魔戦姫伝説(スノウホワイト・白哀の魔戦姫)後編


  第15話  卑劣なる青ひげ一味の最後
ムーンライズ

  青ひげの屋敷で血の復讐劇が展開している頃、その屋敷に向っている黒い影があった。
 リーリアと彼女の侍女達だ。
 屋敷の周囲には、何者をも寄せ付けぬよう凄まじいブリザードが竜巻の様に吹き荒れて
いる。
 しかもその冷気は、極冷の域にまで達しており、シャーロッテ姫が極めて深刻な暴走状
態になっていることがわかる。
 リーリアの瞳が険しくなった・・・
 「手がつけられないほど暴走してますね・・・早く手を打たないと・・・」
 吹き荒ぶブリザードに歩み寄るリーリア。侍女達が血相を変えて止めようとする。
 「お待ち下さいリーリアさまっ。ここは危のうございます、シャーロッテ姫の救出は我
等が・・・」
 主の身を案じてのことだったが、それを厳しく制するリーリア。
 「極冷の魔術の恐ろしさを忘れたのですかっ!?シャーロッテ姫は私が救い出します。
それが・・・彼女を魔界に導いた私の為すべき事・・・」
 リーリアの周囲に、不可視のバリアーが張り巡らされ、酷寒の冷気を跳ね返す。
 静かに歩み行くリーリアは、シャーロッテ姫の魂が闇に堕ちてしまわぬよう、救出に向
うのであった。
 
 そして再び屋敷の中・・・
 青ひげは目を閉じる事すら許されず、八つ裂きにされる手下の姿を見させられた。
 そして青ひげにクルリと背を向けた白雪姫は、両足を切断されてのたうつアブドラに歩
み寄る。
 「・・・あなたハ私ヲ・・・最初ニ・・・辱めましたネ・・・今度ハ・・・私ガ・・・
あなたヲ辱めテあげますワ・・・」
 呟いた白雪姫が、アブドラの黒い巨体に手を置いた。
 「ぶひひ・・・や、やめて・・・ゆるじでえええっ!!おれが悪かった〜っ!!男爵さ
まに言われて仕方なくやったンだおおお〜。だ、だ、だ、だから助けて〜っ!!」
 荒くれたブラック・オークの獰猛さは微塵も無く、卑屈な叫びをあげて泣き叫ぶアブド
ラ。
 すると白雪姫は、冷たい悲しみの目でアブドラの目を見た。
 「・・・さア私の目ヲ見なさいナ・・・あなたニ・・・天(獄)を見せテあげましょウ・
・・」
 白雪姫の目から白い光が放たれ、アブドラは真っ白な世界に堕ちていった・・・
 
 「ぶひいいい〜っ!?お、落ちる〜っ!!」
 まっ逆さまに転落したアブドラは、白百合の咲き乱れる(天国)に投げ出された。
 「あだだ・・・ここはどこだ?」
 キョロキョロと辺りを見回すと、周囲から大勢の(白雪姫)が集まって来た。
 「・・・逃がしませんヨ・・・あなたハ・・・天(獄)で永遠ニ苦しむのでス・・・」
 全裸の白雪姫に苛まれ、ジタバタ暴れるアブドラ。
 「ぶひえええっ、なにすんだこの・・・て?あ・・・あぶひゃあああっ!!お、お、お、
お前等はあああ〜っ!?」
 絶叫するアブドラ。なんと、白雪姫の顔が全て、アブドラに強姦されて殺された女達の
顔になったのだっ!!
 「・・・ブタ男メえええ・・・積年ノ怨みイイイ・・・思い知レえええ〜ッ!!」
 「ぶぎゃあああ〜っ!!」
 悲鳴をあげたアブドラは・・・恐怖の天(獄)に閉じ込められた・・・
 
 白雪姫は、アブドラに幻覚を見せていたのだった。
 現実世界では、凍り漬けにされたアブドラがイチモツを怒張させて悶えていた。
 「ぶひひ・・・ゆるじでえええ・・・ざ、ざむいよおおお・・・」
 カチカチに凍ったアブドラに、巨大ハンマーを抱えたドワーフが歩み寄る。
 「クタバレッ、クロブタオトコメーッ!!」
 
 ――ぐわっしゃーん・・・
 
 木っ端微塵に砕け散ったブラック・オークの黒い巨体が、床に散乱した。
 そして・・・青ひげを覗いた全ての手下達は全員地獄に送られた・・・
 壁に貼りつけられた青ひげが、戒めから解かれて床に投げ出される。
 「あひっ、あいててて・・・ひっ!?」
 絶句する青ひげ。
 彼の眼前に、白雪姫とドワーフ達が歩み寄ってきたのだ。
 「・・・さア・・・次ハ・・・あなたノ番でスわヨ・・・」
 白雪姫の死刑宣告が告げられ、恐怖に追われた青ひげがジタバタと逃げ出した。
 それを冷ややかに見つめる白雪姫達・・・
 「・・・逃げ場ハ・・・ありませンワ・・・」
 そして、(恐怖の鬼ごっこ)が開始された・・・
 
