ネイロスの3戦姫


第4話その1.捕らわれたルナ  

 ネイロス軍と黒獣兵団の戦闘は、エドワード国王の後妻マグネアの裏切りにより、ネイ
ロス軍の敗北に終わった。
 マグネアの部下ヒムロに捕らえられたエリアスとエスメラルダは、ダルゴネオスの宮殿
に連行され、黒獣兵団の兵達の前で兵団の団長ブルーザーとダルゴネオスのドラ息子セル
ドックに強姦されてしまった。
 だが、彼女等の辱めはそれだけに留まらない。更なる試練が2人の戦姫を待っていた。
 そして、ライオネットと共に国境の山腹に逃亡していた3姉妹の末妹ルナにも、ダルゴ
ネオスの狂牙が迫りつつあった・・・

 黒獣兵団の追跡を交わしたライオネットは、ルナを伴ってデトレイド国内の山腹に身を 隠していた。  2人がネイロス国内に逃亡したと思っている黒獣兵団の追っ手の目をくらます為に、わ ざとデトレイド領地内に潜伏したのであった。  ライオネットたちが潜伏している場所は、デトレイドの猟師が休憩所として建てている 山小屋の中である。  熊や狼の襲撃を避けるため、急な斜面の上に、木々に隠れるようにして建てられている 山小屋は、身を隠す場所としては絶好であった。  「姫様ー、お食事が出来ましたよ。」  ライオネットは、山小屋に備蓄されていた食糧を使用してルナの為に食事を作っていた。  「お口に合うかどうか判りませんが食べてください。」  穀物を煮込んで作ったスープを持ってくるライオネット。  「・・・いらない。」  膝を抱えてうずくまっているルナは、素っ気無く答える。  「少しでもいいから食べた方がいいですよ。間もなく黒獣兵団の追撃の手が緩みます、 それまでご辛抱下さい。ね?」  ライオネットは宥めるようにスープの器をルナに差し出した。  「いらないったら、いらないわっ!!」  膝を抱えたまま叫ぶルナに、ライオネットは辛そうな目をした。  2人が山小屋に潜伏してから2日が経過していた。しかし、エリアス達が戦闘に敗北し、 行方不明になっている事を心配しているルナは、ろくに食べ物が喉を通らない状態が続い ていた。  「なんで・・・なんで姉様達を助けに行かなかったの?あなた参謀でしょ?姉様を助け るのがあなたの使命でしょ・・・なのになんで・・・」  「それは・・・言わないで下さい。あの状況ではどうしようも無かったんです。それに、 ルナ姫様を助けるようにとのご命令でしたから。」  ライオネットの言い訳にルナは怒りを露にした。  「何がご命令よっ!!あたし1人だけ助かってもうれしくないわっ。姉様達に何かあっ たら、あんたのせいよっ!!」  「姫様・・・」  ルナの言葉がライオネットの胸を突き刺す。  「・・・すみません・・・私の至らないばかりに・・・」  暗い顔でスープの入った器を床に置くライオネット。  エリアスとエスメラルダの事が心配なのはルナだけではなかった。いや、それ以上にラ イオネットは2人の事を案じていた。  もし、2人が血に飢えた黒獣兵団に捕らわれていたら・・・  そう考えるだけで、ライオネットの心は引き裂かれそうになる。  クーンと鳴きながら、ルナに近寄る愛狼のアルバート。その鳴き声は、少し言い過ぎじ ゃないのか?・・・そう言っている様であった。  「ごめん・・・、姉様の事は、あなたも心配だったわね。言い過ぎた。あたし・・・悪 い子かな?」  アルバートを抱いてポツリと呟くルナ。  「いえ、私が姫様の立場だったら、同じ事言ってましたよ。気になさらないで。」  ライオネットにそう言われたルナは、床の器を手に取って少しだけ笑った。  「これ・・・美味しいね。作り方を誰に教えてもらったの?」  スープを飲みながらルナはそう言った。  「母です、私の母は料理が得意でしたから。子供の頃から母の調理の手伝いをしてて覚 えたんですが、気に入ってもらえて光栄です。」  「すごいね、エスメラルダ姉様なんか目玉焼きも作れないんだもん。今度姉様にも作っ てあげたら喜ぶよ。」  「えっ、本当ですか?」  