ネイロスの3戦姫 3姉妹、愛の休息


最終話その.7 笑顔と平和と

 それから10日間、3姉妹は休息を存分に楽しんだ。互いに求め合い、そして愛し合っ
た。
 彼女等を脅かすものはない。存分に楽しみ、そして喜び合った。全てが満たされるまで、
無心になって・・・
 休暇の最終日に、3姉妹は衛兵の女兵士達や近くの村人達を招いて、ささやかな晩餐を
催した。
 その食卓に、3姉妹は可憐な白百合を飾った。純潔を意味する白百合は、3姉妹が清ら
かな心と身体を取り戻した事を告げるものであった。
 晩餐に招かれた者達は何も言わなかったが、食卓に飾られた白百合から3姉妹の意図を
察した。そして安堵した。愛すべき姫君達が立ち直ったのである事を喜んで・・・
 
 その日は3姉妹が別荘から帰ってくる日であった。
 城の前では、3姉妹を出迎えるネルソン、ライオネット、ジョージの3人が3姉妹の到
着を待っていた。
 「おそいなあ姫様方は・・・もう到着の時間は過ぎているのに・・・」
 落ち着かない表情のライオネットが、先程から懐中時計を見てウロウロしている。
 いつもは時間に正確な姫君達が、今日に限って1時間以上遅刻しているのであった。
 「ライオネット君、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。そのうち帰ってくるさ。」
 「そうは言いましても・・・」
 「ハハハ、まあその気持ちは判らないでもないがね。」
 簡易式の折りたたみ椅子に腰掛けたネルソンが、笑いながら声をかけた。
 その横では、松葉杖を膝に置いたジョージが椅子に座っている。
 「師匠こそ、さっきからずっと貧乏揺すりしてますけど、どうしたんですかぁ?」
 意地悪げにそう言うジョージ。
 ネルソンは常に沈着冷静な男だが、困った事があると無意識に貧乏揺すりするクセがあ
る事を、愛弟子であるジョージは知っている。
 「ど、どうもしていないさ。お前こそ目が真っ赤だぞ。どうせ、ルナ姫のことが心配で
寝れなかったんじゃないか?」
 「アハハ、お察しのとおりで。」
 恥かしそうに頭を掻くジョージ。
 彼等は、3姉妹だけで休暇を取ると姫君達から聞かされて以来、(余計な)心配に悩ま
されていた。
 エリアス達が立ち直ってくれるだろうかと言う心配だけでなく、3姉妹が女だけの世界
に引き篭もってしまわないかと心配していたのであった。
 力添えになれない彼等が、どれだけ3姉妹の事を案じていたかは容易に推測できる。
 「あ、来ましたよ。」
 ジョージの声に2人は振り向く。街道の向こうから、エリアス達を乗せた馬車が姿を見
せた。
 「ひ、姫様〜、お待ちしておりましたぁ〜、あだっ。」
 ドタバタと走り出したライオネットが、街道のド真ん中でコケた。
 「やれやれ。」
 呆れた顔のネルソンとジョージが椅子から立ち上がって馬車が来るのを待った。
 やがて、馬車は地面に伸びているライオネットの前で止まった。
 「何してるんですか男爵。こんな所で寝られたら困るんですが。」
 御者の声にライオネットは飛び起きた。そして1にも2にもなく馬車の傍らに走り寄っ
た。
 「ひ、ひ、ひめさま〜。あ、あの、あの・・・お帰りなさいませ。」
 うろたえているライオネットの前に、3姉妹が馬車の窓から顔を出してきた。そして、
妙に無関心な目でライオネットを見ている。
 「姫様、あ、あの・・・」
 「あなただれ?」
 ライオネットを無関心に見ていたエスメラルダの口から衝撃の言葉が発せられた。
 「のおっ!?」
 ライオネットの頭に(ガーン!!)と強烈な衝撃が走った。
 「ンわああ〜っ!!姫様が僕のこと忘れてるぅ〜っ!!」
 酷く嘆いたライオネットが地面に座り込んで泣き出した。
 「ひ〜ん、もうダメだ〜、僕は姫様に見捨てられたぁ〜。」
 頭を抱えて泣き喚くライオネットの姿を見た3姉妹は、堪え切れなくなった様に笑い出
した。
 「アハハッ、もうライオネットてば、おバカさんなんだからー。」
 馬車から響く3姉妹の笑い声に、ネルソンとジョージが戸惑ったような顔をした。
 「どー言う事だ?」
 「さあ・・・」
 首をかしげながらも馬車に歩み寄る2人。
 「あ、ジョージッ。」
 馬車から顔を覗かせていたルナが、ジョージの顔を見て喜びの声を上げた。
 「ルナ姫っ。」
 松葉杖で体を支えていたジョージは、ルナの元に駆け寄ろうとして倒れた。
 「大丈夫っ!?」
 馬車から飛び降りたルナが、地面に倒れこんだジョージを抱き起こした。
 「あいてて・・・」
 顔をあげるジョージの目に、ルナの優しい天使の笑顔が映る。
 「もう、ケガしてるんだから無理しないで・・・ごめんなさい。あなたの看病できなく
て・・・」
 ルナはそう言いながらジョージをキュッと抱きしめ、ドロだらけの顔にキスをした。
 「る、ルナ姫・・・潔癖症が治ったの?」
