バラステア戦記

第8話

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 カルノアがアイルランガへの降伏勧告と突きつけてから早二月が経とうとしていたが、
アイルランガからの恭順を示す使者は一向に来る気配が無い。それどころかアイルランガ
では王軍が出動しバラステアと一戦を構える様子であるという。アイルランガの美しい美
姉妹を望んでやまないカルノアは、ついに侵攻準備をすすめていた10万の帝国軍を発動
し、歴戦の猛将であるバラン・ギガをゼキスードに呼んだ。
「バランよ、アイルランガを滅ぼし美しい女達を帝国へ連行せよ」
「ははっつ!」
「姫や王族達は殺さずに生け捕れ。それ以外はおまえの好きにしてかまわぬ」
「かしこまりました」
バランはこれまでもカルノアの命を受け数々の辺境の国々を滅ぼしてきた。バランの率い
る軍は残虐非道で有名であり、その軍の通るところ女は強姦され、金品食物は全て略奪さ
れた。家や田畑は焼かれ、子供まで容赦なく殺した。辺境の国々は、バランを恐れた。
身の丈は2M以上もあり、彼の身長近くある長さの暫馬刀を振り回すと次々に首が飛ぶ。
ならぶところの無い豪傑で、今までバランに勝負を挑んだ戦士達は1人残らず返り討ちに
されてきた。
 そのバランの率いる10万のバラステア軍が、アイルランガへ向けて進発した。
その頃アイルランガでもアリアの部隊2千がカルム山道へ向けて出発した。リュウ、スー
チェン、レイラもこれに参軍した。それに遅れて王自らが率いる王軍も作戦通りに王宮を
出た。
「アイルランガは美女が多いと聞く。捕らえた女はわしの性奴隷としてくれるわ」
バランもカルノアと同じ生来の女好きであった。流石に戦場にまで女は連れてこないが攻
め込んだ国では気に入った女を次々に犯した。中には捕らえた王族の女や姫達もカルノア
に差し出さずに自分のものにしてしまうことすらあった。

 バランの部隊は計画通りカルム山道をアイルランガへ向けて進軍した。偵察に出ていた
レイラはその様子をアリアに伝えた。
「バラステア軍が半ば通り過ぎたところへ真横から突撃する。そして敵が混乱したところ
へ仕掛けた罠を発動させる」
アリアはカルム山道に多くの罠を仕掛けていた。もとより数と軍備では勝ち目の無い戦で
ある。奇襲だけがアイルランガ軍に残された作戦であった。

山道に伏せているアリア隊の前をバラステア軍が通過していく・・・
「よし、今だ!突撃するぞ」
「おおーっつ」
アリアの合図で伏せていたアイルランガ軍が一気に突撃を開始した。
「何事だ」
「敵襲だ!」
長時間の進軍で疲れていたバラステア軍は不意を付かれて一気に混乱した。奇襲をかけた
のはわずか2千の兵だがアリアの率いる歴戦の部隊である。10万のバラステア軍はずた
ずたに寸断された。
「バランを討ち取れ!」
「敵将を捜せ!」
アリアは縦横無尽に駒を飛ばし、大剣でバラステア兵を次々をなぎ倒すと、単騎バランの
姿を捜した。
「隊長に続け」
リュウとスーチェンもそれに続こうするが、初陣の二人は なかなかアリアには追いつけ
ない。
「よし、罠を発動しろ!」
レイラが合図を送ると、バラステア軍の頭上に無数の岩石が降り注いだ。たくさんの兵が
その下敷きになると、バラステア軍はますます混乱していく。
「敵将バラン、姿を表せ!我と勝負しろ!」
「わしはここだ」
砂煙の中からバランが姿を現した。巨大な黒馬にまたがり、暫馬刀を構える。
「我こそはアイルランガのアリア=レンハルトだ」
「貴様がアリアか、女風情にこのわしが討てると思っているのか」
バランは暫馬刀を振り回してアリアに突進した。
アリアはバランの攻撃を大剣で払いのけた。そしてすかさず攻撃する。
「くっつ・・・なかなかやりおる」
二人は馬上で激しく打ち合った。しかししばらくすると、やはり体力の差であろう、アリ
アは攻撃を防ぐので精一杯となった。
「ほれほれどうした!」
「くっ」
「隊長!応援するぜ」
リュウとスーチェンが駒を飛ばしてきた。そしてバランに攻撃する。
「くそっ・・・小癪なやつらめ」
バランは3人を同時に相手にするがひるむ様子が無い。
「ぐっ」
バランの右腕に強弓が突き刺さった。レイラの放った矢だった。
「おのれ女共があ・・・覚えていろ!」
バランは駒を返すと、砂煙の中へ走り去った。
「リュウ、スーチェン!奴を逃がすな」
「おお!」
リュウとスーチェンがバランを追った。
バラステア軍10万は、アリアの奇襲によって散々に叩きのめされていた。更に将である
バランが敗走し、指揮系統も全く機能していない。
その時、アイルランガの王軍がカルム山道の入り口からバラステア軍に攻撃を仕掛けた。
「バラステア軍を打ち崩せ!」
「おおーつ!」
王自ら率いる王軍は場慣れこそしていないが、混乱を極めたバラステア軍はただひたすら
逃げまどうばかりであった。
日が西に傾きかけた頃、勝敗は完全に決していた。カルム山道にはバラステア兵の死体が
連なった。
「王軍の勝利だ!」
「勝ち鬨をあげろ!」
アイルランガ軍の大勝利であった。バラステア軍は敗走し、バランも命からがら帝国領へ
逃げ延びた。


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