ネイロスの3戦姫


第8話その.1 3姉妹救出作戦  

劣悪なる仇敵セルドックと、女狂戦士のギルベロ、ラーガの2人を倒し、催眠術の恐怖
を克服したエスメラルダは、ライオネットとマリオン、パメラの3人を伴って悪夢の宮殿
からの脱出に成功した。
 同じ頃、同様に黒獣兵団の縛めから脱出していたエリアスは、白狼アルバートと共に逃
走していた。
 しかし、彼女等を追う黒獣兵団と暴君ダルゴネオスの追撃が迫っている。しかも、彼女
等の愛する妹ルナは、今だダルゴネオスに囚われたままである。
 熾烈を極める状況の中、3姉妹を救出するべくダルゴネオスの宮殿に向かっている兵士
の一群があった。
 それは、黒獣兵団のネイロス攻略部隊を撃破したネルソン率いるデトレイド民兵軍と、
彼等と合流したネイロス軍主力部隊であった。

 「なにいッ〜!?攻略部隊が全滅だとォ〜!?」  突如、ダルゴネオスの宮殿からブルーザーの怒声が響き渡った。  エスメラルダがセルドックを倒してから、左程時間は経過していないが、時刻は既に午 前12時を回っている。  静寂の闇夜に眠る全ての者が目を覚まさんばかりの声を張り上げるブルーザーに、震え ながら頭を下げている黒獣兵団の兵達。  彼等は全員ズタボロ状態で、内1人は地獄の烈火を浴びせられたが如く、服も髪の毛も 黒焦げになっていた。  彼等はブルーザーがネイロスに送り込んでいた攻略部隊の兵達であった。  「何があったんだっ、どーいう事か説明しろっ!!」  「は、はい・・・実は・・・」  頭を上げた兵は、全ての経緯を話した。ネルソン率いる民兵軍が反旗を翻し、攻略部隊 が撃破された事を。そしてネイロス軍と手を組んだ彼等が宮殿に迫っている事を。  彼等は民兵とネイロスの連合軍に完膚なきまでに叩きのめされ、命からがら宮殿まで逃 げ帰ってきたのだ。  黒焦げの兵は大砲の砲撃手で、投石器による火炎瓶攻撃によって火ダルマにされていた のであった。  「デトレイド民兵軍が・・・裏切っただとっ!?」  「・・・不意打ちでした・・・あいつら・・・俺達に従う振りをしながら、いきなり攻 撃してきやがったんです。攻略部隊の大半は奴らに撃破され、スタン副長もネルソンに倒 されました。」  「スタンまで!?、くっ・・・ネルソンの野郎・・・」  ブルーザーは悔しそうに手を握り締めた。  全くの予想外であった。司令官の職を解任されていたネルソンは当初、逆らう事も異議 を唱えることもせず、従順にブルーザーやダルゴネオスに従っていた。  だが、それはあくまでも表向きの事で、ダルゴネオスに不平を抱く民兵軍を密かに指揮 し、逆襲の機会を伺っていたのだった。  ネルソンを無能な男と侮ったのがブルーザーの過ちであった。だが、今更悔やんでも遅 かった。現に攻略部隊として参加していた黒獣兵団の3分の2の兵達は、民兵軍とネイロ ス軍によって壊滅させられている。後の残留組は兵力の足しにもならないため、迫り来る 連合軍に対抗する手立てが無かった。  「くそっ・・・どうすりゃいい・・・」  思案に暮れるブルーザーの元に、血相を変えたダルゴネオスが姿を見せた。  「ぶ、ブルーザーッ!!聞いたぞっ、ネイロス攻略部隊が撃破されてネイロス軍と民兵 軍がここに向かっているそうだな!?何たる失態だ・・・全部貴様のせいだぞ!?どーし てくれるっ。」  「ちっ・・・こんな時に・・・」  喚くダルゴネオスに、鬱陶しそうな目をするブルーザー。  「まあお待ちください陛下。こっちはネイロスの戦姫を人質にしているのです。奴等と て易々と我々を攻撃は出来ません。落ち着いて行動すれば対策の手立てはあります。」  「バカを言えっ、お前の無能な手下がエリアスを取り逃がしたとか言って騒いでおった わっ。エリアスに逃げられたクセに何が人質だっ!!」  「それはお互い様でしょう、先程、女狂戦士の2人が私の所にボロボロ状態で現れて来 ましたよ。セルドック殿下がエスメラルダに倒されたそうですな。