魔戦姫伝説(ミスティーア・炎の魔戦姫)第2話.伏魔殿の陰謀22


   魔戦姫の大反撃!!   
ムーンライズ

 ホールに出現した黒い光を遠巻きにして見ていた魔人達は、消え行く光の中から、美し
きドレスをまとった姫君が出現するのを目撃した。
 「なんだ、あいつらは・・・」
 魔人達は、その姫君の正体が先程まで強姦していた娘である事を理解するのに時間を有
した。
 無理もないだろう。その姿が、余りにも美しすぎたから・・・
 「あれは、さっきの小娘どもかっ!?」
 驚く魔人達を、怒りの篭った眼で見据える魔戦姫達。
 「反撃開始ですわよ・・・覚悟なさい魔人どもっ!!」
 困惑していた魔人達だったが、やがて敵意を剥き出しにして身構えた。
 「へっ、さっきまで俺達にイジメられてたクセによ・・・もう一度イジメてほしいかっ。
」
 いきり立つ魔人達を押し退け、雪男が前に進み出た。
 「ウッホ〜ッ!!これでも食らえ〜っ!!」
 強烈なコールドブレスの猛撃を吐き出す。だが、渾身の一撃は魔力のバリアーで跳ね返
された。 
 「どぅわあっ!?」
 分散したコールドブレスの冷気が他の魔人を直撃し、何人かが凍り漬けになった。
 「ウホッ?どー言うことだぁ?」
 うろたえる雪男の前に、2つの人影が踊り出る。雪男にイジメられていたエルとアルだ
った。
 「「変態ゴリラ・・・よくも私達をイジメてくれましたわ、の。今度は私達があんたを
イジメる番ですわ、のっ!!」」
 全く同じ口調で叫んだ2人は、ドレスを脱いで身構える。そして一糸まとわぬ姿の2人
が手に持ったドレスを一体化させた。
 「「戦闘ドレス、超合体ですわ、のっ!!」」
 その声と共に、2つのドレスが1つの武器に変貌を遂げた。
 長い柄の先に巨大な六角柱の鋼鉄を有するその武器は、エルの鉄球とアルのピコピコハ
ンマーを合体させた戦槌(ウォーハンマー)であった。
 一卵性双生児である2人の精神が完全一致する事により出現する超兵器なのだ。その威
力は個体での戦闘ドレスの能力を遥かに上回る。
 そしてエルとアルは力を合わせ、巨大なウォーハンマーを振り回した。
 「「でえーいっ!!」」
 突風を巻上げて大回転するウォーハンマーが、凍り漬けになっている魔人を次々粉砕し
た。
 木っ端微塵になった魔人を見て唖然とする雪男を、エルとアルが手招きする。
 「「さあ、かかってらっしゃい、ですわ、の。」」
 余裕の表情を浮べる2人に挑発され、雪男は頭から湯気を立てて激怒する。
 「ウホホ〜ッ!!ブッ潰してやるのだ〜っ!!」
 両腕を振り回して突進する雪男を迎え討つエルとアル。
 「「お星様になるですわ、のっ!!」」
 ドコオオーンッ!!
