アルセイク神伝


第5話その5.魔王ラスの最後

 「ガウオオーッ!!どぉこだああっ!!カァルロォースッ!!」  爆炎を吐きながら暴れるラスは、魔城の上層部を破壊し尽くしてもなお、破壊の手を緩 めなかった。  「ここにいないとすれば・・・フン、下か。」  足を上げ、床を踏みぬこうとしたその時である。  「まてっ、私はここにいるぞ!!」  ラスの背後から甲高い声が響く。爆炎に焼き尽くされた上層部に、聖剣を持ったカルロ スが立っていた。  「カルロスぅ〜よくぞ逃げずに出てきたなぁ、誉めてやるぞ。さあ、どうやってお前を 始末してやろうか?お望み次第だっ!!」  勝利を確信しているラスは、口元に残忍な笑みを浮かべ、カルロスに歩み寄ってきた。  「始末するだと?それはこっちのセリフだっ。」  聖剣を構えるカルロス。だが、その傍らには誰もいない。先程まで一緒に戦っていたボ −エンの姿が無いのだ。  「もう一匹のクソ虫はどうした?フッ、どうやら、くたばったようだな。」  嘲るようにカルロスを見下ろすラス。だがカルロスは全く動ずる様子もなく、ラスと対 峙した。  「ボーエンがいなくても戦えるさ。刺し違えてでも貴様を倒してやるっ!!」  「ほほう・・・えらく強気に出たな。今の貴様など虫けら同然だっ。倒せるものなら倒 してみろっ!!」  爆炎がカルロスを襲う。首飾りを翳して攻撃を防ぐが、バリアが不充分な上、聖剣を持 ったままでは戦う事は出来ない。  「グハハーッ!!どーしたさっきまでの強がりは!?相棒のいない貴様なぞこの程度だ ーッ!!」  強烈な爆炎が容赦なく降り注ぐ。  「く、あああ・・・」  カルロスの足元がズルズルと後退し、首飾りを持つ手が爆炎の熱で熱くなった。  「負けるかーっ!!」  カルロスの声と供に聖剣が煌き、爆炎を押し返した。しかしカルロスの踏ん張りも、そ こまでだった。再度放たれた爆炎によって、カルロスは吹き飛ばされた。  「うわああっ!!」  爆風で吹き飛ばされ、悲鳴を上げながら転がるカルロス。両手に火傷を負い、もはや反 撃の余裕すらなかった。  「どうやら年貢の納め時だなカルロス。貴様は終わりだ!!」  ラスが足を上げ、カルロスを踏み潰そうとしたその時である。  ビュンという音を響かせ、戦斧がラス目掛け飛んできた。  「ぬっ!?」  戦斧を叩き落とすラス。だが、ラスが怯んだ次の瞬間、ラスの眼前に一個の爆弾が飛来 し、強烈な閃光を伴って炸裂した。  ラスの顔面が爆弾によって焼け、咆哮を上げながら倒れたラスは、崩れた床に身体をめ り込ませた。  「ごああっ・・・なんだいったい!?」  何が起きたのか理解できぬまま、半分めり込んだ身体を懸命に起こそうとするラス。  「カルロス王しっかり!!」  転がっているカルロスに、爆弾を投げたボーエンが駆け寄ってきた。  「う、うう、ボーエン?」  カルロスをラスの元から引き離したボーエンは、首飾りを手に取ると火傷を負ったカル ロスの手を治した。  「ボーエン・・・このばかっ、なんで来たんだ!?」  負傷を押して助けに来たボーエンに、カルロスは思わず声を上げてしまった。  「ひ、1人で戦うなんて、む、無茶だべ。」  猛毒による痛みで真っ青な顔をしながら、カルロスを嗜めるボーエン。  「カルロス王、あの声が、き、聞こえるだか?」  「声?」  「魔城の下で、あ、あんたを応援してくれてる声だべ。」  カルロスは耳をすませた。  すると、カルロス王!!カルロス王!!と言う民達の声援が聞こえてくる。ラスに一旦 は退けられた民達が、再度魔城に集結し、カルロスに声援を送っているのだ。  集結した民達は、魔族が張り巡らしたバリケードを突破し、怒涛の如き勢いで魔城に迫 っていた。  「・・・みんな来てくれたのか・・・」  「そ、そうだべ、カルロス王の命は、あんた1人のものじゃないべ。み、みんなあんた の事が大好きなんだべ。ここであんたが死んだら、みんな悲しむだ。あんたは皆の希望な んだべ。」  「みんな・・・すまない。」  無茶な捨て身の行為をした事を悔やむカルロス。  癒された手で聖剣を取ると、皆の声援に答えるべく立ちあがった。  「さあ、いくべ。」  カルロスと供にラスに向き直るボーエン。  