魔戦姫伝説(スノウホワイト・白哀の魔戦姫)


  第2話 幸せなるバースディー
ムーンライズ

 その日、街から戻って来たシャーロッテ姫は、城の入り口で使用人がソワソワと落ちつ
かなくしているのに気がついた。
 「・・・どうしましたの?そんな所で。」
 「あ、姫様っ、お帰りなさいませ〜。みんな待ってますよ、ささ、早く。」
 戸惑っているシャーロッテ姫を急かせ、ドワーフ達にウインクをする使用人。
 何が何だかわからないシャーロッテ姫は、ドワーフ達に背中を押され、城の大広間へと
向かった。
 なにやら・・・大広間が騒がしい。
 そして、大広間に入ったシャーロッテ姫に花吹雪が降り注いだ。
 「姫様っ、お誕生日おめでとうございまーすっ!!」
 盛大なる拍手の出迎えと共に、バースディー・ソングが流れる。
 そう、今日はシャーロッテ姫の誕生日なのだ。
 突然の事に、ポカンとしていたシャーロッテ姫。ようやく、今日は自分の誕生日であっ
た事を思い出した。
 「あ・・・そうでしたわ、すっかり忘れてましたわ。」
 そんなシャーロッテ姫を見て、笑いながら歩み寄ってくる彼女の祖父・・・シュレイダ
ー領主。
 「ははは、他の者の誕生日は全部覚えておるのに、自分の誕生日を忘れるとは・・・お
前らしいなシャーロッテ。」
 「ええ、あの・・・恥かしいですわ、私ったら・・・」
 白い頬を、ほんのり桃色に染め、恥かしそうにしているシャーロッテ姫。
 そして大広間に、大勢の街の人々も入ってくる。
 皆、綺麗な花束を手にし、シャーロッテ姫の誕生日を祝う。
 「お誕生日、おめでとうございます姫様。」
 「今日の事を忘れられておられるから、どうなるかと思いましたよ。」
 その間、使用人達は大広間の舞台を準備し、シュレイダー領主がシャーロッテ姫を舞台
へと促す。
 「さあ、お前にバースディープレゼントを渡そう。私と街の民からのね。」
 舞台へ上がったシャーロッテ姫に、祖父は素晴らしいプレゼントを手渡す。それは・・・
純白のドレスだった。
 極上の絹を使い、職人の繊細な刺繍を施した高価なドレスであった。
 天使の羽根のように可憐に輝くフリル、花のようにフワリと広がったスカート。胸につ
けられたブルーダイヤのティアラが、シャーロッテ姫の青く汚れない瞳のように輝いてい
た・・・
 「きれい・・・これを私に?」
 「ああ、そうだ。それはミュンヘンのドレス職人に特注で造らせた、ウィーンの御令嬢
でも着ていない代物だぞ。いつもボロのドレスばかり着ているから、たまには綺麗に着飾
らせてやろうと思ってな。」
 「ありがとう、お爺様・・・」
 そして今度は、街の人々が可愛い箱に入ったプレゼントをシャーロッテ姫に手渡す。
 「これは・・・なんですの?」
 「それは開けてのお楽しみですよ姫様。さあ、見てください。」
 リボンを解いて箱を開けると・・・その中から白く輝くプラチナ製の冠が現れた。
 ドレス同様、高い技術を持った職人の製作したものであると見受ける。しかも、中央に
はティアラのと同じブルーダイヤが輝いていた。
 シャーロッテ姫は、そっと冠を手にして民に向き直った。
 「これ・・・高かったでしょう・・・それを・・・」
 とても心配そうなシャーロッテ姫。
 それもそのはずだ。プラチナ製の冠など、庶民が買えるような代物ではない。
 人々は笑顔で応える。
 「街のみんなで金を出し合って買ったんです。あ・・・ね、値段は聞かないでください
ね、一番安い冠でしたから・・・その・・・」
 安いなどと言い訳してはいるが、少々無理をしているのは直ぐにわかる。
 「みんな・・・とっても嬉しいですわ・・・本当にありがとう・・・」
 祖父と民からの最高のプレゼント・・・
 喜びで胸が一杯になって、ただ、ありがとうとしか言えないシャーロッテ姫だった。
 「さあシャーロッテ。ドレスと冠を身につけて、私達に見せておくれ。」
 「はい、お爺様。」
 舞台裏に入り、着替えるシャーロッテ姫。
 そして・・・純白の美しい白雪姫が登場した・・・その余りにも美しく、一切の汚れす
らない姿から、純白の光が溢れている。
 微笑んだシャーロッテ姫は、軽やかなタップを踏んでクルリとまわった。
 天使や女神をも魅了するであろう美しさ、人々は愛する白雪姫に惜しみない賛美の言葉
と拍手を贈る。
 「おお、綺麗だ。本物の白雪姫さまだ・・・」
 「ステキですわよ姫様・・・」
 その場にいた全ての人々が、その白く美しい姿に魅了された。シュレイダー領主も、華
やかな孫娘の姿に満足げな笑みを浮べている。
 静々と舞台から降りたシャーロッテ姫は、集まった人々と握手を交わし、共に喜びあっ
た。
 はしゃぐドワーフ隊達が、シャーロッテ姫の周りを囲んで舞い踊る。
 「姫さま最高〜っ。」
 「ボク等の白雪姫さま、ばんざーい。」
 「・・・うふふ、私も嬉しいですわ。」
 喜びの白雪姫を中心に、賑やかなバースディーパーティーが催される。
 街の人々も皆集まり、夜が訪れるまで白雪姫の誕生日を祝った・・・
 
