お姫様舞踏会2(第一話)
お姫様舞踏会2

 〜新世界から来た東洋の姫君〜
作:kinsisyou
     大国ミッドランド。その宮殿に、ある男が呼び出されていた。

 男は目の前の玉座に座る女性を前に緊張した面持ちで直立不動の姿勢でいる。 その様子からして玉座の女性が只者でないことは明らかだ。 亜麻色の艶やかな髪と、女性らしい穏やかな輝きの中にも意志の強さを感じさせる瞳。 このミッドランドを実質的に取り仕切る宰相、ギネビア姫であった。
 玉座に腰掛けるギネビア姫が、ゆっくりと口を開く。 その様子に緊張がピークに達する男。そしてギネビア姫は切り出した。

「リシャール・ド・フルア殿、近々このグランドパレスにて舞踏会が催されるのは御存知ですよね?」

 リシャールと呼ばれた男、今回のこの物語の主人公である。
 フルア家はもとは下級貴族であったが酒造業で成功しそこで作られる酒は大評判となり、ミッドランド王室御用達の指定も受け舞踏会で供されるお酒の提供の一翼も担っている。 諸事情で未だ爵位も授からず、そして所領も小さいままであったが輸出事業も好調で財力と金満振りは並大抵ではなかった。

 彼、リシャールはその次男坊であったが経営部門を長男が、貿易部門を当人が引き継ぐことも決まっており、生涯は保障されていた。長男は既に地方の有力者の娘と結婚しているが、当人はまだ独身。因みに家族は両親の他長男夫婦と四人の娘がいる。祖父母は事業から引退して領地の別邸にて悠々自適の生活を送っている。

 フルア家は下級貴族の身でありながらこうした事情で他の貴族からも一目置かれ、またミッドランドにとっては重要なスポンサーであり、父は現在某友好国にて大使を務めている。本来下級貴族の身であり宰相であるギネビア姫と直接の謁見すら憚られる身である彼がこうして謁見を許されているが所以であった。

 彼は兄である長男と違い大人しめな性格であったが貴族にありがちな傲慢なところがなく、人への受けは好いタイプであった。その彼が近く開催される舞踏会に呼び出される理由は他でもない、そろそろ身を固めたほうがいいのでは?というギネビア姫の遠回しな配慮である。

 舞踏会は様々な顔を持っている。各国からやってくるVIPと交流を深めることで友好関係を深め、或いは外交であり、或いは集団お見合いであり、また国がこのような形で財政支出を行うことにより国の経済を支える側面もある。意外に聞こえるかもしれないが、国が何らかの形でこのようにお金を使うとそれが国内経済の活性化にもつながっていくことになるのだ。

 それはさておき、リシャールはギネビア姫を前に未だ緊張したままである。彼がギネビア姫を最初に見たのは8歳のときであった。お互いまだ幼かったがそれでも王家の血筋を引く者特有の神々しさは今もはっきりと思い出す。それから度々ギネビア姫を見る機会はあったが何しろ下級貴族であり末席であるため一瞬のことであった。

それが図らずもこのような形とはいえギネビア姫と真向かいで謁見する機会を得ようとは。緊張するなというのが無理であろう。
 その緊張が永遠にも感じられる空気の中、ギネビア姫は事務的な口調で本題に入る。

「リシャール殿。舞踏会があるということは、接待役として各地からも貴族の子弟が大勢来ることになります。基本的にはどの姫君を接待するかも決まっているわけですが、貴方も既に接待なさる姫君が決まっておりますので、覚悟なさいますように。もしかしたら苦手意識を持たれる姫君かもしれませんが、独断と偏見でこちらで決めさせていただきました。本来なら儀礼上下級貴族である貴方を接待役とするのは不相応なのですが、世界各国に貿易を通じて広い人脈を持つ点を考慮した結果です。その姫君とは……」