 凄まじい轟音と共に、毛むくじゃらの巨体が壁を突き破り、遠く離れた山脈の果てまで
飛んで行く。
 「ウホ〜ッ!?やられちゃったのね〜ん・・・」
 雪男の情けない悲鳴が、こだまの様に空へと消えて行った。
 「「フン、地球一周してらっしゃい、ですわ、の。」」
 変態雪男を撃破した2人は、速やかにウォーハンマーをドレスに変化させ、ミスティー
アの傍らに戻って行った。
 速攻で雪男を倒したエルとアルを見た電撃魔人の兄は、魔戦姫達が魔力を完全に取り戻
している事に気がついた。
 「そうか・・・あの黒い光で魔力を復活させやがったか・・・」
 鋭い視線で睨む電撃魔人の前に、彼等に拷問されていたレシフェが歩み寄る。
 「そうですわ、魔力が復活した今、お前達サドトカゲなど敵ではありませんわよ。拷問
された痛み、100倍にして返してあげるっ!!」
 拳を固め、戦闘態勢に入るレシフェ。そして電気ムチを振り回して襲いかかる電撃魔人
兄弟。
 「このクソあまーっ!!」
 鋭い電気ムチが両サイドから飛んで来る。だがレシフェは少しも怯まず交わした。
 勢い余ってレシフェに突進する電撃魔人兄弟の顔面に、カウンターパンチが炸裂する。
 「はあっ、たあーっ!!」
 「ぐおっ!?」
 「ゲヒャッ!!」
 血反吐を吐きながら吹っ飛ぶ兄弟のうち、兄の方を肩のリボンで絡めとるレシフェ。
 リボンでグルグル巻きにされた電撃魔人の兄が床に倒れる。
 「うがあっ!?く、くそっ、動けねえ・・・」
 ジタバタ足掻く電撃魔人だったが、強靭なリボンから逃れる事はできなかった。そんな
電撃魔人に歩み寄るレシフェ。
 「どう、自由を奪われた気分は?お前は縛り技が得意でしたわね、私の縛り技は如何か
しら。」
 「こ、この・・・うああっ!?」
 もがく電撃魔人の身体に、鋭い刃と化したリボンが食い込んで行く。
 「がああっ、うぎゃああーっ!!」
 血飛沫が飛び、電撃魔人の兄は奴裂きになった。
 「ああっ、兄貴ーっ!!」
 バラバラになった兄を見て絶叫する弟。
 「テメエ〜ッ!!よくも兄貴をーっ!!」
 激しく逆上した弟が、叫び声を上げてレシフェに襲いかかった。
 「フッ、バカ兄貴と一緒にあの世へ行きなさいっ。」
 その瞬間、2本のリボンがクロス状に弟の身体を切り裂いた。
 「ギィエエエーッ!!」
 兄同様、バラバラになった弟の身体が宙に舞う。
 電撃魔人兄弟は、レシフェの恐ろしさを自身の身体で思い知る事となったのだ。
 「私を怒らせたらどうなるか、これでわかったでしょう。」
 そしてリボンについた血糊を払うと、他の魔人達に向き直った。
 「さあ、次にバラバラになりたい奴、前に出なさい。」
 鋭い視線を向けるレシフェに、想わずたじろぐ魔人達。
 「あわわ・・・サド兄弟もやられたぞっ。」
 後退する魔人達に、今度はミスティーアが迫る。
 「逃がしはしませんわっ!!」
 ミスティーアの炎の剣が炸裂し、魔人達は火ダルマになって四散する。
 強く、美しい魔戦姫によって次々倒される魔人達。その戦う姿を、ホールの隅でガタガ
タ震えながら見ている者がいる。
 国王モルレムと看守の2人だ。
 「ひえ〜っ、陛下〜。あ、あ、あいつ等は何者でしょうか〜?」
 「ぼ、ぼ、僕はしらな〜い、全然しらな〜い。」
 抱き合って怯えている2人に、魔戦姫に追い詰められた魔人達が走り寄ってくる。
 「ハアハア・・・よう、国王様。あんたには人質になってもらうぜ。」
 攻撃の余地を無くした魔人達は、モルレムを盾にする事を思い付いたのだった。
 「のおっ、ちょっと・・・人質だなんてやだ〜っ。」
 「ひえーい、俺は関係ないよ〜。」
 泣き喚くモルレムと看守、そしてセカンドチームを人質にして、魔戦姫に楯突く魔人達。