 夜が深け、街の人々が家に帰っていった後、シュレイダー領主は愛しい孫娘と語りあう
時間を過ごしていた。
 ドワーフ隊達を寝かし付けているシャーロッテ姫に、シュレイダー領主が声をかける。
 「早いものだ。小さかったシャーロッテが、今や立派な姫君だ。お前の成長した姿を、
倅夫婦に見せてやりたかった・・・」
 シャーロッテ姫の両親は、彼女が物心つく前に病気で他界している。
 今は亡き息子夫婦を思い出し、感傷に浸る祖父を見てシャーロッテ姫は少しだけ微笑ん
だ。
 「・・・いいえ、お爺様。お父様とお母様は天国から私の事を見て下さってますわ。私
にはわかります・・・」
 そんな孫娘の微笑みに、シュレイダー領主は溜息をつく。
 「ああ、そうだったな、きっと見ているだろう。でも・・・私も老い先短い身だ。倅夫
婦の元へ行く日も、そう遠い事ではあるまい。」
 「お爺様・・・」
 寂しそうに呟く祖父を、哀しい目で見つめるシャーロッテ姫。彼女には、祖父以外の肉
親はいない。
 だからこそ、祖父にはずっと傍に居て欲しかった。死別と言う悲しい現実を受け入れた
くはなかった・・・
 目を潤ませて祖父に抱きつくシャーロッテ姫。
 「イヤですわお爺様っ。私、お爺様を天国に行かせたくない・・・ずっと傍にいて欲し
いの・・・」
 そんな孫娘の頭をそっと撫でるシュレイダー領主。
 「無理を言わないでおくれ。それに、お前には国の民やドワーフ達がいる。私がいなく
ても民やチビスケ達がお前の傍にいてくれる。そうだろう?」
 「・・・でも・・・でも、寂しいですわ。」
 「ああ、わかったわかった。せめてシャーロッテが幸せな結婚をするまでは天国にいか
ないさ、約束しよう。」
 「ありがとう、お爺様・・・」
 いつも民のために、姫君としての勤めを果たしているシャーロッテ姫。
 今はただ、祖父に甘える1人の孫娘として安らぎに浸っていた・・・
 
 静かに過ぎる平和な時・・・
 明日も同じ平和な朝が来る。当たり前の様に思って、人々は眠りについた。
 
 ――そう・・・いつものように・・・眠りについた・・・
 
 バーデンブルグに住む全ての人々は、この平和がいつまでも続くと信じていた。 
 
 ――そう・・・いつまでも、いつまでも・・・純粋に・・・信じていた・・・



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