魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀26
サン・ジェルマンの正体
ムーンライズ
一方、アルを伴って逃走していたミスティーアの前に、大勢の魔人兵士達が出現してい
た。
それを見たミスティーアが、背中の翼を収めてアルを床に下ろす。
「敵の数は多くないわ・・・突破しますわよっ。」
「はいですのっ。」
身構えた2人は、迫り来る魔人兵士達と対峙した。
敵の数はおよそ20名、この数なら楽勝だ。そう考えたミスティーアは、自身の周囲に
炎の壁を出現させる。
そして、アルを再び抱き抱えて魔人達目掛けて突進した。
「お退きなさーいっ!!」
しかし、狂暴な狼の咆哮が、恐怖となってミスティーア達の全身を貫いた。
「ヴァオオオーンッ!!」
凄まじい超音波の砲撃が、カウンターとなってミスティーア達を跳ね返したのだ。
「きゃあっ!?」
転げるミスティーア達。
間一髪ドレスのバリアーで身を守ったが、その心理的ダメージは大きかった。相手が恐
るべき強敵であったから。
「こ、この攻撃はゲルグッ!?」
アルを庇いながら立ちあがったミスティーアの視界に、不敵に笑う狼男の姿が映った。
「フッフッフッ、ここを突破できるとでも思ったか?もう逃げ場はないぞ。」
にじり寄るゲルグ。そしてミスティーア達の後ろからも魔人兵士達が迫って来る。
挟み撃ちにされてしまったのだ。
「グヘヘ〜。イジメテヤルゼ、カワイコチャン・・・」
陰湿に笑う魔人達を見たミスティーアとアルの顔から、見る見る血の気が引いて行く。
「ど、どうしよう・・・」
「囲まれたですの・・・」
先程はレシフェとエルもいてくれたから逃げれたが、今の状況では逃げる事すら叶わな
い。もはや万事休すであった。
そして2人にトドメをさすべくゲルグが進み出る。
「終わりだ、お祈りでもするがいいっ。」
凶悪な口がクワッと開かれ、超音波の砲撃が発射されんとした、その時である。
廊下の向こうから何者かが出現し、魔人達を蹴散らして突き進んで来た。
サソリの毒尾が舞い踊り、巨大な剣が敵を両断する。
「ミスティーアさーんっ、助けに来たアルよーっ!!」
その声は・・・天鳳姫であった。そして、彼女の横には青竜刀を振りかざしたリンリン
とランランの姿が・・・2人は生きていたのだ。
「リンリンさんにランランさんっ!?2人とも無事でしたのねっ。」
歓喜の声をあげるミスティーア。そして新手の参戦に驚いたゲルグが、一瞬の隙を見せ
た。
「奴ら一体・・・むっ!?」
「隙ありですわよっ!!」
ミスティーアの声と共に、ゲルグの身体が紅蓮の炎に包み込まれた。
「うおおおっ!?こ、小癪なあっ!!」
叫んだゲルグが炎の壁を薙ぎ払う。そのゲルグに今度は魔人の体がぶつかってきた。
「えい、えいっ、えいーっ、ですのっ!!」
アルがピコピコハンマーを振り回し、魔人兵士達を次々跳ね飛ばしているのだ。
突破口を開いたミスティーア達が、天鳳姫達の元へと走っていく。
「天鳳姫さーんっ!!」
駆け寄るミスティーアを抱きとめる美しき天女。そしてアルが2人の女キョンシーの胸
に飛びこんだ。
「リンリンさーんっ、ランランさーんっ。2人とも生きてたですのーっ。」
「心配かけちゃったね、アルちゃん。」
「アタイ達はそう簡単にクタバラないズラよ。」
そう言って、アルの頭を優しく撫でた。
そんな様子を笑って見た天鳳姫がミスティーアに向き直る。
「遅くなってゴメンのコトね、お師匠様も来てるアルよ。」
「えっ?黒竜翁様が?」
その声に視線を向けると、そこには魔界仙人の姿があった。
「間一髪じゃったのう、2人とも怪我はないか?」
「ええ、おかげさまで・・・でも、どーして黒竜翁様がここに?」
だが黒竜翁は質問に答えられなかった。
「今は説明している暇が無いわい。あの魔人どもを倒すのが先決じゃ。」
その言葉通り、態勢を取り戻した魔人兵士とゲルグが鋭い視線でミスティーア達を睨ん
でいるのだ。
「貴様等・・・魔族の手の者かっ。」
そして睨み返す黒竜翁。
「いかにも、お前達には魔戦姫と我が弟子が随分と世話になったようじゃのう、鼻たれ
小僧。」
魔界仙人は、ゲルグを小僧呼ばわりする。
「なんだとおっ!?誰が鼻たれ小僧だっ!!」
「フン、お前如きはわしの目から見れば鼻たれ同然よ。お前の所業の全て、一命をもっ
て償ってもらうぞっ!!」
「ほざけっ、ジジィがーっ!!」
吠えたゲルグの口から砲撃が発射される。それを黒竜翁は片手で受け止めた。
バシィンッ!!
