白鳥の歌 3
藤倉 遊(ふじくら・ゆう)
「そなたがこれほどに乱れる姿を見るのは久しぶりよ」
ロットバルトは憎々しげに言う。
「あの王子,童貞とはいえ,なかなかの手並みだな」
「そのような言い方はおやめください」
「ふん,好いているのか,あの王子を。私の見るところ,あれはただの色好みよ。死んだ 父王に似ておるわ」
「王子様は私を誠実に愛して下さいました」
「性交に誠実も不誠実もない。しいて言うならばそれはおなごの心しだいよ。おなごは自 分の作り上げた,男の愛という幻想に酔うのだ」
「幻想などではありませぬ!」
「男がおのれの精をおなごの体に注ぎ込むのは,生き物としての本能に過ぎぬ」
ロットバルトは吐き捨てるように言う。
「それは,けして愛などではない」
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