魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫16)


  第71話  狡猾なる悪党、ズィルクの末路
原作者えのきさん

 全ての窓から景色が消えた。代わりに黒い帳が窓を覆う。
 黒い帳は、光りも音も遮断してしまい、姫君楼は外界と完全に隔離されてしまった。だ
がその異変は外界の誰にも気付かれていない。なぜなら、偽ガルダーン兵が蒔く金銀財宝
に人々は目が眩んでおり、姫君楼の事になど目も向けていなかったからだ。
 魔の牢獄に閉じ込められたズィルクに、もはや逃げる道はない。
 己の窮地を知ったその時・・・それが己の末路を知る時であった。悪逆なる己が罪を思
い知る時であった・・・
 
 召使いナブールの狼狽を見て、ズィルクは直ぐさま玄関へ走った。
 扉を開けると、外には異様な黒い壁が立ちはだかっており、外への脱出は不可能となっ
ていた。
 石でも鉄でもない、不可解な壁を前にして、ズィルクとナブールは愕然としている。
 「いったい、これは何なのだ?」
 「壁デスネ。トテモ固イ壁・・・何デショネ?」
 「それ以前に、誰がこんな壁など置いたのだっ!!どーやったらここから出られるンだ
っ、出口は何処じゃっ!!」
 完璧に閉じ込められた彼等は、ただ喚くしかできない。ひどい無力感に苛まれながらも、
なんとか打開策はないかと思案するズィルク。
 「う〜ん。壁は恐ろしく頑丈だ、壁の際を掘ってみるしかあるまい。おいナブール、他
の手下どもはどーした?」
 「ソ、ソレガソノ〜。私以外、誰モオリマセン。タブン、速攻デ逃ゲタンデワナイカト。
」
 「ぬぁに〜!?薄情な不忠者どもめっ、主人を見捨てるとは何事じゃっ。しかたあるま
い、わしらだけで穴を掘ろうぞ。」
 穴堀りに使うスコップを探そうと思ったズィルクは、ナブールと共に部屋に戻る。
 そして玄関の扉が閉められた、その時である・・・
 ドサドサと扉の外で音が響き、血塗れとなったズィルクの手下どもが落ちてきた。
 姫君楼の屋根には、復讐に燃えるアンジェラが佇んでいる。
 「フフフ・・・逃げられるとでも思ってますのズィルク。せいぜい悪足掻きでもするの
ね・・・」
 そう呟き、アンジェラは屋根の上からシュッと姿を消した。
 こうして、ズィルクへの復讐は開始されたのだ・・・
 
 部屋に戻ったズィルク達だったが、風俗店である姫君楼のどこにスコップなどあろうか。
代わりになる物でもないかと探し回るが、そんなものすらない。
 焦るズィルクとナブールだったが、ただ無駄な時間を労するだけだった。
 「ああっ、くそっ!!スコップぐらい用意しておらんのか、まったく。」
 「風俗店デスカラ仕方ナイデスネ〜。壁ガ消エルマデ待チマショウカ。」
 「たわけっ、悠長に待ってなどおられんわいっ。ツルハシでも何でもいい、さっさと探
せっ。」
 そんな焦る彼等を、更に追い詰める罠が発動する。
 