超音波の衝撃が分散され、反動で魔人兵士達が吹っ飛ぶ。
転がる手下を見ながら、ゲルグはギリリと歯軋りを噛む。
「くそっ・・・やるな貴様・・・」
「その程度がお前の実力ではあるまい?本気でかかって来い、鼻たれ小僧がっ!!」
「舐めやがってっ。」
黒竜翁の兆発に乗るかに見えたゲルグ。しかし彼はその誘いには乗らなかった。
ニヤリと笑い、手下ともどもその場から動かない。その様子に黒竜翁は警戒した。
「むっ・・・あ奴ら、何を考えておるのじゃ。」
ゲルグ達が動かなかった訳は直ぐに判明した。
ヴオオオ・・・
突如地響きが発せられたかと思うと、凄まじい轟音が城全体を揺るがす。
ズドドドッと振動がミスティーア達を襲った。
「じ、地震アルよっ!?」
うろたえる天鳳姫。それを見てゲルグが高笑った。
「フハハッ、これは地震ではない、賢者の石が本格的に発動したのだっ。これで貴様ら
魔族に勝ち目は無くなったっ、我々の勝利だあっ!!」
ゲルグの言葉に偽りは無かった。振動と共に魔族の力を奪う波動がミスティーア達を襲
ったのだ。
「ぬううっ、こ、これはっ!?」
「力が・・・魔力が奪われますわっ。」
悲鳴を上げるミスティーア。魔法陣に捕らわれた時と同様の衝撃が全身を貫く。
ついに賢者の石が本格発動した証拠であった。
さすがの魔界仙人もガックリと膝をつく。
「お師匠様っ、大丈夫アルかっ!?」
駆け寄る愛弟子に抱えられ、ようやく立ちあがる黒竜翁。
「う、うむ・・・案ずるな、これしきで参るわしではない。」
だが、このままではゲルグ達に立ち向かうことは出来ない。
完全にゲルグ側の優勢となった。
「どーしたジジィッ、さっきの威勢はどうしたあっ、ワーッハッハッ!!」
そして魔人達が一斉に襲いかかって来た。
「キイイーッ、クタバレーッ!!」
身構えるミスティーア達・・・その時である。
「みんな伏せてっ!!」
ミスティーア達の後方から突如声が発せられ、その声を受けたミスティーア達が一斉に
床に伏せる。
「撃てーっ!!」
凄まじい機銃掃射が魔人兵士を薙ぎ倒す。武装したハルメイルの部下達がミスティーア
達を助けに来たのであった。
「大丈夫でありますかっ。」
駆け寄って来た部下達が、ミスティーア達の安否を気遣う。
「あ、ありがとう・・・助かったわっ。」
素早く後退するミスティーアや黒竜翁に、離れて行動しているサン・ジェルマンの状況
を説明する部下達。
「今、伯爵様が賢者の石を破壊するために地下へと向かわれています。ここは我等が食
い止めます故、早急に伯爵様の元へと御急ぎくださいっ。」
すると、ゲルグの攻勢を思慮した黒竜翁が部下達も後退するよう告げた。
「お前達を盾には出来ぬっ、わしらと一緒に来るのじゃ。」
だが、部下はその言葉を拒否する。
「私達は魔界の精鋭であります。魔人如きに遅れは取りません、ではっ。」
「待てっ!?命を粗末にするでないっ!!」
そんな黒竜翁の制止を振り切って魔人兵士達に特攻する部下達だった。
「うおおーっ、ここからは1歩も通さんぞっ!!」
「腐れ魔族どもがーっ!!叩き潰せーっ!!」
ゲルグの怒声が響き、突撃した魔族の兵士と魔人兵士達が激突する。
それは正に地獄の修羅場であった。一方的な猛攻に晒される部下達を、悲痛の想いで見
る黒竜翁。そしてミスティーア達。
「お、お前達・・・」
「黒竜翁様っ、彼等の気持ちをムダにはできません・・・行きましょうっ。」
