鞭と髑髏
Peitsche und Totenkopf /隷姫姦禁指令

Female Trouble


第6章・暗黒の隘路(上) Der schmale Weg der Schwaerzung(1)

 
 このままでは…。

 闇が森閑と支配する地下の通路を、小さなランプで仄かに照らしながら、ラナは奈落の
底に向かって歩いていた。
 ここに来ると時間感覚は全く無くなってしまう。永遠に続く夜が、この城の暗部を支配
している。だが、すでに外界では早朝、夜が明けたばかりの頃であった。あの汚穢の地獄
を少女たちが経験してからも、すでにかなりの時間が経っていた。

 だが、その時のラナは、その幼い身体の内にある意を決していた。その手には、何かを
しっかり握りしめていた。

 地下牢の扉を開けると、闇の中に、昨夜の責め苦に虚脱したままのクラリス姫が、いつ
も通りに壁の手枷に拘束されていた。半ば吊されたような公女が扉の開く音に顔を上げる
のも待たず、ラナは無言のまま傍に駆け寄ると、つま先を立てて手を伸ばした。
 そして、手に持っていた「鍵」を使って手枷を外した。
 さらに、反対側も。

 自由になって立ちすくむ公女に、幼い少女は決然と顔を上げた。

「…逃げましょう、姫さま。ここから、すぐ」

 その啓示に、クラリスはすぐには反応できなかった。むしろ、ためらいの方が大きかっ
た。
「無理だわ、ここから逃げ出すなんて…」

 クラリスの言葉ももっともだった。
 この城の当主の血をひきながら、クラリスはこの地下世界の存在すら知らなかった。当
然、脱出経路などわかるはずがない。占領部隊も城の各所を警備しているだろう。それに、
この城は湖の中に建てられており、外部との連絡はたった一本市街地に通じる橋と、小さ
な船着き場しかない。当然ながらそこは親衛隊員たちにがっちり押さえられているはずだ
った。
 プロの泥棒ならともかく、こんな迷宮を裸の少女たちが抜けられるとは、とても思えな
い。

「だいじょうぶです。わたしに考えがあるんです。でも、それは時間が問題なんです。今
しかないんです。お願いです、姫さま。わたしを信じてください」
 ラナが必死で懇願した。

 ラナは見習いだったとはいえ、この城に勤める侍女の末席にいた。クラリスよりはこの
城のことは知っているはずだった。実はラナは、先輩の侍女から城内の秘密の通路もいく
つか教えられていたのだった。
 親衛隊員たちのほとんどは市街警備に当たっており、城内警備の人員は最低限だった。
ラナには城内で彼らの目をやり過ごすのはなんとかなるという自信があったのだ。

「城を出る方法も、心あたりがあります。でも、それは今しかないんです」
 ラナは懸命に公女の決断を促した。

 俯いて考えていた…いや、迷っていたクラリスだったが、ついに顔を上げた。

「わかりました。行きましょう…

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