バラステア戦記

第二十四話

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「作戦・オデッサは二日後に決行だ。誰か意見のある者はいるか」
レッドの決定に、意見する者は誰もいなかった。
「レイラ、君も意見はないか?」
「いや、特にないね。私はあんたの指示どおりに動くだけだよ」
かつてアリアの副将としてバラステア軍と戦い続けてきたレイラは、今カディス=ジーク
の中に身を置いていた。
アイルランガ王宮がバランの手に落ちた時、レイラはバランに陵辱され、その後バランの
部隊の兵士達に次々に犯された。
「へへへへ・・・・なかなかいい女だ」
「早くすませろ、次は俺だ。もう我慢できねえよ」
レイラは口に猿ぐつわをされ、両手両足を荒縄で縛られたまま何人もの兵士たちにその精
を放たれた。
やがて精神に異常がきたレイラは、敵兵に陵辱されながら、宙を見つめたまま何も考える
ことができなくなっていた。
「この女いっちまってるぜ」
「あそこも全然ぬれてこねえ。真っ黒になっちまってるしな」
レイラはバラステア軍に放逐され、裸で倒れているところをレッドに拾われたのだ。
日が経つにつれてレイラの精神は回復したが、汚された体がきれいに戻ることはない。
何人の男に何度陵辱されたか知れぬ体・・・・・あの日まで男を嫌遠していた純潔な体は
秘部が黒く腫れ上がり、乳首は片方が噛み切られている。
レイラは何度となく死のうと思ったが、その前にどうしても知っておきたいことがあった。
(アリア様がクレファーの妻になったというのは本当なのか)
カディス=ジークの中にはアリアやレイラと共に死線をくぐりぬけて来た者達もいる。彼
らは、アリア隊としてバラステア軍と戦い続けてきたことを誇りにしている者たちである。
しかしその中にもアリアがクレファーの妻となったという情報が流れていた。
(あのアリア様がバラステアのクレファーの妻となったなど信じられない。何か事情があ
るに違いない。それを確かめるまで、あたしは死ぬわけにはいかない・・・・!)
「レッド、変な男が来てるぜ」
「変な男?」
「ああ、なんでもアリア隊にいた元兵士で、仲間にはいりたいって言ってるぜ」
レイラが声の方向を振り返ると、そこに立っているのは良く知っている男だった。
「リュウ!!」
「・・・・!副長!」
リュウとレイラはソード・ロック以来の再会をはたした。
「レイラ、この男を知っているのか?」
「ああ、あたしの部下だった男だよ」
リュウはレッドに、仲間に入りたい旨を伝えた。
「リュウです。俺もバラステアに国を滅ぼされた1人です。魔砲台の完成はなんとしても
阻止しなければならない。そして助けたい人がいる。アイルランガの姫・リンス=ハルを
助けたい」


(もう婚儀まで一週間だ・・・・それまでにカディス=ジークのやつらをなんとかしねえ
と何を言われるかわからねえぜ・・・・・)
バランはレジスタンス部隊を壊滅させる為、大部隊を投入して掃討する考えであった。
(ゲリラ戦は得意じゃねえんだ。一対一の対決なら誰にも負けねえがな)
いつもクレファーに遅れをとっているバランとしては、これ以上の失敗は許されない状況
であった。
(やつらのアジトの大体の場所はつかんでいる。大軍で取り囲んで根絶やしにしてやる)

そして二日後、バランは1万の兵を率いて樹海地帯の西へ進軍した。カディス=ジークの
作戦・「オデッサ」決行日である。

「レッド!バランが来たぞ!大軍を率いてやがる。作戦を決行しようって時に・・・・ど
うする?」
レッドが双眼鏡をのぞくと、バラステア国旗をはためかせた重装備のバラステア軍が樹海
地帯へと進軍してくる。
(数で戦える相手ではない)
カディス=ジークのメンバーはわずか百人程度である。少数で行動し、ゲリラ戦を仕掛て
バラステア軍と戦ってきたのである。バラン率いるバラステアの大軍に正面から挑めば自
ずと勝敗は見えてしまう。
(バラン・・・・・!)
レイラの脳裏にはバラン達に激しい陵辱を受けた時の記憶が蘇っていた。
「レッド!あたしが行く。バランの奴を討ち取ってやる!!」
「レイラ、落ち着け!まともにやって勝てる相手ではない。ここは一度引いて・・・」
「いや、私は今までアリア様と共にバランの軍と戦ってきた。ここで・・・ここで奴との
決着をつける!!」
「副長、俺も行くぜ」
「リュウ!」
「俺もアリア隊の兵士だ。副長と運命を共にするさ。だけどまだ死ぬわけにはいかない。
リンスを助けるまでは・・・・・だから必ずバランを討ち取り、この包囲を突破する」
レイラとリュウはレッドの制止を振り切って出撃しようとしていた。
「待て!・・・・わかった。それならば全員であたった方がいい。敵に硝煙弾を投げ込み、
敵が混乱しているところを強襲する。だが死に急ぐことはリーダーとしてこの俺が許さん。
我々には魔砲台を破壊するという目標があることを忘れるな。バランがここへ来てるとい
うことは帝都は手薄のはずだ。この包囲を突破して作戦を実行するぞ!!」

バランの率いるバラステア軍は、樹海地帯に侵攻してカディス=ジークのアジトがあると
思われる地点を大軍で包囲していた。
「将軍!樹海は深く敵のアジトはまだ発見できません」
「カディス=ジークの奴らめ、隠れても無駄だ」
巨大な黒馬に跨ったバランは赤い鈍い光を放つ大剣を抜いた。
「くっくっく・・・・これは要塞の魔道窟にいる魔道士達につくらせたこのわし専用の魔
剣よ」
バランは大剣を小枝のように振り回す。
「魔界の邪神よ、このわしに力を貸すのだ!!!」
バランが赤い魔剣を天にかざすと、剣先から巨大な火柱が立ち上がる。
「カディス=ジークのやつらを焼き殺せ!!」
剣で十字を切ると、地獄の業火が樹海を燃え上がらせた。
(これで出てこざるを得まい)

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