もはや選択の余地は無かった。そして、悲しみを振り切って黒竜翁は走り出した。
「許せ・・・お前達の仇は必ず討つぞっ。」
地下へと向かう一同に、後退は許されなかった・・・
城での激戦が行なわれている頃、地下ではデスガッドが野望の最終段階に向けて動いて
いた。
賢者の石を操作するパネルに陣取り、矢継ぎ早に弟子達へ指示を出しているデスガッド
の心は、確かなる勝利への悦びに狂喜していた。
「ふははっ、いいぞ・・・全て私の思う通りに進んでいるっ。まもなくだ・・・まもな
く我が野望は成就するっ!!」
そんな彼の元に、弟子の1人が慌しく駆け寄って来た。
「ドクターッ。大変ですっ、地下室の入り口で何者かが魔人兵士達と交戦中。かなりの
強敵でありますっ!!」
血相を変えている弟子だったが、デスガッドは歯牙にもかけぬと言った表情でパネルを
見続けている。
「フン、魔族の雑魚に何をうろたえておるか。私は忙しいのだ、そんな奴はさっさと摘
み出せ。」
だが、オロオロしている弟子の一言が、彼を驚愕させた。
「そ、それが・・・その男は魔族ではありませんっ。我々と同じ・・・神力の使い手で
すっ!!」
「な、なにぃっ!?」
目を吊り上げて振り返るデスガッド。
「それは本当かっ。」
「は、はい・・・奴は我々の神力を無力化する能力を持っています。神力を無力化でき
るのは最高位神族のみ・・・奴の・・・奴の正体は・・・」
震える弟子の胸倉を掴み、デスガッドが激しく反論した。
「バカな事をっ!?その男は神族の幹部だとでも言うのかっ!!」
「しかし・・・そんな力を持つ者は他におりません・・・信じていただくしか・・・」
「なんと言う事だっ!!」
力無く答える弟子を放り出すと、デスガッドはパネルの操作を他の弟子に命じた。
「賢者の石の操作は任かせる、現状維持するのだっ。私は敵の正体を見届けてくるっ。」
そう言うなり、報告してきた弟子を伴って地下室から出て行く。その顔には戸惑いと焦
りが浮かんでいた。
弟子の言葉が正しければ、敵の正体が神族である事は明白だった。だが、神族の幹部が
魔族に手を貸すはずがない。
1人だけ例外を除いては・・・
「魔族に組している神族の幹部といえば・・・まさか奴はルシ・・・い、いやっ、そん
な事は絶対にありえんっ。だが、その男がそうなら・・・我が計画は全て水泡に帰してし
まうっ!!」
彼の脳裏には、ある1人の人物が浮かんでいた。かつて神界の最高幹部でありながら、
神王に背を向け、魔界へと身を投じたその男の名は・・・
だが、その男はとっくの昔に死んでいる筈だ・・・
デスガッドは疑惑を抱えたまま、敵の正体を見極めるべく足早に進んでいく・・・
そして疑惑の男は、地下室の入り口で単身魔人達と戦っていた。
英国紳士の装いに身を包んだその男は、片手にサーベルを持ち、魔人達と向き合ってい
る。
その優雅な装い、気品ある身のこなし。正に彼は紳士であった。高貴なる貴族であった。
彼の足元には数人の魔人が呻き声をあげて転がっており、いずれもサーベルの一閃で倒
されていた。
「どーした?次に死にたい者は前に出たまえ。」
彼は強い・・・魔人達など足元にも及ばない。
男は余裕の表情で笑みを浮べているが、それでいて何者も近寄らせぬ気迫で魔人達を威
圧している。
男の涼やかな瞳の奥から、戦士としての闘気が漲っており、その瞳で睨まれた魔人達は、
