魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫19)


  第89話 伝説の魔神と運命の王子、両者の戦いは時を経て・・・
原作者えのきさん

 それから暫くして、魔神を封じていた建物からレッカードが出てきた。
 山肌を射す太陽の光を浴び、眩しそうに手を翳す。まるで何百年もの監獄生活から解放
された囚人のように、深く息を吸い込み、自由を満喫していた。
 「ふう・・・久しぶりの外界だ。太陽の光は苦手だが、今は心地よく感じるわい。」
 その顔は明らかにレッカードの顔だったが、目付きが違う。
 眼光は鋭くなり、目の下に陰湿な隈ができている。それはまさに邪悪と狡猾に満ちた悪
魔の目・・・
 「こ奴の名前はレッカードと言うのか、間抜けな名前だな。どれ、脳みその情報を読む
としよう・・・」
 目をつぶって記憶を調べている。
 そう、彼はレッカードではない。彼の肉体は魔神バール・ダイモンによって乗っ取られ
ていたのだ。
 バール・ダイモンは、レッカードの脳から世界の情報をあるだけ読み取った。自分が封
じられていた間に、時代は大きく進んだ事を知る。
 「なるほど、世界はこうなっているのか・・・それにしても、アンジェラは伝説の存在
となっていたとは・・・口惜しいぞ〜っ、あ奴を再び、辱め、汚し堕としてやろうと思っ
たのにっ!!」
 憎悪の拳を岩に叩きつけるバール・ダイモン。長年恨みを募らせた相手がいなくなり、
彼は悔しさと虚しさで溜め息をついた。
 「この不満・・・どこにぶつけてやろうか・・・世界を支配しても、わしの気は晴れん。
アンジェラを、あの憎き戦女神を地獄に堕とすまでは・・・むっ?」
 バール・ダイモンは何かを感じて振り返った。
 彼の目は、遠くガルダーン帝国の方角を見つめている。遠き彼の地から、巨大な魔力を
感じ取ったのだ。
 巨大な魔力・・・それはガルダーンの首都を滅ぼした魔の力。
 「むう、この気配は魔界の闇の波動・・・誰かが魔力を使って悪を滅ぼしたに違いない。
確かガルダーン帝国はノクターンを侵略したのだから、悪行を行ったガルダーンが滅ぼさ
れたというわけか・・・こんな事をするのは・・・奴だっ、間違いなくアンジェラだっ!!
ふははっ、生きておったか!!」
 歓喜の声を上げて悦ぶ魔神。だが、長年封じられてきた影響は大きく、強大な悪の魔力
は底を尽き、完全復活には多大な時間を要する。
 衰えきった状態では普通の人間と変わらないのだ。とても打倒アンジェラどころではな
い。
 岩を殴った時に傷ついたひ弱な拳を見つめ、魔神バール・ダイモンは呟く。
 「魔力が完全に戻るには10年はかかるか・・・だがわしは負けんぞっ、必ず再起する
っ、世界を再び支配してやるぞっ。そして戦女神アンジェラッ。貴様を倒してみせるぞー
っ!!」
 邪悪な雄叫びを上げ、魔神は吠えた・・・
 
 その夜、ノクターンに戻ったマリエル王子は、大きなベッドの上で1人、眠れぬ夜を過
ごしていた。
 いつもいつも、両親や姉に抱かれて眠っていた幼い王子。
 寝物語を毎晩、優しい姉上に語ってもらった・・・伝説の戦女神と、宿敵の魔神との戦
いに胸踊らせ、安らかに眠った毎夜。
 だが、姉上はいなくなった。これからは1人だ、ずっと・・・ずっと・・・
 「もう・・・ぼくは1人で寝なきゃいけないんだ、ぼくは強い王様にならなきゃいけな
いんだ・・・だから、泣いちゃいけないんだ・・・」
 幼い心に辛痛な思いが突き刺さる。
 彼の背負った責務は余りにも大きい。それでも彼は耐えねばならない。
 やがてマリエルは、疲れて眠った。
 「・・・むかし、むかし・・・平和だったノクターンに魔神が攻めてきました・・・大
勢の人がイジメられて・・・そして神様は美しい戦女神をお遣わしになられました・・・
戦女神は魔神を・・・バール・ダイモンを倒し、王様と民を助けました・・・」
 姉上に語ってもらった物語を寝言で呟き、そして頬を涙で濡らす。
 「戦女神は魔神と戦って・・・めがみは・・・め・・・あねうえ・・・あねうえ・・・」
 姉の温もりを恋しがり、マリエルは泣いて眠っていた。
 夢に見るは、宿敵の魔神を見事倒す、勇ましい姉の姿だった・・・
 
 マリエル王子にとって、伝説の魔神は最大の宿敵だった。悪と言う存在そのものだった。
 グリードルが滅びた今、マリエルに宿敵は存在しないはず・・・であった・・・
 だが、マリエル王子も誰も、架空の敵である魔神(バール・ダイモン)が現実に存在し、
そして邪悪に復活したなどとは、まったく思いもよらなかった。
 10年の歳月を経て、ノクターンの王となったマリエルと、ノクターンの真の仇敵(バ
ール・ダイモン)が雌雄を決する時が来る。
 それはノクターンにおける正義と悪の聖戦になるのだ。
 今は静かな時が両者を隔てている。
 10年の時を経て、正義と悪の聖戦に戦女神も推参する。
 
 その戦いは、次回の講釈にて語る事となる・・・


 To・Be・Continued・・・


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