ネイロスの3戦姫


第10話その.2 宮殿への突入  

 「カーロス司令ーっ。」
 逃げ惑う黒獣兵団達を掻き分け、3姉妹がカーロスの元に駆け付けて来る。その両側に
は、サーベルを手に3姉妹を守護する3人のデトレイド兵士の姿があった。
 「大丈夫ですか、司令。」
 負傷したカーネルを見て、剣を鞘に収めたエリアスが声をかけた。
 「助かりました姫様、来て下さったのですね。」
 肩と足のケガの苦痛に堪え、エリアス達の前に跪くカーネル。
 「大変っ、酷い怪我だわ。あなた達、早く司令を安全な場所へ。」
 出血のひどいカーネルを気遣い、エリアスは兵士に指示を出した。
 「い、いえ。掠り傷です、大事ありません。姫様方のご支援を致さねば・・・なんのこ
れしき、むむっ。」
 ロングソードで体を支え、気丈に立ち上がろうとするカーネル。だが、力尽きた彼は地
面に倒れた。
 「無理をしないで、さあ。」
 3姉妹はカーネルの手を取って助け起こした。
 「は、面目ありません・・・」
 申し訳ない顔で頷くカーネル。
 「後の事は我等にお任せください。必ずや姫様をお守りし、ブルーザーめを倒して参り
ます。」
 その声に振り向くカーネル。声をかけてきたのはダスティンだ。
 「君達は・・・ネルソン司令の部下か?」
 「そうであります。」
 尋ねるカーネルに、スミスとジョージも揃って返答する。
 「姫様の事を御頼み申す。この不肖カーネル、影ながら応援しておりますぞ。」
 「はいっ。」
 彼等は互いの手を取り、信頼を確かめ合った。
 「さあ、行こうよ。」
 エスメラルダの声に、3人は立ちあがる。
 「それでは。」
 カーネルに頭を下げ、3姉妹の後を追って走り出した。
 「デトレイド兵士・・・もっと早く味方になりたかったものだ・・・惜しい事だ。」
 部下達に付き添われ、カーネルはそう呟いた。
 
