魔戦姫伝説(スノウホワイト・白哀の魔戦姫)
第8話 悲しき叫びを聞きて・・・闇の姫君は現る
ムーンライズ
シャーロッテ姫を嬲る下劣な笑い声が、静かな森に響く。
「おっぱいモミモミなのね〜ン。」
「じらゆぎぢゃ〜ん、キ○タマもじゃぶれや〜っ。」
嬉々としたアンドレ達の声以外は、全て静寂の中・・・
その時である。
シャリ、シャリ、シャリ・・・
雪を踏む足音がアンドレ達に近付き、2つの人影がスッと現れた。
その人影は、1人は可憐なドレスを着た女性だった。もう1人は美しき(着物)を着た
東洋人の女性だった・・・
現れた2人の女性に気がついたアンドレは、呆然とした顔で女性達を見つめる。
「んが?なんでごんなどごろに、おびめざまが?」
アンドレは2人の女性を見てそう言った。女性は・・・紛う事無き(姫君)であった・・
・
美しい(姫君)であった・・・見る者全てを魅了する美の化身であった・・・
服装とかだけでなく、その雰囲気そのものから(姫君)としての気高さを醸し出してい
る。
(姫君)の出現を、小男も気付いて降り返る。
「のっほ〜♪2人ともキレイなのねン。一発やらせて欲しいのね〜ン。」
「バガかおめーわっ、ぞーゆーもんだいぢゃねーだろっ?」
騒いでいるアンドレ達を、冷ややかな目で見つめている(姫君)。
そして、ドレスを着た姫君が口を開いた。
「・・・なんという浅ましい輩でしょう・・・見るに耐えませんわ。」
東洋人の姫君も口を開く。
「ええ、速やかに排除せねば・・・」
浅ましい輩・・・排除・・・その言葉にアンドレは目を吊り上げる。
「あんだっで〜?はいじょってどーゆーいみだよ、ごらっ。」
すると、ドレスの姫君がフッと笑みを浮かべる。
「鈍いですわね、あなた達を始末するって事ですわよ、デクノボウさん。」
デクノボウ呼ばわりされ、アンドレは怒り狂う。
「ふんが〜っ!!よぐもおでをバガにじだな〜っ!?ブッづぶじでやる〜っ!!」
地響きを立てて突進してくるアンドレ。だが、巨人に比べて余りにも小柄な姫君は身じ
ろぎすらしない。
そして・・・
――シュッ
軽い音が響いたかと思うと、なんと・・・ドレスの姫君が消えたではないかっ。
突然の事に、怒りを忘れて立ち竦むアンドレ。
「あ、あで?おびめざまはどごだ?」
キョロキョロすると、背後から声が聞こえてくる。
「こっちですわよデクノボウさん。」
その声に慌てて降り返ると、ドレスの姫君が剣を手に立っている。しかも、その足元に
はアンドレの見慣れた腕が転がっている。
「んあ・・・あのうでば・・・お、おでのうでだあ!?あんぎゃ〜っ!!う、うでが、
うでがあああ〜っ!!」
なんと、アンドレの豪腕がいつのまにか切り落とされて転がっているのだっ!!
「いでえ〜っ!!よぐもやりやがっだなっ、このごむずめ〜っ!!」
暴れるアンドレに、今度は東洋人の姫君が立ち塞がる。姫君の手に、刃を付けた長い棒
の武器・・・ナギナタが握られている。
「愚か者め・・・己が業を背負いて冥府に逝けっ!!」
掛け声一閃、ナギナタがアンドレの巨体を真っ二つに切り裂いたっ。
「い、いぐ〜っ!?」
絶叫を残し、アンドレは肉隗となって雪原に転がる。
「フッ、またつまらぬ輩を切ってしまった・・・」
ナギナタの血を薙ぎ払い、東洋人の姫君は呟いた。
そして、踵を返した(姫君)達は、呆然としているシャーロッテ姫に歩み寄る。
シャーロッテ姫は、突如現れた(美しき姫君)に目を奪われていた。
「あうう・・・うあう?」
声の涸れた彼女に、(姫君)達の正体を尋ねる気力は無い。驚愕の目で見つめるのみだ。
東洋人の姫君が、深刻な目でシャーロッテ姫に声をかける。
「そなたはシャーロッテ姫であるな?我等はそなたを助けるために魔界より参じたる者。
我等が長の御言葉、しかと聞くがよい。」
そう言うと、森の奥に視線を移す2人の(姫君)。
すると、森の奥から暗がりよりも尚深い闇が出現し、その中から、黒衣を纏った1人の
淑女が姿を見せた。
血のように紅い瞳を持つ、美しき(闇の女王)。
淑女の出現に、2人の(姫君)は恭しく一礼する。
「リーリア様、この者がシャーロッテ姫にございます。」
その声に頷いた(闇の女王)は、深い悲しみを湛えた紅き瞳でシャーロッテ姫を見つめ
た。
「始めましてシャーロッテ姫。私の名はリーリア、魔戦姫の長ですわ。」
ませんき・・・その言葉に、シャーロッテ姫は強い衝撃を受けた。
戸惑うシャーロッテ姫に、魔戦姫の長リーリアは話し掛けた。
「シャーロッテ姫、あなたの悲しき叫びを聞き届けましたわ。あなたの無念、晴らして
さしあげましょう。」
そう言うと、シャーロッテ姫の汚れた身体をそっと抱きしめるリーリア。
穏やかな黒い光が汚れを浄化し、静かに癒していく・・・
リーリアの優しい腕に抱かれたシャーロッテ姫は想った・・・
――この方々は悪魔?でも・・・この優しさは・・・
そんな想いが脳裏を掠める。
シャーロッテ姫を抱いたリーリアは、2人の(姫君)に尋ねる。
「バーデンブルグの状況を報告なさい。必要とあれば支援も致しましょう。」
「はい、バーデンブルグの状況は思わしくなく、殺害された民の蘇生には時間を有しま
す。それとバーデンブルグに残っている青ひげ男爵の手下ですが、少数でありますゆえ、
我等のみで殲滅致します。」
「そうですか、では後の事は任せました。」
そう言うと、闇の中から新たに出現した侍女達に指示して、シャーロッテ姫とドワーフ
達を闇の中へと連れていった。
後に残った2人の姫君は、バーデンブルグへと足を向ける。
そんな姫君達を、怯えた目で見ている者があった。先ほどシャーロッテ姫を陵辱してい
た小男だ。
「あ、あわわ〜。あいつら一体何者なのね〜ン。」
アンドレを一瞬で屠った姫君達に恐怖している小男・・・しかし、姫君達はまるで目に
も留めぬかのように、小男を無視して歩いていく。
「た、助かったのね〜ン。」
ホッとする小男だったが、闇の存在を見てしまった彼に、助かる道など無かった。
「貴様を生かしておくとでも思ったか。」
「ほえ?そ、それはどーゆー事なのねン?」
東洋人の姫君が指をパチンと鳴らした。すると・・・
――グシャッ!!
突如出現した氷隗の下敷きとなり、文字通り(踏み潰されて)しまったのだ・・・
闇より現れた姫君・・・魔戦姫。
彼女達の存在を、快楽を貪っている青ひげ男爵一味は気付いていない。
そして・・・己の悪行が、己自身を地獄に導く事になろうとは・・・知る由も無い・・・
To・Be・Continued・・・
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