しかも仲間を引き連れ て脱走したとか、それはどう御説明されるので?」  「う・・・それは・・・余のせいではないぞ・・・あのバカ息子の責任だ。それについ て四の五の言われる筋合いは無いっ!!」  息子の失態を棚に上げ、顔を真っ赤にして反論するダルゴネオス。  「逃げた奴等は放っておきましょう。それより・・・まだ戦姫は残っているではありま せんか。最後の1人が・・・」  ブルーザーの目がギラリと光った。  「ルナか?あ、ま、待て・・・ルナは余の・・・」  ルナの名前を聞くなり、うろたえるダルゴネオス。  「今は手を拱いている暇はありませんよ陛下。ルナを人質にすれば奴等とて大人しくな る筈・・・3姉妹の末妹ルナこそ我等の最後の切り札でありますぞ。」  「むむ・・・仕方ないな・・・」  ブルーザーのいう事はもっともだ・・・大切な玩具であるルナを人質にしなければ、ネ イロス軍や民兵達に対抗する手立ては無い。事の次第を認識し、渋々了解するダルゴネオ ス。  「ご理解いただけて嬉しゅうございます。では、早速ルナをお連れ願いますかな?」  「言われなくとも判っておるわっ、おいっ、早急にルナを連れて来い。ルナに手を出し たら承知せんぞっ!!」  手下達に罵声を浴びせるダルゴネオスを見ながら、ブルーザーは不敵に笑った。  「ふふん、ネルソンめ、いい気になっていられるのも今のうちだ。この借りは必ず返し てやるからなっ。」    その頃、ネイロス攻略部隊を撃破したネルソンは、エリアス達3姉妹の救出部隊を率い て宮殿のすぐ前まで来ていた。  その場所は当初黒獣兵団達が逗留していたキャンプ地であったが、兵達が宮殿に非常収 集をかけられているため、今はもぬけの殻である。  「ネルソン司令、潜入隊が戻ってきました。」  部下の声に、救出部隊と共に暗闇に身を潜めていたネルソンが頭を上げた。彼の前に潜 入隊の兵士が姿を見せる。  「宮殿内の状況は?」  「はっ、宮殿内は俄かに騒がしくなっております。どうやら我々が攻略部隊を撃破した 事が伝達された様子です。」  「そうか。」  落ち着いた表情で報告を聞くネルソン。  「それとネイロスの姫君のうち、エリアス姫とエスメラルダ姫の両名が逃亡に成功し、 先程まで黒獣兵団とダルゴネオスの手下が彼女等の行方を追っておりましたが、今は捜索 が一時中断しております。」  潜入隊の話に、一同から、おおっと声が上がった。  「これはいい知らせですよ、もしかしたら両名とも宮殿の外に逃げ出している可能性も あります。そうだったら楽勝ではありませんか。」  ネルソンの傍らにいたホーネット中隊長が喜んでそう言った。だが、ネルソンは無言で 首を横に振る。  「いや・・・エリアス姫とエスメラルダ姫は、まだ宮殿内に潜んでいる筈だ。囚われて いたのは3人、末妹のルナ姫が残っているだろう?」  「あ・・・」  ハッとするホーネット。  「あのエリアス姫とエスメラルダ姫が、妹を見捨てて逃亡を図ったりはしない。危険を 承知で囚われている妹のルナ姫を助けに行くだろう。そして問題は現時点で彼女等がどこ に潜んでいるかだ。」  一同ネルソンに向き直る。  「いくら武勇に優れた戦姫3姉妹と言えど、多数の敵を相手には限界がある。早急に彼 女等を探し保護する事が最優先だ。」  ネルソンの言葉に一同頷く。  「警護の薄い個所は?」  「西の入り口です。」  「よし、潜入後は各自、班ごとに分かれて捜索開始する。」  「はいっ。」  ネルソンの号令一過、救出部隊は混乱によって警護の薄くなっている西の入り口を目指 した。    「急げーっ、ネイロス軍が攻めてくる前に体制を整えるんだっ!!」  宮殿内では黒獣兵団の兵達が慌しく走り回っていた。攻略部隊がまさかの敗退を喫した 事で、彼等の混乱は極みに達していた。  その混乱に乗じ、ネルソン達は西の入り口からの潜入に成功した。  「スミスとダスティンは2班、3班を率いて西側の捜索を、東側は私とホーネットの1 班があたる。