 「3姉妹が来たぞーっ、撤収ーっ!!」
 ネイロス軍突撃隊と交戦していた黒獣兵団の兵達が、3姉妹の姿を見た途端、一斉に宮
殿の中に逃げ帰っていった。
 「コラ、待てお前らーっ!!逃げてないで戦えーっ!!」
 遁走する兵達に、罵声を浴びせるエスメラルダ。
 「おかしいわね、こんなに簡単に引くなんて。」
 エリアスはそう呟いた。そして彼女の脳裏に、最初の戦闘の事が思い出された。
 先の戦闘では、引くと見せかけた黒獣兵団が不意打ちを仕掛けて来た為にネイロス軍は
惨敗を喫したのだ。あの時の二の舞は避けねばならない。
 「突撃隊はその場に停止っ。」
 エリアスは血気にはやる兵士達を制して指示を出した。
 「臆病者ーっ。さっさと出てこーいっ!!」
 「姫様、落ち着いて・・・」
 最前線で声を張り上げているエスメラルダが、兵士達に引きずられて後ろに下がった。
 「もう、あの子は・・・」
 兵士達になだめられている妹を見ながら、エリアスはやれやれといった表情で溜息を付
いた。
 「あ、姉様っ。どーして止まるのよっ。」
 興奮の収まらないエスメラルダがエリアスの元に駆けてくる。
 「あれを見て。」
 エスメラルダは、姉の指差す方向に目を移す。その先は宮殿の最上階に向けられている。
 「あ、あいつはっ。」
 最上階の窓には、鋭い視線で3姉妹を見据えるブルーザーの姿があった。その口元は邪
悪な笑いが浮かんでいる。
 「兵達が引いたのはブルーザーの作戦よ。突撃隊を宮殿に引き付けて銃撃を浴びせるつ
もりなのよ。窓を見なさい。」
 宮殿の窓を見ると、何人かの兵が銃を構えて下を伺っているのが見える。宮殿の真下に
来た突撃隊を銃で狙い撃ちするつもりなのだ。
 3姉妹との対決を望むブルーザーは、3姉妹が先陣を切って宮殿に飛び込んでくると読
み、邪魔な兵士達を銃撃で一掃しようと企んでいたのだ。
 「これじゃあ近づけないよ、どうしよう。」
 「そうね・・・」
 思案に暮れる一同に、ルナが声をかけてきた。
 「あたしに良い考えがあるわよ。」
 ルナの言葉に、姉達は妹に目を向けた。
 「なに?良い考えって。」
 「それはね、あーして、こーして・・・」
 姉とダスティン達に耳打ちするルナ。一同、彼女の話に頷きながら聞き入っている。
 「なるほどっ、それなら奴等を・・・」
 「手は速く打たなければね。全軍、バリケード付近まで撤退っ!!」
 エリアスが手を上げて兵士達を引き上げさせた。
 「へへ、ビビリやがったか?」
 窓から外を見ていた銃撃兵が勝ち誇った様に呟いた。
 バリケード付近は暗がりになっており、連合軍の様子を詳しく伺うことが出来ない。銃
撃兵達は連合軍の突入に備えて銃を構えた。
 「奴らが動いたぞっ。」
 仲間の声に、銃撃兵達は外に向けて銃を構える。
 バリケード付近に集結していた突撃隊が、ルナを先頭に再び突撃してくるのが見える。
 「来やがれ、ハチの巣にしてやる・・・」
 薄笑いを浮かべる銃撃兵。
 突撃隊は全員、黒いマントを羽織り、一丸となって突っ込んでくる。そして銃の射程距
離にまで突撃隊が進んできた。
 「みんな、とまれーっ!!」
 突如、ルナが兵士達に指示を出し、全軍一斉に止まった。そして、羽織っていたマント
を翻した。
 「!?・・・あれは!?」
 驚く銃撃兵。突撃隊のマントの下から、隠し持っていた十字型の武器が取り出された。
それは石弓であった。
 「うてーっ!!」
 ルナの号令一過、突撃隊は一斉に石弓で窓の銃撃兵を狙い撃ちする。
 強力な石弓の直撃を受けた窓ガラスが粉々に砕け、中の兵達が次々倒れた。
 「よーしっ、次は弓隊構えてっ。いっけーっ!!」
 後方に控えていた弓隊が、矢の先端に火を付けて矢を放った。次々繰り出される火矢が
破られた窓に飛びこむ。
 「わあ、あちちっ!!」
 「火を消せっ!!は、はやくーっ!!」
 窓から火の手が上がり、銃撃兵達は大混乱となった。
 「いまよ、全員とつげきーっ!!」
 ルナの声に、全兵士が宮殿に向かって進撃を開始する。宮殿の外側は連合軍の兵士達に
よって完全に包囲された。
 「丸太を持って来いっ。扉を破るんだっ。」
 正面入り口に集まった兵士達が鉄製の扉を破ろうと懸命になっている。だが、重厚な扉
を破るのは困難を極めた。
 「みんな下がって。」
 扉の前に現れたエリアスが、太陽の牙を手に持って身構えた。そして美しい目がカッと
開かれる。
 「てやああーっ!!」
 稲妻の様に剣を振りかざし、素早く鞘に収めた。
 チィーンッ。
 刃が鞘に収まった瞬間、鉄の扉にピシッと亀裂が走り、轟音と共に扉は崩れ落ちる。
 「おわっ!?」
 入り口を守っていた兵達が、崩れ落ちた扉を見て腰を抜かした。
 もうもうと立ちこめる土煙の向こうには、エリアスと連合軍が悠然と立っている。その
姿を見た兵達は、クモの子を散らす様に遁走した。
 「突撃ーっ!!」
 開かれた扉から、エリアスを先頭に兵士が雪崩れ込んだ。正面以外の入り口も、押し寄
せた連合軍の手により破壊され、兵士達が次々乗り込んでくる。窓からも、はしごをかけ
た兵士達が続々飛び込んでくる。
 宮殿内は大混乱に陥った。
 怒声と罵声。そして様々な声が飛び交い、黒獣兵団と連合軍の両軍が各所で激突する。
 デトレイドの民から搾取した金品を駆使して作り上げたダルゴネオスの宮殿は、瞬く間
に修羅場と化した。
 「きゃあーっ、たすけてーっ!!」
 宮殿内に取り残されていたメイドや召使い達が、乱入してきた連合軍に怯え、逃げ惑っ
ている。
 「ひいいっ、ど、どうか命だけは・・・」
 床に倒れたメイドの1人が、エリアス達を見て震えている。
 「安心なさい。あなた達を助けに来たのよ。」
 エリアスはメイドの手を優しく取り、抱き起こした。
 「宮殿内の民間人を保護せよっ、巻き添えにならない様に外へと誘導しなさい。」
 戦闘に関係無い人々の身柄を守るため、エリアスは声を上げて兵士達に指示を出した。
 「こっちだっ、早く早くっ。」
 ダスティンやスミス達も加わって民間人を外へと連れ出した。
 その有様を見ている黒獣兵団の銃撃兵が、物陰からエリアスを銃で狙っている。
 「へへっ、お前のオッパイに鉛弾をお見舞いしてやるぜエリアス。」
 照準がエリアスの胸元に定められた。
 「誰のオッパイに何をお見舞いするっての?」
 不意に銃撃兵の後ろから声がしてきた。
 「なに・・・ぐっ!?」
 振り返った銃撃兵の顔面に、矛の一撃が叩きつけられる。銃撃兵は悲鳴を上げる間も無
く倒された。
 「エスメラルダっ。」
 エリアスのピンチを救ったのは、別ルートで宮殿に乗り込んでいたエスメラルダだった。
 「ふう、間一髪だったね。」
 ドラゴン・ツイスターをクルッと反転させ、エリアスの元に駆けて来る。
 「助かったわ。」
 「いいよ。それより・・・残っていた召使いに聞いたんだけど、メイドの女の子が大勢
上の階に連れていかれたって話だよっ。」
 「なんですって!?」
 エリアス達は驚愕した。なおも抵抗を続けようとする黒獣兵団は、人質を取って連合軍
を迎え討つつもりらしい。
 「早く行こうよ、大変な事になるよ!?」
 「わかった、あなた達は民間人の保護に努めなさい。」
 エリアスは兵士達に指示を出すと、踵を返して上の階に向かって走り出した。その後を、
エスメラルダとルナ。そしてダスティン達が続いた。
 
