ネイロスの3戦姫


第7話その.2 目覚めよアルバート  

 ネイロスの城でデトレイド民兵軍が黒獣兵団と戦っている頃、セルドックに痛めつけら
れていたライオネットが目を覚ましていた。時刻はもうすぐ正午になろうとしている。
 「うう・・・ん・・・あいてて・・・」
 全身をハンマーで殴られ、アザだらけになっているライオネット。
 縄で縛られていた筈だったが、今は縄を解かれ自由に手足を動かす事が出来た。でも全
身に走る激痛のため、動かせる範囲は限られていた。
 「あ・・・メガネ、メガネ。」
 愛用のビン底メガネが無い事に気が付いて床を探っていると、手が冷たい鉄格子に触れ
た。
 「鉄格子って事は・・・牢屋の中か。」
 近眼のため、遠くの物はよく見えないが、牢屋の中には自分の他に2人いる事がわかる。
その2人は軍用犬に獣姦されていたマリオンとパメラの2人であった。
 「気が付きましたか?」
 ライオネットの耳に、鳥カゴに閉じ込められていた娘の声が聞こえた。
 「その声は、えーっと・・・確かパメラだったっけ?君はマリオンの友達だったのかい。
」
 「そうです、私達は幼なじみなんです。マリオンはおばあさんが、私は両親が税金を払
えなかったので身代わりに連れてこられたんです。それより、あなたは大丈夫ですか?」
 「うん、何とかね。」
 答えるライオネット。その横にボンヤリとではあるが、マリオンの姿も見えた。2人と
も全裸のまま毛布に包まって床に座り込んでいる。
 「痛くありませんか?参謀さん。」
 マリオンがライオネットを心配して声をかけてきた。
 「2人とも・・・すまない、こんな事に巻きこんで・・・」
 謝罪するライオネットを見て、少しだけ辛そうな目をするマリオン。
 「いいんです、あたしがドジだっただけですから。」
 「本当にゴメン。」
 慰めの言葉はかえって辛い。ライオネットは2人にもう一度謝罪した。
 「ところで、姫様は一体どこに・・・」
 「エスメラルダ姫なら、さっきセルドックに連れていかれました。今どこにいるかはわ
かりません。」
 「そうか・・・」
 悔しそうにうなだれるライオネット。
 「それと、アルバートでしたね、あなたと一緒にきた白い狼なんですけど・・・」
 暗い口調のマリオンに、ライオネットはハッとした。
 「あ、アルバートがどうかしたのか!?」
 「それが・・・網に閉じ込められたまま動かないんです。私達が起きてからずっと見て
いるんですが、ピクリともしていません。」
 「なんだって・・・まさか・・・」
 相棒の異変にうろたえるライオネット。アルバートは昨夜、警備兵に散々痛めつけられ
ていた。もしかしたら・・・嫌な予感がライオネットの脳裏によぎる。
 「アルバートはどこに!?」
 「あっちです。」
 振り返ると、網で捕らわれているアルバートの姿がボンヤリ見えた。
 「アルバートッ、起きろっ!!」
 相棒を呼ぶライオネットだったが、アルバートはそれに答えない。確かにアルバートは
動かなくなっていた。床に横たわったままピクリともしない。
 「アルバートッ!!アル・・・」
 「よう、何騒いでんだ?」
 不意に拷問室の扉が開き、セルドックと一緒にライオネット達を痛めつけた警備兵が姿
を見せた。
 「お前は・・・」
 警備兵を見たライオネットが声を詰まらせて振り返った。
 「アルバート?ああ、あの犬ッコロかよ、動かなくなってるじゃねーか。」
 ニヤニヤ笑いながらアルバートに近寄る警備兵。そして横たわったままのアルバートを
足でグリグリ踏み躙った。
 「フッ、残念だったな。このクソ犬、くたばってるぜ。」
 「う、ウソだ・・・」
 ライオネットの顔からサーッと血の気が失せていく。
 「無理も無いわ・・・あれだけ痛めつけられたんですもの・・・」
 絶望的なマリオンの言葉に、ライオネットは力無くその場に座り込む。
 「ウソだろ・・・アルバート・・・お前がそんな・・・」
 「うそじゃねーぜ、ほれ。」
 ライオネットの前に、網に包まれたままのアルバートがぶら下げられた。
 「あ、ああ・・・」
 涙で霞むライオネットの目に、動かなくなったアルバートの姿が映った。鉄格子から手
を出しアルバートの体に触れる。
 「おい、起きろよ・・・寝てるんだろ?ほら、目を覚ませよ・・・」
 ライオネットの願いも空しく、いくらアルバートを揺すっても反応は無い。深い悲しみ
がライオネットを打ちのめした。
 「アルバートオォッ、わああっー!!」
 泣きながら鉄格子を激しく揺するライオネット。
 「はっ、犬1匹に何わめいてんだよ、おめでたい奴だぜ。」
 嘲り笑う警備兵は、アルバートを包んでいる網を背中に背負い、ライオネットに背を向
けた。
 「待てっ、アルバートを返せっ!!」
 「ほざいてなメガネ野郎、こいつは俺が丁重に葬ってやるぜ。ゴミ捨て場にな、わはは
っ。」
 高笑いを上げて拷問室を出て行く警備兵。
 「貴様ーっ、よくも・・・よくもアルバートをっ!!アルバートの仇は必ず討ってやる
からなっ、覚えてろっ!!」
 「そうかい、忘れとくぜ。あばよ。」
 中指を立て、警備兵は扉を閉めた。
 「うう・・・」
 「・・・もう泣かないでください。」
 泣きながら床に伏せるライオネットに、マリオンとパメラが近寄った。
 「あいつは・・・ルナ姫様の友達だったんだ・・・親とはぐれて行き倒れていたチビ狼
のアルバートを見つけたルナ姫様が、夜も寝ないで看病して・・・良い奴だった・・・僕
にもなついてくれてた。それなのに・・・僕は・・・ルナ姫様に何て言えばいいんだ?ル
ナ姫様に合わせる顔がないよ・・・」
 「ライオネットさん・・・」
 泣きじゃくるライオネットに、マリオン達は慰めの言葉が見つからなかった。
 
