バラステア戦記−ファレルの赤い星

第二話

009



 南北両軍の停戦から3年の月日が過ぎていた。ダレンとベラビアは帝都に守備軍を残して、自らはそれぞれの
本拠地へと引き上げていた。
  この内戦がこれで終わりでないことは、バラステアの民の誰もが知ることであった。両軍とも再び戦う力を蓄
える為の停戦なのである。

  南方軍の帝都守備軍の一員であるハースは、急遽呼び出されて司令部へ向かった。
「皆、御苦労である。元帥の命により、我々は明日サウス・ファームへ向かう」
 召集された部隊は、バラステア軍の特殊精鋭部隊、バラ・フォースと呼ばれる部隊である。バラ・フォースの
メンバーは、バラステア軍の中でも特に腕の立つ者ばかりが集められたエリート精鋭部隊である。その1騎は通
常の50騎に相当するといわれる程精強な部隊である。しかし彼らは通常の戦闘用の部隊ではなく、元々は皇帝
直属の部隊であり、特殊な任務や、諜報活動、皇帝守備軍などが役目であった。彼らに命令することができるの
は皇帝ただ一人であった。
 しかし、ゼキスードの政変の際、バラ・フォースはカルノアを守ることができなかった。あの時中央軍元帥と
して帝都にいたクレファー・ロロイが謀反を起こすとは、誰も予想できなかったのである。
 主を失ったバラ・フォースは、南方軍元帥・ベラビア=カーンに取り込まれた。バラ・フォースの長官・ウォ
ルザー・ベリトンがベラビアに金で買われたという噂も飛び交ったが、真実は定かではない。
 ウォルザー・ベリトンは、冷酷無比な殺人マシーンとして、バラ・フォースの隊員達からも恐れられる存在で
あった。任務は完璧にこなし、その剣の実力も計り知れない程の強さであった。カルノアに命じられるままに、
今までに数百人にも及ぶ要人の暗殺をしてきた。彼は仕事に躊躇を感じたことはない。皇帝の命令が、彼の全て
であった。
 ハース=ウェイレンスもこのバラ・フォースの一員である。ウォルザーと共に暗殺の仕事に携わったこともあ
る。
 隊員達がよくする話しは、このハースと長官のウォルザー、どちらが強いかということである。ハースは、以
前任務の最中に、敵に見つかって数人の隊員と共に数千の軍に取り囲まれたことがあった。しかしハースは、獅
子奮迅の戦いをし、およそ5百人の敵を切り倒して包囲を突破したのだ。
「ハースは正に帝国一の剣士だ」
隊員達は賞賛した。しかし、ハースにも弱点があった。
「あいつは魔法が一切仕えないからなあ・・・・」
ハースは、剣の腕は最強だが、魔法の才能は全くの0であった。それに対して、長官のウォルザーは剣の腕が立
つだけではなく火・水・土・雷の全ての魔法剣を使いこなす戦士である。戦場では一度として敵に遅れをとった
ことはない。
「やっぱり長官にはかなわないだろうな」
当のハース本人はそんな話しには一切興味が無かったが、帝国一の戦士が誰なのか、部隊の中では常に話題であ
った。
「長官、サウス・ファームへ戻るということは、もしや・・・・」
「そうだ。例のものが見つかったらしい」
 例のものとは、バラ・フォースがベラビアの命を受けて探していた魔石であった。南方軍の本拠地であるサウ
ス・ファーム近郊に広大な峡谷地帯があり、古文書や古代からの言い伝えによれば、その魔石はこの峡谷地帯の
どこかに封印されているというのである。
 ゼキスードの政変後、ベラビアに取り込まれたバラ・フォースに与えられた任務が、この峡谷地帯での魔石探
しであった。それ以来、一部の隊員によって常に捜索が続けられてきた。しかし、この魔石がどんな意味を持つ
のか、何故そんなものを探すのか、隊員達には知らされていない。<与えられた任務をこなす>のがバラ・フォ
ースの役目であり、その目的は彼らには関係ないのである。
(一体何の目的でそんな石ころを探すのか)
隊員達は当然訝しがったが、それを訊いてはいけないのが隊の掟なのである。
「帝都のきれいなおねえちゃんとも暫くお別れか」
隊員達は口々にぼやいた。  
「全員明日の朝一番でサウス・ファームへ出発する。今日一日、帝都の夜を楽しむんだな」


 そのころ、北方軍の本拠地であるノース・レクトでは、セフィとティーシャの姫姉妹が
諜報員の報告を受けていた。
「買収したバラ・フォースのメンバーから情報が入りました。サウス・ファームの峡谷で、例の魔石が見つかっ
たとのことです。」
「セフィ姉様、ベラビアの奴、何故そんなものを探しているのかな」
「それはわからない・・・・だけどバラ・フォースの奴らを駆り出すくらいだから、きっと重要なものに違いな
いね」
セフィは考えていた。
(きっとベラビアがわざわざ中央から遠ざかったのはその魔石を探す為だったに違いない。あの男は野心家だか
ら、何を考えているのかわからないわ)
「セフィ姉様・・・・」
「よし、ティーシャ、あたしたちもサウス・ファームへ向かう。その魔石、やっぱり何かひっかかるわ。ベラビ
アには渡してはいけない気がするの。その魔石を奪ってしまうのよ」


(サウス・ファーム)