 「ひいっ、いや・・・たすけてーっ!!」
 宮殿の上階部分から、絹を裂くような悲鳴が上がった。その数は1人や2人ではない。
かなり多数の人質が捕らわれている。
 「今の声は・・・」
 兵の撤退した階段を上りながら、エリアスが声のした方向に目を向けた。
 「連れていかれた女の子達に間違い無いね。あいつら・・・なんて卑怯なんだっ。」
 エスメラルダが悔しそうに呟く。
 「上の階で人質を取って立て篭もりそうな場所は?」
 ダスティンに尋ねる。
 「はい、5階の中央にホールがあります。多分そこに逃げこんでいると・・・」
 ダスティンがそこまで言いかけた時、
 「あぶないっ!!」
 叫んだエリアスが全員を止まらせた。チューンッと音が響き、弾丸が後ろの壁に当たっ
た。
 エリアス達の進んでいた階段の踊り場から、数人の兵達が飛び出してきたのだ。
 「このーっ!!」
 ルナの拳銃が火を吹き、先頭にいた兵に一撃を加えた。そしてサーベルをかざしたスミ
スとジョージが残りの兵に飛びかかる。兵達はサーベルの剣戟を浴びて踊り場に倒れた。
 「早く行きましょう。雑魚に構っている暇はありません。」
 振りかえるスミスがエリアス達を促した。
 「ええ。」
 呻き声を上げて転がっている兵達に目もくれず、3姉妹はホールに向かって走って行っ
た。
 途中、何人かの兵と交戦したが、その全てを撃破して進んでいく。
 「こっちです。」
 ダスティンの案内でホール前にたどり着いた3姉妹は、閉ざされた扉の前に立った。
 「カギがかかってるね・・・んしょ、んしょ・・・ああ、もうっ!!」
 扉のノブをガチャガチャと回すが、らちがいかない。
 「でえーいっ!!」
 カギのかかった扉にエスメラルダの蹴りが炸裂し、木製の扉が吹っ飛んだ。
 ホール内に乗り込む3姉妹。
 「あっ・・・こ、これはっ。」
 ホール内を見たエリアス達が驚愕の声を上げた。



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