魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫18)


  第78話 憎悪を悲しみの刃に変えて・・・
原作者えのきさん

 それは神の裁きか悪魔の粛清か・・・
 弱者を虐げ略取し、贅沢三昧に耽ったガルダーン帝国を襲う憎悪の怪物達。
 悪しき者を憎む悪霊と怨念が、恨みを晴らすべく暴れ、怨敵を喰らい、渇望を満たす。
 弱者を虐げた者達は、その怨念を前に為す術なく報いを受ける。全ては因果応報。愚か
な行為に支払われる代価、悪しき行為に支払われる代償・・・
 悪しき者が己の罪を悔いる時、虐げられた者の憎悪が消える時、因果は無に帰す。恐怖
も悲しみも果てる・・・
 悪の権化滅す時、その全ては終わる。
 暴君グリードル最後の時である・・・



 ガルダーンの首都で暴れる悪霊とゴーレム軍団。怪物達は、復讐と言う本能のまま荒れ
狂い、そして喰らい尽くす。
 飽食に耽っていた貴族達に抵抗する術はなく、ただ贖罪の叫びを残して闇に消え去る。
 血と悲鳴の嵐が荒れ狂う真っ只中、悪しき暴君は全てを蹴散らして突き進む。
 「やれーっ!!バケモノを残らずブッ飛ばせーっ!!」
 響くグリードルの怒声。そして大砲が火を噴いた。
 轟音と共にゴーレム軍団が吹っ飛ぶ。土でできた人造人間は、バラバラに砕けて元の土
塊に戻った。
 それを見てニヤリと笑うグリードル。
 「フッ、しょせんはドロ人形よ。俺様の敵じゃねえっ。」
 兵に命じ、次々ゴーレムを砲撃する。着弾する場所には多くの貴族達がいるが、暴君は
そんな事お構いなしだ。人の命などドロ人形と同じにしか思っていない。
 グリードルは、ゴーレム軍団が分散している今、兵力の薄い場所を突っ切れば脱出でき
ると考えていた。
 ただ・・・グリードルの誤算は、相手がゴーレムだけだと思っていた事だ。目に見えぬ
存在・・・暴君を憎む悪霊どもが闇で牙を剥いている事に気付いていない。
 累々と転がる土塊と肉塊。それを踏み越えて暴君は突き進む、が・・・グリードルの乗
った馬車が突然動かなくなる。
 地面から無数の手が出現し、馬車の車輪を掴んでいる。地面を埋める土塊と肉塊に悪霊
が宿り、土と肉が混ざった恐ろしいバケモノになっていたのだ。
 凶悪な怨念を吹き出し、恨みの毒気を撒き散らしながら、バケモノはゾロゾロと這い出
してくる。
 馭者が馬に鞭打って走らせようとするも、馬がバケモノに捕まって餌食にされる。
 グリードルを護衛する兵達も応戦するが、バケモノどもに全く歯が立たない。剣も、鉄
の鎧も噛み砕かれ、あえなく喰い尽くされる。
 護衛の兵を失ったグリードルは、ついに自ら剣をとってバケモノと戦い始めた。
 「うがあああーっ!!かかってこいバケモノどもがーっ!!俺さまを喰らえるモンなら
喰らってみやがれ〜っ!!」
 剣を振り回す姿は、迫り来るバケモノですら怯むほど鬼気迫っていた。しかし、それは・
・・極限の恐怖がもたらした勢いであった。
 執念とも言える底無しの欲望と、勝利への執着。それが恐怖を跳ね返しているのだが、
無限に襲い来るバケモノどもを相手に、その気迫がどこまで続くか・・・
 グリードルの肩に、邪笑いを浮かべる悪魔が取りつく。
 (悪あがきしてもムダだぜ〜。少しだけ気を緩めれば良いんだ〜、そうすれば楽になる
ぜ〜♪)
 悪魔の惰弱な誘惑がグリードルの耳に囁かれるが、負けを認めぬ暴君は尚も逆らい続け
る。
 「うおお〜っ!!負けてたまるか〜っ!!俺はグリードルさまだ〜っ!!最強の暴君グ
リードル帝だああ〜っ!!」
 迫る全てを叩き伏せ、暴君は悪鬼羅刹となりて、無謀な戦い続けるのであった・・・
 
 その様子を、建物の屋根から見ている人物が1人。
 悪霊を呼び寄せたスキンヘッドの魔道師であった。
 最大の標的であるグリードルが城外にいると言う事は、アンジェラが取り逃がしてしま
った事になる。
 呆れた表情で魔道師は溜め息をついた。
 「やれやれ、敵の大将を取り逃がしてどーするんですか。せっかく西地区に逃げてる事
も教えてあげたのに、世話のやける人ですねアンジェラ殿は。」
 そう言うと、魔道師は指をパチンと鳴らした。するとグリードルに襲いかかろうとして
いたゴーレム兵達が、猛攻の手を緩め、グリードルを
 激憤するグリードルを徐々に後退させ、城へと押し戻す魔道師。
 彼はアンジェラから言われていた、グリードルだけは自分の手で始末すると。それに応
じ、魔道師はゴーレム達を退かせたのだ。
 そう、悪の権化であるグリードルだけは、アンジェラ自身の手で倒さねばならないのだ。
 ノクターンの人々から愛された姫君であり、ノクターンの戦女神となった彼女だけが、
虐げられたノクターンの民の恨みを晴らす事ができるのだから・・・
 
 グリードルが城へと押し戻された事は、追撃を開始しようとしたアンジェラ達の耳にも
入る。
 魔道師の使い魔である伝令コウモリが現れ、2人に子細を伝えたのだ。
 小さなコウモリを指に掴まらせ、詳細を聞くマリー。
 「・・・ふんふん、それで、なるほど。判ったわ、おおきにやで。」
 去っていくコウモリに手を振るマリーを見て、アンジェラは尋ねる。
 「さっきの伝令も、あのコウモリが伝えてたのね。」
 「そうですねん。グリードルは城に逃げ帰ってるそうですわ。」
 「そう・・・わかったわ。」
 グリードルの名を聞いた途端、アンジェラの身体から黒いオーラが漂い始めた。
 高まる憎悪の躍動・・・マリーは深刻な顔をするが、懸念はすぐに解消する。
 アンジェラは静かに目を伏せ、心を研ぎ澄ました。
 「はあああ・・・」
 憎悪の波動は速やかに収まる。逆に憎悪の力を制御したのだ。
 彼女は憎悪に2度と支配される事はない。自らの手で父と母を安らぎの場所へ転送した
悲しみが、強大な憎悪を凌駕したのだ。
 大切な故郷へ向った父と母は、とても穏やかな顔をしていた。その笑顔に2度と会えぬ
と知ったアンジェラの悲しみは深かった・・・その悲しみが彼女の憎悪を静めた。そして・
・・真の強さを彼女にもたらした。
 迷いも暴走もない。悲しみこそが極めて冷静なる、無敵の力を産み出す。
 アンジェラは微笑みをマリーに向ける。
 「もう大丈夫よ。でももし、また私がキレたら・・・思いっきり私をぶってね、マリー。
」
 「はいっ、姫様。」
 悲しみによって憎悪を凌駕したアンジェラ。その心意気を、マリーも受け取った。
 そして2人は、グリードルを迎え討つべく行動を起こす。2人の姿は城の闇に溶け込み、
見えなくなった。
 闇に消えた2人の動きを、誰も知る事はできない。
 そして城は、悪を逃さぬ巨大な檻となった・・・



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