大蛇に睨まれたカエルの様に尻すごみしていた。
「あわわ・・・あいつはバケモノか・・・」
怯える魔人達を見ていたその(紳士)は、無人の野を行くが如く、地下室へと歩み始め
る。
「退け、君達と遊んでいる暇は無い。」
そう言い放って歩み来る(紳士)。だが魔人達もここを退く訳にはいかなかった。
「やろう・・・なめンじゃねえーっ!!」
3人同時に襲いかかる魔人達。その瞬間、一筋の閃光が煌いた。
呆然とした顔で立ち竦む魔人達。そして何事も無かったかのように通り過ぎる(紳士)。
「てめえっ・・・え?え、え、えぇ〜」
魔人達の胴体がずれ、声も上げれぬままバラバラになった。サーベルの一閃で切り裂か
れていたのだ。
そしてサーベルの血糊を払い落とした(紳士)は、閉ざされた扉の向こうにいる者へ声
をかけた。
「そんな所で隠れていないで、さっさと出てきたらどうだ、ドクター・デスガッド。」
その声に答えるかのように扉が開かれ、険しい顔のデスガッドが姿を見せた。
「フッ、御見通しか・・・さすがだな、気配だけで私と見破るとは・・・」
対峙するデスガッドと(紳士)ことサン・ジェルマン・・・
彼等は一目見ただけで互いの素性を理解していた。最初に口を開いたのはサン・ジェル
マンだった。
「私の名は魔界伯爵サン・ジェルマン。君の事は・・・御同輩と言っておこうか?」
彼は・・・デスガッドを仲間だと言った。
「御同輩か・・・やはり貴様は神族だったか。」
「元を上につけて欲しいけどね。」
その言葉に、デスガッドは強く反応する。彼は自身の疑惑が確信となった事を理解した
のだ。
「そうだったか・・・ははは・・・まさか生きていたとはなっ、神界の背任者・・・堕
天使のルシファー!!」
デスガッドが口にしたその名は・・・神を裏切り、悪魔と成り果てた天使の名であった。
そして、それが・・・魔界伯爵サン・ジェルマンの真の姿なのだ。
神と全面戦争し、絶対的な敗北と共に地獄に堕ちたとされている史上最悪の裏切り者、
悪の権化たる堕天使ルシファー・・・
だが真相は、人間を蔑ろにした神王に絶望したルシファーは神王に背を向け、真に人間
を守ろうとしている闇の魔王の配下に加わっていたのだ。
全ては・・・神王の横暴な行為から人間と魔族を守らんがため、であった。
そしてデスガッドは、忌々しそうにサン・ジェルマンを見据えた。
「魔界伯爵サン・ジェルマンだと?ふざけた名前だ。闇の魔王に媚びを売り、名を変え、
素性を偽って生き延びていたか・・・ルシファー、裏切り者の貴様がやりそうな事だ。」
デスガッドの言葉に異を唱えるサン・ジェルマン。
「勘違いしないでくれたまえ、魔王様は私の全てを受け入れてくださったのだ。今の私
は神族のルシファーではない、魔族のサン・ジェルマンさ。君のようなクズに、媚びるだ
の裏切り者だのと言われる筋合いは無い。」
クズ呼ばわりされたデスガッドが怒りを露にした。
「誰がクズだとっ!?」
「野望の為に人間をゴミのように扱った君をクズと呼ばずして何と言うのだ?その汚れ
た野望から罪無き者を守るために、私は来たのだ。」
サン・ジェルマンが手袋をデスガッドに投げ付ける。それは紳士の挑戦状であった。
「デスガッド、君に決闘を申し込む。一対一の勝負だっ。」
「面白い、受けて立つぞルシファーッ!!」
サン・ジェルマン対デスガッド・・・神族同士の戦いである。その決闘方法とは・・・
