バラステア戦記

第三十三話

009


 しかし男の剛直がリンスを貫くことは無かった。挿入しようとした瞬間に、男は死んで
いた。
「げっ!隊長!」
「なんだてめぇ」
部屋の入り口に立っていたのはリネだった。その手には長剣が握られている。
「カスが」
リネが緩やかに動いたと思う刹那に、そこにいた男達は剣を抜くこともなく倒れていった。
一陣の風の如きリネの動きだった。
「・・・・・リネ・・・・・・」
「ふん・・・・こんなゲス野郎共にイカされるとはね・・・・我ながら見事淫乱姫の教育
に成功したわけね」
リンスは全身に力が入らず、起きあがることもできない。
(この姫様は利用できる。高く売ることもできるし、もっといい利用方法が見つかるかも
知れない。)
リネはリンスに着替えを投げつけた。
「反乱が起こった。ここから出るんだ。裏口に馬車が用意してある。早く支度しな」


 リュウは要塞の内部をリンスの姿を求めて走り続けた。しかしクレファーに受けた傷は
血が止まらず、リュウは自分の目が霞んでいくのがわかった。
「・・・・姫・・・・・・!」
 要塞の居住区はあまりにも広く、またリンスのいる場所を知っている者もほとんどいな
い為、リュウはリンスの部屋を探し出すことができなかった。
「ぐっ・・・・」
ついに膝を付くと、リュウはその場に座り込んでしまった。
(ドオオオオオオ−−−−−−ン−−−−−)
「!!」
カディス・ジークによる爆破作戦が始まったのがわかった。轟音が聞こえると、要塞内部
は震えた。天井から小石や埃が落ちてくる。
「リュウ!!」
(・・・あの声は)
スーチェンだった。廊下に座り込むリュウのもとに、剣を手にしたスーチェンが走ってき
た。
「スーチェン・・・・」
「リュウ!無事か!・・・・怪我をしているのか」
「リンス姫が・・・・・」
「もう逃げるぞ」
スーチェンの言葉は断定的だった。
「もう爆破作戦が始まる。早く逃げなければ要塞の下敷きになるぞ!」
「ばかな。まだリンスが中にいるんだ」
「そんなことを言っている場合じゃない。今逃げなければ間に合わないし、姫も何処かへ
脱出したかもしれないだろ」
「しかし・・・・・」
スーチェンはリュウの腹を殴りつけた。うめき声を上げながら、リュウは意識を失った。
スーチェンはリュウを背負うと、出口へ向かって駆け出していた。
(許せ)


カディス・ジークのメンバーと反乱に加わった者達は、要塞から離れた小高い丘へと待避
していた。所定の時間になると、轟音が響き渡り、巨大なゼキスード要塞は煙を上げなが
ら崩れ落ちていく。
(おおおお・・・・・)
バラステア帝国の権力の象徴、カルノアが建設したゼキスード要塞は、世界をのみこむ魔
砲台を抱いて、断末魔の如き地響きを上げている。
 バラステアと戦い続けてきた男達は今までの戦いを思いだしていた。国を奪われた者も
居れば、家族を焼かれた者もいる。憎き皇帝・カルノアは死に、その主力部隊も事実上壊
滅した。

(リュウ・・・・早く目を開けて)
メイは、その胸にリュウを抱いて介抱を続けたが、リュウは目を覚まそうとしない。

(まだ終ったわけではない・・・・)
レッドは早くも次の戦いに頭を切り替えていた。
(俺達の戦いはまだまだ続くのだ)



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