 泣き叫びながら屋敷内を逃げまわる青ひげ。しかし、玄関はもちろん、全ての窓が氷で
閉ざされ、もはや逃亡は不可能となっていた。
  「あひっ・・・たすけてたすけて・・・だれかあああ〜っ。白雪姫に殺される〜っ!!」
 凍った窓を叩き、必死で逃れようとしているが、いくらがんばってもムダな事だ。
 そして・・・追いかけるドワーフ達の(恐怖の)声が、青ひげに迫った。
 「アオヒゲ〜ッ、ドコニカクレタ〜?ミツケタラ、オマエヲイジメテヤルゾ〜。」
 「ボクタチヲイジメタ、オカエシダ〜ッ、メチャクチャニシテヤルカラナ〜ッ!!」
 ドワーフの声が、倉庫に隠れている青ひげの耳にも入る。
 死の恐怖に苛まれ、発狂寸前でガタガタ震えている。
 「あひひひ・・・こ、こないで・・・イヂメないでえええ・・・」
 股間を小便で濡らし、貴族の威厳もなく怯えている青ひげ。
 すると、彼の目に白雪姫の姿が映る。
 倉庫を見回しながら、ゆっくりと近寄ってくる・・・
 ヒタヒタと凍てついた床に足音が響き、それが更なる恐怖を掻きたてる
 倉庫に入ってきたが、どうやら青ひげの存在には気付いてないらしい。
 追い詰められた青ひげは、傍らに椅子があるのに気がついた。
 「・・・いひっ・・・いひひ・・・こ、こ、これで始末してやる・・・白雪姫を地獄に
送ってやる・・・いひひっ。」
 半狂乱となった青ひげが、椅子を振り回して白雪姫に飛びかかった。
 「きいえええ〜いっ!!しねえええ〜っ!!」
 
 ――ガッシャーンンン・・・
 
 白雪姫が、轟音と共に砕ける。いや、砕けたのは姿見の鑑だった・・・
 鑑に映った姿を、見誤ってしまったのだ。
 椅子を持った青ひげが呆然とする。そして、すぐさま恐ろしい現実に気がつく・・・
 背後に・・・白雪姫が立っているのだっ!!
 「・・・見つケましたわヨ・・・」
 「あひゃあああっ!!し、しらゆきひめ〜っ!?」
 恐怖が頂点に達した青ひげ・・・
 悪行を重ねて来た青ひげの最後の時であった。
 白雪姫が白いドレスを脱ぐと、ドレスがクルリと弧を描いて回転し、別の物体・・・円
形の鑑に変化した。
 その鑑に映った青ひげの姿は・・・醜いナメクジ人間の姿になっていた。
 「な、な、なんで私がナメクジ・・・はっ・・・はあああっ!?」
 悲鳴を上げる青ひげ。なんと・・・その姿は鑑に映ったナメクジのバケモノそのものに
なっているではないか。
 そして鑑を手にし、白雪姫は呟いた・・・
 「・・・そノ醜い姿ガ・・・あなたノ真実の姿ですワ・・・地獄ニお行キなさい・・・
アウフヴィーダーゼーン(さようなら)、青ひげ男爵・・・」
 鑑の中に映された世界・・・そこは地獄の最果て、最も罪の重い罪人が送られる極寒の
世界(コキュートス)。
 醜いナメクジ人間になったまま、青ひげは鑑に吸い込まれていった。
 「いやだあああ〜っ、ゆるしてえええっ、たすけてぇぇぇ・・・」
 絶叫だけを残し、青ひげは極寒地獄に消えて行った・・・
 青ひげを地獄に送ると、鑑をドレスに戻して身にまとう白雪姫。
 怨念の白い霧が消え、バーゼンブルグの人々の怨みもまた晴れた・・・
 霧に浮かんでいた民の顔に険が消え、全ての怨みも消え失せる・・・
 「これデ・・・終わりましたワ・・・全てガ・・・」
 呟いた白雪姫は、深い悲しみを宿したまま、漆黒の闇に堕ちていく・・・
 
 ――カラカラと・・・ココロが・・・クダケていく・・・
 
 コワレていくシャーロッテ姫を見て、ドワーフ達が必死で止めようとする。
 「ヒメサマーッ!!モトニモドッテーッ!!」
 しかし、すでに手遅れだった・・・
 ドワーフ達が次々フリーズし、シャーロッテ姫は極冷の魔術を暴走させたまま、闇に堕
ちて行った・・・
 
 「シャーロッテ姫ーっ!!」
 不意にシャーロッテ姫を呼ぶ声が響き、屋敷に飛び込んで来たリーリアが現れる。
 「・・・今すぐ助けてあげますわ・・・」
 バリアーを張りながら、極冷の魔術を強引に捻じ伏せ沈黙させた。
 しかし危険な状態であるため、速やかな処置が有された。
 リーリアは、すぐさまシャーロッテ姫とドワーフ達を屋敷の外へと運び出す。
 外では、侍女達と・・・そしてハルメイルが待っていた。
 「リーリア様っ。」
 「リリちゃん大丈夫っ!?シャーロッテ姫は・・・」
 運び出されたシャーロッテ姫は、グッタリしたまま動かない。完全に魂が闇に堕ちてい
るのだ。
 それを見たハルメイルが、シャーロッテ姫の魂を救うべく動いた。
 上半身裸になったハルメイルは、シャーロッテ姫のドレスを脱がし、冷たく凍てついた
身体を抱き抱えた。
 「シャーロッテ姫はオイラが助ける・・・必ず闇から救ってあげるっ!!」
 シャーロッテ姫と唇を重ね、精神をシンクロさせるハルメイル。精神潜入の術(サイコ・
ダイブ)を使って、シャーロッテ姫の魂を闇から救おうとしているのだ。




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