バラステア戦記

第二十二話

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「なんというおぞましい薬なのでしょう・・・」
「心配はいりませんよ、この薬は最初はつけた時しか効き目がありませんが、何度も使っ
ているうちに体の感度は自然と高くなっていきます。そして陛下無しではいても立っても
いられない体となっていくのです。そんな時は陛下があなたを慰めてくれますよ」
リネは薄笑いしながらリンスを見ている。リンスほどの美しい女が男を求めて悶え狂う様
を想像しているのであろう。
「あなたの可愛い妹君・リリー様もこの薬を使われています」
「・・・・!リリーが・・・・!」
なんということか。あの可愛いリリーがこの薬を使われているとは・・・・きっとカルノ
アにひどい目に合わされているに違いない。リンスは姉としてリリーに何もしてやれない
ことに自分の無力さを感じた。そして希望の光が消え、目の前の世界が暗い暗闇に覆われ
ていくような錯覚に陥った。
「リリー様は陛下にこの薬を塗られ、今では狂ったように陛下の体を求めるそうでござい
ます。泣きながら陛下の胸にすがりつき、早く犯してくれ、早くイカせてくれと人前をは
ばからずに叫ぶそうでございます」
(ああ・・・・・・)
リンスは絶望するしかなかった。何故こんなひどい目に合わなければならないのか。あら
ためて自分の運命を呪うことしか今のリンスにはできないのである。
「さあ姫様もお試しください」
リネは悪魔の媚薬を手に取ると、それをリンスの秘部にべったりと塗りたくる。そして剥
き出しにされた可憐な乳首にも刷り込むように薬を塗っていく。
(体が汚されていく・・・・・・でも私は最後までアイルランガのリンス=ハル)
リンスは自分の大事な部分が除々に熱くなっていくのを感じた。そして今までに感じたこ
とのないほどの性欲の嵐が体の中に吹き荒れようとしている。
(リュウ・・・・・)
「さあ姫様、さっそく効き目がでてきたのではありませんか・・・・・?」
リンスの秘部は燃えるような疼きかたである。リュウの事を想って密かに自慰をしたこと
もある。リンスは自分の中に男を求める悪魔のような感情が眠っていることは知っている
のだ。だがリンスは最後の戦いをしようとしていた。囚われの身である自分に出来る最後
の戦い。アイルランガの姫としてバラステアに屈しない為の最後の戦いであった。
「いいえ・・・・私にはこの薬は効かないようですね・・・・私はアイルランガのリンス
=ハルです。用が済んだのなら着替えを持ってきなさい!」
リンスは平然を装い、リネに強く言い放った。
(この薬を塗られて平気でいるなんて・・・・・)
リネはリンスの姫君としてのプライドの強さに感嘆せざるを得ない。かつて囚われた何人
もの姫君達が、この薬を塗られた途端に人目をはばからずに自慰をはじめたのをリネは何
度も見ているのである。
(おもしろい・・・・逆に簡単に男狂いになるよりはこの方が調教のし甲斐があるという
ものだわ・・・・・)


 山賊・ガルサン一家の砦で足の治療を終えたリュウは、リンスを助ける為にバラシティ
へ向けて旅立とうとしていた。
「お頭、メイ、世話になったな」
「行きなさるかね」
「ガルサン、世話になりました・・・・・時間が無い。少しでも早くバラ・シティへ行か
なければ・・・・・」
「リュウ・・・・あなたの大事な人を、きっと助けてあげて」
「メイ・・・ありがとう」
リュウは騎馬に跨ると、なごり惜しくリュウの背中を見つめるメイを背に、寂風一陣、鐙
を蹴るとガルサン一家の砦を後にしてバラステア領を目指した。
(メイは初めて男に恋をした。だがこれで良かったのだ。・・・これで・・・・)
恋する男を見送る最愛の娘の頭を、ガルサンはそっと撫でてやった。


「陛下!カディス・ジークの奴らが今日も少数部隊で現れました。ゼキスードの守備隊と
小競り合いを続けています」
バランは首都郊外で起こっている反乱軍と要塞守備軍との戦闘の様子をカルノアに報告し
た。今や大陸ではバラステアに対抗できる国家はアイルランガの降伏によって無くなった
が、最近になって「カディス・ジーク」と名乗るレジスタンスがバラシティ周辺で暗躍す
るようになったのである。レジスタンスの部隊は、度々ゼキスード要塞の周辺で守備軍と
衝突していた。
「バラン・・・・おまえがいながら今だに奴らのアジトはつかめないのか?」
「それが・・・今だ場所を特定できておりません・・・・・」
バランはカディス・ジークの掃討部隊を指揮している。剛勇さでは並ぶ者無しのバランだ
が、レジスタンス部隊は反乱軍とは思えない武装と統率力を持っており、バランといえど
も簡単な任務ではなかった。
「私とリンスの婚儀までには何とかしてもらいたいものだな、バラン。敵のリーダーを捕
らえて婚儀の祝儀といたそうではないか」
「はっ」
「ゼキスード要塞も間もなく完成しようとしている。魔砲台が完成したなら、全世界はバ
ラステアの元に跪くであろう。レジスタンスなどにかまっている暇は無い。早々に片づけ
よ」
12層から成る超巨大要塞・ゼキスード要塞は、何万人もの奴隷がその工事に従事してい
る。そしてその完成はもう間近に迫っていた。
(まったく恐ろしい姿だぜ)
バランは窓から見えるゼキスードのシルエットを見てあらためて身震いしてしまう。
(あんなものを造って神様がおこらねえ訳がねえ。世界を焼き尽くす魔砲台だと?ここに
いて毎日平和に女を犯してりゃあいいものを、気がふれてるとしか思えねえな)

そして時を同じくして、やはり双眼鏡でゼキスードのシルエットを見ている者がいた。
彼は小高い丘の上に立ち、憎々しげに要塞を睨み付けた。
(あんなものを完成させるわけにはいかない)
彼の名はレッド=サーキュイス。バラステアに抵抗するレジスタンス部隊・カディス・ジ
ークのリーダーである。



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