊戯用ハ
ンマー(俗に言うピコピコハンマー)を手にしたアルが立っている。
 グスタフはこのハンマーでブン殴られたのだ。
 「この、このっ、このーっ!!」
 ドカッ、バキッ、バコーンッ!!
 白くカワイイお尻を突き出してハンマーを振り回すアル。凄まじい音と共に、手下達は
次々夜空のお星様となった。
 「決まったですの。」
 余裕の表情でポーズを決めるアル。
 彼女が手にしている遊戯用(ピコピコ)ハンマーは、彼女が着ていたドレスが武器とし
て変化したものであった。
 しかし、単なる遊戯用ハンマーと侮るなかれ。
 形こそ超特大のピコピコハンマーだが、その実体は最強の破壊力を秘めたメガトンハン
マーなのだ。
 アルはリーリアから無双の怪力を授けられており、その怪力で振り回されるピコピコハ
ンマーの一撃は最強無比、如何なる敵おも粉砕する。
 瞬時にして(お星様)にされた仲間を見て驚愕する手下達の後ろから、ゴロゴロと言う
音が聞こえてきた。
 振り返った手下達が絶叫する。
 「ひいええ〜っ!?」
 直径2m程の巨大なボーリング玉が迫って来たのだ。その後ろにはボーリング玉を転が
すエルの姿があった。
 「ストライクですわ〜、ダブルですわ〜、ターキーですわ〜っ!!」
 嬉々とした声で玉を転がし、次々手下達を跳ね飛ばしていくエル。
 このボーリング玉も、アルのハンマー同様、エルのドレスが変化したものである。元は
軽いドレスだった物が、超重量のボーリング玉に変化しているのだ。彼女のドレスには質
量保存の法則など全く意味を成さない。
 ボーリング玉は逃げ回る手下達を跳ね飛し、前を走っている男を追い駆けた。
 「きひえ〜っ!!たあすけて〜っ!!」
 泣き叫びながら逃げているのは、エルを汚したネズミ男ラットだ。
 「あだっ。」
 足をもつらせて転倒したラットに、巨大なボーリング玉が迫る。そして彼の眼前でボー
リング玉は急停止した。
 「ひえ・・・あわ?た、たすかった?」
 戸惑うラットの前に、全裸で仁王立ちするエル。彼女のキレイな乳房がプルンと揺れて
いる。
 「よくも私をイジメてくれましたわ、ね?覚悟するですわネズミ男。」
 立ち塞がるエルに、ラットは土下座して懇願する。
 「わわ・・・す、すまねえっ!!お、おめえをイジメるつもりはなかったんだ、ボスに
命令されて仕方なくやったんだよ〜。ほ、本当だよ。だから許してくれっ、このとおりだ
っ!!」
 頭を床に擦り付けて平謝りするラット。だが・・・
 「いまさら謝っても遅いですわっ、おりゃ〜っ!!」
 問答無用の言葉と共に、アル同様の怪力でボーリング玉を持ち上げるエル。
 「のわーっ!!」
 絶叫するラットの頭上目掛け、数100kgのボーリング玉が落ちてくる。
 ズシ〜ンッ!!
 轟音と共に、ラットは床にめり込んだ。
 汚らしいネズミ男を粉砕したエルは、手の埃をパンパンと叩きながら呟く。
 「フン、思い知ったか、ですわ。」
 その眼には悪党に対する慈悲も情けも一切無かった。
 グスタフとラットの2人を倒したエルとアルは、ハンマーと巨大ボーリング玉を元のド
レスに戻して身にまとう。そしてミスティーアの傍らに戻った。
 「なンだよあいつら・・・」
 グスタフとラットを瞬時に倒したエルとアルを見て、顔面蒼白になっているガスターク
に、怒りの篭ったミスティーアの声が届く。
 「次はあなたの番よ、ガスターク。」
 ミスティーアはそう言うと、胸のエメラルドに手を当てた。すると、深緑のエメラルド
から長さ30cmの剣の柄が飛び出し、空中でクルクルと回転しながらミスティーアの手
に収まった。
 刃の無い、柄だけのそれを持って構えるミスティーア。
 「闇の力を我に・・・我が怒りを炎の刃に変えてっ!!」
 その声と共に、柄の先端から熱線の刃が出現した。
 ヴウウーン・・・
 周囲の空気を震わせ、ミスティーアの怒りを宿す炎の刃が紅き光を放った。
 彼女がリーリアから与えられた最大の能力は、炎を操る力(ファイヤースターター)の
能力だ。その能力は彼女の怒りに比例し、ミスティーアの怒りに触れた悪党は全て焼き尽
くされる運命にあるのだ。



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