魔戦姫伝説(アンジェラ・閃光の魔戦姫16)


  第70話  偽りのカーニバル。それは破滅の序章
原作者えのきさん

 怒れる戦女神は、自身を辱め汚した悪党どもへの憎悪を胸に秘め、恐怖の権化となりて
復讐を果たす。
 彼女の美しき姿を見た悪党は、究極にして絶対の恐怖と共に奈落に堕ちる・・・
 悪しき者に逃げる術はない。すでに極刑の執行は始まっているのだ。
 1人、また1人・・・
 悪党が悲鳴だけを残して地獄に消えて行くのである・・・





               
 
 アンジェラが復讐を開始した頃、超高級風俗店(姫君楼)で遊んでいた老参謀ズィルク
は、酒に酔って店の中で眠り込んでいた。
 外では貴族達が、戦利品を取り合って大騒ぎしているのだが、爆睡しているズィルクは、
その喧騒にも気付いていなかった。
 だらしなく寝転んでいるズィルクに、褐色の肌を持つ異国人が歩み寄って来る。召使い
のナブールである。
 「ゴ主人様ッ、起キテクダサイッ。寝テル場合ジャナイデス、大変デスヨッ。」
 肩を揺すられ、寝惚けた顔で起き上がるズィルク。
 「んん〜、腹がへったのぉ。飯はまだか〜?」
 「モウッ、寝ぼけナイデクダサイッテ。」
 「なぬっ!?誰がボケ老人じゃコラッ!?わしゃまだモーロクしとらんわいっ!!」
 「ス、スデニぼけテルカモ〜(大汗)」
 怒鳴って飛び起きたズィルクは、ようやく外の騒ぎを聞きつけて我に帰る。
 「むっ?あの騒ぎは何事じゃ?」
 尋ねられたナブールは、ヘコヘコした表情で主人に説明する。
 「ソレガデスネ、帝サマガ戦利品ヲ、皆デ仲良ク分ケルヨウニッテ仰リマシテ、貴族方
ガ戦利品ヲ取リ合ッテルンデス、ハイ〜。」
 その言葉に、ズィルクは飛び上がらんばかりに驚いた。
 「ぬ、ぬぁにいい〜っ!?そ、そんなバカなっ!?」
 サルマタ一丁でドタドタ走り出したズィルクは、店の上階に上がって外の様子を見た。
窓からは広場の有り様が見て取れる。そこでは・・・多くの貴族達が蒔かれる金銀財宝を
奪い合っていた。
 それを見たズィルクの口から、困惑の呟きが漏れる。
 「ま、まさか・・・そんな事ありえん・・・どう言う事じゃ・・・」
 外の騒ぎを見て、酔いも寝惚けも完全に吹き飛んでしまったズィルクであった・・・
 
