ネイロスの3戦姫


第4話その5.踏みにじられた希望  

  「うへへっ、もっとケツ上げろ。」
 「あう、あひ・・・」
 黒獣兵団のキャンプ地の端にある掘建て小屋から、雑兵に犯されているエリアスの喘ぎ
声が聞こえてくる。
 今やエリアスは、黒獣兵団の性欲処理の奴隷となっていた。
 手錠をはめられ、足首は鉄球の付いた鎖で繋がれており、逃げ出す事も抵抗する事も出
来ない状態である。
 「早くしろよ。いつまで粘ってるんだ、さっさと代れ。」
 「急かすなよ、もうじきイクからよ・・・それそれっ。」
 「うう・・・はっ・・・?」
 後ろから激しく攻められているエリアスの耳に、泣き叫ぶ女の声が聞こえてきた。
 強姦されている若い女は他にもおり、女の悲鳴など珍しくも無い。だが、その声はエリ
アスの知っている声だった、いや・・・忘れるはずの無い声であった。
 「こ、この声は・・・!!」
 そう呟いたエリアスは、自分を強姦している兵を突き飛ばした。
 「のわっ?何しやがる、このアマッ。」
 兵に構わず、鉄球を引きずって小屋の窓に駆け寄ったエリアスは、窓を開けて外を見た。
すると・・・
 「座ってんじゃねぇ、さっさと歩けオラッ。」
 セルドックが地面にうずくまっている赤毛の若い女を、鞭を振るって責めたてていた。
 「ひいい・・・ゴメンなさい・・・ゆるしてくださいいっ。」
 「許してだと〜、てめえは犬なんだよっ、犬が喋るかよっ!!」
 許しを乞う女を、容赦無く鞭打つセルドック。
 全裸の女は、頭に犬の耳を模した飾りと、腰にシッポが付けられており、酷く怯えた様
子で泣きじゃくっている。
 「まさか・・・そんな・・・」
 怯えている若い女の顔を見てエリアスは絶句した。その女は妹、エスメラルダだったの
だ。
 「エスメラルダーっ!!私よーっ!!エスメラルダーっ!!」
 声の限りに妹を呼ぶエリアス。
 「こいつ・・・さっさとこっちに来やがれっ。」
 エリアスを強姦していた兵達が、叫ぶエリアスに近寄ろうとした時である。不意に扉が
開いて、セルドックが入ってきた。
 「あ、セルドック殿下・・・」
 慌てて敬礼する兵達。
 「おう、励んでるじゃねーか。結構結構。」
 頷きながら小屋に入ってくるセルドックの手には鎖が握られており、その先で首輪に繋
がれたエスメラルダが、引きずられる様にして入ってきた。
 「エスメラルダっ、しっかりして・・・エスメラルダ?」
 ガタガタ震えているエスメラルダに駆け寄ったエリアスは、妹の様子がおかしいのに気
が付いた。
 「どうしたの?私よ、判らないのっ!?」
 「あう・・・あうう・・・」
 そこにいるのは、エリアスが知っている勇猛な妹ではなかった。まるで魂を抜き取られ
たかのように恐怖に震えている。
 そのエスメラルダの目は極度に怯えており、姉の顔すら理解できない有様だ。
 「これは・・・何をしたの・・・エスメラルダに何をしたのっ!!」
 セルドックを睨んだエリアスは、鋭い口調で問い詰めた。
 「ふふん、教えてやろうか?催眠術でエスメラルダの心に俺様に対する恐怖心を植え付
けたのさ。今のコイツは勇ましい戦姫なんかじゃない。俺様の可愛いメス犬なのさぁ〜、
ギャハハ!!」
 「う、うそよ・・・そんな・・・」
 「嘘じゃねーよ、おい、3回まわってワンと言え。」
 「・・・わ、わん・・・」
 セルドックに命じられるまま、その場で回って犬の真似をするエスメラルダ。
 「ああ・・・そんな・・・わああーっ!!」
 変わり果てた妹の姿に、エリアスは絶叫を上げて座り込んだ。
 「うひひー、悔しいか、悲しいかっ。お前達に明日なんかねーんだよ、ここで奴隷とし
てコキ使ってやる、光栄に思うんだな。ウヒャヒャッ。」
 「なんですって・・・」
 下劣な声で笑うセルドックに、怒りを露にするエリアス。
 「そうそう、ルナとか言ったな?お前達の妹が昨日ここに連れてこられたそうだ。今頃
オヤジのオモチャにされてるだろうよ。変態ロリコンのオヤジにイジメられるんだ、なん
て、かわいそーなルナちゃん。」
 「や、やめてーっ!!ルナを返してーっ!!」
 叫びながらセルドックに飛びかかろうとしたエリアスを、背後にいた兵達が取り押さえ
た。
 「イヒヒッ、さっきの続きをしようぜエリアスちゃん。」
 「は、はなしてぇっ!!はなしてぇーっ!!よくもエスメラルダをっ、よくもルナをー
っ!!」
 小屋に悲しきエリアスの叫びが響く。
 「せいぜい足掻きな、ヒャハハーッ。」
 嘲りの声を残し、セルドックはエスメラルダを引きずって小屋を後にした。
 「あう、あああ・・・」
 泣きながらエリアスに助けを乞うエスメラルダは、抵抗できないまま、セルドックに連
れて行かれる。
 セルドックとエリアス達の成り行きを、近くの木に隠れて見ていたヒムロはフッと溜息
をついた。
 「催眠術をかけたのは拙者なのに・・・他力本願の鑑のような男でござるな。ま、あの
サド殿下の事、いたしかたあるまい・・・戦姫を蹂躙せよとの我が君の命は達成致した。
拙者の仕事は終わったでござる。」
 木の枝からコウモリの様にぶら下がっていたヒムロは、体を反転させ、いずこかへと去
って行った。
 奈落の底へ蹴落とされた3人の戦姫達・・・
 もはや3人に希望は無くなったのだろうか?否、希望は失われていなかった。
 その頃、ダルゴネオスの宮殿に向かってひた走る1人の男と白い狼の姿があった。
 その男と狼こそが、3人に残された最後の希望であった。




第5話に続く

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