 「やい、小娘どもっ。それ以上近寄るんじゃねーぞっ。1歩でも来て見やがれ、こいつ
等の命は無いと思えっ!!」
 「くっ・・・卑怯なっ。」
 人質を取られ、ミスティーアは悔しそうに唇を噛んだ。
 だが、人質にされているセカンドチーム達は虜囚の辱めを良しとせず、毅然とした態度
でミスティーアに声をかける。
 「ミィさんっ、俺達の事は構わずにこいつ等をやっつけてくれっ。これでボビーの仇が
取れるなら本望だっ。」
 ボビーが死んでしまったと思いこんでいるセカンドチーム達は、自身の命と引き換えに
魔人どもを倒そうとしているのだ。
 その潔さに、思わず心打たれるミスティーアだった。
 「みなさん・・・あなた達は必ず助けますわっ。」
 そう呟くと、卑劣な魔人達に鋭い視線を投げかけた。
 「卑怯な魔人達、モルレム国王はともかく・・・ボビーさんの同僚方に手出しをしたら
承知しませんわよっ!?」
 ミスティーアの言葉に目を点にするモルレム。
 「おいコラッ。僕はともかくって、どー言う意味だよぉ!?」
 そんなモルレムの泣言など、ミスティーアには通じなかった。
 「あなたよりもボビーさんの同僚方を助けるのが先ですわ、御安心なさって、あなたは
後で助けて差し上げますから、後でね。」
 ミスティーアの言葉を聞いた看守が、呆れた顔でモルレムに話しかける。
 「陛下、あなたって人望が全く無いのですねぇ。」
 「ほっといてくれ〜。」
 すっかりスネているモルレムだった。
 そしてミスティーアは、炎の剣を片手に魔人達ににじり寄る。
 「さあ、人質を解放しなさい・・・さもなければ・・・」
 その気迫に思わず逃げ腰になる魔人達。だが人質がある以上、こちらが有利だと魔人達
は考えている。
 「へへ、さもなければ何だよ。やってみろや、こいつ等がどーなってもいいのならよ。」
 強がる魔人達に、ミスティーアはためらっている。そんな彼女の横から、腕に毒針を仕
込んだ天鳳姫が歩み寄って来た。
 「ミスティーアさん、ここはワタシに任せるネ。」
 そして両腕を魔人達に向ける。
 「待って、あなたは目が見えないのでは・・・」
 だが、ミスティーアの懸念はすぐに払われる事になる。天鳳姫の両腕から発射された毒
針爆射が、魔人達へ正確に撃ち込まれたのだ。
 「うわっ!?」
 「ぐえっ!!」
 悲鳴を上げて次々倒れる魔人達。猛毒の針が彼等を速やかに沈黙させた。
 これにより、ホール内に残っている魔人達は一掃されたのであった。
 そして人質から解放されたセカンドチーム達は、安堵の声をあげて喜んだ。
 「た、たすかった〜。どうなるかと思ったよ・・・」
 死を覚悟していただけに、その安心感は大きい。そして視力を回復させている天鳳姫に、
ミスティーアは喜びながら歩み寄った。
 「天鳳姫さん、目が見える様になったのですかっ。」
 「ちゃんと見えるのコトね、もう心配ないアルよ。」
 「よかった・・・」
 魔王の魔力が天鳳姫の視力を回復させていたのだ。
 喜んでいるミスティーアに、天鳳姫は人質の安全確保を告げる。
 「ボビーさんの同僚を助けるのが先決アルよ。早く行くよろし。」
 「わかりましたわ。」
 促されたミスティーアは、セカンドチームの傍らに近寄った。そしてエルとアルも伴っ
て彼等のケガを治療する。
 「もう大丈夫ですわよ、安心なさって。」
 「お薬塗ってあげますわ。」
 「包帯巻いてあげますの。」
 甲斐甲斐しく治療してもらうセカンドチームのメンバー。魔人達から受けた暴行の傷も、
速やかに治って行くのであった。
 「ありがとう、ミィさん・・・ボビーもあの世で喜んでると思うよ・・・」
 「ああ、全くだ。」
 そう言うセカンドチーム達に、ミスティーアは微笑を投げかける。