2人は懐から同時に握りこぶし大の宝石を取り出し、相手に突きつけた。それは神族の
みが所有するアイテム、賢者の石である。
青白いデスガッドの賢者の石と、高貴なる深紫色の光りを放つサン・ジェルマンの賢者
の石。
神族同士の戦いは、自身の能力を賢者の石に集中させ、相手にぶつけるものだ。故に、
能力の高い方が勝利する。
青白い光と深紫の光が激突した。電撃が飛び散り、雷鳴が辺りをつんざく。
「ぬうあぁーっ!!」
石に精神力を込め、サン・ジェルマンを攻撃する。だが、その攻撃は深紫の光によって
無力化された。
優位に立つサン・ジェルマンがデスガッドを睨む。
「ムダだ、神界の幹部だった私の能力は君も理解しているだろう。どんな神力も私の前
では無力。」
「くっ・・・」
悔しそうに唇を噛むデスガッドの元に、弟子が駆け寄ってくる。
「ドクターッ、我等も加勢致しますっ!!」
だが、弟子達の加勢を声を荒げて制するデスガッド。
「余計な手出しは無用だっ、下がっておれっ!!」
「は、はい・・・」
デスガッドの声に、弟子達はスゴスゴと後退する。
向き直るデスガッドは、再びサン・ジェルマンに神力を叩きつける。劣勢とはいえ、世
界征服の野望に燃えるデスガッドの力は侮れなかった。
神力を全て無効化されないように、攻撃を分散させるデスガッド。青白い雷撃がサン・
ジェルマンの四方八方から襲いかかる。
「くっ!?考えたな・・・」
凄まじい雷撃に、今度はサン・ジェルマンが防戦にまわった。
四方から攻めてくる雷撃を無効化せねばならないため、攻撃ができないのだ。
戦いは拮抗している。デスガッドは口元を歪めて笑った。
「私の力を甘く見らん事だっ。ルシファーよ、魔族と遊んでいて腕が鈍ったか?」
「それはこっちのセリフだ、この程度で勝った気になっては困る。」
サン・ジェルマンがそう言った時である。
「伯爵さまーっ!!」
サン・ジェルマンの後ろからミスティーアの声が響き、黒竜翁達が駆け寄って来た。
賢者の石をかざしたまま視線を後ろに向けるサン・ジェルマン。
「やあ、みんな。来てくれたんだね。」
笑みを浮べるサン・ジェルマンが手にしている宝石を見たミスティーアが、驚愕の声を
上げる。
「伯爵様・・・それは、まさか・・・賢者の石!?」
デスガッドと同じアイテムを持つ魔界伯爵の姿を見て、彼の正体を察するミスティーア、
そして天鳳姫・・・
「伯爵様は・・・神族・・・」
呆然とする彼女達だったが、デスガッドの猛攻に晒されているサン・ジェルマンを見て、
素早く助勢に加わる。
「伯爵様っ、私達も助力いたしますわっ。」
前に出たミスティーアと天鳳姫が、デスガッドと弟子を睨む。
対峙する弟子達が負けじと吠えた。
「小娘どもがっ、切り刻んでやるっ!!」
弟子達が、ヒトデ魔人やサイ魔人と同格の戦闘魔人へと変身を始める。彼等が変身すれ
ば厄介だ。
変貌する弟子達を見て、ミスティーアと天鳳姫は肩を寄せ合って身構えた。
「ミスティーアさんっ、奴等が変身する前にカタをつけるアルよっ!!」
「了解ですわっ、あの技でいきましょうっ。」
2人は同時に両手を前に出した。
「はああ・・・」
2人の全身に強力な(気)が漲る。それを臨界点にまで高め、手の先に集中させた。
「魔戦姫合体技、獄炎気功烈波っ!!」
叫んだ2人の(気)が融合し、爆炎と気功の合体した波動が炸裂した。そして、凄まじ
い業火の砲撃が変身途中の弟子達をブチ抜いたっ!!
