リレー小説2『魔戦姫伝説』
第1話 サーヤの初陣.最終回.1
山本昭乃
「お..おおぉ..」
「うぅ..うぁぁ..」
男たちがサーヤの顔や下半身に腰に打ちつけ、次々に精を放つ。
だが、その勢いは弱々しい。男たちの動きはのろのろと鈍く、その声はまるで老人のよ
うにしわがれ、もらす精液の量も、亀頭を濡らす程度でしかない。
それでも、男たちの情欲だけは旺盛だった。 息もたえだえに、
「ほら.. さっきみたいに..泣きわめいてみろよ..」
「さっき.. あれだけわめいてたじゃねえか.. なんでもするから、めしつかいだけ
は助けてくれってよぉ..」
だが、サーヤのうつろな瞳は動かない。どこか遠くを見つめたままだ。
ひとりの男が、枯れ木のような手で、彼女の頬を叩く。いや、叩いているつもりであろ
うが、その力は赤子のように弱々しく、やはりサーヤは反応しない。
「どうでぇ..」 ひとりの男が言った。
「あの召し使いどもを.. ここへ連れてきて.. 姫さまの前でヤっちまうってのは
よぉ..」
「へへへ.. そりゃいいや.. ヤってるとこを見せつけてやりゃあ.. いい声で泣
くだろうぜ..」
「まだまだ.. お楽しみは.. これからだぜ..」
「残念でした」 冷ややかな声が、退廃しきった場の空気を凍てつかせる。
「だ.. だれだ..」 男たちが声のした方へ振り向く。
そこにはベスとリンがいた。ふたりとも、着衣に少しの乱れもなく、その表情には生気
が満ちあふれている。盗賊たちへの恐怖や怯えも、凌辱された形跡も微塵も見られない。
男たちにはわけがわからない。
「あいつらが.. なにもヤらねえはずがねぇ..」
「なんで.. 無事なんだよ..?」
「サーヤさま」 盗賊たちを完全に無視して、ベスが口を開く。片手を胸にあてて深々と
腰を折り、
「こちらで担当いたしました盗賊18名、すべて殺し終えました」
「おえました」 リンがにっこり笑い、後にならう。
余裕であった。
「ごくろうでした」 サーヤが優しい声で、侍女たちの労をねぎらう。
盗賊たちはさらに混乱した。さっきまで人形のように生気のなかった姫君が、突然正気
を取り戻したのである。
立ち上がるサーヤ。その身から、ボロボロになった着衣がすべり落ちる。全裸になった
サーヤは胸を隠すように腕を組むと、ふたりの元へと歩き出した。その肩を三下のひとり
がつかむ。
「お、おい、殺したって、どういうことだよ..?」
サーヤは、白い肌をわしづかみにした汚い手を見て、ひとこと、
「汚らわしい」
次の瞬間、サーヤをつかんでいた手のひらから順に、男の全身が腐臭をあげる。
あとはリンの時と同じだ。ものすごい絶叫と共に、男は下痢患者の排泄物のような姿で
一生を終えた。
「他にもバリエーションがありますが、大体このような感じです」 ベスが軽くフォロー
を入れ、リンがくすくす笑いながら唇をなめた。ふたりの間にサーヤが立ち、賊たちへと
振り返る。
「お前らいったい.. なんなんだ..?!」
「まだ思いだせませんか?」 サーヤが小首をかしげる。「ならば、思い出しなさい」
次の瞬間、盗賊たちの視界が闇に閉ざされた。
頭の中で、ガチャリと、鍵の外れる音がした。
封印された記憶が、渦を巻いて、男たちの脳裏を駆け巡った。
姫君と侍女たちを真っ裸に剥き、泣き叫ぶ彼女らの肢体に汚れた舌や肉棒を這い回ら
せ、穴という穴に臭い精液をぶち込んだこと。
強姦に次ぐ強姦の果てに死んだように動かなくなり、各部の穴が開きっぱなしになって
しまった彼女たちを、役たたず呼ばわりした挙げ句、つばまで吐きかけたこと。
酔いつぶれた勢いで、一糸もまとわぬ少女たちを、邪魔になったといって山の中に放り
捨てたこと。
今になって思い出した。さっきまで自分たちが凌辱していた姫君たちを、ついこの前、
同じように凌辱し尽くしたたあげくに死なせていたことに。
「そ、そんな..」「あの後たしかに死んだはずだ..」
「そ、そうだぜ、次の朝、素っ裸で転がってるのが気味悪くて、オレ達で埋めて..」
「なんで、そのあいつらがここに..」
ケダモノたちの疑問に応えるように、別の光景が脳裏に焼きつけられる。
それは盗賊たちではない、少女たちの記憶。
凍死寸前の環境の中、姫君だけでも守らんと、自分の体で温めようとする、ふたりの侍
女たち。
彼女らの暖かさに涙し、汚らわしい賊達への怒りに、声にならない叫びをあげる姫君。
少女たちの声に応え、降臨する高貴なる存在。
「あなたたちの魂と引き換えに、あなたたちの敵を、汚らわしき者たちを殺し去る術を得
る。その思いに、嘘はありませんね?」 うなずく少女たち。
そして、汚らわしき者たちは見た。見てしまった。少女たちが高貴なる存在の手によっ
て、人間の姿をした、人間でないものへと変わっていく、その光景を。
盗賊たちの視界が晴れた。目の前にいるのは、先刻と同じ姿の三人の少女。
真ん中の全裸の姫君は、胸を隠すように腕を組んでいたが、盗賊たちには、それがとて
つもなく威圧的に見えた。
姫君が、サーヤが言った。
「もう説明はよろしいですね? 今からあなたたちを、皆殺しにいたします」
「こ、殺せえええぇぇぇっ!!」 盗賊の頭が、ゴングが絶叫した。
「や、やっちめえっ! たかが小娘どもじゃねえかあっ!!」 じりじりと奥へ下がりな
がらも、狂ったように手下たちに発破をかける。
次々に手近の武器を取る手下たち。だが、その動作は緩慢きわまりない。
無理もない。一週間近くも飲まず食わずで性交を強いられたのだ。サーヤたちの方でい
ろいろ調整してやらなければ、とっくに餓死か衰弱死していただろう。
「・・・・」「遅い」「ほらほら、はやくはやくぅ〜っ」
姫君と侍女たちの有形無形のプレッシャーに背中を気圧され、手下たちがやっとのこと
で、手にした武器を構える。だが、足もとはふらつき、武器を構えた手は震え、その目は
脅えきっていた。
「姫様、こちらもお召し替えを」 ベスが促し、サーヤがうなずく。
サーヤは、いや、三人は、自分たちの全てを奪った相手を、きっと見据えた。
猛烈な殺気に、賊たちが一歩も二歩も下がる。
サーヤは、すうと息を吸った。あの日を境に、彼女たちの人生は大きく変わった。
そして今、次の自分の声ひとつで、みずから積極的に未来を切り開く。
命じた。「ベス、リン、行きます!!」
サーヤの声に、ふたりがはっ、と応え、光と化して、跳んだ。長い長い尾を引いて飛ぶ
光は、狭い部屋の中を縦横無尽に駆け巡り、両腕を広げたサーヤの元へと飛び込む。
ベスの変化した銀の光、リンの変化した金の光。ふたつの光が螺旋となってサーヤを包
んだ。サーヤの頭上のティアラが、ふたつの光に呼応して真っ赤に光る。
サーヤ、ベス、リン。三人の声が、ハーモニーを奏でる。
「プリンセス・チャアァァァァジッ!!」
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