監獄島の巫女姫 第1話

ヘルマスター


 海に面した王国エクセレント王国。その首都港湾都市クルセダで
は今一隻の船が出航するところであった。そして王国の最年少の姫
君であるアリシア姫が乗船していた。
 この国には離れ小島にある海神の神殿に王国の姫を巫女姫として
遣わす習慣があった。巫女姫は一生を海神の巫女姫として過ごし、
亡くなるま王家のなかで最年少の姫が次の巫女姫として遣わされる。
 そして今年亡くなった先代の巫女姫の後継者としてアリシア姫が
次の巫女姫に選ばれた。
 アリシア姫はようやく胸が膨らみはじめ、子供から女性らしい体
型に変わろうとする年齢で、銀色の美しい髪と小鳥のような歌声で
国民から絶大な人気を誇っていた。
 それだけにアリシア姫が海神の巫女姫に選ばれたときにはみな嘆
き悲しんだ。巫女姫に選ばれることは名誉なことであるが同時に一
生を離れ小島で暮らすことを意味していた。
 こうしてアリシア姫と50人の巫女たちは神船アルカディア号に
乗船し、一生で最初で最後の航海に乗り出すことになった。

 アリシア姫は甲板で離れて行くクルセダの港町を眺めていた。
 姫の幼いときから先代の巫女姫は病気がちであり、アリシア姫が
次の巫女姫になるのではないかと噂され、また巫女姫にふさわしい
様にと教育されていた。
 だから幼いときからこのような日が来ることを知っていたし、ま
た覚悟も決めていた。
 しかしアリシア姫とてまだ幼い少女、「いつの日かすてきな王子
様が」と想像したことが無いとうわけではない。
 さらに慣れ親しんだ王宮を離れ、両親と一生会えないと言う事実
は、この幼い姫君を悲しませるにはじゅぶんだった。
 「姫様そろそろお部屋へ御戻りください。潮風は体に毒ですよ」
 「ターニャ…・・・」
そう声をかけたのは侍女兼護衛のターニャ・ミゼットであった。彼
女はアリシア姫より5歳年上で、姫を妹のようにかわいがり、姫も
また彼女を慕っていた。
 「姫様、さびしいでしょうがこのターニャついております。」
 「ありがとうターニャ、でもあなたがここまでついてくる必要は
  無いのですよ。」 
 「気になされないでください姫、私は姫の行くところどこにでも
ゆきますよ。それに私、せいせいしているのですよ、だって獣のよ
 うな男たちから離れて暮らせるのですから。」
 「ターニャたら相変わらず男嫌いなのですね。」
ターニャはアリシア姫ほどでないにしても美少女といえる美貌を持
っていた。しかし生来の男嫌いの性格で今までも何人もの男を半殺
しにしてきたのだ。
「ハ、ハ、ハ、相変わらずの男嫌いですね、ターニャどの」
「ギルレン卿。」
「聞いていらしたのですか船長。」
男はこの船の船長であるギルレン卿だった。
「さあ、お姫様方そろそろ船室へお戻りください。そろそろ風が強
くなってきましたよ。」
「はい、船長。」 
 こうして主従2人は船内に入っていった。


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