「うぎゃああーっ!!」
砲撃の直撃を浴びた弟子達が、跡形も無く消滅する。
「お、お前達っ!?」
一瞬で倒された弟子達を見て驚愕するデスガッド。彼の力が僅かに緩んだ。それをサン・
ジェルマンは見逃さなかった。
「これで最後だっ、薄汚れた野望と共に、消え失せろデスガッドッ!!」
深紫の雷撃がデスガッドを直撃した。怒涛の轟撃によって床が粉々に砕け散る。
ズドドドッ!!
「ぬうわああーっ!!」
デスガッドを中心に床が陥没し、轟音がデスガッドの絶叫を飲み込む。
立ち上る爆煙・・・
轟音は速やかに収まり、やがて静寂が辺りを覆う。
皆の視線は静寂なる場所に釘付けになる。そこには床にポッカリと開いた孔があるのみ
だ。
「やっつけた・・・ですの?」
静寂を破ったのはミスティーアの声だった。彼女の声がこだまの様に辺りに響いた。
皆が一斉に孔の中を覗く。階下の地下室は瓦礫で埋まっており、デスガッドはその中に
埋もれている様子だ。
次に口を開いたのはサン・ジェルマンであった。
「いくらデスガッドでも生きているまい。早く地下の最深部に急ごう。」
今はデスガッドの生死を確認している暇は無い。一同は諸悪の元凶たる地下の最深部に
向かった。
地下の階段を降りながら、ミスティーアと天鳳姫はサン・ジェルマンの後姿に視線を向
けていた。
サン・ジェルマンは神族・・・
それはミスティーア達にとって余りにも衝撃的な事実であったが、黒竜翁はただ静かに
サン・ジェルマンを見つめている。
彼は知っていたのだ、魔界伯爵の正体を・・・
それを裏付けるかのように、黒竜翁は口を開いた。
「ミスティーア達に知られてしもうたのう、伯爵殿。」
「ええ、彼女等には知られたくなかったんですがね。」
そんな会話を交わす2人に、天鳳姫が声をかけた。
「お師匠様は知ってたアルかっ!?」
「うむ、この事を知っておるのは魔王様とリーリア、そしてわしとハル坊だけじゃ。」
「そうだったんですか・・・」
「しょーげきの事実ですの。」
ミスティーアとアルも頷いている。
先頭を行くサン・ジェルマンに追いついたミスティーアが、彼の顔を見つめた。
「伯爵様・・・」
「ん、どーかしたの?私の顔に何かついてるかい。」
いつもの優しい笑顔で答えるサン・ジェルマン。
「あ・・・いえ、なんでもありませんわ。」
ホッとした表情で微笑を返すミスティーア。それは天鳳姫とアルも同様だった。
魔族の宿敵である神族・・・サン・ジェルマンの正体を知ったミスティーア達だったが、
魔界伯爵への敬意はいささかも揺るがなかった。
神族も魔族も関係ない。遊び人で女好きの三枚目。それでいて、いつも優しく彼女達を
見守ってくれるサン・ジェルマンこそが、彼女達の知る真実の姿だから・・・
そして、ミスティーア達が去って行った後・・・沈黙していた瓦礫の山が、僅かに動い
た。
まるで痙攣するかのように振動した瓦礫の中から・・・それは邪悪に蠢きながら出現し
た。
現れたのはイカの触手だった。灰褐色でヌメヌメした触手は、辺りの瓦礫を押し退けて
次々出現してくる。
「ぐううう・・・」
呻き声が響き、瓦礫の山が凄まじい勢いで爆ぜた。現れたそれは・・・悪魔の狂獣、ク
ラーケン。
「ぬううう・・・ゆ、ゆるさん・・・おのれ、ゆるさんぞ・・・魔戦姫・・・ルシファ
ー・・・貴様等全員、生かしてはおかぬっ!!」
呪詛の如き呻き声が怪物から漏れる。
怨念と憤怒に燃えたぎる噴煙を吹き上げ、怪物に変身したデスガッドは立ち上がった。
彼は死んでいなかった。その執念深い精神は、地獄の悪鬼をも震えあがらせるほどであ
った。
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