 「ボビーさんなら生きてますわ。」
 「えっ!?ボビーが・・・生きてるって!?」
 「ええ、彼は私達を救ってくださいました。今は安全な場所にいますわよ。」
 ボビーが生きている事を知って、歓喜の声をあげる同僚達。
 「今あいつは何処にっ?安全な場所って・・・」
 「ええっと・・・ボビーさんはその・・・」
 ボビーの安否を尋ねられたミスティーアは、魔界の事を話すわけにもいかず、思案にく
れた。
 しかも彼等を早急に脱出させねばならない。思案している暇などないのだ。
 「すみません、今はボビーさんの事を話している暇はありませんの、新手の魔人達が直
に攻めて来ますわ。」
 ミスティーアの言葉に、息を飲むセカンドチーム。
 「じゃあ、すぐに逃げないと・・・」
 「ええ、ここは私達の指示に従ってもらえますか?」
 「わかった、そうするよ。」
 非常事態であるため、迷わずミスティーアの指示を受け入れるセカンドチーム達。
 そしてミスティーアは、ボビーの時のように魔界ゲートを使ってセカンドチーム達を魔
界に送ろうと考えた。
 だが、先ほどは魔王の魔力があって魔界ゲートを開く事ができたのだが、賢者の石が発
動している今はそれができない。
 しかも魔界ゲートを使って彼等を魔界に避難させる時間の余裕もない。
 ミスティーアは、彼等を安全な場所まで誘導する事を余儀なくされた。
 「では、あなた達を安全な場所まで誘導しますから、ついて来て下さい。」
 「ああ、了解した。」
 セカンドチーム全員と看守を1箇所に集める。
 だが・・・肝心の人物がそこにはいなかった。モルレムの姿がないのだ。
 「あの、モルレム国王は?」
 モルレムの傍にいた看守に尋ねる。しかし彼は首を横に振った。
 「スミマセン、国王陛下はさっきから御姿が見えなくなりました・・・」
 オロオロしながら返答する看守。何処を見渡しても、モルレムの姿が無い。
 「あのアホ国王・・・一体何処へ行ったのっ!!」
 苛立ったレシフェが声を上げる。しかしモルレムの事を案じている暇も無い。
 「仕方ないアルよ、ここにいる全員を連れて逃げるのコトね。」
 天鳳姫の言葉に一同は賛同する。ホールからセカンドチーム全員と看守を連れて脱出し
た。
 だが・・・モルレムの存在を放置した事が魔戦姫達を再度ピンチに招く事になるとは、
今の魔戦姫達は考えもしない事だった・・・
 
 同時刻、スノウホワイトを救出したリーリアは、負傷したハルメイルと、デスガッドの
責苦で体力を失っているスノウホワイトの治療を行なうために、デスガッドの自室を離れ、
別の部屋に潜入していた。
 魔王の要請でバーゼクスに赴いている黒竜翁とサン・ジェルマンは、地下にある賢者の
石を破壊するべく準備をしている。
 ハルメイルの部下に指示を出していたサン・ジェルマンは、部屋に残る事となったリー
リア達に向き直って声をかけた。
 「それじゃあ、ハル坊とスノウホワイトの事は頼んだよ。」
 サン・ジェルマンの言葉に、リーリアは頷く。
 「ええ、お任せください。それと・・・魔戦姫達の救出も宜しく願いますわ。」
 その言葉に、黒竜翁が応答する。
 「それは心配要らぬぞ、このわしが必ず助けてやるからの。それと・・・ハル坊や、も
う無茶はするでないぞ。余計な事は考えずに怪我の治療に専念するのじゃ、よいな?」
 腕白坊主を諌めるような黒竜翁の言葉に、少しだけ怪訝な顔をするハルメイル。
 「もうジッちゃん、オイラは大丈夫だってば。こんなキズぐらい唾つけとけばすぐに直
るって・・・イテテッ。」
 強がるハルメイルを慌てて制するリーリア。
 「動いてはいけませんわっ。傷口が開きますわよ、じっとなさって。」
 「わかったよ、大人しくする。」