民達の声に反応したのはカルロスだけではなかった。床にめり込んでいたラスもまた、 民達の声に激しく反応していた。  「ぐうう・・・また聞こえる・・・うじ虫どもの忌々しい声がっ。」  憎悪に歪んだ顔のラスは、床に腕を叩きつけると、床から足を引きぬいて立ちあがった。  「へへ・・・い、忌々しいだけじゃねえべ?本当は恐いんだべ、お前は、みんなの希望 が恐いんだべっ!!」  ラスに歩み寄り、声を張り上げるボーエン。  「なにい?・・・わしが恐がっているだと?うじ虫どもを恐がっているだと!?」  怒りで声を震わせるラス。  「へっ、その顔は図星だべな、へッポコ魔王っ。もうお前なんか恐くねえだ!!」  「ぬかせーっ!!このクソめがーっ!!」  ボーエンに挑発され、ラスは、たてがみから怒りの雷撃を放った。  首飾りを掲げたボーエンは、単身ラスに向かって突進した。  「よ、よせっ、ボーエン!!」  カルロスの叫びも空しく、雷撃がボーエンを襲う。  「うおおーっ!!」  ボーエンは、バリアで雷撃を防ぎながら一直線に突っ込んで行く。カルロスも加勢しよ うとするが、弾かれる激しい雷撃に阻まれて手が出せない。  突進して行くボーエンは、ついにラスの足元に辿りついた。  「さあ、覚悟するだっ!!」  首飾りをラスに向けて首飾りを掲げるボーエン。そのボーエンを、ラスの巨大な手が鷲 掴みにした。  「むおお・・・わしをコケにした貴様は楽に死なせんっ、苦しみぬいて死ぬがいいっ!! 」  ラスの手が、万力の様にボーエンを締め上げた。  「うああ〜っ!!」  ボーエンの絶叫が響き、全身の骨がメキメキと音を立てて折れた。  「さあ〜どうだ、苦しいか、苦しいだろうがっ!!」  ラスの声に、血反吐を吐きながらボーエンはニヤリと笑った。  「ひ、引っかかっただな、へッポコ魔王っ、この時を待ってただっ!!」  首飾りを付き付け、ボーエンは叫んだ。すると、光りのバリアがラスの全身を包んだ。  「うおっ!?これは・・・身体が動かんっ、ぐおおっ!!」  自由を奪われ、悶え苦しむラス。  逆転の発想だった。バリアを防御に使うのではなく、ラスを束縛する枷にしたのだ。  「貴様、小賢しい真似を!!」  ラスのたてがみから毒矢が放たれ、ボーエンに刺さった。  だが、ボーエンは首飾りを離さなかった。  全身の骨を砕かれ、毒矢で串刺しにされながら、ボーエンはカルロスを見た。  「さ、さあ速くラスを・・・」  「ぼ、ボーエンっ。」  壮絶なボーエンの姿に、言葉を失うカルロス。そのカルロスを叱咤激励するかのように、 民達の声が響いてきた。  「カルロス王っ、カルロス王っ!!」  支援を送る声は聖剣に力を宿し、今までの何十倍もの光が煌いた。  「おお、みんな・・・」  カルロスの全身に強い力が漲った。その後ろから、更に力をもたらす声援が響いた。  「へいかーっ!!」  「カルロス王ーっ!!」  瓦礫を登ってきたフィオーネとルクレティアの声だった。  「ありがとう・・・みんな、フィオーネっ。そして決してムダにはしないぞボーエンっ、 お前の勇気をっ!!」  叫ぶカルロスの全身を黄金の輝きが包んだ。  「たあーっ!!」  床を蹴り、驚異的な跳躍をするカルロス。その身体は、光を放ちながらラスの頭上高く 舞いあがった。  「貴様の最後だラスっ、一片残らず消滅しろーっ!!」  聖剣の光は巨大な矛となり、バリアで束縛されているラスの眉間を刺し貫いた。  「ぐああーっ!!」  絶叫するラスの手から、ボーエンが滑り落ちた。  眉間に刺さった聖剣がゆっくりとラスの頭にめり込んでゆき、ラスの身体を内側から破 壊し始めた。  「・・・こんな・・・ばかな・・・わしが・・・わ、し・・・が・・・があっ。」  ラスの全身が石の様に硬くなり始め、至る所からヒビが生じた。そして、ヒビから幾筋 もの光が放たれた。  「うぐあああーっ!!」  魔王ラスの断末魔が響き、膨大な光がラスの全身を破壊した。爆ぜるように身体が四散 し、消滅した。  恐怖と絶望をもたらした破滅の魔王ラスの最後だった。そして完全消滅の瞬間だった。         アルセイク神伝第6話に続く

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