ダーナ氷の女王 第二部 第6話 4

突然、外が騒がしくなった。
「何事だ!」
ガインはキラをにらめつけると、表へ出た。

大勢の猫賊達が悲鳴を上げて、家の前を走り去った。
人々のあとからは奇怪な人影が追ってくる。
それは、砂漠の方からやってきた。
奇怪な生き物。
いや、生き物というにはあたらない。
アンデッドの一団だ。
差し向けたのは砂漠の魔女に違いない。
猫族の者達は、その奇怪な姿に脅え逃げてきたのだ。

「なんだ、こいつらは・・・・」

ガインは砂漠の魔女の城でアンデッドの姿を見てはいない。
すぐに何であるか気づくはずもなかった。

人の形はしているが、その身体には生気が感じられない。

脚を引きずりながら、あるいは這いずりながら、その動きは早くはない。
だが、止まることなくこちらを目指してくる。
それが退去して押し寄せてくるのだ。

あたりを腐臭が漂い息も出来ないくらいだ。

「火だ!」

キラが叫んだ。中から火のついた薪を持って走ってきた。
そして、アンデッドに投げつける。

ぎゅおおおおお・・・・・

手前のアンデッドが燃えはじめた。乾ききった肌は簡単に燃えてしまう。

「そうだ火だ!」

ガインも薪を集めている。それを見た他の猫賊達はおろおろするばかりだ。

「何をしている!火だ!火を使うんだ!」

キラがまだ。立ちすくんでいる人々に声をかける。
やっと、まわりの猫賊達も家々から薪を持ち寄り、火にくべていく。

ぎょうう・・・・・・!
ぐきゅうるるうる・・・

奇妙な叫び声をあげてアンデッド達は燃えていく。
だが、それでも歩みを止めようとはしない。

「もっとだ!もっと火を!」

キラが叫ぶ。あたりはアンデッドの腐臭とそれの燃える嫌な臭いが
充満する。まるで地獄絵図のような有様だ。

それが一時間も続いただろうか。
さしものアンデッド達も後退をはじめた。

「なんてやつだ・・・」
「砂漠の魔女の手下に違いない・・」
「魔女がこの村になんのようがあるというんだ」

猫賊達はひとしきり落ち着きを見せると、口々に呟いた。
やがてその目はキラに向かった。

「こいつはキラじゃないか!」
「どうして狼族がここにいる!」
「お前が奴らを手引きしたのか!」

人々は口々にキラを罵った。さっきまでの活躍を忘れたかのように。

そうだ、かってのキラは悪事の限りを尽くしていた。
獣王とともに姿を消した、狼族の男がなぜ。

以来平和に暮らしてきた猫族にとって、この男が疫病神に映ったのは無理からぬ事。


その声にキラは目を閉じて聞き入っていたが、やがて目をあげると集まっている人々に叫んだ。

「いいさ、いいたいとこをいえばいい。だが、奴らはまたここに来るぞ」

「なにをいうか!おまえがつれてきたんだろう」
「この疫病神が!」
「さっさとでていけ!犬っころが!」

キラの声に耳を貸す者などいない。
猫族は一斉にキラに非難を浴びせた。

獣王に見捨てられた一族だ。狼族への嫌悪感は異常なものがあった。

「ふん!すきにするがいいさ」

キラはそう吐き捨てると立ち去ろうとする。
たくさんの罵声が浴びせられ、ものを投げる者までいる。

だが、以外にもガインがそんな村人達を押し止めた。

「いけない!やめるんだ!」

「なんだガイン!なぜ止めるんだ!」
「子分だから言うことを聞くのか?」
「お前も仲間だというのか!」

村人は一斉にガインを非難する。閉鎖的な村である。
よそ者への敵愾心は以上に激しい。
ましてや、考えられないような化け物の出現のあとだ。
村人達は正常心を失っていた。
無理からぬ事かもしれない。

「まつんだみんな!考えても見ろよ・・・。
キラがいなかったらこの化け物を追い払うことは出来なかった。それをその扱いはないだろう」

ガインの大きな声は村人達を一瞬黙らせた。ガインもキラ好きなはずもない、だが、この窮地を救ってくれたのも確かなのだ。
だが、村人達の疑いが晴れたわけではない。
あいかわらず、疑心暗鬼の目が『よそもの』に向けられる。
平和な村に訪れた突然の災難にヒステリックになっているのだ。

ぽん・・

キラは、ガインの肩を叩く。

「いいんだ・・憎まれるのは慣れている。それより、マナをしっかり守ってやれ・・・」

「え?」

キラはそう言うと歩き出した。

「どこへ行くと言うんだ?そっちは・・」

ガインはキラの後を追おうとして拒まれた。

「判っているさ・・。砂漠の魔女の城・・・。そこへいくのさ」

そのことばに村人達がざわめいた。無論ガインも。

「姫を助けに行く・・・」

「え?・・・・」

ガインを振り切り、キラは一人砂漠へと向かった。

「姫?姫さま?・・・姫さまがあの城に?」
「どこの姫さまがいるというんだ?」

村人達は事の顛末が判らず、言葉を交わす。

マナは、そんなキラの姿をいつまでも見つめていた。

前へ  メニューへ次へ