 渋々リーリアの治療を受けてはいるが、ハルメイルの性格からして、このまま大人しく
しているとは考えられない。
 正義感の強い彼は、時として破天荒な行動を起こす事も多いのである。
 そんな彼を心配しながらも、サン・ジェルマンと黒竜翁、そしてハルメイルの部下達は
部屋を出て行く。
 廊下に出た黒竜翁は、部屋を警護する役目を担ったジャガー神に声をかける。
 「わし等がいない間、何があってもリーリア達を守りぬくのじゃぞ。」
 「了解ですニャ。」
 そして部屋を守るジャガー神を後にしたサン・ジェルマンと黒竜翁は、2手にわかれて
階下へ向かって行った。
 そして部屋では、リーリアとアルカがスノウホワイトの治療に専念している。
 シーツに包まれた状態で床に横たわるスノウホワイトは、酷い肉体的苦痛に苛まれてい
た。
 凄惨な責苦に晒されていたスノウホワイトの体力は、消耗が著しく、スノウホワイトの
額に手を当てているアルカが深刻な顔でリーリアに向き直った。
 「酷い熱ですわ・・・早く魔界へ御連れして治療を受けて頂かないと、御命にも関わる
かもしれません。」
 その声に、リーリアも頷いた。
 「ええ、魔界ゲートが使えたらいいのですが・・・今は私達がなんとか治療するしかな
いでしょう。」
 彼女もアルカも治療魔法を使う事ができるが、今のスノウホワイトを治療するには困難
を極めていた。
 先ほどリーリア達がバーゼクスに来た時は、スノウホワイトの機転で何とかこれたのだ
が、魔界ゲートが再び、賢者の石の波動で閉じてしまったため、魔界に帰る事ができなく
なっているのだ。
 デスガッドは魔血を採取する目的で、スノウホワイトの胸に鉄の針を突き刺していたた
め、スノウホワイトの身体から大量の魔血が奪われていた。一刻も早く魔界で輸血をしな
ければならないのだが、今はそれもできない。
 辛い表情のリーリアは、スノウホワイトの胸の傷を治しながら突き刺さっていた針を手
に持った。
 「こんな物を突き刺してたなんて・・・体力が消耗する筈ですわ。」
 だが、スノウホワイトを苦しめているのは肉体的苦痛だけではなかった。
 不意に、スノウホワイトは微かな声でハルメイルを呼び始めた。
 「ハアハア・・・ハル、ハルメイルさ、ま・・・ハアハア・・・」
 その声を聞いたハルメイルが、すぐさまスノウホワイトの傍らに座って手を握る。
 「安心して、オイラならここにいるよ。」
 優しく手を握られたスノウホワイトは、もう片方の手を下半身に当て、何かしきりに呟
いた。
 「ハルメイルさま・・・わたしは・・・デスガッドに・・・」
 「えっ?何が言いたいの。」
 口元に耳を近づけるハルメイル。そしてスノウホワイトの悲痛な表情を見たリーリアと
アルカは、女の直感で事の次第を把握した。
 「まさか・・・あの子はデスガッドの・・・」
 スノウホワイトはデスガッドから辱めを受けていた。その苦痛だけでも深刻なのだが、
それ以上の凄惨な事実を抱えているのであった。
 そして・・・それはスノウホワイトの口から直に語られる事となった。
 「ハアハア・・・わ、私は・・・デスガッドに酷い辱めを・・・受けました・・・でも、
それだけではないのです・・・あの男は・・・自分の後継者を私に宿すのだと言って・・・
わたしの・・・ううっ。」
 涙を流して悲痛な事実を語るスノウホワイト。
 「そ、そんな・・・なんて事をっ!!」
 彼女は、おぞましい魔人の子供を孕まされていたのである・・・
 その衝撃の事実に、ハルメイルは激しい怒りを露にした。
 「デスガッドめっ・・・よくも、よくもっ!!」
 全身を震わせ、拳を握り締めるハルメイルの肩に、リーリアはそっと手を置いた。
 「御気持ちはわかりますが・・・今は怒りをお静め下さい。怒りに任せて行動すれば、