 「うん、治ったわよ。それより、あなたの方が心配よ。今日からあたしが着きっきりで
看病してあげるわ、覚悟なさいね。」
 「あ、あは・・・ルナ姫ーっ。」
 強く抱きしめ合う2人の後ろに、エリアスとエスメラルダが姿を見せた。
 「覚悟決めなさいねジョージ、ルナに捕まったら一生離してくれないわよ。」
 「え?あ、はいっ。」
 満面の笑みを見せて喜ぶジョージ。
 「ひーん、ひーん。僕はもうダメだ〜、立ち直れないよぉ〜。」
 馬車の横では相変わらず泣いているライオネットの姿があった。
 「もう、しょうがないなあ、ライオネットは・・・」
 笑いながらライオネットの肩を叩くエスメラルダ。
 「ゴメンね、さっきのはウソだよ。ボクが君の事忘れるわけないじゃん。」
 「えっ?・・・それじゃあ・・・」
 「大好きだよライオネット。」
 エスメラルダの暖かい手が、ライオネットの頬をそっと包んだ。
 「よ、よかった〜!!」
 先程までの泣きっ面から、一変して喜びいっぱいの顔になったライオネットは嬉し泣き
に咽びながらエスメラルダの手を握り返した。
 「単純だなあ、ライオネット君は・・・」
 溜息をついて笑うネルソン。その彼の前に、エリアスが歩み寄ってきた。
 「ネルソン・・・会いたかったわ・・・」
 眼を潤ませ、エリアスは愛しいネルソンの胸に飛び込んだ。彼女を苦しめていた男性拒
否症は完全に治っている。
 「え、エリアス・・・お帰り、私も会いたかったよ・・・」
 絆を確かめ合う様に抱擁するエリアスとネルソンだった。
 「姫様ーっ、お帰りなさいませーっ。」
 不意の声に一同は振り返る。そこには数人の部下を連れたカーネル指令の姿があった。
 「カーネル司令、色々心配かけましたね。」
 「いえいえ、姫様方のお元気な御尊顔を拝し、我等も安心致しました。」
 戦いの傷が癒えたエリアス達の姿を見て喜ぶカーネル。
 「それにしても、いつもながら時間に正確でありますな。姫様の言われた時刻丁度に帰
ってこられるとは。」
 カーネルの言葉に、ネルソン達が驚く。
 「ええっ!?1時間以上遅れたのでは!?」
 そう、ネルソン達は3姉妹を1時間以上も待たされていたのだ。
 「ああ、これは失礼。実は・・・姫様にネルソン司令とライオネット男爵には、1時間
ほど時間をずらして連絡して欲しいと言われておりましてな。悪いとは思ったのですが、
あなた方に城の前で待ってもらいました。」
 「はあ?」
 口を開けたままボーゼンとする3人の義兄弟達。
 「ウフフ、あなた達がどれぐらい心配してくれてるか試したの。ゴメンナサイね。」
 ペロッと舌を出しながら笑う3姉妹。
 「ははは・・・つまり私達は・・・」
 「姫様方の掌の上で・・・」
 「踊らされてたって事ですね・・・」
 まんまと一杯食わされたネルソン達は、力が抜けた様に笑い出した。
 「もうっ、どれだけ心配したと思ってるんですかーっ」
 「ニャハハッ、ゴメンね。」
 顔を真っ赤にするライオネットとジョージに、エスメラルダとルナは笑いながら抱きつ
いた。
 「でも、よかった・・・元気になられて・・・」
 「何言ってるの、ボクはいつでも元気だよ。」
 「ルナ姫が僕の事忘れたらどうしようかと思ってた・・・」
 「ううん。忘れたりしないわ、ずっとそばにいてあげる。」
 微笑ましい伴侶達の姿に、カーネル司令もネルソンとエリアスも笑顔を見せた。
 そして、ネルソンは照れながらエリアスに声をかけた
 「まったく、君は人が悪い・・・私達が余計な心配しているのを判っててあんな事した
のかい?」
 「ええ、あなたの心配そうな顔が浮かんだものだから、ちょっとイジワルしてみたくな
ったの、ウフフ。」
 無邪気な笑顔を見せるエリアスを見たネルソンは、エリアスの心の角が取れている事を
実感した。
 ネイロスの女神に、もう何の迷いもなく、そして悲しみもない。それは2人の妹にも言
えることだった。
 「ところで、君達はどうやって立ち直る事が出来たんだい?別荘で何をしていたのか知
りたいんだけど・・・」
 「あら、どんな事を知りたいの?」
 ちょっぴりイジワルな目でネルソンを見ているエリアス。
 無論、彼女はネルソンが何を考えているか、思っているか、全て手に取るように判って
いる。
 「いや、だからその・・・君達は女だけで別荘に篭って慰め合ってたわけだから・・・
その・・・変な関係になってなかったかとか・・・」
 「おかしな事言うのね、ネルソンったら。別荘で私達が何をしてたかは、ヒ・ミ・ツ、
よ。」
 「ええ?、教えてくれてもいいだろう、意地悪しないでさあ。」
 「ダーメ、教えてあーげない。」
 ネルソンとエリアス、そして一同の笑い声が響いた。
 それは穏やかで、そして平和な笑い声であった。
 3姉妹が別荘で過ごした2週間の出来事は誰にも知られる事はない。何故なら、3姉妹
だけの秘密であったから・・・


3姉妹、愛の休息 END

BACK 前のページへ