お姫様舞踏会2
お姫様舞踏会2
〜新世界から来た東洋の姫君〜(13-1話)
作:kinsisyou
13-1
リシャールは、有璃紗姫と踊ることを選んだ。
「有璃紗姫、一曲御願いできますか?」
「まあ、一昨日に続き、私を御指名して下さるなんて。ええ、私で宜しければ」
リシャールの申し出を笑顔で快諾する有璃紗姫。その様子に、どうやら一昨日の事件のことは問題になっていないようだ。リシャールが有璃紗姫に一曲申し込んだのは、一昨日の無礼に対してそれとなく探りを入れる意味もあった。恐らくだが、頭脳明晰な有璃紗姫のことなので、リシャールがそのことで心配して一曲踊って欲しいと申し入れた可能性を考えたことだろう。だからこそ相手の心情を慮って快諾したのかもしれない。それに、快諾したということは、少なくともリシャールに好感を持っていることだけは間違いなかった。
舞踏会では定番であるワルツを踊る二人。まるで空を舞っているかのような軽やかな踊りで、周囲の注目を浴びる。リシャールも緊張は何処へやら。すっかりそのことも忘れ、夢中になっている。やがて二人の心は同調し、恍惚感が包み込む。流れる汗も心地好い。
この時間が、永遠に流れてくれればいいのに、とさえ思えてくる。
(それにしても、本当に軍人なのだろうか)
リシャールがそう思うのも無理はない。鍛え上げた歴戦の軍人であることは、発散するオーラからも分かる。そうした人々を、幼少から見て来たのだ。しかし、白手袋越しに感じる指の柔らかな、動きも何処か筋肉質を感じさせるも全体に曲線的であり、女性のそれである。そう、彼女も軍人である前にお姫様なのだ。
しかし、夢心地の時間は長くは続かない。気が付けば、演奏は間もなく終わりを迎えようとしていた。名残惜しいが仕方ない。
幕引きのように静かにダンスを終え、少し上気しているのでバルコニーへ出て涼む二人。で、今宵の有璃紗姫は、メインイベントにも関わらず手にしているのはアルコールではなくフルーツジュースであった。そのことに気付いてリシャールは、自分の家が用意したお酒に何か不備でもあったかと気を揉んだ。
「有璃紗姫、我が家の用意したお酒がお気に召さなかったのでしょうか」
「いいえ、違いますわ。明日の昼過ぎにはもう帰らなくてはいけませんので、パイロットでもある私がアルコールを口にする訳にはいきませんの」
そう聞いて、リシャールは思い出した。そう言えば、上空に突如現れた巨大な鉄の鳥。あれを操られるのかと。自動車もそうだが、飛行機でも操縦の24時間以上前からアルコールは厳禁なのである。
「左様でありますか。それはなかなかおつらい立場ですね」
「貴方の家のお酒は、帰ってから堪能させていただきますね」
そう言って微笑まれたことがリシャールにとっては救いであった。
更に、ワルツの後は楽団によるコンサートを経て、自由時間ということで腕自慢の貴族の子女がここぞとばかりに楽器の腕前を披露して、意中の異性を射止めようとアピールする中、有璃紗姫も自慢のフルートで新世界での名曲を披露する。こちらでは聴いたことのない曲だけど、フルートならではの軽やかなメロディーに誰もが聴き入る。因みに、笛は最古の楽器の一つとされている。
(何て繊細な音色だろう。まるで有璃紗姫そのものだ)
リシャールでさえ感嘆せずにはいられない。
そして、有璃紗姫が演奏を終えると、周囲から惜しみない拍手が贈られる。
その後も食事を経て様々な種類のダンスが踊られる内に夜は更けて行く。その間も有璃紗姫とダンスを踊り、一夜限りの出会いを楽しむ。陽が上り、新たな一日が始まろうとする頃、舞踏会は恙無く終わった。
翌日、気が付けばベッドの上で目が覚めたリシャール。あの時の出来事は、まるで夢のようであった。そして、上空に響く轟音で、現実に引き戻される。慌てて窓を開けると、それは皇国から来た一行を乗せた富嶽が飛び立っていく姿であった……
「有璃紗姫、私にとっては全てが夢のようだった……」
しかし、これで物語は終わりではない。
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