お姫様舞踏会2(第7話)
お姫様舞踏会2

 〜新世界から来た東洋の姫君〜
作:kinsisyou
   

リシャールは飛鳥姫とファミーユ姫を乗せたスポーツカーと護衛役で随行するセダ

ンを見送った。

 と、そろそろグランドパレスの外が俄かに騒がしくなる。訪れる嵐、そう、各国か

ら招待された王族や貴族の馬車が大挙してここに集結し始めているのだ。

 そんな折、皇国からやってきた一行であろう、侍女や女官たちがリムジンを走らせ

る準備をしているのが見えた。もしかしてここに残っている姫君も外に出るのか?と

、ここで有璃紗姫がリシャールに声をかける。
「リシャール殿、せっかくですから我々も外に出てみましょう」
 有璃紗姫もやはり退屈がお嫌いなようで、というかこの嵐を察してさっさと退避し

ようということだろうか。
「はい、喜んでお供させていただきます」
 一応社交辞令でそう答えておくが、当然自動車に乗ったことのないリシャールは内

心あまり気乗りしない。しかし、姫君からのお誘いを無碍に断るわけにはいかないだ

ろう。
「では、リシャール様。用意ができましたのでこちらへ」
 そう言って有璃紗姫の侍女である若菜がドアを開けてリシャールに乗り込むよう促

す。 
 少し警戒して内部に乗り込むと、そこは普段乗っている馬車とあまり変わらない光

景が広がる。
 分厚いカーペットが敷かれ、二重糸によるダブルステッチと鋲打ちの革張りのシー

ト、チーク材で作られた豪華な家具。飛鳥姫のスポーツカーと違い、そこはまさしく

安楽に移動するための空間だ。馬車と大して変わらない様子に少しホッとするリシャ

ール。身構えていた自分がバカらしくなった。内部には前後にシートがあるが、多分

奥まった後方の席が姫様方の座る席だろうと推測して前側の席に腰を落ち着ける。座

り心地も馬車と大して変わらない。
 リシャールが乗り込んだ直後、後方の席には綾奈姫と有璃紗姫が乗り込んでやはり

というか奥まったほうの席に腰を落ち着ける。と、ここで綾奈姫が席を向かい合わせ

にするよう薦める。
「リシャールさん、席を向かい合わせにできるので椅子を回転させて」
 と言われてもどうしていいかわからないリシャール。と、綾奈姫が不意にシートに

あるボタンを押すと、シートが勝手に半回転して向かい合わせに。電動式なのだが旧

世界のリシャールにそんなことはわからない。いきなりシートが動いて面食らう。
「ウワッ、し、シートが勝手に動いた!?」
 それを見てつい笑う綾奈姫だが、すかさず有璃紗姫がフォローを入れる。
「綾奈お姉さんも人が悪いですわ。リシャール様にシートが自動で動くなんてわかる

わけないじゃない」
「あ、つい普段の感覚なもんだから」
 こんなところにさえ新旧のギャップが容赦なく待ち構えているのだった。傍で見て

いた若菜も笑いを堪えている。
 きちんと3人が乗り込んだのを確認してドアを閉める若菜。ドアはまるで金庫の扉

のように重々しく、静かに閉まる。
 運転席に乗り込んだ若菜はダッシュボードにある鍵穴にキーを挿し込みONの位置

に回す。これによって隣にあるマスターキーのロックが解除される。次にマスターキ

ーをONの位置に捻り、アクセルペダルとクラッチペダルを同時に踏み込む。こうし

ないと電気スターターを始動させるための回路が接続されない。二重三重の安全策で

あると同時に盗難防止策でもある。全ての針がピクン、ピクンと動く。このクルマが

まるで生き物であるかのように見せる一種の演出なのと、エンジンスタートの準備が

整ったことを示す合図でもある。そしてダッシュボードにある赤いスターターボタン

を押す。
 電気スターターのモーター音が響いた刹那、このリムジンに搭載された16気筒エン

ジンの荒々しい音が響き渡る。そのエンジン音は比較的穏やかであったが、それでい

て何処か腹に響くような独特の太い排気音だ。これにはリシャールもビックリ。
「さ、先程のもスゴかったですが、これもなかなか響きますね。まるでオーケストラ

のようです」
 リシャールがオーケストラのようだと言うのに意外だという表情の二人。
「そんな風に仰るのはリシャール様が初めてですわ。陛下とかは騒々しい音だといっ

てこのクルマに乗り込むのは嫌うものですから」
 因みに将臣陛下の乗るクルマはもう少し音が控えめになっているので16気筒の音は

あまり馴染めないらしい。
「それでは若菜、出発しましょう」
「はい、姫様」
 有璃紗姫に促されて、若菜はクルマを動かす。ステアリング、シフト、ペダル。全

てがパワーアシストされているので巨体の感覚に慣れれば女性でも非常に運転の容易

なクルマでもあった。若菜の細い指でこの巨大なクルマがまるで手足のように軽々と

動く。
 元々こうしたパワーアシスト、特にステアリング周りのアシストは1920年代にとあ

るフランス人技術者が特許を取得し、それをアメリカの自動車メーカーに持ち込むも

けんもほろろという扱いを受け、そこへどうやって嗅ぎ付けたのか中島車輌から高給

でスカウトされパワーアシストは積極的に採用された。そうした恩恵である。その後

パワーアシストは日本人技術者の熱心さもあって改良が重ねられ力の必要な箇所は適

度に力を加える程度で済むようにされた。だからこそこんな巨大なクルマがいとも簡

単に動かせるのだ。
 クラッチ操作も発進時のみであとはパワーアシストによる自動操作で変速の際はア

クセルを緩めステアリング裏にあるセレクターレバーをゆっくり動かすだけでよい。

若菜でも操作は至って容易だった。

 若菜がクラッチペダルを踏みセレクターレバーを2速に入力すると一行を乗せたリ

ムジンはゆっくりと動き始め、徐々に加速しながらグランドパレスを後にした。
 馬がいないのに動いているというのはこの世界からすれば何とも奇妙な光景らしく

、その動きを目で追う衛兵の皆さん。
「う〜ん、馬がいないのに走ってる……」 
 ある衛兵の呟きがそこにいた全員の心情を代弁していた。同時に女性があんな巨大

なクルマを平気で動かしているという事実も十分驚きに値するものだったに違いない

。余談ながらこのリムジンがどのくらい巨大かといえば、全長8.2m、全幅2.45m、全

高1.81m、ジュラルミンを始めとした軽合金を随所に採用しているとはいえ重量3.4っ といえば事足りるであろう。
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