リレー小説2『魔戦姫伝説』
第1話 サーヤの初陣.最終回.3
山本昭乃
翌日。サーヤたちの母国は大騒ぎとなった。
行方不明のサーヤ姫とその一行が遺体で見つかり、一行を襲った盗賊たちが一人残らず
討ち取られたのだ。
サーヤたちの遺体はすべて、ついさっき安楽死したかのような完全な姿で、逆に賊ども
は首だけの無惨な姿で、密かに王宮に届けられた。
手紙が添えてあった。
「わたくしどもの力及ばず、サーヤ姫一行を救えなかったことを、深くおわび申し上げま
す。せめてもの罪滅ぼしに、一行を辱め、死に致らしめた者どもをすべて成敗いたしまし
た。どうかお納めください」 差出人の名前はなかった。
手紙の主の要望通り、盗賊どもはサーヤの護衛たちと相討ちになり、サーヤとふたりの
侍女は、操を守るために自害して果てたと発表された。
盗賊たちの首は刑場にさらし者にされ、国民の投石と放火によって、次の朝までに原形
をとどめないまでに破壊された。
人々は姫君たちの死を心から悲しみ、仇を取ってくれた兵士たちに、あるいは謎の手紙
の主に心から感謝した。
サーヤ、ベス、リン。三人は丘の上にたたずんでいた。
盗賊一味を誘い出したあの丘である。ここからは王国全体もよく見渡せる。
ここへ戻ることは、しばらくはないだろう。
(でも、国の危急の時には、いつでも駆けつけます..)
「お別れは、済ませましたか?」 優しい声に三人が振り向く。そこには、黒いドレスの
姫君が、やはり黒一色の侍女ふたりを従えて立っていた。
「リーリア様..」 サーヤが感謝と尊敬をこめて姫の名を呼んだ。
「リーリア様。おかげを持ちまして、みなの仇を討つことができました。この通り、お礼
申し上げます」 深々と腰を折る。ふたりの侍女もそれにならう。
「見事な初陣でした。お役に立てて、とても嬉しく思います」
リーリアはにっこり微笑んだ。黒衣をまとう彼女が威圧的に見えないのは、この笑みに
よるものだろう。
「ところで、そのドレスは気に入っていただけましたか?」
「はい、とっても!!」 サーヤは淡いピンクのドレスをつまみ上げた。
一味にさらわれた時に着ていたあのドレスだ。初陣を祝ってリーリアから贈られたもの
である。
今のサーヤにとって、引き裂かれたドレスの修復など容易であった。
リーリアは満足げにうなずくと、サーヤ、ベス、リン、三人の目を見た。
数秒が静かに過ぎた。
「これからも、戦ってくれますね」
『はいっ』
少女はかつて、姫と呼ばれていた。
すべてを奪われた少女は、憎しみの力で悪魔を呼び、魂と引き換えに力を得た。
少女は魔界の姫として生まれ変わり、見事復讐を遂げた。
だが悪魔は、少女の魂を喰らおうとはしなかった。その悪魔、リーリアは、少女にこれ
からも、醜き者たちと戦い続けることを命じたのだ。
強大な魔力によって戦う姫君「魔戦姫」となって。
「では、行きましょう、魔戦姫サーヤ。あなたたちは、まだすべての力を使い切れてはい
ません。まだまだ鍛錬が必要ですよ」
また訓練かぁ.. ぼやくリンの足を、ベスが無言で踏みつけた。ふたりの姫君がくす
りと笑う。
暖かな春の風が、少女たちの髪を優しくなでた。
サーヤの初陣第一話終わり
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