それこそデスガッドの思うツボですわ。」
 「でもっ、スノウホワイトをこんな目に遭わされて、黙ってなんかいられないよっ!!」
 興奮するハルメイルを、静かな口調で制するリーリア。
 「悔しいのは私やアルカも・・・いえ、みな同じ気持ちですのよ。」
 怒りを堪えているリーリアの気持ちを察したハルメイルは、気持ちを押さえてリーリア
を見た。
 「そうだったね・・・リリちゃんも悔しいンだ・・・でも、どうやったらスノウホワイ
トを助けられるんだ?どうしたら・・・」
 その問いに答えるリーリア。
 「女の苦しみは、女でなければ癒せない事もあります。大丈夫ですわ、彼女は私達が何
とか致しましょう。」
 「えっ?一体どうやって?」
 「それは・・・殿方にお話できる事ではありません。申し訳ありませんが、スノウホワ
イトの手を握っていてもらえませんか。」
 「う、うん。」
 心配ながらも、ハルメイルはリーリアに全てを任せる事にした。
 そしてリーリアは、スノウホワイトの下半身を覆うシーツを捲り上げ、秘部にそっと手
を置いてスノウホワイトに話しかける。
 「少し痛くなりますが・・・堪えるのですよ。」
 その言葉にコクンと頷くスノウホワイト。
 「アルカ、あなたの魔力をスノウホワイトの中に送りなさい。」
 「はい。」
 その指示に従って、アルカはスノウホワイトの下腹部に手を置いた。
 その下腹部から・・・異様な気配が漂ってくる。
 「こ、これは・・・リーリア様っ、スノウホワイト様の中に、とても邪悪な存在が蠢い
ていますわっ。」
 「恐らく、デスガッドが植え付けた魔人の胎児でしょう。手遅れになる前に、それを摘
出するのです。」
 リーリアの顔が険しくなる。そして邪悪な存在を取り出すべく、秘部の中に指を挿し込
んだ。
 「うっ・・・」
 スノウホワイトの身体がピクンと痙攣をする。リーリアは膣内へゆっくりと指を挿入さ
せ、中を探る。
 「もっと魔力を送りなさい。魔人の胎児を外に燻り出すのです。」
 「わかりましたわ。」
 その指示を受け、更に魔力を送りこむアルカ。それによって、魔人の胎児が中で激しく
暴れ始める。
 その激痛がスノウホワイトを苦しめた。
 「うああっ!?痛いっ・・・あうっ!!」
 苦悶の声を上げて苦しむスノウホワイトを、ハルメイルは強く抱きしめた。
 「大丈夫だよっ、オイラがついてるっ。」
 「ハルメイルさ・・・うああっ!!」
 部屋を守っていたジャガー神が、その悲鳴を聞いて部屋に飛び込んで来た。
 「ど、どーしたのニャッ!?」
 「入ってくるなトラの助っ!!あっちに行ってろっ!!」
 「は、はいニャ。」
 ハルメイルに怒鳴られて、慌てて外に戻るジャガー神。
 そしてハルメイルは、悪戦苦闘するリーリアとアルカに視線を向ける。
 「もう少しですわっ、もっと魔力を送って!!」
 「わかりましたっ。さあ、早く出て行きなさいバケモノめっ!!」
 やがて、アルカの魔力に燻り出された魔人の胎児が膣外へと逃げ出し、リーリアがそれ
を指で捕えた。
 「捕まえましたわっ。」
 魔人の胎児を捕えたリーリアは、速やかにそれを外へと引き摺り出す。
 それは・・・キィキィと鳴きながら蠢くそれは・・・口では形容し難いほどに凶悪で、
醜悪な(バケモノ)であった。
 人とも動物ともつかない(バケモノ)を指で摘みながら、リーリアは鋭い視線をそれに
向けた。
 「スノウホワイトを苦しめてくれましたわね・・・消え失せなさいっ!!」
 リーリアが一喝すると、(バケモノ)の身体が紅蓮の炎で包まれた。
 「ギィッ!?ギイイイ・・・ギィィィッ。」
 断末魔の悲鳴を上げながら、跡形もなく燃え尽きる(バケモノ)。
 それを見て、リーリアとアルカは安堵の溜息をつく。
