ネイロスの3戦姫


第3話その2.罠に落ちた戦姫

 「ワハハーっ、今頃罠だと気がついても遅いわっ!!わが黒獣兵団の恐ろしさ、
たっぷりと思い知れっ。」
 別働隊がいた山腹に、あのブルーザー団長が高笑いしながら立っていた。
 「いいか、あの3姉妹は必ず生け捕りにして連れてこいっ、後の雑魚どもは叩き潰せっ!
!」
 「へいっ。」
 手下達がブルーザーの命令を受けて一斉に山を降りて行く。
 「グフフ・・・エリアスゥ、待ってろよ・・・俺がたっぷりと可愛がってやるぜ〜。」
 ブルーザーがそう言った時である。
 「ブルーザー団長、お主の手下どもでは3姉妹を捕らえるのは無理でござるよ。」
 不意に背後から声が聞こえてきた。ブルーザーの後ろに、黒装束の男が立っていたのだ。
 突然の男の出現に驚くブルーザー。
 「てめえは・・・マグネアの・・・」
 「あの3姉妹はネイロス屈指の凄腕、その辺の小娘をかどわかすのとは訳が違うでござ
る。この仕事は是非、拙者にお任せ願いたい。」
 黒装束の男の言葉に、ブルーザーは忌々しげな表情を見せた。
 「ちっ、いいだろう、好きにしな。」
 「フフ、承知いたした。」
 かき消すようにその場から姿を消す黒装束の男。
 「・・・まったく薄気味悪い奴だ。」
 不気味な男の存在に、思わず嫌そうな顔をするブルーザーであった。
 
 「姫様ーっ、ご無事ですかーっ?」
 エリアスの命により、ルナを守りに戻ってきた小隊は、本陣のルナの無事を確認した。
 「姉様達はっ!?」
 「それが・・・」
 兵士達は、暗い表情で今までのいきさつを話した。姉達が敵軍の罠に嵌められた事を知
ったルナの顔から、見る見る血の気が失せて行った。
 「あ、あ・・・姉様・・・」
 「何て事だっ・・・我々の情報が全て奴らに筒抜けだったとは・・・」
 黒獣兵団がネイロス軍の動きを知っていた事を知らされたライオネットは、口惜しそう
に呟いた。
 自分の立てた作戦が全て水泡に帰してしまったのだ。
 「男爵、今は手をこまねいている時ではありません。奴らがこちらに向かっています。
早急にルナ姫様とお逃げ下さい。」
 「わかった・・・」
 兵士達の言葉に、頷くライオネット。
 「いやよっ!!すぐに姉様達を助けに行かなきゃ・・・あなた達が行かないならあたし
が行くっ!!」
 「いけませんっ、今あなたが行ってもどうにもならないでしょう。ここは私達と一緒に・
・・」
 兵士がルナを諌めようとしたその時であった。
 外で銃声が響いたかと思うと、本陣内に黒獣兵団の一群がなだれ込んで来た。
 「き、貴様等っ、うわあっ。」
 本陣の中にいた兵士達は、突然の奇襲によって倒されてしまった。
 「見ィつけたぞ〜!!3姉妹の1人、ルナ姫だあ〜!!」
 奇声を上げて乗り込んできた彼等は、ブルーザーに3姉妹を捕らえるようにと命令され
た手下達であった。
 「おお、かわいいな〜、お人形さんみてえじゃねえか。」
 「へえっ、へへ〜。お姫様ぁ・・・お迎えに上がりましたよぉ〜。」
 下劣な声を上げてルナに迫る手下達。
 「お、おお、おのれ下郎ども・・・る、ルナ姫様には指一本触れさせ・・・わっ!?」
 「どいてっ。」
 黒獣兵団の襲撃で、半ば腰を抜かしそうになっているライオネットの尻を蹴飛ばしたル
ナは、腰の2丁拳銃を抜いて手下どもに向き直った。
 「あんたたち・・・絶対に許さないわよっ!!」
 ルナの声と共に、怒りの銃撃が手下達に炸裂した。
 「ぐわっ!?」
 「いでええっ。」
 手下達は悲鳴を上げて地面を転げまわった。
 ゴム弾とは言え、至近距離から銃撃を食らえば只では済まない。眉間に弾を受けて気絶
する者、胸を撃たれてアバラ骨を折られる者など、手下達は次々戦闘不能に陥った。
 「姉様、あねさまーっ!!」
 エリアス達の名を叫びながら、銃を乱射するルナだったが、弾には限りがあり、次々押
し寄せる新手に弾が尽きてしまった。
 「や、やだ・・・」
 慌てて予備の弾を入れた皮袋を取るが、弾を装てんする時間が無い。
 「きゃああーっ!!」
 ルナは荒くれた手下どもに取り押さえられた。
 「手間かけさせやがって、この小娘がっ。」
 「やめて・・・離してーっ、助けて姉さまーっ!!」
 手足を押さえられたルナは悲痛な叫びを上げた。
 「ウヒヒっ、いくら騒いでもムダだぜ・・・おめえの姉貴どもは助けになんかこれねー
よ。ダルゴネオスに引き渡す前に俺達が味見してやるぜぇっ。」
 「ひいっ。」
 手下の手がルナの白い陣羽織を引き裂き、鎧の胸当てを強引に剥がした。
 「あ、あああ、いや・・・」
 恐怖の余り、気を失ってしまうルナ。
 「ひへへ、オッパイ拝んでやる。」
 手下の1人がルナの胸元に手を掛けようとしたその時である。
 バサッと言う音と共にテントが崩れ、布が彼等の頭上に落ちてきた。ライオネットがテ
ントを引っ張っているロープを外したのだ。
 「なんだ!?」
 「前が見えねぇ!!なんだこりゃ!!」
 布で視界を失った手下達は布の下でジタバタもがいた。
 「くそっ・・・ルナ姫は・・・ああっ!?」
 布の下からようやく出てきた手下達は、馬に乗ったライオネットが気絶しているルナを
連れて逃げているのを見た。
 「あの野郎っ。逃がすな、追えーっ!!」
 本陣の外にいた仲間も加わり、手下どもが一斉にライオネットを追いかけてきた。
 「うわわ・・・わっ、ひえーっ。」
 銃声が鳴り響き、銃弾がライオネットの脇を掠める。このままではネイロスに戻る事は
出来ない。
 「仕方が無い・・・」
 手下達を辛うじて振りきったライオネットは、ルナと共に山腹へと逃げていった。




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