 広場での騒ぎ。歓喜と罵声が飛び交うそれは、まさに狂乱のカーニバルである。
 蒔かれる財宝へ、多くの貴族達が蟻のように群がり、そして奪い合う。それは余りにも
浅ましい。
 広場は興奮のルツボと化し、もはや収拾などつかない状態だ。
 そんな興奮状態の貴族達へ、にこやかに微笑む(ニセの)ガルダーン兵が多くの財宝を
蒔き散らし、騒ぎの火に油を注ぐ。
 「どんどん持っていってくださいね、戦利品はいくらでもありますから〜。」
 貴族達にもたらされるのは財宝だけでない。虜囚の者も戦利品として提供された。
 「次は従順なる奴隷達でありますっ。働き者の美男に可憐なる美女、どれも若くて最高
の奴隷でありますよ〜。」
 貴族達の前に引き出されるのは、観念し、怯えた顔の奴隷達。
 イケ面の好男子、日に焼けた筋骨逞しいマッチョマン、見目麗しい美少年・・・豊満な
巨乳の揺れるナイスバディーの美女、スレンダーな体型の純真なる乙女、そして目も眩む
ほど可愛い美少女・・・
 薄衣を着せられ、手錠で拘束されている若くて上玉の奴隷達に、貴族達は喜々とした歓
声をあげる。そして奴隷達は次々と競りにかけられた。
 貴族達の趣味趣向に応じて、それぞれの奴隷達は高値をつけられる。
 その中で、特に幼い少年少女・・・同じ顔をした双子の美形兄妹が、美食で肥え太った
ゴージャスなマダムに買い取られた。
 抱き合って怯える可愛い兄妹に、悦びの眼を向けるマダム。
 「ンまあ〜。2人とも、とーっても可愛いザマスね〜。今日からあなた達は私のド・レ・
イ♪たーっぷり可愛がってあげるザーマス♪♪」
 好色たるマダムに迫られ、美形兄妹は許しを乞いながら涙を流す。
 「・・・お、お願いです・・・どうか酷い事しないで・・・イジメないで・・・」
 「おほほ〜っ。その怯えた顔、ますますイジメたくなるザマスわね〜。言う事聞かない
と、ムチでお尻ぺんぺんザマスわよお〜。」
 指を(ワキワキ)と動かして悦ぶマダム。しかし・・・マダムも他の貴族達も気付いて
いない・・・
 (偽)ガルダーン兵と同じく、この奴隷達も、土塊の人造人間ゴーレムである事に・・・
 そして、さらに騒ぎは大きくなった。
 広場に設けた舞台の前で、ガルダーン兵が手を広げて貴族達に注目を促している。舞台
の上に白い垂れ幕が下げられており、それに貴族達の視線が集中した。
 「お集まりの皆さん、こちらにご注目くださいませ。これより重罪者の処罰を行います。
」
 舞台上の垂れ幕が上がる。そこには、2人の男が無様な姿を晒していた。
 さらし者にされた2人の男達は・・・アリエル姫の凌辱像に挟まれたブレイズと、フリ
チンで踊らされているアントニウスである。アンジェラの瞬間移動術で、広場へと転送さ
れていたのだ。
 「こ、こ、これわなんの騒ぎでやんすか〜?な、なんで、あちきらはこんな所に〜?」
 「そ、そ、そんなの知りましぇ〜ん。誰かボクを止めて〜(涙)。」
 泣き喚く2人を指差した兵士は、声を上げて2人の罪状を述べた。
 「この者達は、あろうことか戦利品を独り占めしようと企んだ大罪人であります。皆様
方、この愚か者に御判決の程を。」
 無論、戦利品の独り占めなど濡れ衣である。しかしさらし者の2人に弁護などない。
 問答無用の怒声が2人に浴びせられる。
 「我等の戦利品をネコババしただとっ!?とんでもない奴らだっ。極刑にしてしまえっ!
!」
 「縛り首だ、ギロチンだっ。火あぶりだ〜っ!!」
 舞台上のアントニウス達に、石礫が投げられる。動けないブレイズも、自由を奪われた
アントニウスも、石礫を避ける術はない。言われ無き刑の集中砲火に晒される羽目になる。
 「痛いでやんす痛いでやんす〜っ!!石をぶつけないでやんすよ〜っ(大泣)。」
 「あひ〜っ、ぼ、ボク達は悪い事してないよおお〜っ。」
 それを呆れて見た貴族の1人が、皆の騒乱を制した。
 「止めたまえ諸君、貴族たる者が石を投げるとは下賤極まりない。」
 かなりの高位を有する人物であろう、他の貴族達は直ぐさま沈黙した。石礫を免れたア
ントニウス達は安堵の溜め息をついた・・・が。
 「た、助かったでやん、す・・・のおっ!?」
 2人はギョッとする。騒乱を制した貴族の手に猟銃があったからだ。そしてニタ〜とサ
ディスティックに薄笑う貴族・・・
 「フッフッフ〜、やっぱり射撃の標的は人間に限るね。的が美女でないのが残念だが。」
 その凶悪な銃口が、悲鳴を上げる2人に向けられた!!
 「「ぎゃ〜っ!!やめてやめて〜っ!!撃たないで〜っ!!」」(ハモッてるアントニ
ウスとブレイズの声)
 「安心するがいい。弾はゴム製だから当たっても激痛だけですむ。」
 「「そ、それもイヤ〜ッ!!」」
 大勢のギャラリーに弄ばれ、散々にイジメられる2人であった・・・(合掌)
 