 ギネビア姫がゆっくりと口を開き語る接待しなければならない姫君とは、もしかして見目麗しさが伝わっているオランのオーロラ姫か?はたまたグランディアのファミーユ姫か?それとも凶悪なお姫様としてその名を轟かせている(笑)、パンパリアのロゼッタ姫か?他には……

「リシャール殿には日本から来られる姫君の接待を引き受けていただきます」

 日本から来るお姫様……そう聞いてリシャールは目を丸くした。日本といえば、名前は聞いたことはあったが、そこの姫君がどんな容姿の持ち主なのか、知る由もない。いくら広い人脈を誇るフルア家と言えども旧世界の通信事情ではどうしても知られる範囲は限られる。リシャールも何処か世界の果てにある美しい国と風聞で知っている程度であった。内心どのような国であるのか整理もつかない中、ギネビア姫は続ける。

「日本から来る姫君は、少々変わった服装ですので戸惑うことでしょう。私も一度会っただけですが、あの姿には驚かされましたわ。どう説明すべきか私も言葉が見つかりませんが、その姿を見れば貴方も驚くことでしょう。しかし、他国の姫君同様、美しい容姿と繊細な心をお持ちです。従って、接待にあたっては特に他の姫君と何ら変わるところはありません」

 このときのギネビア姫の言動から、察しのいいリシャールは何故自分が日本の姫君の接待役を任されたのかを悟った。要は意地悪な言い方をすれば何処の馬の骨ともわからぬ姫君の接待役を有力貴族の子弟が断り、そのお鉢が下級貴族である自分に回ってきた、というところなのだろう。自分は体よく貧乏くじを押し付けられたというわけだ。真実は違うにしても決して外れてはいないだろう。事実その通りであったが。
 それならそれで、こちらも覚悟を決めて失礼のないよう接待に全力を尽くすだけだ。リシャールも男である以上、腹を括った。

「では、早速ですが、到着は何時頃になるのでしょうか?時間がわからないとこちらも行動のしようがございませんので」

「相手の行動は早いですわ。今日の晩にはもう到着すると連絡がありました。現在は夕刻ですから到着も間もなくでしょう。相手は空から来ますから、すぐそれとわかりますわ。実は、以前来られたときは昼時でしたので周囲がパニックになるほどの事態を招いてしまい、貴国に迷惑をかけてしまったとあまり目立たない夜を選ぶことにしたと、のことだそうです。ここにも馬なし馬車で来るでしょうから、少なくともどの馬車に乗っているかなどと探す手間は省けますわね。リシャール殿には早速動いてもらわねばなりませんのでハードですが、頼みますわ」

 などとギネビア姫は少しイタズラっぽい表情を見せて命じるのであった。多分さぞかし驚くだろうと言いたげである。
 相手がもう今夜にも到着する以上、こちらもうかうかしていられない。既に心ここにあらず、リシャールの頭の中はギネビア姫から日本の姫君の接待のことで一杯であった。
 そして準備に入ろうとしていると、突然響き渡る轟音。何事かと周囲は騒然となる。

「来ましたわね……」

 ギネビア姫の意味深な一言。どうやらこれが日本からの姫君到着の合図らしい。周囲が騒がしいので窓から様子を伺うと、番兵が警備もそっちのけで集まって何事かと空を指差している。その様子に自分も窓から空を見上げると……

「な、な、何だあれは!?」

 リシャールが見たものは、まさにこの世のものとは思えぬ光景であったに違いない。新世界で言うところの航空機なのだが、旧世界の価値観に育っている彼からすれば、巨大な鉄の鳥である。

「な、な、あんな鉄の塊が空を飛んでいるなんて信じられない……」

 一体どんな魔法を使っているというのか?空を飛ぶといえば、せいぜいほうきに乗る魔法使いや飼い慣らしたドラゴンに乗る一部高等魔法の訓練を受けた限られた人間くらいしか見たことがない彼でなくとも十二分にカルチャーショックな光景であろう。
 想像を超える光景に、リシャールはこの先の波乱の予感を覚えずにはいられなかった。  
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