思わず赤面するライオネット。  「あの・・・水を汲みに行ってきます。山小屋の扉は鍵を掛けておいて下さいね。」  「うん。」  ライオネットは、そう言い置いて山小屋を後にした。  「アルバート、あんたも食べる?」  山小屋の扉に鍵を掛けたルナは、別の器にス−プを分けてアルバートに振舞った。  おいしそうにスープを食べるアルバートを見ながら改めて姉達の安否を思った。  「大丈夫かな・・・姉様達・・・」  頬杖を付きながらそう言った時であった。  「姫様、今戻りましたよ、鍵を開けてください。」  山小屋の外からライオネットの声が聞こえた。  「?・・・随分と早いのね。」  ルナは不審に思いながらも扉の鍵を開けた。  「あれ、ライオネットは?」  扉を開けるが外には誰もいない。一緒に外へ出たルナとアルバートは、空耳かと思いな がら、首を傾げて山小屋へと入った。  「!!・・・グルル・・・!!」  不意にアルバートが唸り声を上げた。  「ど、どうしたの!?」  ルナは山小屋の中に誰かがいるのに気が付いた。  「ククク・・・黒獣兵団どもをごまかせても、拙者の目はごまかせないでござるよ。」  山小屋の中央に、黒装束の男が立っていた。現れた男はマグネアの部下ヒムロであった。  「あ、あんたは誰っ!?」  「それは、お主の姉上に聞くがよい。ダルゴネオス皇帝の宮殿でな。」  ヒムロはそう言いながら、右手を前に出し、人差し指を曲げた。すると、見えない糸で 操られるが如くドアが閉まる。  「!?・・・黒獣兵団の追っ手ねっ、あたしを捕まえようったってそうは・・・はっ!? その剣は!!」  ルナはヒムロの背中に、エリアスが持っている筈の太陽の牙があるのを見て驚愕した。  「なぜ、太陽の牙を・・・まさか・・・」  「ご想像どおり、そのまさかでござる。」  エリアスはこの男に、そしてエスメラルダも・・・最悪のシチュエーションがルナの脳 裏を過る。  「う、うそよーっ!!」  腰の2丁拳銃をヒムロに向ける。  「ふむ、新型の鉄砲でござるか。だが、そんな物では拙者は倒せぬぞよ。」  「言ったわねっ。」  爆音と共に弾がヒムロ目掛けて発射された。しかし、ヒムロはユラリと体を反らして次 々と弾を交わす。まるでスローモーションの映像のように弾がヒムロの体の横をすり抜け た。  「あ、ああ・・・」  「どーした。それで終わりでござるか?」  嘲笑うヒムロに、ルナは腰の布袋から筒状の物を取り出して眼前にかざした。そして、 筒状の物の頭部にある紐を引っ張る。  「ムッ!?それは・・・」  「吹っ飛べっ、カラス男っ!!」  ヒムロに目掛けて投げつけられた筒状の物が凄まじい勢いで爆発した。    「姫様ーっ!!」  銃声と爆音を聞いたライオネットが血相を変えて山小屋に戻ってくる。  「こ、これは・・・」  半壊している山小屋にライオネットは絶句した。  「ふう、とんでもないお転婆姫でござるな。まさか爆弾を使うとは・・・」  頭上から聞こえる声に振りかえると、そこにはルナを小脇に抱えたヒムロが、山小屋の 上に立っていたのだ。  その下ではアルバートがものすごい剣幕で吼えている。  「んんーんっ、ライオ・・・むーっ、うーっ!!」  エリアスを捕らえたのと同じ白い糸でグルグル巻きにされたルナが、猿轡をされてヒム ロに捕まっていた。  「お、お前は!?」  「フン、名乗る必要はないでござる。そこの犬畜生と一緒にくたばるがいい腰抜け男爵! !」  ヒムロの手から手裏剣が投げつけられ、ライオネットとアルバートに命中した。  「う、うわ・・・わああーっ。」  よろめいたライオネットとアルバートは、側の崖で足を滑らせ、まっ逆さまに転落して 行った。  「キャーンッ。」  崖下からアルバートの鳴き声が響き、同時にバシャンッという音が2回聞こえた。  「下は川でござったか。まあいい、この高さでは助かるまいて。」  ライオネット達が転落した崖を見ながら、ヒムロはその場を後にした。


次のページへ BACK 前のページへ