ネイロスの3戦姫


最終話その.2 エピローグ 新たなる門出

  「姫様ーっ!!」
 3姉妹を呼ぶ声に、エリアス達は振り返る。
 「姫様ーっ、ご無事ですかーっ!!」
 走ってくる兵士達の先頭に、ライオネットの姿があった。ネルソンと一緒に宮殿に駆け
付けて来たライオネットだったが、足が遅かったので置いてきぼりになっていたのであっ
た。
 「ハアハア・・・よかった・・・無事だったんだ・・・」
 無事な3姉妹を見て安堵の溜息をつくライオネット。
 「エスメラルダ姫様・・・僕は信じてました・・・あなたが必ず勝利するって・・・う
うっ、信じてました〜っ。」
 感極まったライオネットが、泣きながらエスメラルダの元に駆け寄ろうとしたその時で
ある。
 「姫様ーっ!!」
 「のをっ!?」
 ライオネットの後ろから大勢の兵士達が押しかけてくると、ライオネットを踏み倒して
3姉妹の所へと集まったのであった。
 「ばんざーいっ、姫様ばんざーいっ!!」
 集まった兵士達は3姉妹を、そしてネルソンを胴上げして勝利を分かち合った。
 「みんなありがとうっ、本当にありがとうっ。」
 「みんなのおかげだよっ。ありがとうっ。」
 3姉妹の喜ぶ声が歓声と一緒に宙に舞った。
 喜び合う兵士と3姉妹の後ろでは、兵士達の足跡だらけになって伸びているライオネッ
トの姿が・・・
 「う〜ん・・・よかった〜、ひめしゃま〜。」
 そんなライオネットを、後から現れた白い狼のアルバートが前足でライオネットの肩を
叩いた。
 「クオーン。」
 ・・・お前って、ほんっとうにお約束な奴だな。
 そう言いながら情けなく伸びているライオネットを慰めるアルバート。
 「ジョージッ。」
 胴上げされていたルナが突然声を上げて地面に降りた。彼女の視線の先に、タンカに乗
せられて運ばれるジョージの姿があった。
 「大丈夫!?しっかりして!!」
 ルナは目を閉じているジョージの肩を掴んで揺さぶった。するとジョージの目がゆっく
りと開かれる。
 「う、ううん・・・」
 「よかった、生きてる・・・」
 「ルナ姫?」
 ジョージの顔に、ルナの流す涙が落ちる。
 「ジョージ・・・あたしを守ってくれたジョージ・・・あなたはあたしの白馬の騎士よ・
・・」
 ルナはジョージの頬を手でそっと覆い、口付けをした。
 「あたしが看病してあげる、早く元気になってね。」
 優しい天使様のキスに、ジョージの顔が真っ赤になった。
 「あ、あの・・・僕はその・・・」
 照れるやら、恥かしいやら、ジョージは傷の痛みも忘れてうろたえている。
 「このーっ、天使様の心を奪いやがったな、ニクイ奴めっ。」
 仲間の兵士達が羨ましがってジョージの頭を小突いた。
 「いてっ、やめろよぉ、あははっ。」
 「ウフッ。」
 そして仲間の兵士達と、ルナの喜びの声が響いた。
 「もう喋っちゃダメよ、傷が開くわ。」
 「は、はーい。」
 気遣うルナに、ジョージは中間達に運ばれながら笑って答える。
 「だいじょーぶですよルナ姫、コイツは俺達がたっぷりイジメてやりますからーっ。」
 「おいっ、イジメるってなんだよぉっ。」
 笑顔でルナに手を振るジョージと兵士達。
 「ジョージは無事だったのね、ルナ。」
 ルナの肩に、エリアスがそっと手を乗せた。
 「姉様・・・」
 ルナが振り返ると、ネルソンに肩を抱かれた姉が幸せそうに立っていた。
 「あなたも幸せをつかんだのね。」
 「ジョージは良い奴だ、きっとあなたを幸せにしますよルナ姫。」
 ルナと愛弟子の幸せを祝福するネルソン。
 「姉様・・・ネルソンさん・・・」
 幸せのエールを送るエリアスとネルソンに、ルナは感涙を流した。
 「あーん姉様ーっ。」
 喜びを実感し、ルナはエリアスの胸に抱きついて咽び泣いた。
 「もう、泣き虫なんだからルナは・・・」
 妹を抱きしめるエリアスの目にも涙が光っていた。 
 「よかったね、ルナ、エリアス姉様・・・」
 エリアスとルナの幸せそうな顔を見て、エスメラルダは右手で涙を拭って呟いた。
 もう何も言う事はなかった。幸せいっぱいの姉と妹を見ているだけで、エスメラルダの
心は満たされたから・・・
 不意に、エスメラルダの後ろからアルバートが現れて服を引っ張った。
 「ウオーン。」
 ・・・今度は自分が幸せを掴む番だろ?
 アルバートはそう言っていた。
 エスメラルダが振り向くと、兵士達に踏みつけられて伸びているライオネットの姿があ
った。
 「何こんな所で寝てるの、風邪引くよ。」
 ライオネットに声をかけるエスメラルダ。そして笑顔を見せながらライオネットの手を
取って起こした。
 「う〜ん・・・ひめしゃま・・・ご無事で何より・・・」
 目を回しながらヘラヘラ笑っているライオネットだった。
 「もう、しょうがないなー。ボクが目を覚ましてあげる。」
 エスメラルダはそう言うと、ライオネットを抱きしめてキスをした。
 「ん?・・・んうーっ!?」
 突然の事にライオネットのビン底メガネがずり落ちる。
 「ライオネット・・・好きだよ、君が大好きだよ。」
 「え、好きって・・・あの・・・」
 「君はどーなの?ボクの事好き?」
 エスメラルダの問いに混乱したライオネットだったが、鈍感なライオネットも全てを理
解した。
 そう、彼が1番望んでいた事、愛するエスメラルダに告白された事を・・・
 「姫様・・・これ・・・夢じゃないんですね?ぼ、僕の事好きだって・・・」
 「なんならもう一度言ってあげようか、好きだよライオネット。」
 ライオネットの顔に、満面の笑顔が溢れた。
 「姫様ーっ。僕も好きですっ!!あなたの事が・・・愛してますーっ!!」
 喜びいっぱいのライオネットとエスメラルダは、喜びながら抱き合った。
 「よっ、ご両人っ!!」
 集まった兵士達が拍手をして2人をはやし立てた。
 「もうっ、恥かしいじゃないの・・・」
 エスメラルダは、顔を赤くして照れている。
 「よーしみんな、ライオネット男爵も胴上げだーっ。」
 「わわっ、ちょっと君達・・・」
 兵士達はうろたえるライオネットを抱え上げて胴上げした。
 「ワッショイ、ワッショイ。世界一の幸せ者ーっ!!」
 「うわーいっ、ウレシイよー。」
 喜びいっぱいのライオネットが大きく宙に舞った。
 「エスメラルダ。」
 ライオネットが胴上げされている場所に、エリアスとルナが駆け寄ってきた。
 「幸せになれるわね、私達・・・」
 「そうだね・・・姉様、ルナ。」
 黒獣兵団との戦いで3姉妹は様々なものを失ったが、それ以上の事を彼女等は得ること
が出来た。
 よき伴侶と、幸せと言う掛け替えの無いものを・・・
  