残りは宮殿の裏に回れ。」  「はっ。」  ネルソンの号令により各班に分かれた救出隊は一斉に散っていった。    混乱している宮殿内の一角では、数人の黒獣兵団の兵が戦闘準備を急いでいた。  「信じられんな・・・スタン副長がやられたなんてよ。」  「ああ、民兵どもに不意打ちを食らったそうだ。それに民兵軍はネイロスの奴等と手を 組んだらしい。」  鎧を着ながら攻略部隊と民兵軍の事を話している。  「それにしても、ネルソンの野郎は食えねえ奴だぜ。能無しと思わせといて不意打ちを 食らわすなんてよ。」  「まったくな、来るなら来やがれってんだ、クソネルソンめ。」  苦々しく話をしている兵達の背後に、人影が姿を見せた。  「クソネルソンならここにいるぞ。」  「あんだって?」  振りかえる兵。その顔面に鉄拳が飛んできた。  「ぎゃっ!!」  血を吐いて吹っ飛ぶ兵に、仲間の兵達はギョッとした。兵達の前に姿を見せたのは民兵 軍総司令官ネルソンだ。  「不意打ちはお互い様だろう。わざわざ出向いてやったんだ、もっと嬉しそうな顔をし たらどうだ?」  「この野郎・・・うっ?」  銃を身構えようとした兵達の横から、数人の民兵軍兵士が飛びかかってきた。手に手に 剣を持った民兵は、怯んだ黒獣兵団達に剣をつき付けて動きを封じた。  「うぐ・・・」  「串刺しになりたくなかったら大人しくしろ。」  凄むネルソンの声に、黒獣兵団の兵達は両手を上げて降参する。  「よーし、ホーネット。奴等から武器と鎧を奪え。」  「了解。」  ホーネットが素早く兵達から武器と鎧を奪い、仲間の兵士に手渡した。兵士達は奪った 鎧と武器を手早く装備する。それにより、ネルソン達は黒獣兵団の一員に成りすました。  「ご協力に感謝する。それでは失礼。」  ネルソンは、手足を縛られて転がっている兵達に一瞥をくれると足早に去っていった。    「おいっ、エリアスを見なかったか!?」  「知りませんよ・・・それより戦闘準備はされてるんですか。」  「戦闘準備なんぞ知るかっ!!」  戦闘準備に明け暮れる兵達の中に、エリアス捜索を続行している人物の姿があった。  それは最初の戦闘でエリアスに倒された特攻隊の小隊長だった。エリアスに胸を切りつ けられ、大恥をかかされた小隊長は執拗なまでにエリアスに固着していた。エリアスが逃 走したと知ってから、戦闘準備もそっち退けでエリアスの行方を追っており、余りの固執 振りに、手下達も呆れて相手をしなくなっていたが、それでも小隊長は諦める事無くエリ アス捜索に専念している。  「エリアスめ・・・どこに逃げても必ず見つけてやるからなっ!!」  悔しそうに呟く小隊長は、目を血走らせて辺りをうろついていた。その時である。  「・・・先日我々が助けたライオネットとか言う男が先に潜入していると言うのは本当 ですか?」  「ああ・・・エリアス姫達を助けるんだとか置手紙に書いていたからな。彼の援助によ ってエリアス姫とエスメラルダ姫が脱出に成功したのは間違い無い・・・」  小隊長の耳に、ヒソヒソ声が聞こえてきた。物陰から様子を伺う小隊長は、数人の男達 が戦闘準備とは関係ない話しをしている事に疑問を抱き、話しに聞き耳を立てる。  男達は黒獣兵団専用の黒い鎧を着ているが、全員見かけない顔だ。  「なんだあいつらは?」  小隊長はネルソンの顔を知らない。だが、彼等が黒獣兵団の一員でない事は、頭の鈍い 小隊長にも理解できた。  「フン・・・エリアスを助けに来たネイロスの奴等ってトコか。ちょうどいい、あいつ 等にエリアスを探させるとしよう。少数部隊で乗り込んでくるとは・・・度胸がいいんだ か、ドアホか・・・」  少ない頭を絞った小隊長は、ネルソン達を泳がせてエリアスを探させようと考えたので ある。  彼の脳裏に、エリアスを捕らえ、ネルソン達を一網打尽にする算段が出来あがった。彼 にしてみては見事な考えであった。


次のページへ BACK 前のページへ