 ---ミシッ・・・ミシミシッ・・・
 
 軋む音が響き、建物が揺れ始めた。不快な音は更に大きくなり、ズィルク達は驚愕の表
情を浮かべる。
 「な、何じゃ今の音は?地震か?」
 「地震デワナイデスヨッ!!ゴ、ゴ主人サマ・・・ア、アレ・・・」
 ナブールが震えて指差す窓の外を見ると・・・なんと、黒い壁が徐々に迫ってくるでは
ないか。
 そう・・・黒い壁が巨大な万力と化し、姫君楼を押し潰しているのだっ!!
 「のおおっ!?これは大変じゃっ!!は、早くスコップとツルハシ・・・それどころで
わないぞっ!?」
 「ア、アワワ・・・ダ、誰カ助ケテ〜ッ!!」
 パニックに陥った2人は、右往左往してジタバタする。そしてズィルクは、たまらず叫
んだ。
 「誰だっ、わしらをこんな目にあわせる奴はっ!?」
 その絶叫に答えるかのように、不敵な闇の笑いが響いた。
 『・・・ウッフッフ・・・追い詰められる獲物の気分は如何かしら?』
 深き闇から発せられる声を聞いて、凄まじい戦慄と恐怖に戦く悪党ども。
 「ぬうう・・・何者じゃ、姿を現せっ!!」
 ズィルクの怒声に呼応するかのように、部屋の壁が崩れる。そして・・・現れたる復讐
の魔神!!
 「狡猾な悪党のズィルク・・・あなたの悪行は全てお見通しですわっ。地獄行きの片道
切符、心して受け取りなさいっ!!」
 瓦礫を踏みしめて歩み寄る魔神は、憎悪に染まった鎧を纏い、復讐に狂う鉄仮面を被り、
怒りに燃える瞳でズィルク達を見据える。
 ズィルクは、鉄仮面の下から響く憤怒の声を耳にしてハッとする。
 「あ、あの女の声・・・どこかで・・・?」
 ゾクゾクと背筋を伝う嫌な予感が、さらに恐怖を掻き立てる。魔神の正体は一体・・・
 それを決して知ってはならないような気がした。知った時が、地獄行きの片道切符を手
にする時だと。
 固唾を飲んだズィルクは、魔神が1人の姫君を抱き抱えているのに気がついた。ズィル
クの毒牙に弄ばれ、憔悴しきった哀れな姫君はローネット姫だった。
 そして魔神は、ローネット姫の額にある残酷な手術痕を見て尋ねる。
 「ズィルク、あなたを地獄に送る前に尋ねたい事がありますわ。ローネット姫の額の傷・
・・これは何ですの?彼女に一体何をしましたの!?答えなさいっ!!」
 厳かに、そして威圧的に尋ねる魔神に、ズィルクは開き直って答えた。
 「ふ、ふん。何を言うかと思えばそんな事か、そいつはわしに逆らったから脳ミソを少
々いじってやったのじゃ。命令には絶対逆らえんようにな。わかったかっ!?」
 その忌ま忌ましい言葉に、悪党の非道を知る魔神。そして怒りのオーラが炎のように燃
え上がるっ!!
 「許せませんわ・・・断じてっ!!無垢の身体を弄び、骨までしゃぶるが如き所業・・・
今度はあなたが知る番ですわ、オモチャにされた乙女の悲しみを・・・骨の髄まで思い知
りなさいっ!!」
 怒りの波動が怒濤の如くズィルク達に迫る。
 だが狡猾な悪党ほど、往生際が悪いものだ。ズィルクは恐怖に逆らって喚いた。
 「乙女の悲しみを思い知れだと?笑わせるなっ。何も知らずにノコノコわしの前に現れ
たのが貴様の運の尽きよ〜。思い知るのはそっちのほうだっ!!」
 そう言うや否や、懐からヘビ使いの笛を取り出して吹いた。
 
 ---ヒュ〜ル〜ル〜、ヒュルル〜。
 
 不気味な音色が響き渡り、部屋のあちこちから邪悪なコブラどもが這い出てくる。
 笛の音色に操られ、コブラの大群が魔神に迫る。それを前にして、魔神の歩みが止まっ
た。
 一噛みで巨象をも倒すコブラの毒牙を前にしては、如何なる者も萎縮する。一見すれば、
魔神がコブラに恐れを成して立ち止まったかに見える。
 それを見たズィルクは、勝利を確信したかのように高笑った。
 「ふはは〜っ、わしが用心無しに遊び惚けておったと思うか〜?わしの命を狙う輩から
身を守るため、常に家来どもを身辺に潜ませておるのだ。恐れ入ったかっ!!」
 コブラ達が邪悪に目を光らせ、魔神を威嚇する。そしてズィルクは、狡猾な頭脳を駆使
して言い迫る。
 「むふふ、猛毒のコブラを見ては怖くて動けんか。貴様のコケオドシもそこまでよ〜、
外の壁も貴様の仕業だな!?姫君楼を囲む壁でわしらを押しつぶすつもりだろうが、貴様
も逃げ遅れればローネットもろともぺチャンコだ。つまり、貴様も逃げ道を塞がれては術
がないとゆーわけじゃ。図星と見たが、どうじゃ?」
 魔神は黙して動かない。形勢はズィルクに傾く様相を呈する。
 「わはは〜っ!!図星のようじゃなあ〜っ!!わしらを罠に嵌めるつもりが逆になると
は笑止千万っ。土下座して命乞いするなら許してやって良いぞ。わしらを解放するか、そ
れともコブラどもの餌食になるか、好きな方を選べ。わはは〜っ。」
 強気に出れば自信満々のズィルク。まさに鬼の首でも取ったかのような態度だ。
 すると、微動だにしない魔神の口から、呟くような声が漏れる。
 「・・・罪を悔いるなら少しは手加減してやろうと思ってましたのに・・・どうやら、
悔い改める気など全く無いようですね。」
 それは傍若無人なズィルクに対する最終通告だった。
 しかし姑息な悪党は、最終通告を唾棄して踏みにじる。
 「言いたい事はそれだけか馬鹿者めっ、貴様こそ地獄でわしに楯突いた事を悔いるがよ
いわ〜っ!!やれ家来どもっ!!」
 そして一斉にコブラの大群が襲いかかるっ!!


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