 その頃、宮殿を望む山の中腹にいたヒムロが、眩しそうに目を細めて3姉妹の喜ぶ姿を
見ていた。
 「始めてでござるな・・・こんな気持ちで朝を迎えるのは・・・」
 闇の世界で生きてきた彼にとって、これほど清々しい朝を迎えた事はなかった。彼の心
を支配していた闇が、朝日と共に打ち払われていたのだ。
 「う・・・うん・・・ヒムロ・・・」
 ヒムロに抱き抱えられていたマグネアが、麻薬の禁断症状から開放され、目を覚まして
いた。
 「おお、我が君。気付かれましたか。」
 「ヒムロ・・・終わったのね・・・」
 宮殿から上がる歓声を聞いたマグネアが寂しそうに呟いた。
 「私は・・・バカな事をしていたのね・・・3姉妹にヤキモチ焼いて・・・愚かだった
わ・・・」
 涙ぐむ彼女の目には、もはや憎しみも嫉妬もなかった。ただ・・・悲しみと後悔の念が
漂っていた。
 「済んだ事にござります。それに3姉妹は我が君の事を許してくれ申した、全てを・・・
」
 「・・・そう。」
 ヒムロの言葉に、マグネアは静かに頷いた。
 「もう何も要らないわ・・・ヒムロ、お前だけいてくれればいい・・・私を連れていっ
て、私達だけの場所へ・・・」
 マグネアはそう言ってヒムロの胸に顔を埋めた。
 「承知致しました。参りましょうぞ、我が君。」
 ヒムロは笑顔を見せてそう言うと、マグネアと共に何処かへと去っていった。
 その後の2人の行方は誰にも知られる事はなかった。ただ、ずっと後になって3姉妹の
元に、マグネアらしい女が顔に傷を負った東洋人の男と人里離れた山村で仲睦まじく暮ら
しているのを見たとの情報がもたらされたが、3姉妹はその事を気には留めなかった。
 もうそんな事はどうでもいい事だったから・・・
 
 「さあ、帰りましょう、みんなの帰る場所へっ!!」
 「ボク達の希望の場所へっ!!」
 「あたし達の未来の場所へっ!!」
 「はいっ。」
 3姉妹の声が響き、兵士達は喜びの声で答えた。
 今までの事が悪い夢であったかのように、朝日は全てを浄化した。
 そして朝日は告げていた。未来が光に満ちている事を・・・。


ネイロスの3戦姫 END

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