 「重てえな・・・クソ犬め。」
 アルバートを背負っている警備兵は、愚痴をこぼしながらゴミ捨て場に向かっていた。
 「よっこいしょ、と・・・」
 ゴミ捨て場にアルバートを投げ出す警備兵。
 「ふん、ざまあねーぜ。」
 そう言いながら、アルバートを包んでいた縄を外した。ぐったりとしているアルバート
は、目を伏せたまま動かない。
 「ん?なんだこれ。」
 警備兵の目に、アルバートの背中に括り付けられている布袋が映った。それはアルバー
トの主人、ルナの所有している拳銃を入れた布袋であった。
 「こいつの飯でも入ってるのかな、それとも・・・」
 警備兵は呟き、布袋に手を伸ばした。その時である。
 「グルル・・・」
 閉ざされていたアルバートの口から唸り声が響き、目がカッと開かれた。
 「!?・・・う、わああっ。」
 警備兵は叫んだ。そしてアルバートの体が跳躍し、警備兵に踊りかかった。鋭い牙が光
り、警備兵の喉笛を切り裂いた。
 「ぎゃああーっ!!」
 血しぶきが飛び、警備兵は倒れる。
 「グワォーンッ!!」
 思い知ったかっ・・・口に鮮血を滴らせ、アルバートは吠えた。
 アルバートは待っていたのだ、自分の身が自由になるこの瞬間を・・・動けなくなった
振りを装い、じっと耐えていたのであった。
 「ひいいっ、痛えよ〜。」
 「ガウウ・・・」
 地面に転がった警備兵の襟首を咥えたアルバートは、ゴミ捨て場まで警備兵の体を引き
ずって放置した。
 「まてこのクソ犬・・・俺はゴミじゃねえ・・・んぶっ!?」
 アルバートは警備兵の顔に後ろ足で砂をかける。
 「ウォンッ。」
 そこで寝てろっ・・・そう言い捨ててアルバートは駆けていった。親友ライオネットと、
そして・・・親愛なる主人のルナを助ける為に・・・







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