 南方軍団の元帥であるベラビア=カーンは、バラステア帝国の中でも随一の知将として知られる存在である。
だがこの男の見た目は、およそ知性のかけらも想像がつかないような醜悪な姿をしていた。背は低く、体はかな
りの肥満体で、脂ぎったその顔からは常に汗を流している。頭ははげ上がり、人前では冠を被ってそれをかくし
ている。
「ふうーーー。おまえのここはなかなか良いな」
全裸でベッドに横たわるベラビアの上には、ブロンドの長い髪をした美少女が跨って必死に腰を振り続けている。
毎日媚薬注射を受けている少女は、虚ろな目をしてひたすら快感を求めていた。
「ああ・・・いい・・・・ベラビア様!」
既に少女とベラビアの結合部分からは愛液が溢れ帰り、ベラビアの腹を濡らしている。
「さあ・・・出してやるぞ・・・・しっかり絞り取るんだ」
少女の中でベラビアのモノが一瞬膨張すると、白濁液が噴射してそそぎこまれる。少女もそれと同時に反り返る
と、わなわなと震えながら崩れ落ちた。
「さあ、しっかりと後始末をせよ」
少女は肩で息をしながら、ベラビアの今だそそり立った剛直を口に含んだ。そして尻の方まで隅々まで丁寧に舐
め上げていく。
 ベラビアはカルノアに負けるとも劣らない好色漢であった。ベラビアは、ゼキスードの政変後、カルノアの後
宮にいた世界中の姫達を自分の本拠地へ連行した。そこで姫達を待っていたのは、カルノアに犯されていた時よ
り更に凄惨な現実であった。毎日強力な媚薬注射を受け、体そのものが性感なしでは生きて行けない程淫らに変
化させられたのである。世界中からカルノアが選りすぐった美しい姫達は、その教養やプライドのかけらもなく
なり、ただ股間から淫液を垂れ流しながら醜いベラビアに抱かれるのを心待ちにするただの雌に成り下がってい
た。自分の手と指が疲れるまで人前はばからずに自慰を繰り返し、ベラビアの情けを懇願するのだ。
(いずれダレンの奴を倒せば俺が世界の覇者となるのだ。その時は世界中の美女が股間をびしょびしょにしなが
ら俺の挿入を待つようになる!)
 ベラビアが唯一油断のおけない相手として見ていたのはドラゴンマスター、クレファー・ロロイだけであった。
(今はあの男も既に死んでこの世にいない。誰にもこの俺の野望をシ邪魔することはできんのだ!)


「峡谷の中に、古代より言い伝えのある密教の寺院があることがわかりました」
 ベラビアは、サウス・ファームに到着したバラ・フォースから報告を受けていた。
「古文書に書かれた内容と一致しており、この中に例の魔石があることは間違いないと思われます」
「よし。ではこの寺院へはわしも行くぞ。バラ・フォースと2千の軍を連れて明日出発する」


 (ノースレクト)

「元帥、国境守備部隊のレッド長官がお見えです」
「なに」
 元帥の前に通された男は、元反バラステア政府組織のリーダーであったレッド=サーキュイスである。
「セフィ様とティーシャ様が国境を越えて無事南方領へ潜入いたしました」
「そうか」
 ゼキスードの政変後、レッドやガルサン達は、北方軍団元帥であるダレン=リドックに接触した。ダレンはバ
ラステアの元帥であるが、カルノアやバラン達と違い、暴力によって国を奪い、恐怖政治で国を治める者達とは
違う。軍事大国として、そのあまりに強大で危険なバラステアを真に打倒するには、ダレンと手を組み、中央や
南方に残っているバラステアの残存勢力を打倒するのが得策だと考えたのである。
 しかし、直ぐに同盟することはできなかった。バラステアの将軍として真の忠臣であったダレンは、皇帝であ
るカルノアが倒れるきっかけとなった者達と簡単に手を組むことはできなかった。
「父上!世界に平和を取り戻す機会です!」
「ベラビアは危険な男です。奴をこのままにはしておけません」
 ダレンはセフィとティーシャに説得され、結局レッドと同盟した。そして南方軍と開戦となると、レッドは二
人の戦姫と共に鬼神の働きぶりを示したのである。
「あれほどの武勇を持つものはそうはおるまい」
 ダレンはレッドを信用し、南北停戦後は重要な国境の守備をまかせたのである。
「元帥、バラ・フォースを始めとする敵の主要部隊は南方に移っているようです。今なら帝都を掌握し、南方領
へ進軍するよい好機だと思われます」
 レッドを突き動かしているのは、今だ変わらないバラステアに対する深い憎悪であった。恋人を目の前で陵辱
されて国を焼かれた記憶は、カルノアやクレファーが死んでも消えることはない。
(平和を取り戻して、俺達の国を作るんだ)
 ダレンの元へは、レッド達だけではなくカルノアに国を滅ぼされた者たちも大勢集まっていた。ダレンは、南
方軍に勝利した際は、今までバラステアが占領してきた国々の独立を約束していたのである。
「元帥、停戦の期限までまだ半年余りの時間がありますが、ここは敵よりも先に・・・」「ならぬ」
ダレンがレッドの口を封じた。
「約束を違えるのはわしの戦い方ではない。はせ参じている諸侯の信用を無くすことにもなるであろう。春を待
って堂々と決着を付けるのみ」
(この人は甘い)
レッドは思った。
(ベラビア=カーンが正々堂々とした戦いをするわけがない。必ず謀略を仕掛けてくるに違いないのだ。北の陣
営に、奴にかなう知将がいるのだろうか)


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