 騒乱の一部始終を見ていたズィルクは、体を怒りと恐怖でワナワナと震わせている。
 「な、なんと言う事じゃ・・・こうしてはおれんっ、急がねばっ!!」
 慌てる主人に、ナブールは袋を手にして喜んだ。
 「戦利品ヲ取リニイクノデスネ〜♪ゴ主人様ノ袋モ用意シマシタヨ〜♪」
 「ばっかもーんっ!!帝さまが戦利品を仲良く分けろなどとアホな事を言うか〜っ!!
あれは敵の罠じゃっ!!」
 主人の大声に目が点になるナブール。
 「ホエッ?敵ノ罠?ヂ、ヂャア・・・アノ兵隊達ハ・・・モシカスルト、モシカシテ〜。
」
 「おお、そうじゃ。真っ赤な偽者じゃっ。何者かわからんが、ガルダーン軍に成り済ま
してわしらを陥れようとしておるのだっ。わしとした事が・・・腑抜け過ぎとったわい。」
 呟いたズィルクは両手で顔を叩く。惚けていた頭脳に喝を入れ、いつもの狡猾なズィル
クに戻った。
 強欲で邪悪なグリードル帝が出すはずのない指示、そして品の良過ぎるガルダーン兵・・
・
 遊び惚けていても、そこはやはり老獪な参謀のズィルクである。一目で敵の策略に気付
いていた。すぐさま服を着替えると、ナブールに命令を出した。
 「わしは今から帝様の元へ行く。お前は屋敷に戻って金目の物を安全な場所に運ぶのだ。
あの偽ガルダーン兵が暴れ出したら首都はたちどころに陥落するぞっ。」
 偽ガルダーン兵が起こすであろう動きを察したズィルクは、保身のための策を練る。敵
の兵力に比べ、首都の兵力は余りにも脆弱だ。ましてや首都の兵までも騒ぎに参加してい
るのだ、一度は逃げにまわるしかない。
 「帝様はわしよりも狡猾な御方じゃ、敵の動きに対応しておられるじゃろう・・・すで
に逃走をなされて城にはおられぬかも・・・帝様と合流できるよう考慮せねば。」
 色々と案ずるズィルクであったが、どうしても解せない事があった。品良い態度で金品
を蒔く偽ガルダーン兵である。
 一体、奴らは何者か?
 「ノクターン軍ではあるまいし・・・バーンハルド軍か、周辺国の軍勢か。いや・・・
違う・・・そ、それに本物のガルダーン軍はどこへ消えたのだ?ああっ、くそっ!!わけ
がわからんわいっ!!」
 頭を抱えて喚くズィルクの前に、ナブールが血相を変えて来た。
 「タ、タ、大変デス〜ッ!!姫君楼カラ外ニ出ラレマセ〜ンッ!!」
 そのうろたえるさまは尋常でない。ズィルクの脳裏に戦慄が走る。
 「むむっ、外に出られんとは、どーいう事なのじゃっ。」
 困惑する2人に、更なる異変が襲う。
 店の周囲が、まるで夜の帳が下りる如く暗くなったのだ。まだ夜には早いのに・・・そ
んな疑問すら消し飛ぶ事態が起きる。
 姫君楼の周囲に黒い光りが出現し、バリアーのように店を覆い尽くしたのだ。
 それは・・・狡猾なる策略でノクターンを追い詰めた悪党を、今度は逆の立場にしうる
魔の牢獄なのであった・・・



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