 「ふう・・・危ないところでしたわ・・・あのバケモノが産まれていたら、取り返しが
つかなくなっていました・・・」
 そのリーリアに、ハルメイルが心配そうに尋ねた。
 「終わったの?リリちゃん。」
 「ええ、終わりましたわ。」
 微笑むリーリアの額の汗を、アルカはハンカチで拭った。
 安堵の喜びを浮べているのはリーリアだけではなかった。苦痛を耐えたスノウホワイト
も、安らかな笑顔を浮べている。
 「よかったですわ・・・ありがとうございます・・・リーリア様、アルカさん・・・」
 喜ぶスノウホワイトを、ハルメイルは涙ぐんで見つめていた。
 「よかった・・・一時はどうなるかと思ったよ・・・」
 部屋には、束の間の安らぎがもたらされていた。
 そして部屋の外では、スノウホワイトの身を案じているジャガー神が、部屋に入ろうか
どうか迷っている。
 「う〜ん、心配だニャ〜。スノウホワイト様は大丈夫かニャ?」
 部屋の前でウロウロしていたジャガー神は、廊下の向こうから、小さな7つの人形がヨ
タヨタ歩いてくるのを目撃した。
 「ンニャ?あれは何だニャ?」
 目を凝らしてよく見ると、それは・・・
 「ドワーフ隊だニャッ・・・スノウホワイト様のドワーフ隊だニャッ!!」
 その人形達は、デスガッドに破壊され、ゴミとして捨てられていたドワーフ隊であった。
 ゴミ捨て場から逃げ出したドワーフ達は、スノウホワイトを助けるべく、壊れた体を引
き摺ってここまで辿り着いたのだ。
 「・・・ヒメサマ・・・ヒメサマハドコ?」
 力無く歩いてくるドワーフ達に駆け寄ったジャガー神は、慌ててドワーフ達を抱え上げ
た。
 「酷いニャ〜、みんなバラバラだニャ。早くハルメイル様に治してもらうのニャッ。」
 「アウウ・・・トラノスケ・・・ハヤク・・・イソイデ・・・」
 ドワーフ達を抱えたジャガー神は、血相を変えて部屋に飛び込んで行った。
 「ハルメイル様〜、大変だニャ〜!!」
 騒々しいジャガー神を見て、怪訝な顔をするハルメイル。
 「なんだよ、うるさいなー。」
 「ど、ドワーフ隊が大変なのニャ〜。」
 ジャガー神に抱えられているドワーフ達を見て、スノウホワイトが驚きの声を上げる。
 「ああっ、ドワーフッ。みんな・・・」
 その声に、ドワーフ達が反応する。
 「ヒメサマ・・・ヒメサマッ。」
 ジャガー神がドワーフ達を床に下ろすと、彼等は喜びの声を上げてスノウホワイトに駆
け寄って行った。
 それを泣きながら抱きしめるスノウホワイト。
 「よかった!!みんな生きてたのねっ。よかった・・・」
 ドワーフ達は、スノウホワイトの掛替えの無い存在である。そのドワーフ達の帰還は何
物にも変え難い喜びなのだ。
 「みんなバラバラだわ・・・すぐに治してあげるから・・・」
 千切れた手足を治そうとするスノウホワイトの手を、ハルメイルがそっと掴んだ。
 「大丈夫だよ、ドワーフ達はオイラが治してあげるよ。」
 ニッコリ微笑むハルメイルに、スノウホワイトもドワーフ達も喜んだ。
 「ハルメイルサマ・・・ハルメイルサマ・・・」
 足元に縋り付くドワーフ達を、大事そうに抱き上げるハルメイル。
 「みんな、スノウホワイトを助けにきたんだね。こんな酷い目に遭わされたのに・・・
よしよし、偉いぞお前達・・・」
 愛しそうにドワーフの頭を撫でるハルメイルを見て、リーリアとアルカも微笑んだ。
 「よかったですわね・・・」
 「ええ。」
 喜びの余韻に浸る一同だったが、今だ危機的状態は脱していない。
 階下では、新たなる危機が魔戦姫達を待ちうけているのであった・・・





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