バラステア戦記

第3話

009


(アイルランガ王宮)

 王宮の庭でこの国の二人の姫君、リンスとリリーの二人が花を摘んでいる。王のランガ
と王妃のマリーがその様子を優しく見守っている。
 姉のリンスは生来体が弱く、一年の半分以上を床の中で過ごしている。それに対して妹
のリリーは明るく健康で、常に姉をいたわる気持ちの優しい姫であった。そしてやはりこ
の二人の美しさは、見る者をおもわず引きつけてしまう程であった。
 また、王妃のマリーもこの二人の母だけあって、成熟した優しい美しさをたたえている。
(国を・・・そしてこの家族を守らなければならない)
王のランガはそう決意していた。
 リンスは、妹の誕生パーティの時に自分に花を手渡して去っていった若者のことが忘れ
られなくなっていた。リンスも18才の乙女である。恋い心を抱くのに決して遅い年齢で
はない。しかし自分の心の中に唐突に生まれた心境の変化に、自分自身驚かずにはいられ
なかった。名前も知らず、身分も全く違う青年に恋をしてしまったのだ。
「お姉さま、最近なんだか変です。」
「え?そう?」
妹のリリーは、そんな姉の心境の変化に気付いているようであった。
(リリーのように元気な体だったら・・・)
リンスは、自分はおそらく誰かしらに嫁ぐということは無いだろうと考えていた。病弱な
この体では、おそらくこの住みなれた地を離れるということはできまい。そして子供を生
むこともできないだろう。名も知らぬ若者へのこの想いは、一時の夢か幻か・・・・
 床の中であの若者のことを考えると、胸が苦しくなる。そしてその若い体にも変化がお
こる。
(この感覚は・・・)
リンスは衣服の下から股へ手をのばす。・・・濡れている。あの若者の事を考えると、愛
液が出てくるのだ。
(私をしたことが・・・なんと淫らな)
リンスは、自分の敏感な部分へ手を伸ばす。
(あっ・・・)
初めての感覚が、全身をよぎる。痺れるような鋭い感覚・・・・国の宝と称された絶世の
美姫が、淫らに自慰にふける・・・
「ああ・・・はああ・・・」
クリトリスを擦り上げ、秘部をなぞる。やがて全身を弓なりに反らせると、震える手を秘
部へあてたまま、絶頂の余韻にひたりながら眠りについた。

 ある日、王宮が騒然となった。軍事強国バラステアから、使者がきたのである。今まで
一切の交流のないバラステアからの使者である。用件は明白であった。
(バラステアの属国として恭順を誓い、人質として姫を差し出せ。さもなくば皇軍をもっ
てこの国に一切の草木も残さぬ)
完全な降伏勧告であった。
「姫を差し出せるわけがない」
王の考えは完全に恭順を否定するものであったが、ならば開戦、とは結論が出せない。両
国の軍事力の差は歴然をしており、また戦争の経験の無いアイルランガ軍が、歴戦のバラ
ステア軍を相手に出来るとは到底考えられない。王宮ではこの日以来、開戦派と恭順はに
別れて激論がかわされるようになる。
「自己の野望の為に他国を属国とし、その上姫を差し出せとは無礼千万!」
「だからと言ってバラステア軍に勝つ見込みはほとんどあるまい」
王宮では国の重職を担う者達がそれぞれの意見を言い合う。
 一人の将軍が王の前に進みでた。
「私がバラステア軍を打ち破ってみせます」
(おお・・・)
王宮内にどよめきが起こる。将軍の名はアリア=レンハルト、歴戦の女将軍である。アリ
アは隣国から流れてきた将軍で、隣国がバラステア軍に攻められた時、少ない兵で孤軍奮
闘し、バラステア軍を数度に渡って撃退した辺境の英雄であった。しかし善戦むなしく国
は滅ぼされ、アリアはバラステアと戦うため別の国に流れた。しかしその国がバラステア
に恭順の姿勢を示すと、アリアは最後まで決戦を訴えたが聞き入れられずに国を追放され
た。
「ばかなことを。流れ者の将軍に王軍がゆだねられると思っているのか」
「そうだ。名声は認めるが結局バラステアに負けて流れてきたのだろう」
(ならばお前らにバラステア軍を破れる者がいるのか)
アリアは男を信用していなかった。
(男はいつも口だけだ)
アリアはアイルランガの隣国で有力な将軍の娘として生まれた。父は武勇に秀で、その名
は隣国にもきこえるほどであった。
「私はおまえだけを愛している」
「あなた・・・私は幸せです」
アリアの両親はとても仲の良い夫婦であった。アリアにとってそんな両親は誇りであった。
母は病弱で家にいることが多かったが、アリアは気性がはげしく、幼い時から父に師事し
て剣技を学んだ。
「戦士たるものたとえその身を捨ててでも主君を守り、決して敵に背を向けてはならない」
父は戦士の鑑であった。
 ある日アリアが女学院から帰ると、父の書斎からなにやら女のあえぎ声がきこえてくる。
(誰かいるのか)
アリアが息をひそめて父の書斎を覗くと、そこには驚くべき光景が展開していた。アリア
と年端のかわらぬこの家のメイドと父が交わっているのだ。
(あん・・・あん・・・ああ・・ご主人様・・・)
(はっ・・・はっ・・・はっ・・・)
父はメイドに机に手をつかせ、その体を後ろから犯していた。
(くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ・・・)
部屋には淫猥な音が響いている。アリアには信じられなかった。あの厳格な父が、母以外
の女性と交わるなどと・・・・それも自分の娘と年のかわらぬ女と。
 それ以来、アリアは父を信じなくなった。父というより、男とはこんなものかと思った。
メイドを犯していた時、父は完全に無防備であった。あんなところを敵に襲われればひと
たまりもないではないか・・・
 やがてバラステア軍が国に侵攻してきた。父も将軍として軍を率い、バラステア軍と戦
ったが破れて捕らえられた。見苦しく命乞いをしたが助けられなかった。
 そのうち母も病気でなくなり、アリアは天涯孤独の身となった。しかし幸い戦士として
高い技量を持つアリアは、傭兵として各国に雇われながら日々を過ごし、そしてある国で
将軍となった。アリアは大人になっても男を信用せず、信じられるのは自分だけだという
信条でここまでやってきたのだった。
「今日の会議はこれで終いじゃ」
「王!」
アイルランガ王・ランガは、開戦か、恭順かの論議に疲れ果てたのか、自室に籠もってし
まった。
(これではこの国も長くは持たぬかもしれん。美しい姫君達、可哀想に)



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