『騎士でオタクなボクと王女様』(1)

小さい人間


「……え? ここどこ?」

……それがボクがこの世界で最初に発した言葉だった。

「えっと……確かボクは中央線に乗って……秋葉に降りて……」

欲しかったゲームの販売日……ついでに同人をいくつか買ってこうと財布を眺めて普通に歩いていたら何時の間に見知らぬ森の中にいた……。

「どっかの公園に入っちゃった? ……んな訳ないし」

茫然と立ちつくしているボク……学校帰りだったこともあって制服のブレザーとコートが寒風から身を守ってくれた。周りの木も赤く紅葉しているみたいだし、どうやら季節は秋のようだ。

「確か……冬? だったハズ……だよね」

道を歩く時、あまり上を見て歩くことのなかったボクには季節感にあまり自信がなかった。いつも趣味の本ばかりに目を通しながら歩いていて、気がついたら知らない街を歩いていたことなら経験があった。

「あのときは……一応町中だったし、軽い冒険みたいな気分になれたけど……」

本当に、どこなんだここは?

全然文明の気配が感じられない。見渡す限り見知らぬ木、キ、き……。

「え……と、とりあえず、歩いてみるか」

歩きながら考えを纏める事一時間……ぐらい歩いた気がしたけど、実際は二十分ぐらい。
インドア派のボクは早くも息を上げ始めた。

「ああもう! どこなんだよココ!? 誰もいないの?」

そうやって頭を抱えていると、どこからか足音? のような音が聞こえた。
何やら多人数がいるようで、鉄同士がこすれあう様な妙な音も聞こえた。

異様な雰囲気を発している集団に、ボクは一瞬声をかけような迷った。

「誰だ? そこにいるのは!?」

しまった! ボクは瞬間的にそう思った。
どこかに隠れるにももう遅いし、何より彼らがしている格好に驚いて立ちすくんでしまった。

「黒い髪? ……いや、奴のはずはないか……坊主、どこの者だ?」

その異様な集団の中心人物なのだろう、隻眼で中世ヨーロッパの鎧の様なものを着込んだ人物にぎろりと睨まれた。

ボクはすくんで声が出せなかった。

「みょ〜な格好をしてやがるな……」

「おい、なんとか言え!」

隻眼の男の近くにいる連中が口々に何か喋っているのが聞こえた。後ろには既に四人近くが回り込んでいてボクの退路を塞いでいる。隻眼の男はじっとボクを見つめながら何か考えているようだった。

「坊主……何と言う国からきた?」

ボクは隻眼の男のその言葉にはっとなった。

「ここは……日本じゃないんですか!?」

「……残念ながらな」

どうやらこの人は何か知っているようだ……一筋の希望を僕が感じているといきなり後ろに回っていた兵士? の様な人間にとり抑えられた。

「放してやれ……何もできんさ、アッチの人間ならな」

隻眼の男がそう言うと、ボクを押さえこんでいた男たちは微妙な表情をしたままスッと離れた。

「ここは……どこなんですか? 貴方は?」

「坊主……人の名前を聞くときは自分から……てのが、アッチの……いや、日本での流儀じゃなかったか?」

「……へ? あ……はい」

ボクは周りを取り囲んでひそひそと何やらしゃべっている人たちを気にしながら自己紹介をした。

「ボクは、山本達也、え……と、出身は静岡県で……ええと」

「ふむ……俺はアレキサンダーだ……元の名前は、もう捨てた」

これが、ボクの冒険の始まりだった。
この時はまだ……あんな大変なことに巻き込まれていくことになるなんて、考えもしなかった。

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